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第16話 解決直後から今日までの間に ロズリーヌ視点
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入れ替わり。あの出来事によってわたしは複数回、人生で初めての経験をすることとなりました。
ひとつめはもちろん、騒ぎとなった原因である『入れ替わり』。
自分の身体を奪われ、見ず知らずの人の身体の中に入ってしまう。まさか、あんなことが起きるとは思ってもみませんでした。
ふたつめは、出会い。
『大丈夫ですよ。俺が何とかします』
『罪を犯した者が罰を受けない。あってはならないことですが――。なんの罪も犯していない人が罰を受けるのは、それ以上にあってはならないことです。……このおかしな歪みを、必ず正してみせますよ』
牢屋の中でのお言葉。
『移動中はなにもできません。焦っても仕方がないですしね、のんびりしましょう』
移動中の、お言葉。
それ以外にも多数。あげ始めると枚挙にいとまがありません。
下手をするとご自身の身も危ういのに即決してくださり、更にはことあるごとにお気を遣ってくださる。
いくら元婚約者が起こしたこととはいえ、ご自身には一切関係ないんです。知らないフリをしたって構わないのです。
なのにあのように仰って、ずっと優しくしてくださった。
あんな方がいらっしゃるとは、思いませんでした。
そして、最後。みっつめ。
それは、固定観念の否定、です。
「……オディロン様……。…………っ? わたし、今、お名前を……」
事件が解決してまもなく――ある程度落ち着けるようになって、すぐのことでした。知らない間によく、オディロン様のことを考えていると気付いたのです。
そうして自分の変化に気付いて、そちらを切っ掛けとして、更にとあること気付くのでした。
「……わたし……。オディロン様と、もっとお話しをしたいと……。もっともっと、一緒にいたいと思っています……」
こんな感情が、想いが、芽生えるだなんて。
わたしはこれまでそういった感情は、時間によって育まれていくものだと思っていました。
でも。違っていました。
「『好き』という感情に時間は関係ないのだと、初めて気が付きましたよ」
わたしも、そうなんです。
一週間と少し。たったこれくらいの期間で、芽生えたんです。
好き、という感情が。
「……オディロン様と、お会いしたい……。お会いして、この気持ちをお伝えしたい……。けど……。できません、ね……」
オディロン様は隣国の侯爵家の嫡男様で、わたしは当主の弟の娘。侯爵家と子爵家でも不釣り合いなのに、更に当主の娘でもないのです。
無理に決まっている。
気持ちを伝えてしまったらご迷惑をかけてしまう。
ですから、この気持ちに蓋をしようと思っていました。
手紙などのやり取りで充分幸せだと、思うようにしていました。
「……仕方が、ありませんよね」
諦めて、いました。
でも。
「ですので、交際を検討してはいただけないでしょうか?」
そんなわたしに、信じられないことが……。奇跡のようなことが、起きてくれて――
ひとつめはもちろん、騒ぎとなった原因である『入れ替わり』。
自分の身体を奪われ、見ず知らずの人の身体の中に入ってしまう。まさか、あんなことが起きるとは思ってもみませんでした。
ふたつめは、出会い。
『大丈夫ですよ。俺が何とかします』
『罪を犯した者が罰を受けない。あってはならないことですが――。なんの罪も犯していない人が罰を受けるのは、それ以上にあってはならないことです。……このおかしな歪みを、必ず正してみせますよ』
牢屋の中でのお言葉。
『移動中はなにもできません。焦っても仕方がないですしね、のんびりしましょう』
移動中の、お言葉。
それ以外にも多数。あげ始めると枚挙にいとまがありません。
下手をするとご自身の身も危ういのに即決してくださり、更にはことあるごとにお気を遣ってくださる。
いくら元婚約者が起こしたこととはいえ、ご自身には一切関係ないんです。知らないフリをしたって構わないのです。
なのにあのように仰って、ずっと優しくしてくださった。
あんな方がいらっしゃるとは、思いませんでした。
そして、最後。みっつめ。
それは、固定観念の否定、です。
「……オディロン様……。…………っ? わたし、今、お名前を……」
事件が解決してまもなく――ある程度落ち着けるようになって、すぐのことでした。知らない間によく、オディロン様のことを考えていると気付いたのです。
そうして自分の変化に気付いて、そちらを切っ掛けとして、更にとあること気付くのでした。
「……わたし……。オディロン様と、もっとお話しをしたいと……。もっともっと、一緒にいたいと思っています……」
こんな感情が、想いが、芽生えるだなんて。
わたしはこれまでそういった感情は、時間によって育まれていくものだと思っていました。
でも。違っていました。
「『好き』という感情に時間は関係ないのだと、初めて気が付きましたよ」
わたしも、そうなんです。
一週間と少し。たったこれくらいの期間で、芽生えたんです。
好き、という感情が。
「……オディロン様と、お会いしたい……。お会いして、この気持ちをお伝えしたい……。けど……。できません、ね……」
オディロン様は隣国の侯爵家の嫡男様で、わたしは当主の弟の娘。侯爵家と子爵家でも不釣り合いなのに、更に当主の娘でもないのです。
無理に決まっている。
気持ちを伝えてしまったらご迷惑をかけてしまう。
ですから、この気持ちに蓋をしようと思っていました。
手紙などのやり取りで充分幸せだと、思うようにしていました。
「……仕方が、ありませんよね」
諦めて、いました。
でも。
「ですので、交際を検討してはいただけないでしょうか?」
そんなわたしに、信じられないことが……。奇跡のようなことが、起きてくれて――
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