わたしがお屋敷を去った結果

柚木ゆず

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第1話 お屋敷を去った結果~使用人達の場合~ 俯瞰視点(1)

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「よかったわね!」
「ええ! 最高だわ!!」
「まさか、こんなことがあるだなんて……!」
「旦那様奥様フローラお嬢様、痛み入ります……!」

 カプシーヌが去った日の、翌日の夕方のことでした。ロドレル子爵邸の一室――使用人用の休憩スペースでは、5人の使用人が大喜びしていました。
 ここにいる全員が満面の笑みを浮かべている理由、それは金一封が出たからです。

 ――実弟や親族に働きかけて、投資の邪魔をしてきた者が居なくなったこと――。
 ――存在が邪魔で邪魔で仕方がなかった、姉がいなくなったこと――。

 それらによって3人はかつてないほどに上機嫌となり、なんとお屋敷で働いている人間全員に、5万ものお金を渡していたのでした。

「なにもしていないのにお金をもらえるだなんて……! 夢のようだわ……!!」
「本当に、皆様に感謝しないといけないわ」
「レイナ、それだけじゃないわよ。カプシーヌお嬢様、も忘れてはいけないわ」
「そうだったわね。カプシーヌ様、お屋敷から消えてくださりありがとうございます」
「わたくし達のアレコレに耐えられなくなってくださり、ありがとうございま~す。よく決断してくださいました」
「英断ですよ、英断。貴方様のご活躍は生涯忘れはしないでしょう」

 種々様々な言葉で、しかしながら等しく嘲りの感情を抱きながら感謝の言葉を発し、これまで行って来たカプシーヌへの嫌がらせを振り返ってもうひと笑いしたあとのことでした。ようやく5人の話題は変わり、次は『このお金で何を買うか?』について話し始めました。

「わたしはやっぱり、ずっと欲しかったアクセサリーね。このお金があれば買えるわ……!」
「わたしも! これだけあったら、前から欲しかった服を買えるわ!」
「私は、履物を買おうかしら。エミリ、貴方はどう使うつもり?」
「ん~…………甘い物にする。チョコレートやクッキーを買えるだけ買うわ」

 などなど。思い思いのものを挙げていき、彼女達は早速――全使用人が早速、休日になると買い物に出かけました。

「ふふふ……うふふふふふ……。ついに、わたしの手元に来てくれたのね……!」
「まあ素敵……! わたしにピッタリ!!」
「できる女は、足元も気を抜かないのよね。んふふっ」
「美味しいっ! こんなに食べてもまだこんなにあるだなんて……! 最高だわ……!!」

 そうしてそれぞれが求めていたものを購入し、大興奮。予想外の形で幸せが手に入ったことを改めて喜び、

「「「「「旦那様、奥様、フローラお嬢様、そしてカプシーヌお嬢様! ありがとうございます!!」」」」」

 改めて、心から感謝。全員がまるで太陽のような笑みを浮かべ、ここ数年で一番と感じる幸せな日を過ごした――のですが。彼女達は、まだ知りません。


 今浮かんでいるその笑顔は、やがて消えてしまうことを。

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