1 / 33
プロローグ ロズリーヌ・サンドローブ
しおりを挟む
「あなた、ロズリーヌ、お疲れ様。お菓子とお茶の用意ができているわよ」
あちこちで秋を感じる景色が見えるようになってきた、10月6日の午後4時過ぎ。お父様と共に訪問診療から帰ってくると、お母様が紅茶とフィナンシェを準備してくださっていました。
「お風呂の用意もできているわ」
「ありがとう。ロズリーヌ、今日は特に頑張ってくれたしな。疲れているだろうし先に入っておくれ」
「分かりました。お先にいただきます」
お父様は医者で、わたしは新米の医者。本日はなにかとわたしの出番が多く、最後に回った孤児院ではお父様のサポートのもと全診察を行いました。
いつも以上に働いて疲労が溜まっていたので、お言葉に甘えて湯浴みを行いました。
「ふぅ、いいお湯でした。……お父様、お先にいただきました」
「リフレッシュできたようだな。私もすぐ入る。気にせず始めておいてくれ」
「はい。ごゆっくり」
浴室のある部屋の前にいらっしゃったお父様と言葉を交わし、お母様が待つ食堂に向かって椅子に座り、ふたりでお父様を待ちます。
あのように仰っていましたが、家族3人で食べた方が美味しいですからね。お風呂を上がるまで、お母様とお喋りをしていましょう。
「聞いたわよ、孤児院では大活躍だったそうね。手際が良くて、なにより患者さんに親身になれていたって、お父さんも褒めていたわよ」
「そうだったのですね。嬉しいです、とても」
お父様は子爵家当主の次男として生まれ、将来は現当主である伯父様の右腕となって家を支えてゆくつもりでした。ですがお父様が16歳の頃、当時の当主夫人――わたしのおばあ様が大病を患い、とあるお医者様の熱心な治療によって九死に一生を得たことで考えが変わります。
政治だけでは救えない命が沢山ある。
そんな人を救える人間に、自分もなりたい。
そのような思いが生まれてその先生に弟子入りし、補佐の勉強をしながら医学を学び続け、23歳の頃に医師免許を取得。以降は開業医として領民の皆さんの治療などを行いつつ、要請があれば伯父様の補佐を行うという人生を歩むようになりました。
その姿に感銘を受けてわたしも医師を志すようになって、お父様は世界で一番尊敬する師匠。そんな人に褒めてもらえたので、おもわず頬が緩んでしまいました。
「一日も早くお父様のような医者になれるよう、今後も両方の道を邁進してゆきます。お茶とお菓子をいただいたら、お部屋に戻って勉強を――っ!?」
「? ロズリーヌ? どうしたの?」
「……あれ? いえ、なんでもありません」
耳ではっきりと聞こえるほどの大きさで『ドクン』と心臓が脈を打ったのですが、すぐに正常に戻りました。
「そう? 本当に、平気?」
「はい。平気です。本当に、平気です」
年のため少し様子を見ていましたが、脈拍にもその他の部分にも違和感はみられませんでした。ですので、安心してもらうために笑みを返し――
((っ!? これ、は……!?))
――笑みを返していたら、突如目の前が真っ暗になりました。
((視界が……!? 声も、出ない……!? 何が起きてい――ぁ…………)
……それからは、あっという間でした……。
未経験の異常に戸惑っていると、意識が遠のいていき――
((!? よ、よかった、意識が回復しましたね。とりあえず、一旦横になって――……………………。え……?))
気が付き体勢を変えようとしてたわたしは、おもわず言葉を失っていました。
ど、どういう、こと……? なぜ――
「なんで遅れたのか、だって? ……タチアナ、お前に時間をとやかく言う資格はない。処刑台へ連行する」
――わたしは知らない場所で知らない男性に拘束され、知らない名前で呼ばれているのですか……!?
