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第7話 シオン
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第7章 シオン
幼い頃の椿
「お母さん!このサンドイッチおいしいね!」
椿の母
「そう、それは良かった。」
幼い頃の椿
「あとね、ここのお花畑も色んなお花が咲いてて綺麗!」
椿の母
「…このお花はね…喋るのよ…だって…」
ねぇお母さん……覚えてるかな?
昔、私が小さかった頃にお母さんの自慢の花畑に連れて行ってくれた事あったよね。あの時見た花畑もこんな風に何にもない場所に、色々な種類の花が沢山あったよね。
今思えば、その花は――人だったの?
美しいと思った風景や思い出には実は残酷な真実があって、それを知った途端に全て醜い記憶になって嫌いになってしまう。
もう、これ以上、世界を嫌いになりたくないの。
ずっと一緒にいてくれたカナリアだって、本当の私を知らない……。
✿
一体どこまで走ったんだろう。色んな花を踏みつけながら走っている。
もう陽花さんの姿も声も聞こえなくなった。
柚樹
「ハアハア…も、もうここ辺で一旦…休憩しませんか?」
カナリア
「そ…そうだね…このまま逃げているわけにもいかないし」
俺たちは足を止め、乱れた息を整える。
彼女――陽花さんについて聞くなら今だろう。
そう思って俺は意を決してカナリアさんに問うことにした。
柚樹
「陽花さんは……何者なんですか?花が教えてくれました。魔女だって……」
カナリア
「……そうだよ、あの子は魔女なの。人を呪い花に変えて、その花を主食にするんです。」
柚樹
「っ…やっぱり、この花畑に生えてる花は全部枝戸市の行方不明者の人なんですか?」
カナリア
「それもあるけど、他にも30年前に他の町で行方不明になった人や60年前に花にされた人もいるみたいですよ」
柚樹
「そんな……。でも30年前って、陽花さん生まれてないですよね?」
カナリア
「ええ、椿の先祖がこの空間を作ったと椿から聞いた。今の椿と同じ、人々を攫い花にして食べる特殊な体質……もはや呪いと言えるかもしれないですね。」
柚樹
「……なんで、俺は花にされなかったんでしょう」
カナリア
「あれ?気づいてなかった?椿は君に恋愛的な好意持ってるみたいですよ。だからあの子……きっと、躊躇ったんでしょうね」
柚樹
「……は?恋愛?」
カナリア
「だから恋ですよ!柚樹くんのこと、好きだってこと!……もしかして君ってあんまり恋したことない?あはは、可愛いいー!」
柚樹
「えっ……ええ…えええええ!!」
突然のカミングアウトに混乱しつつ顔が真っ赤になってしまう。
柚樹
「で、でも!なんで俺なんですか!?」
カナリア
「椿が言ってました。久しぶりにこんなに親切にしてもらった。ここまで自分を気にかけてくれたことがすごく嬉しいんですって。あなたの存在が、椿の心の支えになってたみたい」
――――
転校生?
「陽花 椿です…。よろしくお願いします」
椿
「あの…あの!…どうしよう…ちょっと!起きてよ!」
椿
「…いいな…私もパンとかお弁当とか、ちゃんとした食べ物食べたい…」
椿
「そう、木ノ瀬くんっていうのね。改めて、よろしくお願いします」
椿
「でもこのお弁当は野菜が多めで食べやすいわ。私の為に買ってきてくれてありがとう」
✿
柚樹
「陽花さん……」
最初は儚げで冷たそうな印象だったのに、関わっていくうちにいろんな表情を見せる陽花さん。そんな彼女に、俺は少しずつ恋心を無意識のうちに育てていたのかもしれない。
柚樹
「俺は……。
俺も……実はずっと椿さんの事好きでした…だから例え大怪我したとしても、彼女を助けたいと思ってるんです!」
カナリア
「うん。君たちお似合いだと思います。……ずっと逃げてたのは私の方かもしれない。少し歩こうか、この先に昔椿が両親と住んでいた家があるんですよ。」
そして、再び歩き出す。
カナリアさんの横顔は、穏やかだけどどこか悲しそうな顔をしていた。
✿
しばらく歩くと、ポツンと一軒の家が花畑に建っているのが見えてきた。
ヨーロッパによくある赤と茶色のレンガで作られたお洒落な家だった。
カナリア
「あれが、椿が両親と共に住んでいた家。元々は椿の母の実家なんですって。でも、椿の祖母や祖父は花を食べ過ぎて、暴走してしまった椿の母に花に変えられてしまったらしいんです。」
それって、陽花さんには両親以外身寄りが無く、いずれ椿さんも暴走してしまうということだろうか……。
柚樹
「あの、じゃあ椿さんとカナリアさんっていつ頃出会ったんですか?」
カナリア
