わたしがお屋敷を去った結果

柚木ゆず

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第3話 お屋敷を去った結果~父と母の場合~ 俯瞰視点(5)

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「「売る……!?」」
「よくご存じのはずですよ、世の中には悪趣味な人間が多く存在していることを。その中のひとりがね、貴族を買いたがっていたのですよ」

 その者は、一代で巨額の財を築いた成金の男。彼は幼い頃から『生まれながらにして輝かしい将来が約束されている貴族』に憧れを持っており――成長するにつれてソレは嫉妬、憎悪へと変わり、貴族を支配したいと考えていました。

『お嬢様、あの件・・・も済ませております。安心して出発を――お嬢様? どうかなさいましたか?』

 そんなに自信があるなら好きにして、一度しっかり痛い目を見てみるといい。でもそうしたら、ご先祖さまや領民に迷惑がかかってしまう。
 損失を帳消しにできる方法はないか?
 そう考えていた時にその者の噂を知り、カプシーヌは彼の存在をロバート達に伝えていたのです。

「ろ、ロバート! 兄を売るというのか!? 金欲しさに!?」
「血の繋がった兄弟なのよ!? 正気!?」
「こちらとしても、できるならばそれは避けたかった。ですがそうしなければ、ご先祖様達が守り続けて来たロドレル家が傾いてしまいます。この家を未来を守るために、泣く泣く行うのですよ」

 というのは、真っ赤な嘘。
 かつてカプシーヌが言っていたように、他の者達は野心だらけ。当主夫妻が消えるのは最高に都合がよく、嬉々として行っているのです。

「血の繋がった兄がいなくなるのは……。せっかく知り合えた、義理の姉がいなくなるのは……。本当に寂しい。けれど仕方がありません」
「ろっ、ロバート! 待ってくれ!! 考え直してくれ!!」
「他に方法があるはずよ!! 待って!! やめて!!」
「……今し方申し上げたように、ロドレル家のためです。その身で清算していただきます」

 泣く泣くではなく嬉々であるため、一切の躊躇はありません。

「頼む!! 頼むっっ!! ロバート!!」
「お願いよ!! お願い!! お願いします!! どうかご慈悲を!!」
「お前達、連れて行ってくれ」

 もう、ふたりの相手をすることもありません。
 エメリックとエリサは長年過ごしたお屋敷から引きずり出されて馬車に放り込まれ、

「むぐううううう!!」
「むぐぐううううう!!」

 口をふさがれ、手足を縛られた状態で運ばれて行き――


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