断罪寸前の悪役令嬢になってしまいました

柚木ゆず

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第3話 これまでのタチアナ 俯瞰視点(2)

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「ロズリーヌ? 本当に、大丈夫なの……?」
「……部屋で、休んだ方が、いい、かもしれない……。ひとりでは、歩けそうも、なくて……。連れて行って、もらい、たい、です……」

 一人称も喋り方も自分の部屋の位置さえも、分からない。周囲に悟られないように途切れ途切れで喋り、侍女に支えられながらタチアナはロズリーヌの自室に入りました。

「あ、あり、がとう……。しばらく、ひとりで……。しずかに、休む……」
「承知いたしました」

 移動中に父親と思しき男も駆け付け、人の気配が多くなってしまった。自分にとって都合の悪い状況を避けるべく一人になりたいと告げ、侍女が部屋を去ると――すぐに行動を始めます。

((あった! ……ふ~ん、この女は医者と――薬の勉強もしているのね))

 まずはデスクの中で診察に関する情報などが入った手帳を見つけ、隅々まで目を通してロズリーヌという人間の立場を把握する。それが終わると更にデスクの引き出しを漁り、日記を探し始めます。

((このレベルの屋敷に住んでいる人間は、ほぼ間違いなく日記をつけている。どこにあるのかしら……?))

 是が非でも救う方法を見つけないといけない。それにより『加害者一家』が派手に動いてしまった影響で現在ルレーラ家はマークされており、最低でも一か月間は迎えを寄こすことも連絡することもできなくなっています。
 しかしそれは、ロマンの想定内。
 自分達が動けない間はロズリーヌのフリをして過ごすし、やり過ごせるようにしていたのです。

((………………! あった! こっちには過去の日記帳もあるわ! これなら成りすませますわわね))

 ロズリーヌのフリをするのであれば、一人称や家族の呼称などを再現しなければなりません。タチアナはロズリーヌの日記を使ってロズリーヌの情報を集め、自然な振る舞いをできるようにしていたのです。

((………………他人の幸せを心から願い、喜べる。こういう性格、なのね))

((………………辛いものが苦手で、怖い話が嫌いなのね))

((………………覚えた。完璧ですわ))

 およそ12時間後に必要な情報のインプットが終わり、タチアナはベッドに倒れて仰向けになりました。

((これで、日常生活は完璧。往診などに関しては引き続き仮病で拒否して、のんびり身体を馴染ませましょうか))

 この入れ替わりの魔法は心身への害は一切ありませんが、肉体に魂が馴染むまでは――最低でも1か月間は『ちょっと運動をしただけですぐヘトヘトになる』状態となり、酷使しすぎると身体が耐えられなくなり魂が飛び出してしまうという問題点がありました。
 あらゆる席に出席しなければならない貴族、生きるために毎日労働などを行わないといけない平民。それらとは異なり、ロズリーヌは1か月くらいなら休み続けられる環境にありました。
 ロマンがロズリーヌに目を付けた理由の一つが『長期間じっとしていられる』で、誤算が発生している点以外は、全て彼の思い通りにことが運んでいたのです。

((処刑はロズリーヌが引き受けてくれて、わたくしは迎えが来るまでここでのんびりとしていればいいだけ。お父様には足を向けて眠れませんわね))

 他人に苦痛を擦り付けても、まったく悪びれない。タチアナはクスリと微笑み、リラックスするためにまぶたを閉じて――


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