「うーん。話すと長くなるんだけど……実は私は元々吸血鬼なんです。」
柚樹
「え?吸血鬼!?ええ?」
カナリア
「……私は120年前から生き続けている吸血鬼で、祖国の吸血鬼狩りから逃れる為に90年前に日本に来ました。
どうにか人々の生活に溶け込もうとしたけど、やっぱり吸血衝動が抑えられなくてね。
人を襲って、町から追放されて……山奥に長い間引きこもってたの。
そうしてからどのくらい経った頃だったかな……。ある日、近くの山奥から衝撃音が聞こえてきたから何事だろうと思ってその場所に向かった。
そうしたらそこに、崖からおちた衝撃で大破したらしい燃え盛る車と、傍で泣きじゃくる椿がいた……。その時はもうすでに両親は亡くなってて、椿の親戚を探そうにも中々見つからなくて…
このままでは孤児院に引き取られる――そのタイミングでまだ8歳だった椿が言ったの。」
椿
「貴女、吸血鬼でしょ?」
カナリア
「っ……だったら何?」
椿
「私、薬作れるの。吸血衝動を抑える薬」
カナリア
「……!!」
椿
「だから、私を引き取って。孤児院じゃ魔術が使えない。お願い……私には、どうしてもやらなくちゃいけない事があるの!」
カナリア
「雨の中、幼かった椿はそう言った。……その吸血衝動を抑制する薬に惹かれて、まだ経済力も無いのに椿を引き取った。それをきっかけに久々に山里を降りて町で暮らし始めたから、発達した技術や文化にびっくりしたなぁ。椿に色々教えて貰ってなんとか人並みに暮らすことができたけどね」
柚樹
「椿さんとカナリアさん、そんな出会いがあったんですね……」
カナリア
「うん。だから私もあの子には恩があるし、助けたいと思ってるそれに、私もこの事件の加害者だから…ずっと椿が人々を誘拐して花にしている事を、気が付かないふりをしていた。椿との関係が壊れるのが怖くて、また一人ぼっちになりたくなくて、現実から目を逸らしてた。」
カナリアは俯いて身体を震えながらずっと心に宿していた思いを言う。
柚樹
「でも、さっき俺の事助けてくれたじゃないですか。確かに事件の見て見ぬふりはダメですけど、きっと椿さんの事も助けられますよ。一緒に助けましょう!」
カナリア
「…柚樹くん…うん、私がしっかりしなくちゃ。私と柚樹くんしかあの子を救えない。…行こう!」
カナリアさんは強い意志を瞳に宿してそう言った。
気が付くとカナリアさんの言葉使いは敬語ではなく、彼女本来の喋り方になっていた。
やっとカナリアさんとも仲良くなれた気がして、少し嬉しく感じた。
しばらく家の近くを散策すると、視界の端で人影が揺らめいているのが目に入った。
柚樹
「……あ!?カナリアさん、あそこに陽花さんが!」
カナリア
「え?」
その一軒家の家に小さい頃の陽花さんが入っていくのを見かけた。
カナリア
「追いかけよう、柚樹くん!」
柚樹
「はいっ!」
✿
私が小さい頃、母は時々、魔術師たちが集まる集会に出席していた。私もその集会が気になってこっそり家の留守番を辞め母の後を追いかけた事がある。しかし、そこで見た物は…
魔術師A
「穢れた血の魔女が来たぞ…なんとおぞましい…」
魔女A
「嫌だわ…あんなのと一緒にしないで下さる?人間を花にして食おうなど、気持ち悪い」
魔女B
「なぜ、貴女がここにいるのですか?集会には呼んでいませんが?それに魔術界から追放されたはずでは?とりあえずお帰りになって」
母は魔術師の間で嫌われていた。優しくて大好きで自慢の母が皆から嫌われているのが許せなかった。
それは現実の人間の世界でも続いた。
祖母の膨大な借金でよく家にはそういう類の人がやって来て、母や父を脅迫していた。
そして、ついに過度のストレスで気が狂ってしまった母は、全ての原因であった寝たきりの祖母を呪いで花にして、食べてしまった。食べてしまえば、事件の証拠も残らない。それを知った母はかつて祖母がしたように、自分に危害をもたらす全ての人を美しい花に変え、あの異空間に閉じ込めた。それが増えていき、あの花畑が出来たという……
……人がいない世界を作る。
そういって最後は全部私に丸投げした母。
私は、本当は何がしたかったんだろう。
お母さんはもういないのに、いつまでこんな事してるんだろう。
私は、沢山の人を傷つけてしまった……。
――ああ、お腹空いた。
また、柚樹くんが買ってきてくれたお弁当、食べたいな――。
✿
柚樹
「お邪魔しまーす……。あれ?誰もいない」
カナリア
「ありゃ、またいなくなっちゃった?もう家の中探すしかないみたいだね」
柚樹
「そういえば話は変わるんですが……時々変なささやき声がしてから目眩が起こったあれのことなんですけど、あのささやき声って花畑に咲いていた花にされた人の声でしょうか?」
カナリア
