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第6話 8日後~不思議なお客様~ アンジェリク・ボヌール視点(6)
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「早く気付いてやれなくてごめんよ! 許しておくれ!」
「ごめんなさいね、アンジェリクさん。……ガエルくん、ありがとう」
「工房で集中していたから……全然聞こえていなくて、アンジェリクさんが大変なことになるところだったよ。申し訳ない、アンジェリクさん。ありがとう、ガエル君」
レオニーさんもマリーヌさんもジャンさんも、とてもお優しい人達。なので騒ぎが完全に収まったあと――あの2人が治安局員の方々に連行されるや改めてしっかりとした謝罪をいただいて、私はすぐさま首を左右に振った。
「悪いのはあの2人ですし、ガエルさんのおかげで無事ですので。お気になさらないでください」
「……この子が帰ってきてたのは、不幸中の幸いだったよ。ガエル、アンタいつの間にあんなにも強くなってたんだい?」
「他の国はこの国よりパンの技術が進んでる分、比べ物にならないくらい治安が悪かったんだよ。そんな中で生きていけるように、修行をしながら鍛えてたんだよ」
優れた技術を吸収できるように。亡きお父様達の夢を叶えられるよう、生きて戻ってこられるように。
そういった思いで、身につけられていたみたい。
「だから今後は、トラブルがあったら俺が解決する。……アンジェリク。もう二度とあんなことは起きない、起こさないから安心してくれ」
「……ガエルさん……っ。ありがとうございます」
「スタッフはみんな家族で、もちろんアンジェリクも大切な人。大切な人を護るのは当然だろ? 礼なんて不要だよ」
ガエルさんはニッと笑ってくださり、そんな姿を見ていたら胸がトクンと鳴った。
……これは……。この、感情は……。
「アンジェリクちゃん? どうしたんだい? やっぱり手首が痛むのかい?」
「い、いいえ、なんでもありません。手首は、本当に大丈夫ですよ。……そっ、そろそろ再オープンの時間ですしっ。皆さん張り切っていきましょうっ!」
ガエルさんの真ん前でソレについて考えるのは、恥ずかしい。それに実際時間が迫っているので、私はパンッと手を叩いて大きく頷いた。
「そうだね、よし! 張り切っていこうじゃないか――っと、ガエル! 手に持ってるマスクとサングラスは置いて、ちゃんと制服を着ておくれよ!」
「分かってる分かってる。これはバレないための変装で、もうつけるつもりはないっての」
5年離れている間に、味はどうなっているのか? 接客などに変化はなかったのか? それを気付かれないように確認するために、ガエルさんはああなさっていたみたい。
「なるほどね。ガエル君、わたしのパンはどうだったかな?」
「流石は叔父さん、更に美味くなってましたよ。……叔父さんとなら、このメンバーとなら、1番を狙える、そう確信しました」
「はっはっは、そうかいそうかい! じゃあこれからは5人で力を合わせて、夢を叶えようじゃないか!! ねえみんなっ!!」
そんなレオニーさんの声に全員で頷き、こうして数日前に新体制となっていた『パネッタ』は、更に新体制となったのでした――。
〇〇
「…………………………急がなければ」
最後の一人も合流し、気合が漲る店内。そんな様子を監視していた臣下の一人・ドニウスは、早速『1人追加』の報告をしに向かい――
「ごめんなさいね、アンジェリクさん。……ガエルくん、ありがとう」
「工房で集中していたから……全然聞こえていなくて、アンジェリクさんが大変なことになるところだったよ。申し訳ない、アンジェリクさん。ありがとう、ガエル君」
レオニーさんもマリーヌさんもジャンさんも、とてもお優しい人達。なので騒ぎが完全に収まったあと――あの2人が治安局員の方々に連行されるや改めてしっかりとした謝罪をいただいて、私はすぐさま首を左右に振った。
「悪いのはあの2人ですし、ガエルさんのおかげで無事ですので。お気になさらないでください」
「……この子が帰ってきてたのは、不幸中の幸いだったよ。ガエル、アンタいつの間にあんなにも強くなってたんだい?」
「他の国はこの国よりパンの技術が進んでる分、比べ物にならないくらい治安が悪かったんだよ。そんな中で生きていけるように、修行をしながら鍛えてたんだよ」
優れた技術を吸収できるように。亡きお父様達の夢を叶えられるよう、生きて戻ってこられるように。
そういった思いで、身につけられていたみたい。
「だから今後は、トラブルがあったら俺が解決する。……アンジェリク。もう二度とあんなことは起きない、起こさないから安心してくれ」
「……ガエルさん……っ。ありがとうございます」
「スタッフはみんな家族で、もちろんアンジェリクも大切な人。大切な人を護るのは当然だろ? 礼なんて不要だよ」
ガエルさんはニッと笑ってくださり、そんな姿を見ていたら胸がトクンと鳴った。
……これは……。この、感情は……。
「アンジェリクちゃん? どうしたんだい? やっぱり手首が痛むのかい?」
「い、いいえ、なんでもありません。手首は、本当に大丈夫ですよ。……そっ、そろそろ再オープンの時間ですしっ。皆さん張り切っていきましょうっ!」
ガエルさんの真ん前でソレについて考えるのは、恥ずかしい。それに実際時間が迫っているので、私はパンッと手を叩いて大きく頷いた。
「そうだね、よし! 張り切っていこうじゃないか――っと、ガエル! 手に持ってるマスクとサングラスは置いて、ちゃんと制服を着ておくれよ!」
「分かってる分かってる。これはバレないための変装で、もうつけるつもりはないっての」
5年離れている間に、味はどうなっているのか? 接客などに変化はなかったのか? それを気付かれないように確認するために、ガエルさんはああなさっていたみたい。
「なるほどね。ガエル君、わたしのパンはどうだったかな?」
「流石は叔父さん、更に美味くなってましたよ。……叔父さんとなら、このメンバーとなら、1番を狙える、そう確信しました」
「はっはっは、そうかいそうかい! じゃあこれからは5人で力を合わせて、夢を叶えようじゃないか!! ねえみんなっ!!」
そんなレオニーさんの声に全員で頷き、こうして数日前に新体制となっていた『パネッタ』は、更に新体制となったのでした――。
〇〇
「…………………………急がなければ」
最後の一人も合流し、気合が漲る店内。そんな様子を監視していた臣下の一人・ドニウスは、早速『1人追加』の報告をしに向かい――
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