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第26話

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「お嬢様、本当に行かれるのですか‥‥?」

『絶対、今日ヤルじゃん!ヤラれるじゃん!!!やだ、行かせたくない!!お願い、行かないって言って!!!』

ヘンリーの”声”が大変なことになってしまっている。
私は、その”声”に苦笑いしていると、ユーリは笑いながら私の準備を進めてくれていた。

「まぁ、約束知っちゃったし‥‥。それに、遅くはならないと思うから、ね?」

「‥‥本当に、夕飯をご一緒するだけなんですね?」

「えぇ。下町の、レストランとかではなくてお忍びで観光しようって。ほら、言ったでしょ?フィンセント様は、私が誰か分かってるから色々と教えてくださってるの。」

「‥‥婚約破棄は、どうしたんですか。」

痛いところを刺されてしまった。

「‥‥い、今のところ、フィンセント様は私が異世界人って事で興味深々って感じだから‥‥でも、2年後にフィンセント様は運命の出会いを果たすから、その時は絶対に、あっちから婚約破棄されるわよ。いまは、この約2年でこの世界のこと知っておかないと。」

『お嬢様が決めたことなら、俺になにを言う資格はない‥‥でも、嫌なもんは嫌なんだっ!!‥‥俺も、着いて行くか?‥‥いや、あのクソ王太子に邪魔されるだけか。はぁ。』

随分な言われようだけど、私も、そう思う。
絶対、着いて来させないと思うな。

「ヘンリー、部屋から出て行って下さい。お嬢様が着替えます。」

「‥‥わかった。」

ヘンリーは、色々と考えながら
部屋を出て行ってくれた。

「困ったものですね、ヘンリーは。お嬢様は一応はフィンセント殿下の婚約者。こーゆー事があっても、なんら不自然じゃないって言うのに。」

「ははは。でも、心配してくれてるのがわかるから、とても嬉しいよ。」

「あれは心配っていうより‥‥」

『独占欲。あの人、お嬢様に執着凄いから。』

図星すぎて乾いた笑いしか出ない。

「お嬢様、今日は下町へ行くんですよね?それなら、こちらは如何ですか?」

「わぁ!下町のひとの服?えぇ!可愛い!」

「でしょう?最近、下町で流行ってるやつなんです。これ、男ウケも良いので是非!」

『あとは、この下着と~これと~♪』

ユーリは、私の服装を考えるのが好きなようで、サイズを測ってはいつの間にか服を頼んでいてくれたりする。しかも、お金を気にする私のこともちゃんと気遣ってくれて、とてもお得な良いものを見つけるのが上手だ。

「この服装なら、髪もやり直そうかなぁ!上にあげた方が可愛いよね?で、ピンク系のリップとオレンジのチークでカジュアルにして‥‥!ふふ。楽しい~」

「デート、でしたっけ。楽しめると良いですね。」

「うんっ!」

下町の服を着て、髪の毛をやり直して、化粧を少しだけやり直していたらあっという間に約束の時間になってしまった。

玄関まで二人が送ってくれて、フィンセントと共に馬車に乗る。
ここから1時間半程行ったところに市場がある。フィンセントが、道すがら色々と説明してくれて、馬車の中でも楽しく話していた。

「あたし、夜の市場は初めてなのでドキドキします!」

「俺も、ほとんど初めてだ。学校があるとどうしても、学校内ですべて終わらせてしまうからな。」

「そうですね、この学校はなんでも充実していてびっくりしましたもの。」

「裕美と、こうやって出かけれるなんて夢のようだ。」

「‥‥いやいや、フィンセント様は私の事買いかぶりすぎですからね‥‥?」

「フィンセント様じゃないだろう?フィン、だ。」

そう、今日は王太子のお忍びなので、なるべくバレないように下町用の服だし、名前も分かりづらくラフに呼ぶと最初に約束していた。

「そ、そうでした‥‥。」

「敬語も、なしだろう?」

フィンセントは心底楽しそうに、繋いだ手の甲にチュッチュとキスをしながら笑っている。

(‥‥なんでこんなに嬉しそうなのよ。)

気持ちが知りたいときに限って、聞こえて来ない。
・・・まぁ、いまは手を離せば良いだけなんだけど。
手を離そうとすると、フィンセントに繋ぎ直されるからずっとこのままだ。
・・・うん、言い訳だ。正直、なんだかんだこの手の温もりが心地よく感じ始めてる。でも、それを認めるのは結構勇気がいる事で。自分の気持ちの変化に戸惑ってる。