「そうだよ。現実世界で呪いにかけられ花となって、一生その姿で過ごすの」
「あ、そういえば前に言った“リーシュ・リアはここにはいない”って言葉だけど、リーシュ・リアは椿の母の魔女における通り名だよ。だから椿の母の事を指してたの」
柚樹
「そうだったんですか…でもどうして花に?」
カナリア
「椿の母方の一族が代々魔術師だったんだって。特に花や植物を使った魔術や魔法が得意で研究していたの、でも椿の祖母に当たる人がとんでもない魔術を開発してしまったの…それが人間の肉体を花にして人も動物もいない、一年中安定した気候の特殊な空間で疑似的に永遠の命を成功させた。」
柚樹
「永遠の命!?」
カナリア
「うん、そう。元々お人好しで正義感がある椿の祖母は、事故で意識不明の人や難病で長く生きられない人の為に花にして、会話を出来る様にし永遠の命を与えようとした。でも、他の魔術師や世間の人達からは野蛮で危険な思想と技術を持っていると目をつけられ、魔術の世界から追放されてしまったの。
…そして正義感と同じぐらいプライドが高かったその人は、その永遠の命を呪いに使ってしまった。それが全ての始まりみたいなの」
なんだか、椿さんだけの問題じゃないみたいだ…。
柚樹
「…そんな事が…」
カナリア
「そんな母の元で育てられた椿の母、リーシュも同じく落ちぶれた魔女の子として、他の魔術師から酷い事をさせられていたらしい。そうして祖母と同じ自分を傷つけた人から花に変えていき、自分の魔力源として食べていた。そんなある日、リーシュにも運命の出会いが訪れてね、素敵な人と結婚し子供が出来た。」
柚樹
「その子供って、椿さんですか?」
カナリア
「うん、でも母の花食いの呪いが完全に遺伝して、椿は花しかまともに食べられない病気になってしまったの。」
花しか食べられない病気って事は…!もしかして!
柚樹
「その花食いは治る可能性があるって事ですか!?」
カナリア
「その通り!だから家でも、体調がいい時はおかゆとか食べてるよ。病気といえども神経の所だから、精神的な部分が影響してるかもね。」
柚樹
「そうか、だからあの時、俺が買ってきてくれたお弁当慎重に食べてんだ…普段から食べ慣れてないから」
カナリア
「それに、柚樹くんが一緒にいると精神が安定して安心するんだって!そういうとこも含めて君の事好きなんじゃない?」
柚樹
「そうなんですか!?うう…照れるというか恥ずかしいな」
だとしたら、椿さんの体質を治せるかもしれない、また一緒にケーキとか食べれるかもしれない。
自分にできる事は何だろう…
妙に長い家の廊下を考え事をしながら歩いていたら辺りが急に暗くなっていた。
さっきまでそばに居たはずのカナリアさんまでいなくなっていた。
柚樹
「あれ?カナリアさん、どこですかー?」
?
「ついて来て」
柚樹
「今の声……!?あ、ちょ、ちょっと待ってください!」
暗くてよく見えなかったが、突然目の前にオレンジがかった金髪の少女が部屋の奥へと消えていった。
自分も少女の後をついていった。
柚樹「…今のは、椿さんの幼い頃かな」
薄暗い中、壁に手を沿わせながら進むとどこかに繋がるのだろうドアの前に辿り着いた。
ドアの隙間からは微かな光が差し込んでいる。
柚樹
「入っても大丈夫、だよね」
ノックをしてドアを開けると、家具が散乱している真っ暗な部屋の中心で、小さな一輪の白い花が淡い光を帯びて発光しているのが見えた。
俺はゆっくりと近づき、その花に触ろうとした。
椿
「やめて。お母さんに触らないで……。これが最後に残ったお母さんとの思い出なの」
柚樹
「っ椿さん…ビックリした。勝手に家に入った事と、この大切な花に触ろうとしてごめんなさい」
椿
「いいのよ……。私こそ、さっきは酷い事してしまってごめんなさい。貴方だけじゃなく、カナリアや町の人々にも酷い事をしている。分かってるの。でも、こうしなければ私は生きていけない」
柚樹
「……ねえ、陽花さん。俺に何かできることはない?俺は、君の力になりたいんだ」
椿
「木ノ瀬くん……どうして、そこまで私に優しくしてくれるの?私は、化け物なのに…」
柚樹
「上手く言えないけど、助けたいって思うんだ。確かに今回君がやった事は許されない事だよ、でも椿さんにも理由があるんでしょ?なら、俺は軽蔑する前に理由を聞きたいな」
椿「……貴方は、本当に優しいのね。実は、母も祖母も同じ人間を誘拐して花に変えて食べていたの。陽花家は代々そういう呪いを持って生まれてくる。10歳になると呪いが本格的に体に染み込んでね、普通の食事が食べられなくなってしまう。私も例にもその呪いを持って生まれてきた」
柚樹
「で、でも、前に俺が買ってきたお弁当は食べてたよね?もしかして、無理して食べてた……?」
