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第2章 仕事のない魔女

3話 驚きのアイディア!

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「うわー、これすごい! ほら、アッキ、すごくない?」
「うん……すごい、よな……」

 私がハイテンションになって、アッキが冷静に返事をする。少し前にも同じような光景を見たことある気がする……そっか、あれも箒に乗ってるときだ。

「チャンプス、これステキね!」
「だな! これは俺もテンション上がるわ!」

 リズルさんの家に向かうときはジュラーネさんの箒に乗ってた。あれもすっごく速くて面白かったけど、今はターブさんの魔法で、さっきまでカンテラの店で見ていたものよりずっと大きい竜巻に乗って、空を飛んでいる。

 竜巻といっても回転して目が回るようなことはなくて、箒も使わずにふわふわ浮いてる。体をひねれば回転できるし、体を丸めれば前転もできる。本当に「自由に空を飛んでる」って感じ!

 そして、アッキはまた下を見ちゃったみたいで、「もう二度と見るもんか」と言いながらまっすぐ前だけを見て空を飛んでいた。もっと体をブンブン動かした方が楽しいのに!

「ターブ、そろそろ着くのか?」
「ああ、あの村だよ。それじゃ、ここから一気に降りるよ」

 ターブさんがパチンと指を鳴らすと、竜巻がひゅっと小さくなり、一気に高度が下がっていく。私とチャンプスは「うわあああ!」と楽しく叫び、アッキは「ひええええ!」と泣きそうな叫びをあげながら、村の入り口に近づいていった。

「小さい村だろ?」

 案内してくれた村は本当に小さくて、この前行ったリズルさんの町とは全然違う。家はまばらで畑が多く、最近覚えた「集落」って単語が浮かんだ。

「ここがワタシの家だよ」

 案内された家はレンガ造りの二階建てで、青い色の屋根がかわいい。でも、木のドアを開けると……

「うわっ」

 声をガマンできなかった。玄関ですでに物がいっぱい溢れてたから。ホコリっぽいし、ちょっとカビ臭い。頑張って靴を脱いでリビングをのぞくと、床から生えてるみたいにあちこちに本が積まれ、うちのいとこだってもう少しまとめるぞってくらい紙のゴミが散乱してる。とても、掃除や片付けの魔法が得意な魔女とは思えなかった。

 アッキがすかさず耳打ちしてくる。

「おい、リンコ。これ、ジュラーネさんのところと同じくらいひどくないか?」
「ううん、それ以上だと思う……」

 でも本人に言ったら失礼かな、と思っていると、チャンプスが毛を逆立てながらシャアアと鳴いた。

「おい、なんだこれ! ターブ、どこが掃除や片付けの魔法が得意な魔女なんだよ!」

 言いたいことをしっかり言ってくれる、さすが口悪ネコ!

「はっはっは、驚いただろ」
「笑ってる場合じゃねーよ!」

 チャンプスがツッコミを入れたタイミングで、彼女は力ない笑顔に戻った。

「仕方ないのさ。なけなしの魔力は、昔からのお得意さんの家を掃除するときのために、ためておくからね。家で魔法を使ったら、それもできなくなっちまう。体は元気だけど、魔力が戻らないんじゃどうしようもないからね」
「まだ、仕事を依頼してくれる人はちゃんといるんですね」

 アッキが聞くと、ターブさんはゆっくりうなずく。

「いるけど、だんだん減ってきてるよ。それに、広い家だと、家中を掃除するだけの魔力はないからね。ワタシからやめさせてくれってお願いしたところもある。だからまあ、この家の中もこんな感じさ」

 なるほど、魔法が使えないんじゃ仕方な……あれ?

「ねえ、ターブさん、魔法使えなくても、自分でこの家を片付ければいいんじゃないですか?」
「自分で?」

 何を言ってるんだろうこの子は、と言いたげに、ターブさんは目を大きく見開く。

「いや、もう病気は治ってて、魔力はないけど体は元気なんですよね? じゃあ、自分で手を使ってゴミ捨てたり床拭いたりすればいいのにって」

 そう言うと、ターブさんは大きな声で叫ぶ。

「ええっ、ワタシがかい? そんなことしたことないよ!」
「えええええっ!」

 今度は私とアッキがびっくりする番。掃除も片付けもしたことないってどういうこと!