「わ、わかってるよ‥‥。」

「あぁ。裕美は素でいてくれたら良いんだ。」

「なにそれ‥‥。」





市場について、フィンセントにエスコートされながら馬車を降りる。
前回来た時よりも夜の方が大分賑わっていて、キラキラとお祭りの様だった。
一応、護衛の方が後ろから来てくれるみたいだが、デートという事で私達の邪魔にならない距離で守ってくれるらしい。

「なにか、食べたいものはあるか?」

「んー‥‥しょっぱいもの!」

「‥‥大まかすぎないか?」

「だって、こっちの世界の食べ物、分からないし‥‥。」

「あぁー‥‥そうだったな。よし、アランと一回行ったことあるご飯屋さんに行ってみよう!」

「うんっ!」

会話も楽しい、雰囲気も楽しいけれど、私はいま、苦痛で仕方ない。
やっぱり、賑わってる分、人も多くて、とても頭の中が煩い。

『可愛い子ちゃんが来た~!』

『え、あの人めちゃくちゃカッコよくない!?』

『あぁ~男連れかぁ‥‥一発やりたかったぜ。』

『どっかの貴族か?』

いろいろな人の”声”が聞こえる。

(これは‥‥少し飲まないとまた気分が悪くなっちゃうかもな‥‥。)

私を知らないから悪い事は言われてない。
言われてても、フィンセントを連れて歩いてるから、妬まれてるだけ。
でも、忙しなく頭の中が煩くて仕方がない。

そんな時、出店の中にお酒があるのを見つけた。

「ね、ねぇ!ちょっと、飲んじゃわない!?」

「ん?いいけど‥‥弱いだろ?程々にしとけよ?」

「わかってるって!一緒に買いに行こっ!」

フィンセントの腕を引っ張って、急かす様に出店のビールを買った。

「ぷは~~っ!!この世界にもビールあるんだねっ!おいしいっ!」

「だな、外でこんな気兼ねなく飲むのは初めてだが、悪くない。」

私は、一気にビールを煽って、フィンセントは上品に一口づつ飲んでいる。

「フィン~~そんな飲み方じゃ、次に行くのが遅くなっちゃうよー。」

「え?わ、悪い。んっんっんっ」

私の指摘に、フィンセントは急いでビールを飲み干す。
その時に見えた喉仏がいい感じに男らしくて無駄にキュンとしてしまった。

空腹でビールを煽ったからか、”声”が少しだけ小さくなった。

(‥‥聞こえなくなったら完全酔っ払ったって証ね。気を付けないと。)

そんなことを思いながら、また、手を繋いでご飯屋さんを目指す。





着いた先は、この前の酒屋さん、の横にある酒場だった。

「あれ~~!!リリちゃん!夜も来てくれたの!」

ジョンさんの大きい声で、お店の人中が私に注目する。
隣にいるのは、前回は体調が悪くて伏せていた奥さんのカレンさんだ。

「あなたが噂の!とっても可愛い子ね!‥‥って、いい男連れちゃってぇ!!」

遠慮なく、肩をグリグリとされて、茶化された。

「お久しぶりですっ!彼は、なんていうか‥‥学友のフィンです。」

「‥‥フィンだ。ここの評判は常々聞いている。何を頼んでも美味しいし、お酒も豊富でとてもいいと聞いたんで寄らせてもらった。」

フィンセントは、そう言って、にっこりと笑ってカレンさんと握手している。

(めちゃくちゃ上から目線~~!!!)

言葉が上から目線すぎて、心配になったが、ジョンさんもカレンさんもどこかの貴族と思って、普通に接してくれた。

(まぁ、こうゆうお客さんにも慣れてるんだろうな‥‥。)

「立ち話もなんだし、あっちの奥の席にどうぞ!」

カレンさんが案内してくれて、メニューを出してくれる。
ドリンクは、とりあえずまたビールを頼んだ。

「そんなに飲んで、平気か?」

「へいきですよ?私、こう見えて強いんですよ?夜会の時はほら~緊張してたから余計に早く回っちゃっただけです!」

「‥‥そうか?ならいいが。無理はするなよ?」

フィンセントが心配そうに覗き込んでくるもんだから、近いその顔にドキッとしてしまう。

「はいはい、お暑いねぇ~~お二人さん、これは店からのサービスだよ!どんどん飲んで騒いでね!夜はこれからなんだから!」

カレンさんがそう言って、ジョンさんにアイコンタクトした。
ジョンさんも、こっちを見てウィンクしてくれて、”声”でも冷やかしてくるもんだから私はサービスでもらったビールをまた、一気飲みした。





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