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第21話
しおりを挟む力強く引っ張られた腕に驚いて、泣きそうだったのを忘れて顔を上げた。
すると、そこにはーーー‥‥
「ア‥‥ラン‥‥?」
なんだか、とても焦った顔のしているアランが居た。
「っ!お前、泣いてるのか?誰かに何かされたのか!?それとも、具合悪いとか‥‥!!?」
私を立たせたかと思ったら、アワアワと質問で捲し立てられた。
私よりも大きい体なのに、体を小さくして、怪我がないのかとか、どこか痛くないかとか、私の体をあちこち見て、特に何もないことを確認したらホッとした様に息を吐いた。
「‥‥ふふ。」
そんな様子のアランを見て、ホッとしたのか肩の力が抜けて思わず頬が緩んだ。
「え?な、何笑ってんだよ!俺はーー‥‥」
「心配、してくれたんだよね。ありがとう。」
「え?」
「なんか‥‥心細くなってたから、少し安心した。」
素直にお礼を言ったら、アランは一度、目を大きくさせたかと思ったら、一気に耳の先まで真っ赤にさせてプイッとそっぽ向いてしまった。
「べ、別に、お前の背中が見えたかと思ったら変な方に消えてって気になっただけだ。」
「そうだったんだ。」
(見られてたかー‥‥。挙動不審すぎて放って置けなかったんだろうなぁ。)
「ほら、大丈夫なら‥‥行けるか?」
しかめっ面で、ぶっきらぼうな言い方だけど、ちゃんと私の事を気遣ってくれているのが伝わる。
「‥‥うん。行こう。」
まだ少しだけ怖いけれど、アランが隣にいてくれるなら行ける様な気がした。
校舎の影から出る直前、一度止まってしまったが、アランが心配そうな視線を送って来て、なんだか”心配してくれてる人がいる”という事実に勇気付けられた。
私は一度、大きく深呼吸して自分に喝を入れる。
(大丈夫。今は”声”が聞こえるわけじゃないんだから‥‥怖いことなんか何もない。私は私で、普通に堂々としていればいいの。みんな、10近くも下の子達なんだから。気にしない、気にしない!私は大人なんだから!)
「‥‥本当に、大丈夫か?」
アランは、わざわざ屈んで私の顔を覗く様にして聞いてくれた。
「っ!‥‥うん、大丈夫。でも‥‥一緒に、行ってもいい‥‥かな?」
やはり、最後はヘタれてしまった。
しかし、アランは嫌な顔はせずに「いいよ。」と優しく頭を撫でてくれた。その優しい大きい手に少しだけドキッとした。
・
・
・
始業式の会場となる講堂についた。
席は自由席なのか、アランと私は後ろ側の席に腰掛けることにした。
私は、渡された今日のプログラムを見ながら学校について知っている事を整理しようと考えを巡らせる。
この学校は、4年制で、この世界に大学が無い分、高等部で色々と学ぶらしい。
私たちはまだ、1年生だから、そこまで難しいことはしていないし、クラス制でオールマイティーに色々と学ぶけれど、3年生からは選択授業制で、単位制になって高校っていうよりも大学に近しい状態になるみたいだ。その、授業内容も色々とあるみたいで、まぁ、体育を中心とした騎士様向けの授業だったり、料理人を目指している向けの授業だったり。三年生からは専門学校が一つの学校になっているって感じかな?
確か、主人公は3年生の春からこの学校に転校してくるから、一緒の授業じゃなかったらそこまで関わりがないはずなんだけど‥‥。その授業選択は、プレイヤーが選択できて一概にこの授業を受けるって決まっているわけじゃないから被るか、被らないかはその時の運しだいだ。
「‥‥な?おい、リリアーナ!」
「はぇ?あ、ごめん、ボーッとしてた。」
プログラムを口元に当ててこそっと話しかけてくれたアランはまた、心配させたのか少し眉を寄せてしまっている。
「なぁ、本当に大丈夫か?具合悪いなら、医務室行くか?俺もついてくぞ?」
「大丈夫だよ。ちょっと、3年生以降の授業の事考えてただけ。」
「そうか?」
まだ、アランは私が無理していると思って気遣ってくれる。
「私は本当に大丈夫だよ。ほら、折角のかっこいい顔が、しかめっ面だと勿体無いよ?」
シワを作ってしまっている、アランの眉間に指を当てて軽くグリグリってした。
「っ!!ちょ、おまっ!!」
「へへへ。」
「~~っ。や、やめろよ‥‥。」
「あ、お兄様が前に出て来たよ!ほら!」
私は、舞台の上で話し出したアーノルドを見てテンションが上がる。
「そりゃ、副会長なんだから話すだろーよ。ほら、はしゃぐな!」
「へへ。堂々としてて、かっこいいねぇ。‥‥私も、そうなりたいな。」
もっと、自信持って人と接することができたら。
そうしたら、もっと、この世界を楽しく過ごせる様になるんだろうか。
たとえ、悪役だとしても、これからの行いでちゃんと運命は変えれるだろうか。
(‥‥まぁ、無理そうだなって思ったらこの国から逃亡しよう。その為にも、手に職つけられる授業取ろうかな。)
「では、次にーー‥‥」
コツ、コツ、コツ
アーノルドの声とともに、ゆっくりと靴の音が鳴り響く。
「フェイン王国、王太子フィンセント・カー・ハースマン殿下からのお言葉です。」