「小さい頃からこの魔法は得意だったからね。ずっと魔法でやってるのさ」
「じゃあ、ちょうど良い機会だから、俺たちと一緒にやってみましょうよ」

 アッキの言葉に、チャンプスは「掃除って面倒なんだよなあ」とため息をついた。でも、ここで覚えれば、また自分の家が汚れたときも……。

「あああっ!」

 その瞬間、アイディアが閃いて、思わず指をパチンと鳴らした。

「ターブさん、片付けとか掃除の魔法を使ってる間、体は自由に動かすことができるんですか? ずっと右手で同じポーズを取ってないといけないとかありますか?」
「いや、そういうことはないけどね……」

 何か怪しんでる顔のターブさん。きっと、私が自分のナイスアイディアにニマニマと笑っちゃってるからだろう。

「だったら簡単ですよ! 魔法で片付けをしてる間に、ターブさん自身も掃除とかすればいいんですよ! そしたらほら、今までと同じくらいの時間で終わるし、魔力が少なくても大丈夫!」
「確かに! リンコ、よく思い付いたな!」

 上機嫌の私たちとは反対に、ターブさんは明らかに嫌な顔をしてる。

「でも、自分で掃除や片付けするのって大変だろ? ワタシに仕事頼むくらいだし……やりたくないねえ」
「でもこれで仕事が元通りになれば魔導書を手放さずに済みますよ! さあ、早速やりましょう!」

 こうなったらターブさんのお尻を叩いて進めていくしかない! アッキと協力して両手をひっぱり、リビングの真ん中へ連れて行く。途中、ターブさんが助けを求めてチャンプスに視線を向けたけど、「ジュラーネも特に反対してないみたいだぜ」と笑ってみせた。


 ***


「じゃあまずは俺がゴミの捨て方を教えます! チャンプス、この世界ではゴミを分別してるの?」
「ああ、燃えるゴミと燃えないゴミの二種類だけどな」
「じゃあ簡単だな! ターブさん、ゴミ袋持ってください!」

 アッキにゴミ袋を持たされ、不満そうなターブさん。床に散乱したゴミをキョロキョロと見ている。

「こっちには、こういう紙のゴミを入れます。で、こっちにはそれ以外の燃えなそうなゴミを入れてください。こういう金属のヤツとか」
「アキラ、なんで分けるんだい?」
「分けた方が処理しやすかったり、再利用しやすかったりするんですよ」

 ほうほう、と感心したようにうなずく。どうやら、本当に掃除をしたことがないみたい。あらためてびっくりしちゃう。

「じゃあ紙のゴミをまとめて捨てていくかね。これとこれと、あとこれと……」
「ちょっと、ターブさん! 変な金属が混ざってる! これは燃えないゴミ!」
「そんなこと言っても、魔法なら燃やせるじゃないか……」
「はいはい、人間界に魔女の常識を持ち込まない!」

 ブツブツ文句を言いながら片づけを続けるターブさんがおかしくて、つい吹き出しちゃう。
 よし、この部屋が終わったら、次は私の番だ!


 三十分後、私たちはようやくリビングを離れて、キッチンに向かうことができた。

「ふう、ようやくリビングが終わったね」

 気が抜けたように口を開くターブさんの横で、アッキは「本の片付けは半分以上は俺がやったけどね……」とぜはーぜはー肩で息をしてた。あの本、どれも重そうだったもんな……。

「じゃあターブさん、次はキッチンです!」
「キッチンはちゃんとしてるじゃないか。ほら、食器は洗ってるだろ?」

 若干胸を張るような感じで自信満々に言うターブさんに、私はハリウッド映画のマネみたいに「チッチッチ」と指を振ってみせる。

「いいですか、食器を洗えば済むってわけじゃないんです! ほら、シンクも汚れてるし、かまどのところも油汚れがひどい。こういうのをちゃんと落としていかないと。まずはシンクの水汚れから始めますよ。さあ、スポンジを持ってください!」
「うう、魔法の便利さがよく分かるね……」

 ターブは「しぶしぶ」という言葉がピッタリの表情を見せながらスポンジを握る。元の世界とは使える洗剤とかも違うから全く一緒ってわけにはいかないけど、水アカを落として、食材の生ごみを集めて、水道の周りを磨いて……知ってる限りをことを教えていく。チャンプスもジュラーネさんの掃除を見ていたからか、たまに「これ使うと油汚れがよく落ちるぞ」なんて教えてくれた。


 キッチンが終わったら洗面所とお風呂、終わったら寝室……アッキと二人で分担して、掃除や片付けの仕方を教えていく。それはまるで、昨日ジュラーネさんの使っていない家をアッキと掃除したのと一緒。元の世界のお手伝いが、昨日の大変だった作業が、こんなところで役立つなんて、思ってもいなかった。
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