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第五十二話 真琴への誕生日プレゼント

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 日曜日も朝の鍛練から始める。昨日の晩からご機嫌ななめの綾芽もちゃんと起きて一緒に鍛えている。

「何でそんなにプリプリしてるんだ。昨日はちゃんとマジックアイテムも手に入れたようだし、おかげで僕も安眠できてこんなに体調が良いぞ」
「だって明日誕生日の真琴に何か良いものを皆からプレゼントしたかったんだよ」
「真琴は明日が誕生日なのか?でも、それはしょうがないじゃないか。普通Fランクダンジョンの宝箱なんてそんなに期待できるものは出てこないぞ」
「でも私はあそこのダンジョンで装備をいっぱい手に入れたんだよ。期待しちゃうでしょ。はっ、お兄ちゃん今日の予定はどうなっているの?」
「もう嫌な予感しかしないよね」
「お願いします。一緒に吉備路ダンジョン群に行ってください。真琴の役に立つマジックアイテムだけ私に頂戴!他は全部お兄ちゃんに渡します」

 可愛い妹からの依頼である。別に用事がある訳でもない。表面上はイヤイヤ、内心は喜んで引き受けた。妹から頼られるって嬉しいもんだね。

 鍛練後に朝御飯を食べて急いで吉備路ダンジョン群に向けて家を出た。お休みでまだ就寝中の両親には書き置きを残しておいた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 もうここのダンジョンに来るのも三度目である。電車を降りてからもスムーズに行動できる。いつも通りレンタサイクル店で自転車を借りて吉備路サイクリングロードを進み、探索者センターで着替えをして受付をする。すべての手続きを終えて、更に自転車でサイクリングロードを進み目的のダンジョンに到着する。

「時間的に見て、今日は二カ所のダンジョンしか探索できないからな。僕は五重ダンジョンは外せない。もう一カ所は綾芽が決めてくれ」
「じゃあ最初はお兄ちゃんが五重ダンジョンで私がコウモリダンジョンを攻略するよ。多分二時間くらい攻略するのにかかるでしょ。その後一緒にお弁当を食べて、Eランクダンジョンの十一階層に転移した後に完全攻略してから帰ろうよ。私は良い物が宝箱から出るように、そこのお寺で拝んでからダンジョンに移動するよ」

 攻略するダンジョンも決まったので、まずは五重ダンジョンへと移動する。歩いて一分だけどね。

 ダンジョンの外側の扉を探索者証を入れてくぐり、ダンジョンゲートの転移の柱からダンジョンの中に転移する。

 転移した先はダンジョンの一階層のセーフティーゾーンだ。いつもはここで準備をして攻略を始めるが、流石夏休みである、いつもより圧倒的に人が多い。いつもは野球のグローブでミニトレンントモドキが投げて来る野菜や果物をキャッチしては腕輪に収納することを繰り返し、弾切れになったところで魔物を討伐する。しかし、今日この人が多いところでその方法を使って良いのかと考えたが、攻略している人たちを見ると野菜を躱すので精一杯のようだ。僕が収納していても気づくことはないだろう。いつもの方法で行くと決めて、一応あまり人の多いところには近づかないように注意はしながら攻略を開始した。

 一階層はジャガ芋、二階層は玉葱をキャッチしては収納をし、更にミニトレンントモドキを倒してドロップアイテムの魔石と野菜を手に入れて次の階層に進む。

 変化があったのは三階層、今まではトマトを投げて来ていたが今日は丸い茄子を投げて来る。嬉しい誤算に喜びながら更に進む。四階層は桃、これは細心の注意を払って優しくキャッチする。そして五階層もパイナップルが梨に変わっていた。もしかして毎月投げて来る物が変わるのだろうか?チェックが必要のようだ。