椿
「半分無理して食べてたけど、残り半分は美味しいと思って食べてた。久々に花以外の野菜や果物を食べたんだもの。すごく美味しかったし、嬉しかった。」
柚樹
「だったら、これからも普通に食事できるよ!だから、もうこんなことはやめよう!」
椿
「そう、よね。もうこんな事しなくていい、全部、終わりに……」
そう呟き、彼女は目の前に咲いていた白い花を摘んで食べ始めた。
柚樹
「陽花さん!今の花って、君のお母さんなんじゃ……!?」
椿
「…ゴホッ……そう、私は母を食べたの。早く…この家から出て。崩れるわよ……」
家中から大きな地響きと揺れを感じた。
苦し気に胸を押さえる陽花さんの後に続いて俺も急いで家から脱出する。
外に避難するとカナリアが心配そうに駆け寄ってきた。
カナリア
「椿!柚樹くん!良かった、無事だったんですね!」
椿
「…ゲホッゴホッ…カナリア……ごめんなさい、さっきは酷い事して……」
カナリア
「椿っ!どうしたんですか、魔力がこんなに減ってる…!」
柚樹
「陽花さん…お母さんを食べたんです……」
カナリア
「リーシュ・リアを!?椿…貴女は自害するつもりなの?」
柚樹
「……え…?どういう事ですか!?カナリアさん」
カナリア
「多分、この世界は椿の心情世界。そこで母親の呪いを全て受け止めることで、この世界を閉じようとしてる。でもそれじゃ精神が持たない…椿の花食いは精神から来てるってことは、椿もろともこの世界も崩れるわ!」
椿「…私が居なくなることで、代々受け継がれてきた呪いは消える。町の人も元に戻る……。強力な洗脳魔法が発動して、全部無かったことになるはず。」
柚樹
「椿さん……」
椿の言葉と共に、家は静かに崩れ果てた。
そして気が付いたら、彼女に対する呼び方が変わっていた。
それぐらい許してくれるだろうか。
柚樹「……死んじゃうの?椿さん?そんな…なんで!?やっと仲良くなれたと思ったのに!こんなの…こんなの……!!」
椿
「柚樹くん……自害って言っても、死ぬわけじゃないの。一旦一族との関係を切って、生まれ変わってくることなの、だから……」
柚樹
「それって、やっぱり死ぬってことじゃないか!!」
一面広がっていた花畑も、次第に少しずつ消滅し始めていく。
こんなの、あんまりだ。なんとか、なんとか彼女を助けなければ……。
そう思っても彼女の肌はどんどん青白くなり、身体も冷たくなる。
それがもうすぐ彼女の命が尽きてしまうことを示している。
自分はどうする事も出来ず、大粒の涙を流して椿さんを抱きかかえた。すると椿さんが、自分の顔に手を当てて呟く。
椿
「柚樹くん、少しだけお別れになっちゃうけど……すぐにまた会えるから、大丈夫よ。こんな私に優しくしてくれてありがとう。人間らしさを与えてくれて、ありがとう……」
柚樹
「そんな…俺は何も……!!」
カナリア
「…椿、ずっと私は待ってるから。……もうこの世界も崩れる。行こう、柚樹くん」
カナリアさんに強く手を引かれ、俺はずっと花畑で横たわる椿さんを見て、泣きじゃくった。
椿
「……そうだよね。これ以上、望んだらいけないよね…」
柚樹
「陽花さ……陽花さん……!!」
本当にこんな別れ方でいいんだろうか。また会える保障なんてどこにもない。
そう思うと、足を止め後ろを振り返り走った。
柚樹
「……っ!」
カナリア
「あっちょっと、柚樹くん!!…私だってこんな別れ方…」
俺はカナリアさんの手を振りほどいて横たわる陽花さんの元へ駆け出し、彼女の手を握った。
椿
「何、してるの、柚樹くん……早く、行かなくちゃ……」
柚樹
「陽花さん、俺、俺……!何もできないけど、ずっと待ってるから!」
椿
「……うん」
カナリア
「椿っ!…どうして、どうして勝手にいなくなってしまうの!?ずっと一緒だと約束したのに!」
自分が椿さんに駆け寄ったあと、カナリアさんも椿さんの元に戻ってきた。
さっき自分がしていた様にカナリアさんも、彼女を抱き寄せた。
ああそうだ、きっと自分なんかよりも何倍もそばに居たカナリアさんの方が辛いに決まっている。
それを思い出させるようにカナリアさんも、椿さんも泣いていた。
柚樹
「ずっと待ってるだから……絶対、また会おうね!約束だよ!」
椿
「…やく、そく…か……。うん、きっと。きっとよ」
陽花さんはふっと笑って目を閉じる。
――そして、色とりどりの花びらが舞って、視界が見えなくなった。
シオンの花言葉……追憶
幼い頃の椿
「お母さん!このサンドイッチおいしいね!」
椿の母
「そう、それは良かった。」
幼い頃の椿
「あとね、ここのお花畑も色んなお花が咲いてて綺麗!」
椿の母
「…このお花はね…喋るのよ…だって…」
ねぇお母さん……覚えてるかな?
