前世でわたしの夫だったという人が現れました

柚木ゆず

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第12話 真相 エリーズ視点(1)

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「原因は、後世に名を刻もうとした父の暴走と大失敗……。ダツレットス家はサンフォエル家に借金をするなど頭が上がらない状態となってしまっており、家や領民の未来を考えると逆らえなかった……。僕はとんでもないことに加担すると知りながら、動いていたのです」

 ディミトリ様の心変わりのこと――。ディミトリ様の本性のこと――。ディミトリ様の計画のこと――。
 すべてを教えてくださったアンリ様は、痛々しく顔を歪めました。

「……………………」
「…………でも」

 俯くようになった姿を見つめながら。わたしは久しぶりに声を出しました。

「でもアンリ様は今、わたし達に真相を教えてくださっています。どうして、そうしてくださったのですか?」
「存在しない記憶を取り戻そうと、一生懸命になってくれていた。一生懸命、あんなにもランチを作ってくれていた。そんな貴方に、強引に罪悪感を抱かせるようなことをできるはずがない。もう、騙したくはなかったんです」

 アンリ様は嘘を吐くことに、ずっと抵抗があった。あの時、我慢の限界を迎えてしまっていたんですね……。

「ですので真相を明かし、謝罪し、せめてものお詫びをさせていただこうと決めておりまして。今、ここにおります」
「せめても、お詫び……?」
「ウチとサンフォエル家に慰謝料を請求する。です」

 現在は執務室にて厳重に保管されている、両家当主のサインが入った『成功の際は相応の礼をする』ということを約束した書類。
 その存在を公にできるように確保し、わたしに渡す。それが、アンリ様のお詫びだそうです。

「この小瓶3つにはサンフォエル様の指紋が付着していますが、これだけだと簡単に言い逃れが出来てしまえます。そこで、こちらが必要なのです」

 アンリ様が見て欲しいと言うから触っただけ――などなど、いくつも言い訳の方法があります。この瓶だけでは、絶対に不可能です。

「現在書類は父が厳重に保管していますが、成功報酬を受け取ったあとに回収できる算段が立っているんです。入手しだいすぐお届けにあがりますので、そちらを利用していただければ関係者に罪を問えるようになります」
「……………………」
「……できることなら僕自身も直接お詫びを行いたいのですが、その……諸事情がありまして、叶いそうもありません。このような形となってしまうことを、お許しください」
「しょじじょう、ですか……? なにをお考えなのですか……?」
「すみません、そちらに言及することできません。お許しください」

 形容しがたい、瞳……。どこか厭世的に伏し目がちになったアンリ様は、小さく首を振り、再び視線をわたしへと向けました。


 
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