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エピローグ 翌日 ???視点
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「いらっしゃいませっ! パネッタへようこそっ!」
オラース様達による大きな勘違いの発覚など、大きなことがいくつもあった日の翌日。私はベーカリー内で、接客作業を行っていた。
ノエル・ラーデルンではなく、アンジェリク・ボヌールとして。
「すまない、突然言われても決めかねる問題じゃな。この件は持ち帰って、ゆっくりと決めておくれ」
「いえ、決まりました。学院長先生。私は復学するつもりも、ラーデルンの姓を名乗るつもりもありません。今後もずっと、平民のアンジェリクとして生きてゆきます」
昨夜私は学院長先生にそう返事を行い、貴族界への復帰をお断りした。
……どうして急に、気が変わったのか。その理由はあの時偶然、三日月の髪留めに指が当たったから。
『そう言ってもらえて、一安心だ。配合とミルクを変えて、正解だったみたいだな』
『流石は叔父さん、更に美味くなってましたよ。……叔父さんとなら、このメンバーとなら、1番を狙える、そう確信しました』
その時蘇った、ガエルさんの真摯な瞳とお顔。それを見ていたら、違うと思ったの。
貴族としての支援。そんなものを使って1番になっても、ガエルさんは――皆さんは喜ばないし、なんの意味もない。
そもそも、支援を受けないって気付いたの。
((今あるもので、パンの力で、純粋な自分達の力で進まないと。夢の達成には、ならないよね))
だから私は、こちらの選択肢を取った。アンジェリクとして自分の手で出来ることを精一杯やって、貢献していく。皆さんと一緒に、ゴールを目指すことにしたのです。
「おっ。今日のアンジェリクちゃんは、いつも以上に威勢がいいねぇっ!」
「はいっ。ついぶれそうになっていた気持ちを、正してもらいましたので。やる気に溢れていますっ」
すれ違ったレオニーさんに元気よく返事をしていたら、焼き上がりを伝えるガエルさんの声が響いた。そこで陳列を行うべくパンを受け取りに向かい、
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね、ガエルさん」
その際に、感謝を告げる。
きっと言葉の意味は、伝わらないと思うけれど。目を見てそう伝え――
「こちらこそだ。ありがとうな、アンジェリク」
――踵を返そうとしていたら、柔らかい――とても幸せそうな、優しい笑顔がやって来た。
「え……? 私、感謝をされるようなことを、しましたっけ……?」
「ま、色々とな」(……ゆうべはきっと、貴族に関する話をしてたんだよな? ウチに残ってくれて、ありがとうな)
「ご、ごめんなさい。なんて仰ったのですか?」
色々とな。以降はボソボソで、聞き取れなかった。
今のは……?
「なんでもない、なんでもない。これからもよろしくな、アンジェリク。一緒に盛り上げていこうなっ!」
「はいっ! 一緒に、頂点を目指しましょうっ!」
そうして私達はそれぞれの持ち場に戻り、でも、同じ目標へと向かって。おんなじ気持ちを抱いて、今日も前へと進んでゆくのでした――。
※一旦完結とさせていただき、今後は番外編という形で、アンジェリクとガエルのその後を描かせていただきます。
オラース様達による大きな勘違いの発覚など、大きなことがいくつもあった日の翌日。私はベーカリー内で、接客作業を行っていた。
ノエル・ラーデルンではなく、アンジェリク・ボヌールとして。
「すまない、突然言われても決めかねる問題じゃな。この件は持ち帰って、ゆっくりと決めておくれ」
「いえ、決まりました。学院長先生。私は復学するつもりも、ラーデルンの姓を名乗るつもりもありません。今後もずっと、平民のアンジェリクとして生きてゆきます」
昨夜私は学院長先生にそう返事を行い、貴族界への復帰をお断りした。
……どうして急に、気が変わったのか。その理由はあの時偶然、三日月の髪留めに指が当たったから。
『そう言ってもらえて、一安心だ。配合とミルクを変えて、正解だったみたいだな』
『流石は叔父さん、更に美味くなってましたよ。……叔父さんとなら、このメンバーとなら、1番を狙える、そう確信しました』
その時蘇った、ガエルさんの真摯な瞳とお顔。それを見ていたら、違うと思ったの。
貴族としての支援。そんなものを使って1番になっても、ガエルさんは――皆さんは喜ばないし、なんの意味もない。
そもそも、支援を受けないって気付いたの。
((今あるもので、パンの力で、純粋な自分達の力で進まないと。夢の達成には、ならないよね))
だから私は、こちらの選択肢を取った。アンジェリクとして自分の手で出来ることを精一杯やって、貢献していく。皆さんと一緒に、ゴールを目指すことにしたのです。
「おっ。今日のアンジェリクちゃんは、いつも以上に威勢がいいねぇっ!」
「はいっ。ついぶれそうになっていた気持ちを、正してもらいましたので。やる気に溢れていますっ」
すれ違ったレオニーさんに元気よく返事をしていたら、焼き上がりを伝えるガエルさんの声が響いた。そこで陳列を行うべくパンを受け取りに向かい、
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね、ガエルさん」
その際に、感謝を告げる。
きっと言葉の意味は、伝わらないと思うけれど。目を見てそう伝え――
「こちらこそだ。ありがとうな、アンジェリク」
――踵を返そうとしていたら、柔らかい――とても幸せそうな、優しい笑顔がやって来た。
「え……? 私、感謝をされるようなことを、しましたっけ……?」
「ま、色々とな」(……ゆうべはきっと、貴族に関する話をしてたんだよな? ウチに残ってくれて、ありがとうな)
「ご、ごめんなさい。なんて仰ったのですか?」
色々とな。以降はボソボソで、聞き取れなかった。
今のは……?
「なんでもない、なんでもない。これからもよろしくな、アンジェリク。一緒に盛り上げていこうなっ!」
「はいっ! 一緒に、頂点を目指しましょうっ!」
そうして私達はそれぞれの持ち場に戻り、でも、同じ目標へと向かって。おんなじ気持ちを抱いて、今日も前へと進んでゆくのでした――。
※一旦完結とさせていただき、今後は番外編という形で、アンジェリクとガエルのその後を描かせていただきます。
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