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プロローグ サーラ視点
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「…………はふぅ。ノアのもふもふは、最高の癒しよねぇ」
ウチことガレッテス侯爵家所有の山、レガイル山。私はそこに住む親友に会いに来ていて、木漏れ日の中でふかふかの体をギュッと抱き締めていた。
ややツリ目なブルーの瞳と、丸い頬。それだけでも充分に可愛いのに、シルクのようなミディアムロングの毛を纏う、圧倒的な可愛さを持つ生き物。それがこの子、猫のノアなのです。
「はぁ……っ。こうしてずっと、もふっていたいわぁ」
膝の上にノアを乗せて、約80センチある体に顔を埋めて感嘆の息を漏らす。そうすれば――
「ここは人間が食べられるものが沢山あるし、ボクにくっついていれば寒さも凌げる。サーラが望むなら大歓迎だよ」
顎の下にあった顔が真上を向いて、ペロッと私の顔を舐めてくれた。
こうしてモフりながらお喋りをするのも、私達のいつもの時間の過ごし方。友人達に話すと『嘘だ』と馬鹿にされてしまうけど、これは幻聴なんかじゃないんだよね。
こうやってノアと話せるようになった理由は、私も分からない。
だけどその切っ掛けは分かっていて、それは今から7年前の冬――私が11歳だった頃のこと。
「きゅぅ……。きゅぅ……」
あの日は、珍しく家族で――公務の関係でレガイル山に来ていて、その際に偶然、茂みの中で傷だらけになっている子猫を見つけた。しかもかなり衰弱していたから私は即抱き上げ、自分の部屋に連れ帰ったのだった。
「きゅぅ…………。きゅぅ…………」
「ごめんね、猫ちゃん。お父様とお母様、それに妹は動物が大嫌いで、暖炉の前とかには連れていってあげられないの。でもその代わりに、私が絶対に元気にするからね。安心してね」
「その猫を助けたい? お前ひとりで面倒を見られるのならば、好きにするといい。ただし、屋敷に置くのは回復するまでだ」
「獣の臭いがずっとするなんて、最悪ですもの。治ったらすぐ……そうね……。戻って来られると面倒だから、レガイル山に戻すこと。その時まで部屋から絶対に出さないこと。いいわね?」
「お姉さま。1回でも出たら、すぐお父様達に追い出してもらいますわ。助けたいのなら気を付けてくださいまし」
私の家族は『気に入った相手にはとことん優しくして、嫌いな相手にはとことん冷たくする』人。なので温かいところへの移動禁止だけではなく、治療に関する費用すら出してくれなくって……。
そのせいで、かなり危険な状態が続いたんだけど……。本音を言うと、駄目かもしれないって何度も過ぎったのだけど……。
ベッドの中で抱き締めて温めたり、貯めていたお小遣いを使って手当をしたり栄養のあるものを食べさせてあげたり。諦めずに頑張ったことが、よかったのだと思う。そういったことを3週間続けて、ようやく元気を取り戻したの。
そして、
「ありがとう。君のおかげで助かったよ」
その時からこんな風に声が聞こえるようになって、あんな風に会話もできるようになったのでした。
「私もノアが大好きだし、1週間に4回会うだけじゃ満足できないからなぁ。ここ――どこか違う国で、2人で暮らしてくのもありだね。そうしちゃおうかな」
「…………。サーラ、なにかあったんだね?」
見上げてくれている顔に笑みを返していたら、綺麗な瞳が僅かに細くなった。
「今日はいつもよりも顔を埋めてくるし、いつもなら『そうしたいけどわたくし、貴族の娘ですので』『だよね。いつもお疲れ様です』って笑い合う。なのに本気でそう思ってるってことは、何かあったんだよね? それも大きなことが」
「ぁ~、うん。そうなの。今日の早朝から正午までの間に、色々あったんだ」
本当に、色々。激動って言葉が相応しいことが、あった。
「だと思った。ね、サーラ、起きたことをボクに教えてよ。力になれると思うから」
「あはは、お気持ちだけもらっておくよ。これはね、どうやっても変えられないもので――…………。ありがとうノア、分かったよ。じゃあ、愚痴を聞いてもらおうかな」
ブルーの瞳が真っすぐ見つめてくれていて、ここで甘えないのはこの子に悪いと思った。だから私は、起きたことの説明を始めたのだけど――
