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第二十一話 ボア料理と母さんとのお買い物

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 スキルオーブを使い、新しく【罠探知】と【罠解除】のスキルを得た後、着替えてすぐにバスで帰って来たが、家に着いたのは五時半頃だった。

 スキルオーブに興奮していたので、十分に時間はあったのに、刀のメンテナンスをしてもらうのを忘れてしまった。僕は自分のことをもっと冷静だと思っていたがそうでもないようだ。今後注意しておこう。どこかで大きな失敗をしてしまうかもしれない。

 まだ父さんと綾芽は帰って来ていない。母さんに帰りの挨拶をして、先に風呂に入らせてもらう。いつも通りゆっくりとぬるめのお湯に使って疲れをとった。

 風呂から出てキッチンへ行くと綾芽が料理の手伝いをしていた。

「綾芽、お帰り。今日の学校はどうだった?」
「一般教養のテストがあったんだよ。赤点は取っていないと思うけどね」
「お前、ダンジョンに行ってる場合じゃないだろう。他の皆はテスト大丈夫だったのか?」
「大丈夫だよ。卒業したら本格的にプロとしてダンジョンに入る予定なんだから、一般教養のテストなんて赤点を取らなければ良いんだよ」

 肝が据わっているというか、バカというか微妙なところだが本人の責任なのでスルーしておこう。

「お兄ちゃんは今日ダンジョンに入らなかったんでしょ」
「予定ではそうだったんだが、気が変わって岡山ダンジョンに入ってきた。投擲の練習に途中で飽きちゃってね」
「お兄ちゃん、ダンジョン入りすぎ。帰ってきてから毎日でしょ」
「土日は普通は入らないんだよね。綾芽に頼まれたから入ったんだよ」
「どうも申し訳ありませんでした」

 父さんも帰ってきたので皆で晩御飯をいただく。今日のメニューはラッシュボアのステーキと猪鍋風に煮込んだ具だくさんスープとのこと。野菜がスープにたっぷり入っているのでサラダはない。ご飯はいつもの大盛りにしてもらう。

「このステーキ美味しい。味付け塩胡椒だけだよね」

 綾芽が絶賛している。僕はスープの方からいただいた。

「スープも肉から旨味が出ているんだろうな、滅茶苦茶美味いよ。なんか上手く表現できなくてゴメンね」
「美味しいって言ってもらえると嬉しいんだよ。変に食レポされると逆に疑うよ」

 父さんは相変わらずビールを飲みながらサイコロステーキを美味しそうに食べている。

「麟瞳は明日もダンジョンに行くのかい?」
「行っても行かなくてもどっちでも良いんだけどね。母さん何かあるの?」
「じゃあ悪いんだけど、母さんの買い物に付き合って欲しいんだ。たまにはお魚も食べたいしね。麟瞳がいれば腐るのとか考えなくて良いだろ。鮎とか季節ものじゃないか、でもこれからは冬でも脂の乗ったものが食べられると思うと嬉しいね。お刺身だってそうだ。いろいろ考えるとワクワクするよ」
 
 ということで、明日の予定が決まった。母親孝行をしっかりしましょう。

「お兄ちゃん、今日は何か良いものドロップしたの?」
 
 何気なく綾芽が聞いてくる。家族なので隠すこともない。

「今日は十階層のボス部屋の銀色の宝箱からスキルオーブが二個出て来たぞ」
「スキルオーブが出たなんて初めて聞いたよ。教科書に載っているものしか見たことないよ。何のスキルオーブだったの?」
「【罠探知】と【罠解除】だったよ。魔法のオーブじゃなくてちょっと残念だったけど、今後役に立つしな」
「スキルオーブって今持ってるの?」
「いや、もう使ってしまったよ。光って体の中に入ってきたぞ。不思議な感覚だったな」

 スキルオーブが見たかったのかガックリしている。次回があったら、是非見せてあげようと思う。僕は高校入学時から離れていたせいか、綾芽には甘いんだよね。

 会話をしながらも箸は進む。ステーキも綾芽が言っていた通り美味かった。ボアのストックも沢山あっても良いよな。

「お母さん、今度の土曜日のお昼に友達を呼んでこの前のウサギ料理を食べさせてあげたいんだけど良いかな?」
「何人来るんだい?」
「パーティメンバー全員呼ぶから四人だよ」
「肉を用意できれば大丈夫だ」
「お兄ちゃんが用意してくれるから大丈夫だよ!」

 僕ですか?まあ良いんだけどね。妹に甘いし。

「今度倉敷ダンジョンに行ってくるよ」
「お兄ちゃん、ありがとう。大好き!」

 大満足で食事も終わり、今日も楽しく過ごすことが出来た。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 次の日の朝はいつも通り綾芽と一緒に鍛練をした。その後はシャワーを浴びてゆっくりと朝御飯を食べた。そして、お出かけまで漫画を読んで過ごした。