 そして最後のボス部屋の前には一組のパーティが順番待ちをしていた。一組でラッキーだったと思いその後に並んだ。勿論ダミーのリュックは背負ったよ。

 チラチラとこちらを見てくるが、話しかけて来ないでねオーラを全力で出しながら自分の順番が来るのを待った。

 結局二十分以上待ってやっと順番が来た。

 中には前と変わらずスイカを投げて来るトレントモドキ。でかいスイカが猛スピードで迫って来るのはスリルがあるが今日で三回目だ。精一杯頑張って五個のスイカをゲットすることが出来た。すべてのスイカを投げ終えたトレントモドキを討伐し、ドロップアイテムを収納していると今日の一番の目的の宝箱が現れた。鉄の宝箱だ。

 宝箱を開くと中にはベルトが入っていた。当然鑑定をしてもらわないと分からないが、良い物だといいなと思い回収してダンジョンの外へと転移した。

 待ち合わせの場所に行くと既に綾芽は来ていて僕を待っていた。

「お兄ちゃん遅いよ。待ちくたびれたよ」
「僕は人が多いところを攻略して、ボス部屋の前でも順番待ちをしてまで宝箱の中のマジックアイテムを得てきたのに酷い扱いだな。もう帰っても良いんだけどな」
「ごめんなさい。私が悪うございました」

 ちょっと遅くなったがお弁当をいつもの場所でお花を見ながら食べた。勿論ストックしてあったものから食べたよ。いつも協力してくれる母さんに感謝だな。

 お腹も満たされ次のダンジョンへ移動する。吉備路ダンジョン群で唯一のEランクダンジョンの造ダンジョンだ。以前に《百花繚乱》のリーダーの奈倉正輝と一緒に完全攻略しているので、六階層と十一階層の転移の柱に登録をしている。ダンジョンに入る前に綾芽とパーティ登録をしてから十一階層に転移した。転移した場所はセーフティーゾーンになっている。そこで綾芽が僕に聞いてきた。

「お兄ちゃん、何か私が使えそうな武器持ってない?」

 このダンジョンは森林型なので、綾芽のように長物の武器を使う者にとっては相性が悪い。綾芽は一度経験しているので、そのことを気にして聞いてきたのだろう。少し考えて綾芽が使うことが出来る武器を思いついた。

「岡山ダンジョンのゴブリンがドロップする棍棒を使ってみるか。【身体強化】のスキルがあるから相性は良さそうに思えるけどな」

 棍棒は大量にストックしているので、攻略途中に破損しても大丈夫なように六本渡しておいた。綾芽は棍棒を両手に持ち素振りをして感触を確かめ、なんとか使えそうだと言ってきたので攻略を開始することにした。

 このダンジョンで出て来るのは昆虫型の魔物だ。十一階層からはカマキリ、ハチ、カブトムシ、クワガタを巨大化したような魔物と遭遇するが、それ程脅威を感じるような相手ではない。今日の目的はあくまでも宝箱の中のマジックアイテムなので、最短距離で階段を目指す。

 あまり時間をかけずにボス部屋にたどり着いたが、探索者が増えていることもあってか順番待ちをするパーティが三組もいた。しばらく待った後に漸く順番が来てボス部屋に入る。ボス部屋には五匹のビッグビー、綾芽が武器を槍に持ち替えて一瞬で討伐した。ドロップした魔石とハチミツを拾い宝箱を待つ。

「お兄ちゃん、銅色の宝箱が出たよ。ありがとう」
「まだ中を見てないのに、ありがとうはないだろう。早く綾芽が確認しなよ」

 綾芽が宝箱を開けると指輪が入っていた。その指輪を回収した後にダンジョンから出て、探索者センターに向けて自転車を漕いだ。

 探索者センターの買取り受付でドロップアイテムと宝箱から出たマジックアイテムをカゴの中に入れる。一応綾芽も宝箱からマジックアイテムを得ているようだ。

 探索者も多かったので、いつもよりも待ち時間が長かった。やっと呼ばれて受付窓口に行くとまたもや部屋への移動である。北河さんに案内されて部屋に入った。

「龍泉様、今日は当ダンジョンにお越しいただきありがとうございます」

 支部長の西湖さんが迎えてくれた。僕のおかげで人気のなかったEランクダンジョンにも探索者が来るようになり、たまに性能の良いマジックアイテムが出て更に探索者が多くなっているという話をしてくれた。

