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第3話 スイートピー
しおりを挟む翌日の朝、近所の近くのお弁当屋で昼食を買う事にした。
柚樹
「…そういえば、どんなお弁当がいいか陽花さんに聞き忘れた!
テキトーに選んで嫌いな物だったりアレルギーだったりしたら大変だし、うーんどうしよう…」
俺は、陽花さんに昨日、お弁当を買ってきてあげると半ば押し付けるように言ってしまった。
お節介になってないだろうか。でも、ちゃんとお昼は食べた方がいいと思うし。
店員のおばちゃん
「あら、おはよう柚樹くん。今日はどの弁当にする?」
そうだ、いつまでも悩んでられない、早く学校に行かないと!……よし、決めた!
柚樹
「じゃあコレとコレ下さい」
店員のおばちゃん
「はーい、合計720円ね。片方はお友達用?」
柚樹
「えっああ、はい…まあそうですね(まだ、顔見知りって程度だけど)」
俺は弁当屋を後にして、急いで学校に向かった。
陽花さん喜んでくれるといいな。
退屈な授業も半分終わり、待ちに待った昼休みが来た。
竹川
「なあ、一緒に昼飯食べようぜ」
友達の竹川に誘われるが、今日は既に先約が居るのだ。
柚樹
「ごめん、今から委員会の集まりあるんだ。先に食べてて」
竹川
「おっそうか、じゃあ先に食べてるからな」
柚樹
「うん」
委員会には入っていないのに嘘をついてしまった。少し残念そうな竹川の様子を見ると、心が痛んだ。俺は竹川に心の中で謝り、弁当をもって学校の中庭に移動する。
柚樹
「……いた!」
昨日、食堂の窓から陽花さんがここにいるのを見かけたので、今日も中庭に行ってみると木製のベンチに座っていた。ベンチに座り木漏れ日を浴びながら読書をしている陽花さんは、なんだか絵になる雰囲気をしていた。
柚樹
「陽花さん、やっぱりここにいたんだね。お弁当買ってきたんだけど、食べる?」
椿
「…本当に買ってきたの?」
柚樹
「うん…やっぱり余計なお世話だった?」
椿
「……」
気まずい、やはり余計な事をしてしまったんだろうか。不安がこみ上げてくる。
椿
「そうね、せっかく買ってきてくれたんだもの、食べないと勿体無いわよね。
頂くわ。買ってきてくれてありがとう。気を使わせちゃったのね」
柚樹
「いや、こんぐらい大丈夫だよ。このお弁当美味しいから!」
まさかの反応に内心とても驚くと同時に嬉しさが込み上げてくる。
そう嬉しさを噛みしめ、買ってきた弁当を陽花さんに見せる。
柚樹
「2つ買ってきたんだけど、ヘルシーな野菜たっぷり弁当と女性に人気の小さめサイズの弁当…どっちがいいかな?」
1つはサラダやきんぴらごぼう野菜炒めが入った野菜多めのお弁当。もう一つはポテトサラダや卵焼き、ミニハンバーグなど両手サイズの小さなお弁当。
椿
「わぁ…美味しそう…じゃあ、野菜たっぷり弁当にしようかしら?」
椿は弁当を見た瞬間、驚いた様な顔をしたが、その後すぐに嬉しそうに微笑んだ。
柚樹
「はい、どうぞ」
椿
「頂きます…うん美味しい!」
良かった!食べてくれた。
椿
「私、実はベジタリアンなの、だから食べられる料理はサラダとか野菜ものしかなくて、でもこのお弁当は野菜が多めで食べやすいわ。私の為に買ってきてくれてありがとう」
そう陽花さんは喋ると、此方を向いてにこりと優しく笑った。
(――また笑ってくれた。本当可愛いなあ……)
柚樹
「よ、良かった!じゃあ、明日もそのお弁当買ってくるね!」
椿
「いいの?…ありがとう。頼んでもいいかしら。これ、今日と明日のお弁当のお金」
柚樹
「お金なんていいよ!俺が言い出して勝手に買ったんだし」
椿
「駄目よ、こういうのはちゃんとしないと」
気が付けば、時間なんて忘れて陽花さんと長時間話している。
前までは憧れのような存在で、遠くから見ているしか出来なかったのに、こんなちょっとしたきっかけで仲良くなれるなんて、夢みたいだ。
木漏れ日が気持ちよく、小鳥のさえずりも聞こえてとても穏やかな雰囲気が流れた。
柚樹
「…そうなんだ陽花さんはガーデニングが趣味なんだね、いいね!」
椿
「有難う。じゃあ、今度は私から質問。そうね…柚樹くんはいつ誕生日なの?」
柚樹
「7月18日だけど」
椿
「あら、明後日じゃない?夏生まれなのね」
柚樹
「そういえばそうだね、忘れてたよ。」
椿
「…もし、良かったら…今日のお弁当のお礼に花束プレゼントするわ」
