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第5話 悪女の行方は ロズリーヌ視点(2)
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「かはっ!? はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」
南口からラーガットルに入って、1分も経っていないタイミングだと思います。目撃情報を集めようとしていたら、視界の端で――11時の方向で、70~80代と思しき女性が突如苦しみ始めたのです。
「どうされたのでしょうか……? 喉を抑えている、持病なのか――っ!? ロズリーヌ様っ!?」
「すみません! 少々お時間をいただきます!!」
謝罪をする頃には、すでに無意識的に走り出していました。苦しそうに蹲っている女性に駆け寄り背中にそっと触れながら、傍で戸惑っている中年男性にお声をかけました。
「わたしは医師免許を持っています。原因を特定できればすぐ対処できます。苦しまれている理由は御存じですか?」
「は、はい! 母は呼吸器に問題があって、でも先月完治しているんです! だから今日、久しぶりに母が好きな場所に連れてきていて……。さっきまで元気だったのに……どうなっているのでしょうか……!?」
「至急調べてみます。……奥様、失礼致します。苦しいとは思いますが少しだけ我慢をしてください――っ、アンナさん!?」
帽子や眼鏡でおめかしをされていたのと、息子様とは一度しかお会いしていなかったので気が付きませんでした。この方は、お父様の患者さん――お父様が『完治』に導いた患者さんで、わたしもよく面識のある人でした。
((……わたしも治療に携わっていて、再発はないと確信しました。ということは))
原因は、アレですね。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……! はぁ、はぁ、はぁ……!!」
「アンナさん。同じ場所に来ても、あの時と同じことは起きませんよ。だって毎日同じように太陽はのぼって沈んでいるのに、わたし達は同じ毎日を過ごしてはいないじゃないですか」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「おとう――担当医が大丈夫と仰って、貴方自身もずっと元気に過ごしていたはずです。ソレは、単なる思い込み。自分が引き起こしてしまっているんですよ」
アンナさんはかつて、買い物中この場所で倒れてしまった。その時の記憶が蘇り、『また同じようになったらどうしよう』という思いが膨れ上がり、それによって上手く呼吸ができなくなってしまっているんです。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「ほら、その証拠にちゃんと呼吸できるようになってきていますよ? さあ、ゆっくり吸って、ゆっくり吐いて。すー、はー、すー、はー。わたしに合わせて呼吸してみてください」
「すー、はー、すー、はー、すー、はー、すー、はー。ぁ、ぁぁ。できる。できます。できるように、なりました」
わたしの真似をしてもらうと段々と落ち着きを取り戻し、3分ほどで会話もできるようになりました。
「お役に立ててよかったです。先ほど申し上げたように、身体には一切異常はないのでご安心を。久し振りのお買い物、楽しんでくださいね」
もう少し介抱を続けたいところですが、残念ながら今日はこれ以上が叶いません。早々に立ち去ることをお詫びして、急いでその場を――離れようとした時でした。
「あなたは……。もしかして、ロズリーヌちゃんではありませんか?」
突如アンナさんはそのように仰って――。
そちらを切っ掛けにして、更なる予想外が発生することになるのでした。
南口からラーガットルに入って、1分も経っていないタイミングだと思います。目撃情報を集めようとしていたら、視界の端で――11時の方向で、70~80代と思しき女性が突如苦しみ始めたのです。
「どうされたのでしょうか……? 喉を抑えている、持病なのか――っ!? ロズリーヌ様っ!?」
「すみません! 少々お時間をいただきます!!」
謝罪をする頃には、すでに無意識的に走り出していました。苦しそうに蹲っている女性に駆け寄り背中にそっと触れながら、傍で戸惑っている中年男性にお声をかけました。
「わたしは医師免許を持っています。原因を特定できればすぐ対処できます。苦しまれている理由は御存じですか?」
「は、はい! 母は呼吸器に問題があって、でも先月完治しているんです! だから今日、久しぶりに母が好きな場所に連れてきていて……。さっきまで元気だったのに……どうなっているのでしょうか……!?」
「至急調べてみます。……奥様、失礼致します。苦しいとは思いますが少しだけ我慢をしてください――っ、アンナさん!?」
帽子や眼鏡でおめかしをされていたのと、息子様とは一度しかお会いしていなかったので気が付きませんでした。この方は、お父様の患者さん――お父様が『完治』に導いた患者さんで、わたしもよく面識のある人でした。
((……わたしも治療に携わっていて、再発はないと確信しました。ということは))
原因は、アレですね。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……! はぁ、はぁ、はぁ……!!」
「アンナさん。同じ場所に来ても、あの時と同じことは起きませんよ。だって毎日同じように太陽はのぼって沈んでいるのに、わたし達は同じ毎日を過ごしてはいないじゃないですか」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「おとう――担当医が大丈夫と仰って、貴方自身もずっと元気に過ごしていたはずです。ソレは、単なる思い込み。自分が引き起こしてしまっているんですよ」
アンナさんはかつて、買い物中この場所で倒れてしまった。その時の記憶が蘇り、『また同じようになったらどうしよう』という思いが膨れ上がり、それによって上手く呼吸ができなくなってしまっているんです。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「ほら、その証拠にちゃんと呼吸できるようになってきていますよ? さあ、ゆっくり吸って、ゆっくり吐いて。すー、はー、すー、はー。わたしに合わせて呼吸してみてください」
「すー、はー、すー、はー、すー、はー、すー、はー。ぁ、ぁぁ。できる。できます。できるように、なりました」
わたしの真似をしてもらうと段々と落ち着きを取り戻し、3分ほどで会話もできるようになりました。
「お役に立ててよかったです。先ほど申し上げたように、身体には一切異常はないのでご安心を。久し振りのお買い物、楽しんでくださいね」
もう少し介抱を続けたいところですが、残念ながら今日はこれ以上が叶いません。早々に立ち去ることをお詫びして、急いでその場を――離れようとした時でした。
「あなたは……。もしかして、ロズリーヌちゃんではありませんか?」
突如アンナさんはそのように仰って――。
そちらを切っ掛けにして、更なる予想外が発生することになるのでした。
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