昔、私が小さかった頃にお母さんの自慢の花畑に連れて行ってくれた事あったよね。あの時見た花畑もこんな風に何にもない場所に、色々な種類の花が沢山あったよね。
今思えば、その花は――人だったの?
美しいと思った風景や思い出には実は残酷な真実があって、それを知った途端に全て醜い記憶になって嫌いになってしまう。
もう、これ以上、世界を嫌いになりたくないの。
ずっと一緒にいてくれたカナリアだって、本当の私を知らない……。
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一体どこまで走ったんだろう。色んな花を踏みつけながら走っている。
もう陽花さんの姿も声も聞こえなくなった。
柚樹
「ハアハア…も、もうここ辺で一旦…休憩しませんか?」
カナリア
「そ…そうだね…このまま逃げているわけにもいかないし」
俺たちは足を止め、乱れた息を整える。
彼女――陽花さんについて聞くなら今だろう。
そう思って俺は意を決してカナリアさんに問うことにした。
柚樹
「陽花さんは……何者なんですか?花が教えてくれました。魔女だって……」
カナリア
「……そうだよ、あの子は魔女なの。人を呪い花に変えて、その花を主食にするんです。」
柚樹
「っ…やっぱり、この花畑に生えてる花は全部枝戸市の行方不明者の人なんですか?」
カナリア
「それもあるけど、他にも30年前に他の町で行方不明になった人や60年前に花にされた人もいるみたいですよ」
柚樹
「そんな……。でも30年前って、陽花さん生まれてないですよね?」
カナリア
「ええ、椿の先祖がこの空間を作ったと椿から聞いた。今の椿と同じ、人々を攫い花にして食べる特殊な体質……もはや呪いと言えるかもしれないですね。」
柚樹
「……なんで、俺は花にされなかったんでしょう」
カナリア
「あれ?気づいてなかった?椿は君に恋愛的な好意持ってるみたいですよ。だからあの子……きっと、躊躇ったんでしょうね」
柚樹
「……は?恋愛?」
カナリア
「だから恋ですよ!柚樹くんのこと、好きだってこと!……もしかして君ってあんまり恋したことない?あはは、可愛いいー!」
柚樹
「えっ……ええ…えええええ!!」
突然のカミングアウトに混乱しつつ顔が真っ赤になってしまう。
柚樹
「で、でも!なんで俺なんですか!?」
カナリア
「椿が言ってました。久しぶりにこんなに親切にしてもらった。ここまで自分を気にかけてくれたことがすごく嬉しいんですって。あなたの存在が、椿の心の支えになってたみたい」
――――
転校生?
「陽花 椿です…。よろしくお願いします」
椿
「あの…あの!…どうしよう…ちょっと!起きてよ!」
椿
「…いいな…私もパンとかお弁当とか、ちゃんとした食べ物食べたい…」
椿
「そう、木ノ瀬くんっていうのね。改めて、よろしくお願いします」
椿
「でもこのお弁当は野菜が多めで食べやすいわ。私の為に買ってきてくれてありがとう」
✿
柚樹
「陽花さん……」
最初は儚げで冷たそうな印象だったのに、関わっていくうちにいろんな表情を見せる陽花さん。そんな彼女に、俺は少しずつ恋心を無意識のうちに育てていたのかもしれない。
柚樹
「俺は……。
俺も……実はずっと椿さんの事好きでした…だから例え大怪我したとしても、彼女を助けたいと思ってるんです!」
カナリア
「うん。君たちお似合いだと思います。……ずっと逃げてたのは私の方かもしれない。少し歩こうか、この先に昔椿が両親と住んでいた家があるんですよ。」
そして、再び歩き出す。
カナリアさんの横顔は、穏やかだけどどこか悲しそうな顔をしていた。
✿
しばらく歩くと、ポツンと一軒の家が花畑に建っているのが見えてきた。
ヨーロッパによくある赤と茶色のレンガで作られたお洒落な家だった。
カナリア
「あれが、椿が両親と共に住んでいた家。元々は椿の母の実家なんですって。でも、椿の祖母や祖父は花を食べ過ぎて、暴走してしまった椿の母に花に変えられてしまったらしいんです。」
それって、陽花さんには両親以外身寄りが無く、いずれ椿さんも暴走してしまうということだろうか……。
柚樹
「あの、じゃあ椿さんとカナリアさんっていつ頃出会ったんですか?」
カナリア
「うーん。話すと長くなるんだけど……実は私は元々吸血鬼なんです。」
柚樹
「え?吸血鬼!?ええ?」
カナリア
「……私は120年前から生き続けている吸血鬼で、祖国の吸血鬼狩りから逃れる為に90年前に日本に来ました。
どうにか人々の生活に溶け込もうとしたけど、やっぱり吸血衝動が抑えられなくてね。
