6 / 44
第3話 戻ってきたラウル オラース視点(1)
しおりを挟む
「なんだとっ!? アイツは独りで屋敷を出ただって!?」
ウチの屋敷に戻ってから、およそ1時間後のこと。戻ってきた従者に駆け寄った俺は、顎が外れてしまいそうな程に大口を開けていた。
あのあと、ノエルは……。侍女ミリアに見送られて、たった独りでラーデルン子爵邸を発ったらしい……。
「は、はい。小さな袋――恐らくは、僅かな金銭や食料が入った袋を受け取られた後、北へと進まれまして。そのまま、辻馬車に乗り込まれました」
「ま、間違いなくヤツは単独なのか!? 誰かを従えてはいなかったのか!? 協力者と思しき者は近くにいなかったのか!?」
「ええ、該当する存在は一切ありませんでした。陰などから見守っている者もおらず、完全なる単独行動を行われております」
「あ、アイツは貴族だったんだぞ……。それが単独で、徒歩でだなんて――そっ、そうだ! アイツらは! ラーデルン卿っ、夫妻はなんて言っていたんだ!? そうなるまでに邸内では何があったんだっ!?」
ラウルは情報をここに届けるため、ヤツが乗り込んだ辻馬車を見届けた直後に3人と――応援に駆け付けたウチの者とバトンタッチを行い、卿達に確認を行った上で戻ってきている。彼らは何を語ったんだ!?
「主が懸念されておりました、親の温情――何かしらの手助けを行っている、その様子はまったくありませんでした。どちらも酷くご立腹で、ノエル様は自ら貴族籍を返上する前に追放されておりましたので」
「そ、そうか。それで、他はどうだっ? 去る際のノエルにっ、おかしな点はなかったのかっ!?」
「気になる点が、1つございました。あの方はニッコリと微笑んで、当主ご夫妻を煽られたそうです」
娘がこんなことになってしまい、大変ですね――。
そんなことを、アイツは口にしていたらしい……。
「ば、バカな。学院を退学して、貴族籍を失って、これから追放をされるんだぞ……!! なんなんだっ、その余裕は……!?」
広い屋敷での優雅な暮らしや、貴族ならではの待遇。特権。それら全てを失うというんだぞ!? あり得ない!!
…………だとしたら、やはり何かしらの算段があるんだ!! 落ちぶれずに済むっ、生活の水準を維持できる何かがあるんだ!!
「ラウル。ラーデルン一族に、ノエルを助けてくれそうな人間はいなかったよな?」
「はい、おりません。あちらの叔父叔母などは全て、当主殿と同意見でしたので」
「…………じゃあ、なんだ……? 親族を頼れないなら、誰を頼るんだ……!?」
退学と追放された者に、手を貸す貴族なんていない。そんなことをすれば、自身の価値が大きく下がってしまうのだからな!
「……だが、あの様子、その様子は……。相応の力を持った『何か』を、準備もしくはすでに用意している証のはずだ……!!」
それは一体、なんなんだ!? 更に俺を混乱が襲っていると――…………。更に更に、俺を混乱させる情報が飛び込んできたのだった。
「新たな動きを報告いたします!! 監視対象・ノエル様は『ラック』という街で辻馬車を降り、『パネッタ』というベーカリーの裏口から――関係者用の出入り口を通り、その店へと入ってゆきましたっ!!」
ウチの屋敷に戻ってから、およそ1時間後のこと。戻ってきた従者に駆け寄った俺は、顎が外れてしまいそうな程に大口を開けていた。
あのあと、ノエルは……。侍女ミリアに見送られて、たった独りでラーデルン子爵邸を発ったらしい……。
「は、はい。小さな袋――恐らくは、僅かな金銭や食料が入った袋を受け取られた後、北へと進まれまして。そのまま、辻馬車に乗り込まれました」
「ま、間違いなくヤツは単独なのか!? 誰かを従えてはいなかったのか!? 協力者と思しき者は近くにいなかったのか!?」
「ええ、該当する存在は一切ありませんでした。陰などから見守っている者もおらず、完全なる単独行動を行われております」
「あ、アイツは貴族だったんだぞ……。それが単独で、徒歩でだなんて――そっ、そうだ! アイツらは! ラーデルン卿っ、夫妻はなんて言っていたんだ!? そうなるまでに邸内では何があったんだっ!?」
ラウルは情報をここに届けるため、ヤツが乗り込んだ辻馬車を見届けた直後に3人と――応援に駆け付けたウチの者とバトンタッチを行い、卿達に確認を行った上で戻ってきている。彼らは何を語ったんだ!?
「主が懸念されておりました、親の温情――何かしらの手助けを行っている、その様子はまったくありませんでした。どちらも酷くご立腹で、ノエル様は自ら貴族籍を返上する前に追放されておりましたので」
「そ、そうか。それで、他はどうだっ? 去る際のノエルにっ、おかしな点はなかったのかっ!?」
「気になる点が、1つございました。あの方はニッコリと微笑んで、当主ご夫妻を煽られたそうです」
娘がこんなことになってしまい、大変ですね――。
そんなことを、アイツは口にしていたらしい……。
「ば、バカな。学院を退学して、貴族籍を失って、これから追放をされるんだぞ……!! なんなんだっ、その余裕は……!?」
広い屋敷での優雅な暮らしや、貴族ならではの待遇。特権。それら全てを失うというんだぞ!? あり得ない!!