「この良き日にー・・」
フィンセントが話し出す。
私は、静かにフィンセントの声を聞いているとーー‥‥
「っ!」
不意に、フィンセントと目が合った気がした。
フィンセントは、一瞬鋭い目つきになったかと思ったら次の瞬間にはにこやかに笑って話を続けている。私は、なんだかその視線が気になってしまって、あの夜のフィンセントを思い出してどんどん顔が熱くなって行くのが分かって、顔を思わず背けてしまった。
『裕美のやつ‥‥またアランと一緒にいるのか。‥‥あ、なんだ?急に俯いて‥‥ここだと、顔色までが見えないからな‥‥でも、あの反応。まさか、あのキスを思い出した?くく。だとしたら、意識してくれてるって事か?…本当、可愛いな。今すぐ隣に行きたい。…ってなんか、アランとの距離近すぎないか?‥‥くそ、早く式なんか終わればいいのに。絶対、式が終わったらすぐ裕美のところに行こう。朝は挨拶も出来なかったからな。』
フィンセントの”声”が無意識に聞こえて来て、どんどん居た堪れなくなってくる。
「‥‥どうかしたのか?顔が赤い様だが?」
『なんだ?フィンセントが出て来たと思ったらまた‥‥まさか、やっぱり気分が悪く‥‥?いや、でも顔が赤い。って事は、逆上せた?ココ、空調も効いてるしそこまで熱くはないが‥‥いや、しかしあの夜会の時もリリアーナは人混みに酔ったって言ってたな。ってころは、今回も?どうしよう、やはり医務室に行った方が‥‥?』
アランにも指摘されて、恥ずかしさにもっと俯いてしまった。
「だ、大丈夫だから、ほら、前向いてて‥‥?」
(あ、あんな‥‥キスしたの初めてだったし‥‥意識するなって方が無理だよ‥‥。)
アランは不思議そうにしながらも、私の大丈夫を信じて、放っておいてくれた。
「では次に、今期から卒業までこの学園に通う事となりました、隣国のアッポリス王国の第二王子、ウィルソン・ドーパー・アッポリス殿下にお言葉をいただきたいと思います。」
アーノルドの言葉が講堂に響いて、俯いていた顔を勢いよく上げた。
「‥‥っ!!そっか、今日からか‥‥。」
「リリアーナ?隣国の王子と知り合いか?」
「え?いや、知らないけど‥‥。」
(ゲームで知ってますなんて言えないし‥‥。)
最後の攻略対象者。隣国アッポリス王国第二王子ウィルソン・ドーパー・アッポリス。
彼はアッシュグレーの短髪に、翡翠の瞳、男らしく整った顔立ちと彫刻の様な体の男の中の男という様な見た目で、実はとっても可愛いもの好き、甘いもの大好き、女の子も男の子も好きで、そしてなにより、実はバイセクシャル(タチ専)という、なんとも乙女ゲームに似合わない設定がある。
ウィルソンは、実はフィンセントに一目惚れしてこの留学を決めた。
(ってことは、もう、フィンセントに恋してるってことよね。)
それでも、フィンセントは普通にノンケなので友達以上にはなれないし、婚約者のリリアーナがいるから横取りするわけにもいかない。そんな無謀な片想いの中で、自暴自棄になって寄って来た女の子も、もちろん男の子も来るもの拒まずでヤリまくっているのを、ひょんな事から主人公が知ってしまって、相談相手となる。そして、相談相手と体も心も仲良くしているうちに、私に虐められているのを慰めたり、ピンチを救ってあげることで主人公にも心から惹かれて行って友情以上の気持ちを自覚する。最後の海辺でのプロポーズ+野外プレイはとても良かった。
このウィルソンって、確かアーノルドと同じ年のはず。
そしたら、私の一個上だ。
「リリアーナ、ほら、始業式終わったぞ。教室に行こう?」
「え、あ、うん!」
アランに手を引かれて、講堂を出た。
舞台の上には、もう先生方も生徒会役員達もいなくなっていた。
私が教室がどこかわからないと言ったら、アランはおでこに手を当てて熱を測って来たりしたが、最終的には同じクラスだからと連れて言ってくれる事となった。
『‥‥本当に、リリアーナはどうしちまったんだ?クラスがわからない?夏休みの二ヶ月で忘れるもんか?それ以上に、この前からリリアーナらしくないことが多い様な気がする。いや、可愛いし頼ってくれて嬉しいから全然いいんだけどっ!でも‥‥なんか、違和感があるんだよな。でも、リリアーナはリリアーナだし‥‥なんていうか、中身が違うっていうか‥‥?うーん。でもそんな事あるわけないしなぁ。うーーん。』
アランは戸惑っている様で、色々と考えを巡らせている様だけど、確信が持てないみたいだった。
(近からず遠からずって感じね‥‥さすが、攻略対象者。勘が鋭い。)
それよりも、さっきから少しだけだけど”声”が聞こえ始めた。
(しばらくは聞こえないって言ってたのに。)
少しだけ不安になりながらも、アランと一緒に教室へむかって歩き出そうとした時。
「アラン、リリアーナ。こんなところに居たのか。」
フィンセントが黒い笑顔で近づいて来た。
「ご、御機嫌よう、フィンセント様。」
「ああ。一昨日ぶりだな。リリアーナ、体調はどうだ?」
意味深な言い方で、心配された。
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