断罪寸前の悪役令嬢になってしまいました

柚木ゆず

文字の大きさ
上 下
9 / 33

第3話 これまでのタチアナ 俯瞰視点(2)

しおりを挟む
「ロズリーヌ? 本当に、大丈夫なの……?」
「……部屋で、休んだ方が、いい、かもしれない……。ひとりでは、歩けそうも、なくて……。連れて行って、もらい、たい、です……」

 一人称も喋り方も自分の部屋の位置さえも、分からない。周囲に悟られないように途切れ途切れで喋り、侍女に支えられながらタチアナはロズリーヌの自室に入りました。

「あ、あり、がとう……。しばらく、ひとりで……。しずかに、休む……」
「承知いたしました」

 移動中に父親と思しき男も駆け付け、人の気配が多くなってしまった。自分にとって都合の悪い状況を避けるべく一人になりたいと告げ、侍女が部屋を去ると――すぐに行動を始めます。

((あった! ……ふ~ん、この女は医者と――薬の勉強もしているのね))

 まずはデスクの中で診察に関する情報などが入った手帳を見つけ、隅々まで目を通してロズリーヌという人間の立場を把握する。それが終わると更にデスクの引き出しを漁り、日記を探し始めます。

((このレベルの屋敷に住んでいる人間は、ほぼ間違いなく日記をつけている。どこにあるのかしら……?))

 是が非でも救う方法を見つけないといけない。それにより『加害者一家』が派手に動いてしまった影響で現在ルレーラ家はマークされており、最低でも一か月間は迎えを寄こすことも連絡することもできなくなっています。
 しかしそれは、ロマンの想定内。
 自分達が動けない間はロズリーヌのフリをして過ごすし、やり過ごせるようにしていたのです。

((………………! あった! こっちには過去の日記帳もあるわ! これなら成りすませますわわね))

 ロズリーヌのフリをするのであれば、一人称や家族の呼称などを再現しなければなりません。タチアナはロズリーヌの日記を使ってロズリーヌの情報を集め、自然な振る舞いをできるようにしていたのです。

((………………他人の幸せを心から願い、喜べる。こういう性格、なのね))

((………………辛いものが苦手で、怖い話が嫌いなのね))

((………………覚えた。完璧ですわ))

 およそ12時間後に必要な情報のインプットが終わり、タチアナはベッドに倒れて仰向けになりました。

((これで、日常生活は完璧。往診などに関しては引き続き仮病で拒否して、のんびり身体を馴染ませましょうか))

 この入れ替わりの魔法は心身への害は一切ありませんが、肉体に魂が馴染むまでは――最低でも1か月間は『ちょっと運動をしただけですぐヘトヘトになる』状態となり、酷使しすぎると身体が耐えられなくなり魂が飛び出してしまうという問題点がありました。
 あらゆる席に出席しなければならない貴族、生きるために毎日労働などを行わないといけない平民。それらとは異なり、ロズリーヌは1か月くらいなら休み続けられる環境にありました。
 ロマンがロズリーヌに目を付けた理由の一つが『長期間じっとしていられる』で、誤算が発生している点以外は、全て彼の思い通りにことが運んでいたのです。

((処刑はロズリーヌが引き受けてくれて、わたくしは迎えが来るまでここでのんびりとしていればいいだけ。お父様には足を向けて眠れませんわね))

 他人に苦痛を擦り付けても、まったく悪びれない。タチアナはクスリと微笑み、リラックスするためにまぶたを閉じて――


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

呪われた指輪を王太子殿下から贈られましたけど、妹が盗んでくれたので私は無事でした。

田太 優
恋愛
王太子殿下との望まない婚約はお互いに不幸の始まりだった。 後に関係改善を望んだ王太子から指輪が贈られたけど嫌な気持ちしか抱けなかった。 でもそれは私の勘違いで、嫌な気持ちの正体はまったくの別物だった。 ――指輪は呪われていた。 妹が指輪を盗んでくれたので私は無事だったけど。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

この国では魔力を譲渡できる

ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」  無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。  五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

お前を愛することはないと言われたので、愛人を作りましょうか

碧桜 汐香
恋愛
結婚初夜に“お前を愛することはない”と言われたシャーリー。 いや、おたくの子爵家の負債事業を買い取る契約に基づく結婚なのですが、と言うこともなく、結婚生活についての契約条項を詰めていく。 どんな契約よりも強いという誓約魔法を使って、全てを取り決めた5年後……。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

処理中です...