…………だとしたら、やはり何かしらの算段があるんだ!! 落ちぶれずに済むっ、生活の水準を維持できる何かがあるんだ!!
「ラウル。ラーデルン一族に、ノエルを助けてくれそうな人間はいなかったよな?」
「はい、おりません。あちらの叔父叔母などは全て、当主殿と同意見でしたので」
「…………じゃあ、なんだ……? 親族を頼れないなら、誰を頼るんだ……!?」
退学と追放された者に、手を貸す貴族なんていない。そんなことをすれば、自身の価値が大きく下がってしまうのだからな!
「……だが、あの様子、その様子は……。相応の力を持った『何か』を、準備もしくはすでに用意している証のはずだ……!!」
それは一体、なんなんだ!? 更に俺を混乱が襲っていると――…………。更に更に、俺を混乱させる情報が飛び込んできたのだった。
「新たな動きを報告いたします!! 監視対象・ノエル様は『ラック』という街で辻馬車を降り、『パネッタ』というベーカリーの裏口から――関係者用の出入り口を通り、その店へと入ってゆきましたっ!!」
12
お気に入りに追加
1,659
あなたにおすすめの小説
婚約破棄させたいですか? いやいや、私は愛されていますので、無理ですね。
百谷シカ
恋愛
私はリュシアン伯爵令嬢ヴィクトリヤ・ブリノヴァ。
半年前にエクトル伯爵令息ウスターシュ・マラチエと婚約した。
のだけど、ちょっと問題が……
「まあまあ、ヴィクトリヤ! 黄色のドレスなんて着るの!?」
「おかしいわよね、お母様!」
「黄色なんて駄目よ。ドレスはやっぱり菫色!」
「本当にこんな変わった方が婚約者なんて、ウスターシュもがっかりね!」
という具合に、めんどくさい家族が。
「本当にすまない、ヴィクトリヤ。君に迷惑はかけないように言うよ」
「よく、言い聞かせてね」
私たちは気が合うし、仲もいいんだけど……
「ウスターシュを洗脳したわね! 絶対に結婚はさせないわよ!!」
この婚約、どうなっちゃうの?
婚約者から妾になれと言われた私は、婚約を破棄することにしました
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私エミリーは、婚約者のアシェル王子に「妾になれ」と言われてしまう。
アシェルは子爵令嬢のキアラを好きになったようで、妾になる原因を私のせいにしたいようだ。
もうアシェルと関わりたくない私は、妾にならず婚約破棄しようと決意していた。
【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました
八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」
子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。
失意のどん底に突き落とされたソフィ。
しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに!
一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。
エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。
なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。
焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
婚約破棄にはなりました。が、それはあなたの「ため」じゃなく、あなたの「せい」です。
百谷シカ
恋愛
「君がふしだらなせいだろう。当然、この婚約は破棄させてもらう」
私はシェルヴェン伯爵令嬢ルート・ユングクヴィスト。
この通りリンドホルム伯爵エドガー・メシュヴィツに婚約破棄された。
でも、決して私はふしだらなんかじゃない。
濡れ衣だ。
私はある人物につきまとわれている。
イスフェルト侯爵令息フィリップ・ビルト。
彼は私に一方的な好意を寄せ、この半年、あらゆる接触をしてきた。
「君と出会い、恋に落ちた。これは運命だ! 君もそう思うよね?」
「おやめください。私には婚約者がいます……!」
「関係ない! その男じゃなく、僕こそが君の愛すべき人だよ!」
愛していると、彼は言う。
これは運命なんだと、彼は言う。
そして運命は、私の未来を破壊した。
「さあ! 今こそ結婚しよう!!」
「いや……っ!!」
誰も助けてくれない。
父と兄はフィリップ卿から逃れるため、私を修道院に入れると決めた。
そんなある日。
思いがけない求婚が舞い込んでくる。
「便宜上の結婚だ。私の妻となれば、奴も手出しできないだろう」
ランデル公爵ゴトフリート閣下。
彼は愛情も跡継ぎも求めず、ただ人助けのために私を妻にした。
これは形だけの結婚に、ゆっくりと愛が育まれていく物語。
【完結】順序を守り過ぎる婚約者から、婚約破棄されました。〜幼馴染と先に婚約してたって……五歳のおままごとで誓った婚約も有効なんですか?〜
よどら文鳥
恋愛
「本当に申し訳ないんだが、私はやはり順序は守らなければいけないと思うんだ。婚約破棄してほしい」
いきなり婚約破棄を告げられました。
実は婚約者の幼馴染と昔、私よりも先に婚約をしていたそうです。
ただ、小さい頃に国外へ行ってしまったらしく、婚約も無くなってしまったのだとか。
しかし、最近になって幼馴染さんは婚約の約束を守るために(?)王都へ帰ってきたそうです。
私との婚約は政略的なもので、愛も特に芽生えませんでした。悔しさもなければ後悔もありません。
婚約者をこれで嫌いになったというわけではありませんから、今後の活躍と幸せを期待するとしましょうか。
しかし、後に先に婚約した内容を聞く機会があって、驚いてしまいました。
どうやら私の元婚約者は、五歳のときにおままごとで結婚を誓った約束を、しっかりと守ろうとしているようです。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?
112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。
目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。
助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる