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第39話【アラン目線】

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【アラン目線】

「フィンセント、居たか!?」

「いや、化粧室にも、バルコニーにも、中庭にも居なかった。アラン、そっちはどうだった!?」

「教室にも、医務室にも・・・それに寮にもまだ帰ってきてないそうだ。リリアーナの執事とメイドも一緒に探してくれている。」

「くそっ!なんでこんなことに・・・。」

「まだ探してない場所はないのか?あ、生徒会室は見たか!?」

「・・・最初に見に行った。居なかった。・・・リリアーナ、いったいどこに行ったんだ・・・。」

リリアーナを探しだして早数十分。

俺もフィンセントも手あたり次第思いつく場所を探したが一向に見つからない。
なんでこんなことに・・・。

お願いだから、無事でいてくれ・・・・!

裕美・・・!





数時間前

会場入りして最初にリリアーナを探すために辺りを見渡すと、他の男どもの視線の先でリリアーナが立っていた。
この後夜祭は、仮装パーティが伝統で、女はほとんど真っ黒な魔女か黒猫だ。
その中で、一人だけ白くて長い耳のカチューシャを付けて、綺麗な鎖骨を惜しげもなく出して触ったら柔らかそうな二の腕と太ももを少しだけ見せるそのドレスに身を包んだリリアーナはとてもじゃないが周りの奴らとは空気から違う。他の男も女も関係なくリリアーナに目が行ってしまうのは必然だと思う。

(やべぇ、なんでそんなエロい・・・いや、可愛い恰好してんだよ。)

俺が近づいても、リリアーナは気づかない。近付くと、どっかの男がリリアーナに話しかけてはあしらわれているのが聞こえてきた。

「では、アーノルド様がいらっしゃるまででも・・・」

(こいつも大概しつけぇな。)

「リリアーナ、待ったか?」

俺が話しかけると、リリアーナは助かったと言うように安堵した笑みを見せた。

「アラン。ううん、暇はしてなかったわ。」

チラリと男を見ると、悔しそうに歯噛みしながらそそくさと俺らから離れて行った。

(さっき急に帰った時はやっぱり元気なかったが・・・。一度帰って気持ち切り替えてきたか?というか、このリリアーナをフィンセントはなんで一人に・・・トイレか?)

俺が周りを見渡していると、リリアーナはクピクピと一口は小さいがテンポよくワインを飲んでいる。

赤のリップが妙に色っぽく見えてしまう。

「・・・で、リリアーナ、その格好は?」

俺の問いに、リリアーナが機嫌よく頬が緩んだ。

「ん?バニーちゃん!可愛いでしょ?尻尾もあるんだよ。ふふ。」

そう言って、クルッと回ってお尻を突き出して尻尾を見せてくる。

(えぇぇぇぇぇなにこの可愛いやつ!!!!なんでそんなに無防備なんだよ!俺は昨日、お前に無理やりキスしたようなやつなんだぞ!?なんでもっと、警戒してくんねぇかなぁ・・・。あーーーーーーーーーーかわ。)

思春期男子には刺激的すぎるポーズに、熱がたまるのを抑える。絶対赤くなってる自信はあるものの、バレるのが嫌で口元を押さえてあまり顔が見えないようにした。

「・・・・可愛い。」

何か言わないとと、必死で絞り出した言葉がそっけなくなりすぎた。
いや、それ以上言うと、止まらなくなりそうだし・・・むしろ、ここで押し倒してしまってもおかしくない。我慢した俺、偉い。

「アランは?狼男?耳可愛い~!アランは?尻尾は着いてる?」

リリアーナは、背伸びしながら俺の頭の耳を触ったかと思ったら後ろに回って尻尾をもふもふしだした。
俺がもしも、本物の尻尾が付いていたとしたら・・・リリアーナが触れないくらい早くぶんぶん降ってしまってるんだろうな。

というか・・・・リリアーナ、いつも以上にテンション高くねぇか?

その時、視界の端っこで人だかりがあるのが見えた。その中心には・・・・

「アラン?」

だから、リリアーナは放ってかれて飲みまくってたのか。

「リリアーナ、どれだけ飲んだ?」

攻めてるように聞こえない様に自分を落ち着けて聞く。

「・・・・シャンパン、2杯。」

いや、今持ってるのシャンパンじゃねぇし。嘘へたかよ。可愛いな。おい。

「と?」

うっと、気まずそうに口をへの字にして、しぶしぶリリアーナが答える。

「・・・・・・・・・ワイン3杯。」

「おまっ!自分が酒弱いのわかってるだろ?なんでそんなに飲んだ?」

何かあってからじゃ遅いんだぞ?
そんな可愛い格好して、もし躓いてみろ?そこら辺の男どもが我先にと手を差し出して、それを掴んだらが最後、どっかに連れ込まれるぞ?
そう、説教してやりたかったが、ぶぅっと頬を膨らませて子供みたいに拗ねてるリリアーナには言えなかった。
まぁ、飲みたくなる気持ちもわかるしな。

「・・・・別に。」

珍しく、子供の頃のリリアーナのように立ち入らせてくれない。

(やっぱり、俺がキスなんかしたから・・・頼ったらダメだって思ってるのか?)

