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第3話 戻ってきたラウル オラース視点(1)

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「なんだとっ!? アイツは独りで屋敷を出ただって!?」

 ウチの屋敷に戻ってから、およそ1時間後のこと。戻ってきた従者ラウルに駆け寄った俺は、顎が外れてしまいそうな程に大口を開けていた。
 あのあと、ノエルは……。侍女ミリアに見送られて、たった独りでラーデルン子爵邸を発ったらしい……。

「は、はい。小さな袋――恐らくは、僅かな金銭や食料が入った袋を受け取られた後、北へと進まれまして。そのまま、辻馬車に乗り込まれました」
「ま、間違いなくヤツは単独なのか!? 誰かを従えてはいなかったのか!? 協力者と思しき者は近くにいなかったのか!?」
「ええ、該当する存在は一切ありませんでした。陰などから見守っている者もおらず、完全なる単独行動を行われております」
「あ、アイツは貴族だったんだぞ……。それが単独で、徒歩でだなんて――そっ、そうだ! アイツらは! ラーデルン卿っ、夫妻はなんて言っていたんだ!? そうなるまでに邸内では何があったんだっ!?」

 ラウルは情報をここに届けるため、ヤツが乗り込んだ辻馬車を見届けた直後に3人と――応援に駆け付けたウチの者とバトンタッチを行い、卿達に確認を行った上で戻ってきている。彼らは何を語ったんだ!?

「主が懸念されておりました、親の温情――何かしらの手助けを行っている、その様子はまったくありませんでした。どちらも酷くご立腹で、ノエル様は自ら貴族籍を返上する前に追放されておりましたので」
「そ、そうか。それで、他はどうだっ? 去る際のノエルにっ、おかしな点はなかったのかっ!?」
「気になる点が、1つございました。あの方はニッコリと微笑んで、当主ご夫妻を煽られたそうです」

 娘がこんなことになってしまい、大変ですね――。
 そんなことを、アイツは口にしていたらしい……。

「ば、バカな。学院を退学して、貴族籍を失って、これから追放をされるんだぞ……!! なんなんだっ、その余裕は……!?」

 広い屋敷での優雅な暮らしや、貴族ならではの待遇。特権。それら全てを失うというんだぞ!? あり得ない!!
 …………だとしたら、やはり何かしらの算段があるんだ!! 落ちぶれずに済むっ、生活の水準を維持できる何かがあるんだ!!

「ラウル。ラーデルン一族に、ノエルを助けてくれそうな人間はいなかったよな?」
「はい、おりません。あちらの叔父叔母などは全て、当主殿と同意見でしたので」
「…………じゃあ、なんだ……? 親族を頼れないなら、誰を頼るんだ……!?」

 退学と追放された者に、手を貸す貴族なんていない。そんなことをすれば、自身の価値が大きく下がってしまうのだからな!

「……だが、あの様子、その様子は……。相応の力を持った『何か』を、準備もしくはすでに用意している証のはずだ……!!」

 それは一体、なんなんだ!? 更に俺を混乱が襲っていると――…………。更に更に、俺を混乱させる情報が飛び込んできたのだった。

「新たな動きを報告いたします!! 監視対象・ノエル様は『ラック』という街で辻馬車を降り、『パネッタ』というベーカリーの裏口から――関係者用の出入り口を通り、その店へと入ってゆきましたっ!!」

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