 今日は母さんと買い物のお約束、九時になり母さんから出発の声がかかった。母さんが運転する車で倉敷市の児島まで行って水揚げされたばかりのお魚を買いに行くとのこと。

「母さんと二人だけでお出かけなんて初めてだよね」
「麟瞳が小さい頃は近所のスーパーによく行ってたけどね」
「遠出の事だよ」
「そうだね家族ではよく出かけてたけど、二人は初めてかもね」

 車で行くこと一時間で児島の直売センターに到着。発泡スチロールの箱の中の氷の上に魚が入れられいくつも並んでいる。空の箱も目立っている。八時にオープンして近所の方だけでなく遠方からも買いに来る人が多いらしい。

 母さんは魚を見て周り、マナガツオ、アナゴ、スズキ、キジハタ、メイタガレイ、サバ、アジ、イワシ、テナガダコ、マダコ、マイカなど沢山買いまくる。購入した魚は無料で捌いてくれるそうで、しばらく待ってから受け取った。

 嬉しそうにしている母さんと車の中に戻ってから腕輪に収納する。こうしておけば腐ることなく保存が出来る。これを狙ってのご指名である。任務を果たせて良かったよ。

 直売センターを出て、近くにあるスーパーのテナントを見て回る。八百屋で新鮮な野菜と果物を仕入れ、魚屋で母さん念願の鮎を大量に購入する。これも車の中で収納していく。

「昼御飯何食べたい?」

 唐突に母さんが聞いてくる。最近魔物肉ばかり料理してもらっていたのでお礼をしておこう。

「美味しいうなぎ屋って近くにあるの?うなぎ、母さん好きだったでしょ。一緒に食べようよ。僕が出すからさ」
「せっかくだから甘えようかね。ちょっとここからだと回り道して帰ることになるんだけど、有名なうなぎ屋が帰りの道沿いにあるんだよ。そこに行ってみようかね。でも、高いよ。大丈夫?」
「大丈夫だよ。本当に昔より稼ぎが良いんだよ。ビックリするぐらいね」

 四十分くらいかかっただろうか、目的のお店に到着。店の外まで行列が出来ている。

「どうする結構な行列だよ」
「それだけ美味しいんでしょ。並んで待とうよ」

 一時間近く待っただろうか、ようやく店の中に入れた。店に入る前から匂いが食欲をそそる。メニューを見てうなぎ定食(特上)を二つ注文した。しばらくしてご対面である。重箱にぎっしりとうなぎが並んで御飯が見えないぞ。うなぎの白焼きと漬け物が添えられ、肝吸いがついたセットである。

「久しぶりにうなぎ食べたけど美味いね。香ばしくて身に厚みがあって食べ応え十分だよ」
「これは家ではできないもんね。麟瞳、ありがとね」

 大満足でうなぎを食べた後は家に帰ってまったりと過ごす。何もすることが無いので岡山県にあるダンジョンの情報をスマホでチェックする。途中で母さんと一緒におやつとしてメロンにバニラアイスをトッピングして食べた。甘いは正義、文句なしに美味しかったよ。実家に帰ってから、毎日美味いばかり言っているように感じる。これが僕にとっての一番の変化かもしれないな。

 五時になり母さんより晩御飯の料理をするからマナガツオとテナガダコを出してと要請を受ける。手伝わなくて良いから、ゆっくりしておけとのこと。どう料理されるのか楽しみだ。

 更にスマホでダンジョン情報を見ていると、いつの間にか父さんと綾芽も帰って来ていた。晩御飯をいただきましょう。

 今日の献立は和食。タコ飯にタコの唐揚げ、マナガツオの煮付け、漬け物とお吸い物が付いている。いつも通りタコ飯は大盛りにしてもらう。

「タコ飯のタコが柔らかくて美味しいよ」
「タコの唐揚げはビールに合うな~、美味い!」

 僕を筆頭にうちの家族は表現力に欠けているようだ。まあ美味いものは美味いんだ。マナガツオも身離れが良く、甘辛く味付けされた白身が美味い。ビールにも合うだろうタコの唐揚げは弾力が楽しい。逆にタコ飯は綾芽がいうように柔らかく醤油出汁で炊かれた御飯と合っている。ごちそうさまでした。

 今日も晩飯をお弁当箱に入れてもらった。ダンジョンでの食事も充実してきている。

 御飯を食べた後は、いつも通りリビングで家族全員でおしゃべりをして、順番にお風呂に入っていった。では、おやすみなさい。

 
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