人を襲って、町から追放されて……山奥に長い間引きこもってたの。
そうしてからどのくらい経った頃だったかな……。ある日、近くの山奥から衝撃音が聞こえてきたから何事だろうと思ってその場所に向かった。
そうしたらそこに、崖からおちた衝撃で大破したらしい燃え盛る車と、傍で泣きじゃくる椿がいた……。その時はもうすでに両親は亡くなってて、椿の親戚を探そうにも中々見つからなくて…
このままでは孤児院に引き取られる――そのタイミングでまだ8歳だった椿が言ったの。」
椿
「貴女、吸血鬼でしょ?」
カナリア
「っ……だったら何?」
椿
「私、薬作れるの。吸血衝動を抑える薬」
カナリア
「……!!」
椿
「だから、私を引き取って。孤児院じゃ魔術が使えない。お願い……私には、どうしてもやらなくちゃいけない事があるの!」
カナリア
「雨の中、幼かった椿はそう言った。……その吸血衝動を抑制する薬に惹かれて、まだ経済力も無いのに椿を引き取った。それをきっかけに久々に山里を降りて町で暮らし始めたから、発達した技術や文化にびっくりしたなぁ。椿に色々教えて貰ってなんとか人並みに暮らすことができたけどね」
柚樹
「椿さんとカナリアさん、そんな出会いがあったんですね……」
カナリア
「うん。だから私もあの子には恩があるし、助けたいと思ってるそれに、私もこの事件の加害者だから…ずっと椿が人々を誘拐して花にしている事を、気が付かないふりをしていた。椿との関係が壊れるのが怖くて、また一人ぼっちになりたくなくて、現実から目を逸らしてた。」
カナリアは俯いて身体を震えながらずっと心に宿していた思いを言う。
柚樹
「でも、さっき俺の事助けてくれたじゃないですか。確かに事件の見て見ぬふりはダメですけど、きっと椿さんの事も助けられますよ。一緒に助けましょう!」
カナリア
「…柚樹くん…うん、私がしっかりしなくちゃ。私と柚樹くんしかあの子を救えない。…行こう!」
カナリアさんは強い意志を瞳に宿してそう言った。
気が付くとカナリアさんの言葉使いは敬語ではなく、彼女本来の喋り方になっていた。
やっとカナリアさんとも仲良くなれた気がして、少し嬉しく感じた。
しばらく家の近くを散策すると、視界の端で人影が揺らめいているのが目に入った。
柚樹
「……あ!?カナリアさん、あそこに陽花さんが!」
カナリア
「え?」
その一軒家の家に小さい頃の陽花さんが入っていくのを見かけた。
カナリア
「追いかけよう、柚樹くん!」
柚樹
「はいっ!」
✿
私が小さい頃、母は時々、魔術師たちが集まる集会に出席していた。私もその集会が気になってこっそり家の留守番を辞め母の後を追いかけた事がある。しかし、そこで見た物は…
魔術師A
「穢れた血の魔女が来たぞ…なんとおぞましい…」
魔女A
「嫌だわ…あんなのと一緒にしないで下さる?人間を花にして食おうなど、気持ち悪い」
魔女B
「なぜ、貴女がここにいるのですか?集会には呼んでいませんが?それに魔術界から追放されたはずでは?とりあえずお帰りになって」
母は魔術師の間で嫌われていた。優しくて大好きで自慢の母が皆から嫌われているのが許せなかった。
それは現実の人間の世界でも続いた。
祖母の膨大な借金でよく家にはそういう類の人がやって来て、母や父を脅迫していた。
そして、ついに過度のストレスで気が狂ってしまった母は、全ての原因であった寝たきりの祖母を呪いで花にして、食べてしまった。食べてしまえば、事件の証拠も残らない。それを知った母はかつて祖母がしたように、自分に危害をもたらす全ての人を美しい花に変え、あの異空間に閉じ込めた。それが増えていき、あの花畑が出来たという……
……人がいない世界を作る。
そういって最後は全部私に丸投げした母。
私は、本当は何がしたかったんだろう。
お母さんはもういないのに、いつまでこんな事してるんだろう。
私は、沢山の人を傷つけてしまった……。
――ああ、お腹空いた。
また、柚樹くんが買ってきてくれたお弁当、食べたいな――。
✿
柚樹
「お邪魔しまーす……。あれ?誰もいない」
カナリア
「ありゃ、またいなくなっちゃった?もう家の中探すしかないみたいだね」
柚樹
「そういえば話は変わるんですが……時々変なささやき声がしてから目眩が起こったあれのことなんですけど、あのささやき声って花畑に咲いていた花にされた人の声でしょうか?」
カナリア
「そうだよ。現実世界で呪いにかけられ花となって、一生その姿で過ごすの」