この時の私は、まだ知りませんでした。
その行動が、あんなことに繋がるだなんて――。
ウチことガレッテス侯爵家所有の山、レガイル山。私はそこに住む親友に会いに来ていて、木漏れ日の中でふかふかの体をギュッと抱き締めていた。
ややツリ目なブルーの瞳と、丸い頬。それだけでも充分に可愛いのに、シルクのようなミディアムロングの毛を纏う、圧倒的な可愛さを持つ生き物。それがこの子、猫のノアなのです。
「はぁ……っ。こうしてずっと、もふっていたいわぁ」
膝の上にノアを乗せて、約80センチある体に顔を埋めて感嘆の息を漏らす。そうすれば――
「ここは人間が食べられるものが沢山あるし、ボクにくっついていれば寒さも凌げる。サーラが望むなら大歓迎だよ」
顎の下にあった顔が真上を向いて、ペロッと私の顔を舐めてくれた。
こうしてモフりながらお喋りをするのも、私達のいつもの時間の過ごし方。友人達に話すと『嘘だ』と馬鹿にされてしまうけど、これは幻聴なんかじゃないんだよね。
こうやってノアと話せるようになった理由は、私も分からない。
だけどその切っ掛けは分かっていて、それは今から7年前の冬――私が11歳だった頃のこと。
「きゅぅ……。きゅぅ……」
あの日は、珍しく家族で――公務の関係でレガイル山に来ていて、その際に偶然、茂みの中で傷だらけになっている子猫を見つけた。しかもかなり衰弱していたから私は即抱き上げ、自分の部屋に連れ帰ったのだった。
「きゅぅ…………。きゅぅ…………」
「ごめんね、猫ちゃん。お父様とお母様、それに妹は動物が大嫌いで、暖炉の前とかには連れていってあげられないの。でもその代わりに、私が絶対に元気にするからね。安心してね」
「その猫を助けたい? お前ひとりで面倒を見られるのならば、好きにするといい。ただし、屋敷に置くのは回復するまでだ」
「獣の臭いがずっとするなんて、最悪ですもの。治ったらすぐ……そうね……。戻って来られると面倒だから、レガイル山に戻すこと。その時まで部屋から絶対に出さないこと。いいわね?」
「お姉さま。1回でも出たら、すぐお父様達に追い出してもらいますわ。助けたいのなら気を付けてくださいまし」
私の家族は『気に入った相手にはとことん優しくして、嫌いな相手にはとことん冷たくする』人。なので温かいところへの移動禁止だけではなく、治療に関する費用すら出してくれなくって……。
そのせいで、かなり危険な状態が続いたんだけど……。本音を言うと、駄目かもしれないって何度も過ぎったのだけど……。
ベッドの中で抱き締めて温めたり、貯めていたお小遣いを使って手当をしたり栄養のあるものを食べさせてあげたり。諦めずに頑張ったことが、よかったのだと思う。そういったことを3週間続けて、ようやく元気を取り戻したの。
そして、
「ありがとう。君のおかげで助かったよ」
その時からこんな風に声が聞こえるようになって、あんな風に会話もできるようになったのでした。
「私もノアが大好きだし、1週間に4回会うだけじゃ満足できないからなぁ。ここ――どこか違う国で、2人で暮らしてくのもありだね。そうしちゃおうかな」
「…………。サーラ、なにかあったんだね?」
見上げてくれている顔に笑みを返していたら、綺麗な瞳が僅かに細くなった。
「今日はいつもよりも顔を埋めてくるし、いつもなら『そうしたいけどわたくし、貴族の娘ですので』『だよね。いつもお疲れ様です』って笑い合う。なのに本気でそう思ってるってことは、何かあったんだよね? それも大きなことが」
「ぁ~、うん。そうなの。今日の早朝から正午までの間に、色々あったんだ」
本当に、色々。激動って言葉が相応しいことが、あった。
「だと思った。ね、サーラ、起きたことをボクに教えてよ。力になれると思うから」
「あはは、お気持ちだけもらっておくよ。これはね、どうやっても変えられないもので――…………。ありがとうノア、分かったよ。じゃあ、愚痴を聞いてもらおうかな」
ブルーの瞳が真っすぐ見つめてくれていて、ここで甘えないのはこの子に悪いと思った。だから私は、起きたことの説明を始めたのだけど――
この時の私は、まだ知りませんでした。
その行動が、あんなことに繋がるだなんて――。
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