婚約破棄をされてお屋敷を追い出されてしまった私を救ってくれた人は、幼い頃に助けた小さなドラゴンでした

柚木ゆず

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第1話

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「………………あれ? ここ、は……」

 ちゅんちゅんという可愛らしい鳥の鳴き声と、カーテンの隙間から漏れる心地よい朝の光。そんな2つによって目を覚ましたわたしはふかふかの大きなベッドにいて、身体を起こしてみるとそこは知らない部屋でした。
 上には豪華なシャンデリアで、下には質の良い赤色のカーペット。周りには豪奢な調度品がセンス良く配置されていて――。
 こんなに贅沢で広い部屋は、わたしの記憶にはありません。

「夢でも、天国でも……。ない、ですよね……」

 頬っぺたを抓ってみたら痛みがあるし、頭の上に輪っかはありません。どうやら外で倒れてしまったあと、誰かが助けてくださったようです。

「……そういえばあの時、誰かの声が聞こえたような気がしました。きっと、その方が介抱してくださったんですね」

 よかった。生きていてよかった。
 でも……。
 わたしは汚名を着せられて、お屋敷も追い出されてしまった。

 これから、どうやって生きていけばいいんだろう……。

 安心していたら現実が襲ってきて、気が付くと涙が零れ落ちていました。

「……住む場所はないし……。こんな人間を、雇ってくれるところもない……」

 発表があったら、アリシア・ロッザは悪女になる。婚約破棄をされたわたしを受け入れてくれる場所なんて、どこにもありません。

「隣国に行くには、身分の証明とお金が必要ですし……。どうすれば、いいの……?」
「簡単なことさ。ここで暮らせばいいんだよ」
「え――」

 がちゃりという音と共に出入り口の扉が静かに開き、男の人が入ってきました。

 年齢はわたしと同じ18歳くらいで、身長は180センチ前後。夜空のような澄んだ黒い髪を背中の中頃まで伸ばした、優しい柔らかさのある瞳を持った中性的な方。

 そんな身体をタキシードに似た服で包んだ美少年さんが、気品ある足取りでベッド脇までいらっしゃりました。

「盗み聞きしてごめんね。様子を見に入ろうとしていたら、声が聞こえてきたんだ」

 傍に着いた美少年さんは優雅に頭を下げて、ええっ!? 流麗に片膝をついて、恭しく見上げてくださいました……!?

「あの時の約束を、今果たすよ。今度は僕が、アリシアちゃんを守り幸せにするね」
「はぃっ!? ぇっ!? ええっ!?」

 あまりにも予想外なことが立て続けに起き、頭の中がパニックになってしまいます。
 どっ、どういうことでしょうっ!? あの時の約束ってなんですか!? どうしてわたしの名前を知っていらっしゃるのですか!?

「っ。っっ。っっっ」
「? なにを――ああ、そっか、そうだよね。今はこの姿だから、これだけじゃあ分からないよね」

 美男子さんは「再会が嬉しくって、先走ってしまったよ」と微苦笑を浮かべて、御自分の腹部に右手を添えました。

「僕はね、かつて君に救われた者。アリシアちゃんの部屋で9日間看病をしてもらった、『ソラ君』なんだよ」
「えええっ!? 貴方が、あのソラ君なんですかっ!?」

 わたしは思わず身を乗り出して、何度も何度も美男さんの全身を上下に見渡します。
 こ、この人が……。8年前に出会った、あの小さな竜……!?



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