「あ、そういえば前に言った“リーシュ・リアはここにはいない”って言葉だけど、リーシュ・リアは椿の母の魔女における通り名だよ。だから椿の母の事を指してたの」
柚樹
「そうだったんですか…でもどうして花に?」
カナリア
「椿の母方の一族が代々魔術師だったんだって。特に花や植物を使った魔術や魔法が得意で研究していたの、でも椿の祖母に当たる人がとんでもない魔術を開発してしまったの…それが人間の肉体を花にして人も動物もいない、一年中安定した気候の特殊な空間で疑似的に永遠の命を成功させた。」
柚樹
「永遠の命!?」
カナリア
「うん、そう。元々お人好しで正義感がある椿の祖母は、事故で意識不明の人や難病で長く生きられない人の為に花にして、会話を出来る様にし永遠の命を与えようとした。でも、他の魔術師や世間の人達からは野蛮で危険な思想と技術を持っていると目をつけられ、魔術の世界から追放されてしまったの。
…そして正義感と同じぐらいプライドが高かったその人は、その永遠の命を呪いに使ってしまった。それが全ての始まりみたいなの」
なんだか、椿さんだけの問題じゃないみたいだ…。
柚樹
「…そんな事が…」
カナリア
「そんな母の元で育てられた椿の母、リーシュも同じく落ちぶれた魔女の子として、他の魔術師から酷い事をさせられていたらしい。そうして祖母と同じ自分を傷つけた人から花に変えていき、自分の魔力源として食べていた。そんなある日、リーシュにも運命の出会いが訪れてね、素敵な人と結婚し子供が出来た。」
柚樹
「その子供って、椿さんですか?」
カナリア
「うん、でも母の花食いの呪いが完全に遺伝して、椿は花しかまともに食べられない病気になってしまったの。」
花しか食べられない病気って事は…!もしかして!
柚樹
「その花食いは治る可能性があるって事ですか!?」
カナリア
「その通り!だから家でも、体調がいい時はおかゆとか食べてるよ。病気といえども神経の所だから、精神的な部分が影響してるかもね。」
柚樹
「そうか、だからあの時、俺が買ってきてくれたお弁当慎重に食べてんだ…普段から食べ慣れてないから」
カナリア
「それに、柚樹くんが一緒にいると精神が安定して安心するんだって!そういうとこも含めて君の事好きなんじゃない?」
柚樹
「そうなんですか!?うう…照れるというか恥ずかしいな」
だとしたら、椿さんの体質を治せるかもしれない、また一緒にケーキとか食べれるかもしれない。
自分にできる事は何だろう…
妙に長い家の廊下を考え事をしながら歩いていたら辺りが急に暗くなっていた。
さっきまでそばに居たはずのカナリアさんまでいなくなっていた。
柚樹
「あれ?カナリアさん、どこですかー?」
?
「ついて来て」
柚樹
「今の声……!?あ、ちょ、ちょっと待ってください!」
暗くてよく見えなかったが、突然目の前にオレンジがかった金髪の少女が部屋の奥へと消えていった。
自分も少女の後をついていった。
柚樹「…今のは、椿さんの幼い頃かな」
薄暗い中、壁に手を沿わせながら進むとどこかに繋がるのだろうドアの前に辿り着いた。
ドアの隙間からは微かな光が差し込んでいる。
柚樹
「入っても大丈夫、だよね」
ノックをしてドアを開けると、家具が散乱している真っ暗な部屋の中心で、小さな一輪の白い花が淡い光を帯びて発光しているのが見えた。
俺はゆっくりと近づき、その花に触ろうとした。
椿
「やめて。お母さんに触らないで……。これが最後に残ったお母さんとの思い出なの」
柚樹
「っ椿さん…ビックリした。勝手に家に入った事と、この大切な花に触ろうとしてごめんなさい」
椿
「いいのよ……。私こそ、さっきは酷い事してしまってごめんなさい。貴方だけじゃなく、カナリアや町の人々にも酷い事をしている。分かってるの。でも、こうしなければ私は生きていけない」
柚樹
「……ねえ、陽花さん。俺に何かできることはない?俺は、君の力になりたいんだ」
椿
「木ノ瀬くん……どうして、そこまで私に優しくしてくれるの?私は、化け物なのに…」
柚樹
「上手く言えないけど、助けたいって思うんだ。確かに今回君がやった事は許されない事だよ、でも椿さんにも理由があるんでしょ?なら、俺は軽蔑する前に理由を聞きたいな」
椿「……貴方は、本当に優しいのね。実は、母も祖母も同じ人間を誘拐して花に変えて食べていたの。陽花家は代々そういう呪いを持って生まれてくる。10歳になると呪いが本格的に体に染み込んでね、普通の食事が食べられなくなってしまう。私も例にもその呪いを持って生まれてきた」
柚樹
「で、でも、前に俺が買ってきたお弁当は食べてたよね?もしかして、無理して食べてた……?」
