わたしがお屋敷を去った結果

第１話 お屋敷を去った結果～使用人達の場合～ 俯瞰視点（２）

（（っっ！））
（（っっ！））
（（……！！））
（（っっ！！））

　満面の笑みを浮かべた日から、僅か一週間後。ロドレル子爵邸で働く使用人達に笑顔はなく、心の中は苛立ちで満ち満ちていました。
　あっという間に、表情と心中が１８０度変わっていた理由。それは、ロドレル一家の三人にありました。

「なにをやっているのだ！！　さっさと持ってこい！！」
「まあっ！　あなた達っ！！　そこにあるほこりが見えないというの！？」
「ああもう！！　言わないと動かないんだから！！　自分で考える頭はないのかしら！！」

　カプシーヌが去ったことでなくなった苛立ちは、いわずもがなカプシーヌが関係したものだけでした。
　社交界での出来事など他のストレスは引き続き発生し続け、三人はこれまでのようにカプシーヌで発散しようとしますが――カプシーヌはお屋敷にはおらず、もう彼女では発散することはできません。そこでその矛先が使用人に向かうようになってしまい、日々理不尽な叱責を受ける羽目になってしまっていたのです。

（（っっ！　ああもう！！））
（（なんなのよ！！））
（（わたくし達は関係ないでしょ！！））
（（八つ当たりしないでよ！！））
（（ああもう！！　これだから嫌なのよ！！））

　どんなに不条理でも、三人には逆らえない。一切反論せずに怒りや不満を呑み込むしかない。
　そのため毎回、心の中で激怒しますが――。それだけでは、溜まったストレスを出し尽くすことはできませんでした。

（（あああ！！！！））
（（あああ！！！！））
（（あああ！！！！））

　しかも同じくカプシーヌはいないため、今までのようにカプシーヌで発散することはできない。各自、すっきりと発散できる方法はない。
　それらの理由により使用人達は、過去最大級の苦痛を精神に受けながら過ごしていたのでした。

「まったく！　何度言っても分からんのか！？」
「はぁ……！　ウチの人間はどうしてこうも無能なのかしら……！！」
「他の家とは大違いですわ。情けない」
（（！！　言いたい放題言って……！！））
（（許せない……！！））
（（我慢の限界よ……！！））
（（こんなところっ、辞めてやる！！））

　と怒り狂っていたものの、お給料自体は良く、更には安全面も別格。なにより、彼女達にとって『貴族のお屋敷で働いている』はステータスでした。
　ですので誰一人退職という選択をした者はおらず、我慢の日々が続きますが――。とある理由で・・・・・・理不尽な出来事は日に日に頻度と激しさを増し、半年後に我慢の限界を迎えることとなってしまったのでした。