【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる

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第1章 魔女の世界へようこそ

1話 潰れた店から

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「食らえっ! 火の魔法、フレイムインパクト!」
「なんの! 反撃の水魔法、トルネードウェーブ!」

 同じクラスの下校グループで帰ってる途中、通りすがりの公園で、幼稚園の子たちが遊んでるのを見た。といっても、実際にその様子を見てたのは、私、大峰おおみね里琴りこと隣で歩いてる幼馴染の栗本くりもとあきらくらい。私たちももう五年生だし、他の友達は先週発売したゲームの話に夢中。

 魔法かあ。ううん、あんな風に大声で言えるの、少しだけ羨ましいなあ!

「暑い! 梅雨もイヤだけど、暑いのもヤダ! プールだけ楽しみだよ」
「えー、アッキは楽しみなんだ。女子は着替え面倒だよ。髪もちゃんと乾かせないし」

「リンコ、前はプールすっごいゃはしゃいでたのに」
「前って幼稚園の頃でしょ!」

 アッキとリンコ、お互い昔からのあだ名で呼んで騒ぎながら、海の話題に移る。

 一学期もいよいよ終わりが近づいて、「俺の出番だ!」とばかりに太陽がアスファルトを照らす。一日中使ってすっかりクシャクシャのハンカチで顔や腕を拭いてると、いつの間にかみんなの話は「夏休みにしたいこと」に変わってた。

「俺は川沿いでキャンプだな! 彰は? 何したい?」
「え、俺?」

 アッキは急に話を振られたことにややビックリしながら、しばらく考えてポツリと呟いた。

「なんか、ワクワクすることしたい」
「ぶはっ、何それ! めっちゃ面白いじゃん!」
「彰君、ワクワクって何なの!」

 ドッとみんなが笑う。でも幼稚園からの長い付き合いの私には分かる。彰の目は結構真剣で、それがウソのない本音だってこと。

「じゃあ、俺こっちだから、またな!」
「私も、また明日ね!」

 大きな交差点に差し掛かって、みんなバラバラな方向に帰っていく。真っ直ぐ進むのは、幼稚園のときからの私と彰だけだ。彰の短髪だいぶ伸びたなあ、と思っていると「こっちも結構伸びたよ!」と言いたげに、シュシュで束ねたポニーテールが揺れた。

 今日は特に話すこともなかったし、すごく暑かったから、二人とも黙って歩く。そんな私たちとすれ違ったのは、母校の幼稚園の夏服を着て、お母さんに手を引かれる女の子。

 それを見た私は、さっきの光景を思い出しながら、気が付くと口が勝手に動いていた。

「……魔法かあ」
「え、魔法? リンコ?」
「……ん? え、あ、いや! アッキ、何でもないの!」

 ヤバいヤバい、大げさに反応しちゃった。

 何とかごまかそうとして、ちょっと口をもごもごさせてみたけど、これ以上やっても余計変になりそうで、あきらめて苦笑いする。

「さっきの幼稚園の子が、魔法ごっこしてたの思い出してさ。その、魔法っていいなって」
 その言葉に、彰はプッと吹きだす。

「何、リンコ、魔法とか信じてるの?」
「ばっ、バカにしないで! 信じてるわけじゃない! あったらいいなって言っただけでしょ!」
「分かった分かった、そんなに怒るなって」

 ちょっとケンカっぽくなって、二人とも少しだけ黙る。こんな雰囲気で歩くの、イヤだな……。

 そう思っていると、彰は何かを決心したようにクッと口を結ぶと、私の方を向いて、一言「ごめんな」と謝ってくれた。

「ううん、私もムキになっちゃってごめんね。でもさ、昔は魔法があると思ってたし、今でも……うん、本当は今でも、魔法があったらいいなと思ってるよ。みんなには恥ずかしくて言えないけど……」