椿
「半分無理して食べてたけど、残り半分は美味しいと思って食べてた。久々に花以外の野菜や果物を食べたんだもの。すごく美味しかったし、嬉しかった。」
柚樹
「だったら、これからも普通に食事できるよ!だから、もうこんなことはやめよう!」
椿
「そう、よね。もうこんな事しなくていい、全部、終わりに……」
そう呟き、彼女は目の前に咲いていた白い花を摘んで食べ始めた。
柚樹
「陽花さん!今の花って、君のお母さんなんじゃ……!?」
椿
「…ゴホッ……そう、私は母を食べたの。早く…この家から出て。崩れるわよ……」
家中から大きな地響きと揺れを感じた。
苦し気に胸を押さえる陽花さんの後に続いて俺も急いで家から脱出する。
外に避難するとカナリアが心配そうに駆け寄ってきた。
カナリア
「椿!柚樹くん!良かった、無事だったんですね!」
椿
「…ゲホッゴホッ…カナリア……ごめんなさい、さっきは酷い事して……」
カナリア
「椿っ!どうしたんですか、魔力がこんなに減ってる…!」
柚樹
「陽花さん…お母さんを食べたんです……」
カナリア
「リーシュ・リアを!?椿…貴女は自害するつもりなの?」
柚樹
「……え…?どういう事ですか!?カナリアさん」
カナリア
「多分、この世界は椿の心情世界。そこで母親の呪いを全て受け止めることで、この世界を閉じようとしてる。でもそれじゃ精神が持たない…椿の花食いは精神から来てるってことは、椿もろともこの世界も崩れるわ!」
椿「…私が居なくなることで、代々受け継がれてきた呪いは消える。町の人も元に戻る……。強力な洗脳魔法が発動して、全部無かったことになるはず。」
柚樹
「椿さん……」
椿の言葉と共に、家は静かに崩れ果てた。
そして気が付いたら、彼女に対する呼び方が変わっていた。
それぐらい許してくれるだろうか。
柚樹「……死んじゃうの?椿さん?そんな…なんで!?やっと仲良くなれたと思ったのに!こんなの…こんなの……!!」
椿
「柚樹くん……自害って言っても、死ぬわけじゃないの。一旦一族との関係を切って、生まれ変わってくることなの、だから……」
柚樹
「それって、やっぱり死ぬってことじゃないか!!」
一面広がっていた花畑も、次第に少しずつ消滅し始めていく。
こんなの、あんまりだ。なんとか、なんとか彼女を助けなければ……。
そう思っても彼女の肌はどんどん青白くなり、身体も冷たくなる。
それがもうすぐ彼女の命が尽きてしまうことを示している。
自分はどうする事も出来ず、大粒の涙を流して椿さんを抱きかかえた。すると椿さんが、自分の顔に手を当てて呟く。
椿
「柚樹くん、少しだけお別れになっちゃうけど……すぐにまた会えるから、大丈夫よ。こんな私に優しくしてくれてありがとう。人間らしさを与えてくれて、ありがとう……」
柚樹
「そんな…俺は何も……!!」
カナリア
「…椿、ずっと私は待ってるから。……もうこの世界も崩れる。行こう、柚樹くん」
カナリアさんに強く手を引かれ、俺はずっと花畑で横たわる椿さんを見て、泣きじゃくった。
椿
「……そうだよね。これ以上、望んだらいけないよね…」
柚樹
「陽花さ……陽花さん……!!」
本当にこんな別れ方でいいんだろうか。また会える保障なんてどこにもない。
そう思うと、足を止め後ろを振り返り走った。
柚樹
「……っ!」
カナリア
「あっちょっと、柚樹くん!!…私だってこんな別れ方…」
俺はカナリアさんの手を振りほどいて横たわる陽花さんの元へ駆け出し、彼女の手を握った。
椿
「何、してるの、柚樹くん……早く、行かなくちゃ……」
柚樹
「陽花さん、俺、俺……!何もできないけど、ずっと待ってるから!」
椿
「……うん」
カナリア
「椿っ!…どうして、どうして勝手にいなくなってしまうの!?ずっと一緒だと約束したのに!」
自分が椿さんに駆け寄ったあと、カナリアさんも椿さんの元に戻ってきた。
さっき自分がしていた様にカナリアさんも、彼女を抱き寄せた。
ああそうだ、きっと自分なんかよりも何倍もそばに居たカナリアさんの方が辛いに決まっている。
それを思い出させるようにカナリアさんも、椿さんも泣いていた。
柚樹
「ずっと待ってるだから……絶対、また会おうね!約束だよ!」
椿
「…やく、そく…か……。うん、きっと。きっとよ」
陽花さんはふっと笑って目を閉じる。
――そして、色とりどりの花びらが舞って、視界が見えなくなった。
シオンの花言葉……追憶
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