「・・・・アランには関係ない。放っておいて。」

あの話が本当なら、初めてあった時から裕美は俺の事をある程度受け入れてくれてたし、友達として、何でも・・・全部は無理でも、ほとんどの事は話してくれていたようにも思ってたのに・・・。

リリアーナからの拒絶は何度かあった。いや、むしろ毎回だった。

でも、裕美からの拒絶は初めてだ。

思っていたよりもズキン・・っと胸が痛く、苦しくなった。こんなに悲しそうな顔を見たのも、初めてだ。

さっさと歩き出した裕美が、ツンっと躓いた。
とっさに受け止めると、みるみる裕美の耳が赤くなっていった。

「ちょっと酔ってるだけだもん。」

結構、舌足らずになってるけどな。

「ハイハイ。わかったよ、リリアーナ。今日くらいは何も言わない。だからついて行ってもいいか?」

こんな状態の裕美を一人になんかできるわけない。だから、エスコートする奴がいないんだから俺がしたっていいだろう。そう思って手を差し出すと、少しだけ戸惑いながら今度は拒絶せずに俺の手を取ってくれた。

「うん。・・・・ごめん。大人げなかった。」

心なしか、ウサギの耳も垂れてるようにさえ見えてしまうほどシュン…としている。

その原因があいつらなのが気に入らない。こんな悲しい顔させるなんて。

俺、忠告したよな?なのにこんな・・・。最近のフィンセントはちゃんとしてきたと思ったのに。リリアーナが幸せなら、このまま見守ろうって思っていたのに。

俺は、無意識にフィンセントを睨みつける。
なにが幼馴染だ?なにが妹だ?明らかにそう思ってるのはお前だけだろうが。
言葉の端々にリリアーナを良く思ってないって言うのがよくわかるじゃねぇか。あいつ、耳ついてんのか?つーか、あんなにバカな奴だったか?

「いいんだよ。あんなの見せられたら飲みたくなる気持ちもわかるからな。」

「え?」

「・・・リリアーナ?大丈夫か?」

リリアーナはフィンセントの事が大好きだった。だけど、裕美は?
初めてあった時は、婚約破棄すると言った。でも、最近はとても仲良くて、最初の頃よりも離れ難いという様に思えているように見えた。だから、気持ちも戻ったんだろうと思っていたが、違った。リリアーナはいなくなってしまったから。だから、裕美として改めてフィンセントの事を好きになったのだと思っていたけど・・・。

「え?・・・あぁ~うん、大丈夫。だって、隣国のお姫様だよ?蔑ろにはできないでしょ。っていうかさ~エスコート来れないならこれないで言っとけって話じゃない?玄関行ったらお兄様が居てビックリしたよ。それにさ・・・・こっち、見もしないでやんの。」

寂しそうに、悲しそうに言葉が切れる。
愛されないと死んでしまうウサギと同じように、震えている。
そんな裕美を見て、抱きしめたくなる手を理性で止めた。その代わり、エスコートしている手に少しだけ力を込める。

「アラン、リリアーナ。ここにいたのか。」

どの面下げて・・・と言いたいところだが、今はこの国の王太子としての職務をしていると思えば仕方がない。
まぁ、フィンセントの顔を見れば、裕美を裏切ってとかではなさそうだし。

ミリア王女の話を聞く限り、やはり王女の気まぐれ・・・いや、わがままに付き合わされたようだった。
それでも、言葉の棘が裕美に刺さって行くのが分かる。・・・なんなんだ、この女。王族だからって好き放題し過ぎじゃねぇか?

仮装の話になって、前のめりにフィンセントが褒めた。

でも、裕美は先ほどの酔った様子もなく完璧な令嬢のふるまいだけをしている。

(人形みてぇ。)

いつもの笑顔を知っているからこそ、張り付けたような冷たい笑みが怖く感じる。このままだと、本当に裕美が消えていなくなってしまいそうな・・・そんな気がした。
そんな時、辺りが急に暗くなりだした。それを合図のように給仕たちが一斉に動き出す。

手渡されたシャンパングラスをもって、司会の乾杯を聞いてみんなが一斉に飲みだす。

裕美が勢いよく飲んだ。

「・・・リリアーナ、大丈夫か?」

さっきも結構飲んでたのに・・・そう思って聞くと、思ったよりもあっけらかんとした返事が返ってきた。

「ほら、アランも飲んじゃいなよ!」

裕美に促されて、俺も一気に煽る。
その後も、4人で話をしていると、だんだんと会場から人が減って行った。

(もう、みんな帰るのか?)

「私、少し酔ってしまったようなので失礼しますね。」

突然、裕美が切り出す。

「大丈夫か?外なら俺も・・・」

「いや、俺が行こう。」

やっぱり、少し酔っているのが目に見えてわかるから心配で言うと、フィンセントも同じことを思っていたらしい。

「えーっと、いえ、お花?を摘みたいので・・・・・えっと、ひ、一人で、がいい、です。」

少しづつ口ごもりながら言い終わると、裕美は耳まで真っ赤だ。
あぁ、それなら俺らが行ったら気まずくて仕方ないよな。


すぐに帰ってくると言って、裕美はパタパタとお手洗いの方へ歩いて行ったきり、帰ってこなかった。

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