柚樹
「っえ!?いや、いいよ!そんな大したことないし!」
椿
「そう…もしかして花嫌いだったりする?」
椿が不安そうに俯く
柚樹
「そ、そんなことないよ!花好きだよ!ガーベラとか好きだし」
椿
「ガーベラ…そうね、あの花も可愛らしいわよね」
柚樹
「うん。そうだね。(良かった、機嫌直してくれたみたいだ)」
会話がはずんていると昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
もう終わりかと少し落ち込んだ。
椿
「あら、昼休みもう終わりね。教室に戻りましょう」
柚樹
「うん!」
椿
「とりあえず、お弁当のお礼もしたいし、明後日うちの喫茶店に来て。いいわね?」
柚樹
「わ、分かった!行かせてもらいます…!」
椿
「ふふっ貴方って可愛らしいわね」
50分もある昼休みがあっという間に感じた。
今、自分がどういう顔してるか分からないけど、また陽花さんと話せた嬉しさで浮き立っているのは確かだった。
✿
約束の日の当日になった。また初めて行った時みたいに途中で迷ってしまったけど、何とか喫茶店に辿り着けて良かった。さて、店に入ろう
カランカラン
店のドアを開けると、以前にも聞いたドアベル音が鳴る。
椿
「いらっしゃいませ、あら柚樹くん!」
柚樹
「こんにちは。ご招待有難うございます。」
椿
「そんなに畏まらないで。今日は、貴方の誕生日でしょ。これ!」
テーブルに美味しそうなホール型のショートケーキと花の形を模ったクッキーがあった。
柚樹
「凄い…!これもしかして椿さんの手作り…?」
椿
「うーん…ケーキはカナリアが作ったの。でもこのクッキーは私が作ったのよ!」
柚樹
「あっそうなの!?ご、ごめんなさい、間違えちゃって」
椿
「いいわよ、さっそく食べましょ」
椿さんは学校の時よりも明るく振る舞っていた。これが本来の彼女なのかも。
柚樹
「美味しい!このクッキー可愛くて美味しいです。ラベンダーの香りがしますけど?」
椿
「そのクッキーは生地にラベンダーを少し入れたの」
柚樹
「ラベンダークッキー!なんだかおしゃれだね」
そういえば、自分たち以外に客や店員もいない様だった。
柚樹
「そういえば、店内に誰もいないね?」
椿
「今日は貸し切りにしたから客はいないわよ。カナリア…店員も今日は出かけている」
柚樹
「へえ…(って事はここに陽花さんと2人きり!?)」
そう考えると一気に恥ずかしくなってきてしまう。
椿
「どうしたの?急に黙り込んで?」
柚樹
「ううん、何でもないよ。このクッキー美味しいね!」
椿
「そう?口に合って良かったわ。…それにこうして人と長時間会話するのも初めてだから、何だか不思議と穏やかな気持ちだわ」
柚樹
「え?そうなの?」
椿
「不思議ね、貴方いると退屈しないわ。」
陽花さんと友達になれた様で自分もとても嬉しかった。
それからいつもの昼休みの様に、互いの趣味や学校での事で会話が盛り上がった。
椿
「…さて、そろそろ外が暗くなってきたし、お開きにしましょう」
時計を見たら18時30分を過ぎていた。話に夢中で気が付かなかった。
柚樹
「そうだね、今日は誕生日パーティーしてくれて有難う。椿さんとこんなに長く話せたの嬉しかったよ!」
椿
「私もよ、とても…とても楽しかったわ!植物の事とかカフェ巡りとか、同じ趣味の話出来て良かった!」
陽花さんがにこりと笑った。ひまわりの花の様に明るい笑顔を見せてくれた。
カランカランとドアベルの音が鳴る。
入ってきた時の緊張と嬉しさの気持ちとは逆に、帰る時は祭りの後の様な心残りと寂しさを感じていた。
柚樹
「では、俺はこれで。また学校でね!」
椿
「ええ、またね」
まだ少し明るい夜空に一番星が見える。とぼとぼと今日一日の事を振り返りながら歩いた。ふと後ろを振り向く、まだ陽花さんが見送ってくれていた。
律儀な人なんだなと思って彼女をまた見る――――
夕日の逆光に照らされて彼女の眼は赤く光っていた様に一瞬見えた。
柚樹
「え?」
再び陽花さんを見るとさっきまでそこにいたはずの彼女は居なくなっていた。
柚樹
「……気のせい?」
そう不思議に思いながらも夜道の中を進んだ。
スイートピーの花言葉……優しい思い出
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