 最後は顔が熱くなった。この年で魔法があったらいいななんて、子どもっぽいってバカにされるかな。でも、彰はそんな風に思わないような、そんな気がした。

 やがて、彰は前髪を人差し指でカリカリとかく。

「そうだな、うん、俺も昔は好きだったから、分かるよ」
「知ってる、アッキはめっちゃ魔法使い好きだったよね! ゲームでも、職業いつも魔法系しか選ばないんだもん」

 一年生のときに、学校の近くの公園で遊んでたときも、彰は魔法使い役になってたなあ。

「だってカッコいいだろ。魔法って聞いただけでワクワクする。あ、思い出した! 俺、あの映画観たい! 『リップバーンの魔法樹』」
「あれ私も観たいって思ってた! シリーズ全部読んでる?」
「もちろん!」

 彰が歯を見せてニッと笑う。私たちが幼稚園のときに刊行が始まった海外小説の「魔法樹シリーズ」。全五巻で完結してるけど、今年から映画が始まるらしい。毎回買っては、ドキドキしながらページをめくってたことを思い出す。

「ワクワク、かあ……私もアッキも、そんな夏休みになるといいなあ」
「だよな、なってほしいよ」

 二人で向き合ってそう言い合ってた、その時だった。


 ピカッ ピカッ!


「えっ!」
 私は思わず叫び声をあげた。

 矢のような形の光が、輝きを放ちながら空を駆ける。

 まだ十五時、まだ夕方にもなってないのに、一目で分かるほど眩しかったその光は、私たちをアッと言う間に追い越し、やがて住宅街のどこかに落ちていった。

 あれは……何……?

「ねえ、アッキ! 今の見た?」
「ああ……UFOかな」

 彰が急に夢みたいなことを言ったけど、私は笑わなかった。他に説明できそうなアイディアが思いつかなかったから。

「リンコ、行ってみよう!」
「うん!」

 その会話を合図に、ほぼ同時に走り出す。ちょっと怖いけど、でも、気になる!

「アッキ、この辺りだよね?」
「ああ、この通りだと思うけど……あ、あれだ!」

 彰が指差したのは、看板も外れた、最近潰れたらしい小さなお店だった。ガラス張りじゃなくて茶色い壁に囲まれてるはずなのに、外から見ても、お店の中で何かが光ってるのが分かる。壁に幾つもの電球を埋め込んだかのように、ボウッボウッとついたり消えたりしていた。

「アッキ、あれ見て、ドア!」

 店の横に、入り口のドアがあった。何かが入ったかのように、そして誰かが入るのを待つかのように、少し開いてる。

「ねえアッキ、入る? 危ないかな?」
「いいや、入ってみようぜ! リンコはここで待っててもいいぞ」
「ううん、私も行く!」

 本当は怖くて、足が震えそう。でもそれ以上に、自分の日常が変わる予感がして、心が楽しそうに跳ねてる。

 彰は「行くぞ」と威勢よく叫んで、その潰れたお店に向かう。その表情は、私と同じように、ワクワクでいっぱいだった。

「すみませーん」
「お邪魔しまーす」

 ノブを回してドアを開けて、彰、私の順番でくぐる。

「うわっ!」
「きゃっ!」

 勢いよくバタンッと地面に転んだ。不思議なことに、お店の中に入ったはずなのに、外に出ちゃってる。

「いてて……アッキ、だいじょ——」
「ああ、俺は平気——」

 二人とも、最後まで話すことはできなかった。目の前の景色が、さっきまでと全然違ったから。

 道路はアスファルトじゃなくて、土と石でできたボコボコしたもの。歩いている人たちの髪の色は、黄・オレンジ・水色と、図工の時間の絵の具パレットみたいな色鮮やかさだ。遠くで電車っぽい音が聞こえるし、古めかしいデザインの街灯には電気の明かりが灯ってるけど、マンションもなければ車も走ってない。

 そして何より驚いたのは空だ。何か、ううん、誰かが飛んでる。

 ほうき、黒い服に、とんがり帽子。

 それは見間違いでもなんでもなくて、魔女だったの……!
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