あちこちで秋を感じる景色が見えるようになってきた、10月6日の午後4時過ぎ。お父様と共に訪問診療から帰ってくると、お母様が紅茶とフィナンシェを準備してくださっていました。
「お風呂の用意もできているわ」
「ありがとう。ロズリーヌ、今日は特に頑張ってくれたしな。疲れているだろうし先に入っておくれ」
「分かりました。お先にいただきます」
お父様は医者で、わたしは新米の医者。本日はなにかとわたしの出番が多く、最後に回った孤児院ではお父様のサポートのもと全診察を行いました。
いつも以上に働いて疲労が溜まっていたので、お言葉に甘えて湯浴みを行いました。
「ふぅ、いいお湯でした。……お父様、お先にいただきました」
「リフレッシュできたようだな。私もすぐ入る。気にせず始めておいてくれ」
「はい。ごゆっくり」
浴室のある部屋の前にいらっしゃったお父様と言葉を交わし、お母様が待つ食堂に向かって椅子に座り、ふたりでお父様を待ちます。
あのように仰っていましたが、家族3人で食べた方が美味しいですからね。お風呂を上がるまで、お母様とお喋りをしていましょう。
「聞いたわよ、孤児院では大活躍だったそうね。手際が良くて、なにより患者さんに親身になれていたって、お父さんも褒めていたわよ」
「そうだったのですね。嬉しいです、とても」
お父様は子爵家当主の次男として生まれ、将来は現当主である伯父様の右腕となって家を支えてゆくつもりでした。ですがお父様が16歳の頃、当時の当主夫人――わたしのおばあ様が大病を患い、とあるお医者様の熱心な治療によって九死に一生を得たことで考えが変わります。
政治だけでは救えない命が沢山ある。
そんな人を救える人間に、自分もなりたい。
そのような思いが生まれてその先生に弟子入りし、補佐の勉強をしながら医学を学び続け、23歳の頃に医師免許を取得。以降は開業医として領民の皆さんの治療などを行いつつ、要請があれば伯父様の補佐を行うという人生を歩むようになりました。
その姿に感銘を受けてわたしも医師を志すようになって、お父様は世界で一番尊敬する師匠。そんな人に褒めてもらえたので、おもわず頬が緩んでしまいました。
「一日も早くお父様のような医者になれるよう、今後も両方の道を邁進してゆきます。お茶とお菓子をいただいたら、お部屋に戻って勉強を――っ!?」
「? ロズリーヌ? どうしたの?」
「……あれ? いえ、なんでもありません」
耳ではっきりと聞こえるほどの大きさで『ドクン』と心臓が脈を打ったのですが、すぐに正常に戻りました。
「そう? 本当に、平気?」
「はい。平気です。本当に、平気です」
年のため少し様子を見ていましたが、脈拍にもその他の部分にも違和感はみられませんでした。ですので、安心してもらうために笑みを返し――
((っ!? これ、は……!?))
――笑みを返していたら、突如目の前が真っ暗になりました。
((視界が……!? 声も、出ない……!? 何が起きてい――ぁ…………)
……それからは、あっという間でした……。
未経験の異常に戸惑っていると、意識が遠のいていき――
((!? よ、よかった、意識が回復しましたね。とりあえず、一旦横になって――……………………。え……?))
気が付き体勢を変えようとしてたわたしは、おもわず言葉を失っていました。
ど、どういう、こと……? なぜ――
「なんで遅れたのか、だって? ……タチアナ、お前に時間をとやかく言う資格はない。処刑台へ連行する」
――わたしは知らない場所で知らない男性に拘束され、知らない名前で呼ばれているのですか……!?
77
お気に入りに追加
182
あなたにおすすめの小説
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら
Rohdea
恋愛
婚期を逃し、没落寸前の貧乏男爵令嬢のアリスは、
ある日、父親から結婚相手を紹介される。
そのお相手は、この国の王女殿下の護衛騎士だったギルバート。
彼は最近、とある事情で王女の護衛騎士を辞めて実家の爵位を継いでいた。
そんな彼が何故、借金の肩代わりをしてまで私と結婚を……?
と思ったら、
どうやら、彼は“お飾りの妻”を求めていたらしい。
(なるほど……そういう事だったのね)
彼の事情を理解した(つもり)のアリスは、その結婚を受け入れる事にした。
そうして始まった二人の“白い結婚”生活……これは思っていたよりうまくいっている?
と、思ったものの、
何故かギルバートの元、主人でもあり、
彼の想い人である(はずの)王女殿下が妙な動きをし始めて……
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。
正当な権利ですので。
しゃーりん
恋愛
歳の差43歳。
18歳の伯爵令嬢セレーネは老公爵オズワルドと結婚した。
2年半後、オズワルドは亡くなり、セレーネとセレーネが産んだ子供が爵位も財産も全て手に入れた。
遠い親戚は反発するが、セレーネは妻であっただけではなく公爵家の籍にも入っていたため正当な権利があった。
再婚したセレーネは穏やかな幸せを手に入れていたが、10年後に子供の出生とオズワルドとの本当の関係が噂になるというお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる