婚約破棄をされてお屋敷を追い出されてしまった私を救ってくれた人は、幼い頃に助けた小さなドラゴンでした

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
14 / 35

第6話

しおりを挟む
「ロッザさんは知らないと思うから、説明をしておくね。オレは相手が誰であっても、そこにどんな事情があっても、対価をもらって働くんだ」

 あのあとわたし達は、2階――アトリエに併設された休憩スペースに案内されて、木製テーブルにつくと早々にお話が始まりました。
 横並びで座っているわたし達、その対面にいるビエワさんは、相変わらず気さくにニッコリと笑いました。

「オレは、あらゆる意味で強欲でねぇ。欲しいものや叶えたいことが、ごまんとあるんだよ。けれどソレらは、自力では実現できないものばかり。そこで依頼者様の足元を見て、こちらの希望を叶えてもらっているんだ」
「そ、そうなのですね……」

 わたしを含め他の人は言いにくい言葉を、さらっと口にしてしまえる。しかもそこには『持つ者』特有の優越感や嫌味などはなく、息を吐くようにさらりと声に出してしまえる人。
 こんな方は癖の多い人間が沢山いる貴族界にもいらっしゃらなくて、わたしが今までに会ったことのないタイプの人です。

「竜術は才能と同じで、これは己の才を使ったビジネス。それこそ画家や音楽家や役者などなど、他の人間も当たり前のようにやっていること。アルクベールと陛下も――国も、納得済みなんだよ」
「彼は何を積まれても悪事には加担しない人間であり、言い分には一理あるにはある。そのため『仕事』として認められているんだよ」

 できれば、善意で動いて欲しいところなんだけどね――。ソラ君は肩をすくめながら苦笑いを作り、補足をしてくれました。
 そっか。一癖あるけれど絶対に犯罪には加担しない人。だからソラ君の中で、ビエワさんは『友人』なんですね。

「さて、それじゃあ交渉に入ろうか。ユーラス、今欲しいもの、今叶えたいこと今回の対価はなんだい?」
「うーん、そうだね。欲しいものは、今は特にないかな」
「ユーラスらしからぬ言葉がでたね。ということは」
「ご名答。ずっと欲しかった『ウルトラマリン』は昨日運よく手に入ってね、当分はこいつで楽しめるから『今』は満たされているんだよ」

 ビエワさんの視線が、純粋さを孕んだ青がたっぷり塗られたキャンバスへと向きました。
 ウルトラマリン。それは、わたしの世界にも存在している顔料です。
 確か……『ラピスラズリ』を砕いて作られる、とても貴重なもの。『金』よりも高価な色として有名で、高名な画家でもそうそう扱えないものだと聞いた覚えがあります。

「…………てなわけで、今欲しいものはないんだよねぇ。と、なると。対価は、叶えたいこと、になるね」

 ソラ君へと目線を戻して、ニヤリ。まるで獲物を見つけたヘビのように、小さく舌なめずりをしました。

「これまで君の口から何度も、命の恩人――ロッザさんの話を聞いてきた。だからずっと、ソレに関して聞きたいことがあったんだよ」
「…………君からの質問に対して正直に答えたら、こちらの願いを聞いてくれる。そういうことかい?」
「正解。いくつかの問いに回答して、その後ちょっとした余興を挟んでおしまい。これで手を打とうじゃないか」
「…………ユーラス。『ちょっとした余興』の正体は、なんなんだい?」
「ふふ。それは、コレだよ。その時が来てのお楽しみさ」

 ビエワさんは、口の前で右の人差し指を立てて――『内緒』だと伝えて、首を左に傾ける。

「どうかな? 呑む? 呑まない?」
「この問題の解決にはどうしても、君の力が必要だからね。対価として呑むよ」
「オーケーオーケー。じゃあ早速、始めるとしようか」

 ビエワさんは心底楽しそうに頷いて、そのあとニヤリ。再び、不気味な――先ほど以上に不気味な笑みを浮かべ、警戒にパチンと指を鳴らしたのでした。


「オレとアルクベール。楽しい楽しい、質問タイムの始まりだ」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!

月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。 そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。 新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ―――― 自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。 天啓です! と、アルムは―――― 表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも
恋愛
学園の卒業パーティ 人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。 傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。 「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」 私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。

妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています

今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。 それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。 そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。 当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。 一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

処理中です...