「五重ダンジョンも人が多かったですよ。ドロップアイテムは毎月変化があるんですか?」
「はい、毎月とは限りませんが少しずつ変わっていきますね」
「今日は三階層で茄子を五階層で梨をゲット出来て嬉しく思いました。また来ますね」
「それは良かったです。でも、他の探索者の方は梨よりパイナップルの方が良かったと抗議の声をあげる人がいるんですよ。買取り金額が梨の方が安いですからね。私達でどうにかできることでもないのでしょうがないんですけどね。すみません、愚痴を言ってしまいましたね。今のはナシでお願いします」

 …………ここは笑うところなのだろうか?梨とナシをかけているんだよな。僕のコミュニケーション能力ではどう反応して良いのか判断が出来ずスルーしてしまった。西湖さん、申し訳ありません。ついでに、心の中で『ネガティブ西湖』と思っていることも併せて謝っておこう。だって西湖さんって後向きの発言が多いんだからしょうがないよね。

 北河さんから買取りの内訳を聞いた後に最後のマジックアイテムの鑑定結果を聞く。

「マジックアイテムの鑑定ですが、ナイトキャップはほんの少し良い夢が見られる効果がありまして、買取り価格が6,000円です。次にベルトは火事場の馬鹿力が付与されています。最後の最後に最高の力を発揮する効果です。買取り価格は150,000円です。最後に指輪ですが、会心率がアップする効果が付与されています。所謂クリティカルが発生する確率が良くなる効果ですね。こちらの買取り価格が350,000円です」
「弓でもクリティカルヒットがよく出るようになるんですよね」
「いえ、残念ながらこちらは打撃系だけに効果があるようなので弓では無理ですね」
 
 今日は茄子と梨を20個ずつと傷んだ茄子と桃、それからマジックアイテムはすべて持ち帰りすることを伝えて処理をしてもらった。

 約束通り買取り金額は全額僕のカードに入金して貰ったよ。武器の封印の処理をしてもらい着替えてセンターを後にした。

「お兄ちゃん、どうしよう。真琴にあったマジックアイテムが出なかったよ」
「他のメンバーなら申し分ないものが出たけどな。まあしょうがないんじゃないか。マジックアイテムは綾芽にあげるよ。自分で使ってもいいし、誰か他のメンバーの誕生日プレゼントとして取って置いてもいい、好きに使ってくれ」
 
 家に着くまで綾芽は落ち込んでいて、いつもの元気が何処かに行ってしまっていた。

 晩御飯でも元気がなく両親が心配していたよ。

「綾芽、今回だけだからな。綾芽になら僕の獲得したマジックアイテムを渡すことに何の躊躇もしないが、パーティメンバーでもない他の人は別だからな。本当に今回だけだよ、これを明日真琴に渡してやれ」

 僕が渡した物は以前岡山ダンジョンの宝箱から出た命中率アップの効果がある弓である。

「お兄ちゃん、良いの?未来のパーティメンバーの為に取っとくって言ってたよね」
「矢筒は流石にあげられないけど、弓なら大丈夫だよ。それに今日得たマジックアイテムはちゃんと保管しとけよ。誕生日の前日にマジックアイテムを探すのもういやだからな」
「お兄ちゃん、ありがとう。これお礼にあげるね」

 男の僕に渡されたのは、ほんの少し良い夢が見られるナイトキャップである。微妙に買取り価格が高くなったのは、ほんの少し運が良くなるミサンガのおかげだろうか?

 お風呂に入った後、ヘアバンドとアイマスク、そしてナイトキャップを着けて寝たよ。リラックスして、安眠出来て、良い夢が見られますように。
 
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