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第3話(1)

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「9日間優しく介抱されて、やがて元気に飛び立てるようになった小さな竜。あれは、紛れもなく僕なんだよ」

 美男さんは服を少しだけ捲り、お腹にある傷痕を懐かし気に見せてくれました。
 傷の痕がある場所は同じですし、その期間もあっています。信じられないお話ですが、信じるしかありません。

「……貴方が、あのソラ君。元気でよかった。また会えて、嬉しい……っ!」

 色々と気になることはあるけど、その前にこの言葉をどうしても伝えたかった。
 あの後は一度も会えなかったから、ずっとずっと心配で。お別れした後も無事に生きていてくれたことが、嬉しくて幸せです。

「僕も、また会えて嬉しいよ。……ごめんね、アリシアちゃん。こっちの世界で片付ける問題が沢山あって、挨拶に全然行けなかったんだよ」
「ううんっ。忙しかったなら、仕方がない――って、え? こっちの、世界……?」

 どういうことでしょう……?
 ここは、アリシアがいる国エオマズでは、ない……?

「それに関しては、これから順に説明させてもらうね。アリシアちゃん、そこの壁にある絵を見てもらえるかな?」
「う、うん。そっちにあるのは…………大陸の図、だね」

 ひし形と台形が合わさったような形をした、海に囲まれた大陸。一度も目にした記憶がないものが、油絵で描かれていました。

「これが、僕達の――アリシアちゃんが、今いる場所。こちらの世に唯一存在する国、『竜人(りゅうじん)』が住まう『ドラン』なんだよ」
「りゅう、じん……。ドラン……」
「竜人はその名の通り、竜の姿と人の姿を持つ存在。要するに人間の亜種で、そのため食文化や寿命や価値観など、殆どが同じ。違うのは、自分の意思で竜になれる点と、『竜術(りゅうじゅつ)』という力を使える点くらいだね」

 ソラ君はポケットから食べ物を――わたし達の国でもポピュラーなシリアルバーを出して齧り、傍のテーブルに置かれていた本――ドランの歴史や国民の平均寿命を記したものを、開いて見せてくれました。

 ドランでは21億の竜人が暮らしていて、文化も環境もエオマズとほぼおんなじ。移動は『竜化(りゅうか)』――変身しての飛行が選択肢にあるものの、体力の消耗が激しいため基本的には馬車か徒歩。1年は365日で曜日は月曜~日曜の7つ、時間は24時間制で、春夏秋冬の四季もある。

 国の仕組みは王制で、政治は王族が中心になって行われている。
 ……確かに……。居る人以外は、エオマズと一緒でした。
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