わたしがお屋敷を去った結果

柚木ゆず

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第2話 お屋敷を去った結果~妹と婚約者の場合~ 俯瞰視点(6)

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「…………………………」
「…………………………」

 ロドレル邸内で突如大騒ぎが発生してから、二週間後。騒動の張本人であるフローラとマクサンスは、二人並んで馬車に乗っていました。

 とある伯爵令息の誕生日パーティー。

 そんなイベントに招待されていて、二人は婚約者であるが故に一緒に出席しないといけませんでした。そのため一緒に行動する必要があり、こうしてガズトック家の馬車に同乗していたのです。

「…………………………」
「…………………………」

 周りに止められるまで二分近く続いた、殴り合い。それによってボコボコになった顔は元に戻りましたが、あの日粉々になった関係性は元には戻りません。

((なんでこんな男と……!!))
((なんでこんな女と……!!))

 目の前にいるのは大嫌いな相手で、口を利きたくないどころか視界にも入れたくない。すっかりそれほどまでに憎むようになっていて、

「お父様! 婚約を解消させてください!」

「父上! 婚約を解消させてください!」

 あんなに一緒になりたがっていたはずなのに、今ではこの調子。毎日それぞれ親に撤回を懇願する有様となっていました。
 しかしながらこの婚約は、政略的なもの。
 代わりとなる人間がもういないため、その要求が通ることはありません。

((最悪……。こんなの地獄ですわ……))
((こんなヤツと、生涯を共にしないといけないだなんて……。悪夢だ……))

((神様、お願いします……。こんな性悪男と一緒に居たくないんです……。時間を戻してください……))
((神様……!! こんな性悪女と一緒に居たら、気が狂ってしまいます……。どうか、時間を戻してください……))

 それは、神に対しても同じ。どんなに祈ってもその願いが実現するはずはありません。

((いやだ……。いやだ……。どうして、こんなことに……))
((いやだ……。いやだ……。どうして、こんなことに……))

 こうなっているのは、カプシーヌに嫌がらせを続けて追い出したから。
 婚約者になったことで、見えていなかった部分が見えるようになってしまったから。

『お前が居なければ、フローラと結婚できていたのに……!』
『お姉様のせいで、何もかも台無しですわ。お姉様なんて産まれてこなければよかったのに』

 フローラとマクサンス。ふたりは、本能のまま我が儘に動き続けた結果――


 その命尽きるまで、苦痛を伴う毎日を過ごさないといけなくなってしまったのでした。


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