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第20話
しおりを挟むあっという間に、夏休みが終わった。
今日からは、暫く寮生活だ。
ヘンリーとユーリは、この一週間ほどずっと寮に持って帰る荷物や、新しく持って行くものなどの整理に追われていた。私は、自分の事なのに何一つ手出し出来なかった。厳選したのは、化粧品とか美容関係ばっかりだ。
姿見の前で、制服姿の自分を見る。
「‥‥いよいよ、本拠地へ行くのね。」
リリアーナの顔を見ながら、ゲームの舞台でもある学校へこれから行くのだ。
そこには、最後の攻略対象者も来るし、フィンセントやアラン、アーノルドもいる。
まだ、主人公が転校してくるまでに2年近くはあるが、気も抜けない。
この約2年で私は、イメージ回復もそうだし、婚約破棄やこれからの人生についてどう動くか決めないとなんだから。
「私たちも一緒です。なんかお困りのことがありましたらすぐにお申し付けください。」
ユーリがニコッと笑って元気付けてくれた。
その後ろで、ヘンリーも、一度、頷いてくれた。
コンコン
「はい。」
「俺だ。‥‥もう、馬車が来ているぞ。用意は大丈夫か?」
アーノルドがわざわざ知らせにきてくれたらしい。
「はい、今行きますわ。お兄様。」
一昨日のあの誕生日パーティーから、ずっとアーノルドは機嫌が良くて、よく私に話しかける様になってくれた。私も、話しかけられたら話すと言うスタンスで、ガツガツ行きすぎずにいい距離感を保とうとしている最中だ。
待たせるのも悪いので、直ぐに扉を開けた。
扉を開けるとーー・・・
「あぁ、リリアーナ。もう、行けるか?」
扉の前には、あのゲームと同じ衣装を着て、同じ様に髪を整えているアーノルドが立っていた。私は、思わず息が止まる。
(やばい、本当にゲームと同じだ!!やばい、一瞬叫びそうになっちゃった。落ち着け、私。落ち着くんだ。‥‥って、だめ、かっこよすぎるっ!!!)
「リリアーナ?」
挙動不審な私を心配して、覗き込む様に見て名前を呼んできた。
その様子も、とても絵になっていて、私はギュッと目を瞑ってしまった。
「んっ!!はい!!」
なんとか返事をして、一呼吸して落ち着いてから、またアーノルドを見る。
アーノルドは、不思議そうにしつつもポンポンと頭を撫でてから「行くぞ」と優しく声をかけてくれた。
「は、はい。お兄様‥‥。」
やばい、こんなんじゃ、心臓もたない‥‥。
ユーリを見ると、困った様に笑っていて、私も吊られて笑ってしまう。
ヘンリーは、相変わらず無表情だが、いくらか最初の時よりも表情が柔らかくなった気がする。
この一ヶ月で、この屋敷で働いている人たちには、大分いまのリリアーナを受け入れてもらえたのか、普通に話しかけても嫌な顔をされたりは無くなってきた。
(学校でも、そうなるといいけれど。)
一応、お貴族様の学校だからなのか、相部屋はなく、一人部屋となっている。
私は、侍女としてユーリ、専属執事としてヘンリーだけを連れて行く。
夏休み前はあと5人ほどいたらしいが、そこまで多くいても、気疲れしそうと言うことを二人に話したら、快く受けてもらえた。
馬車に乗って、3時間ほど行った所に学校がある。
馬車の中では、アーノルドと話しをしていたらあっという間に学校に着いた。
アーノルドは知識が豊富だから、こちらの常識とか気になったことを聞くと直ぐに返事が返ってきてとても頼りになった。
「じゃあ、また後でな。」
馬車を降りて、寮の玄関についた。
玄関を超えたら、男子寮と女子寮で分かれているので、ここでアーノルドとは別れることになる。
「はい。生徒会のお仕事、頑張ってくださいね。」
「あぁ。ありがとう。」
また、ポンポンと頭を撫でられて、先にアーノルドとその侍従達は寮に入って行った。
「では、我々も行きましょうか。」
ヘンリーに促されて、小さめのカバンを持つ。
「ヘンリー、ユーリ、私も一つくらい何か持ちましょうか?」
「いえ、これは我々の仕事ですので。お気になさらず。」
「そうです。ヘンリーは細く見えて結構ムキムキですからね!任せちゃってください!‥‥では、案内しながら行きますからね。」
「そう?ありがとうね、二人とも。」
ニッコリと笑うユーリと、頷いて意思表示してくれるヘンリーにほっこりしつつ、ちょっと遠回りだが、寮内を案内されながら自分の部屋を目指した。
・
・
・
「はい、では最後になりますが、こちらがお嬢様の部屋でございます。」
「わぁ!すっごい綺麗な所なのね!それに、小さいキッチンも冷蔵庫もあるっ!すごーい!!嬉しいっ!!」
「簡単なものを自分で作る方もたまにいらっしゃいますし、ご病気した時などに、侍女が使うこともありますよ。」
「えぇ~!夜が楽しみになっちゃうねぇ!ふふ。そしたら、今度、3人で呑もうねっ!」
「はい、是非。」
「はい、私で宜しければ。」
楽しみが出来て、気分も上がる。
その後、お風呂やクローゼットなど、生活の必需品の場所を教えられた。
「私たちの部屋は、この扉の向こうとなります。こちらが、私、あっちがヘンリーです。何かあればこのボタンでお知らせください。」
そう言って、リモコンの様なものを渡された。
「押したら、どうなるの?」
「私たちの部屋についているアラームと電気が付きます。あ、アラームといっても、ピピピッくらいでうるさいほどなるわけではありませんから。」
「‥‥へぇ~」
「では、私たちは時間まで荷物の整理をしますので、お嬢様はソファーにおかけになって寛いでいて下さい。」
「えっ!私もやるよ!なにか、出来ることない?」
「こちらは私達がしますので、お嬢様は午後からの始業式の行われる会場の確認と、教室の確認をお願いします。‥‥私達は、基本的には校門前までしかついて行くことができませんので、道に迷われぬ様にしっかりと地図をご覧になっていて下さい。」
鬼気迫るヘンリーの物言いに、たしかに、この学校は絶対に迷う自信しかないなっと思い直して道の脳内シュミレーションに時間を割いた。
(お兄様と一緒に行くって言えばよかったかな‥‥いや、そうすると怪しまれそうだし、また疎ましく思われそうだからやめといた方がいいか‥‥。はぁ。地図の見方なんか分からないよー‥‥)
ゲームでは、学園で移動するときはそれぞれの顔が浮かんでて、それをクリックすると、一瞬で飛んでいけていたが、現実になるとそうはいかない。覚えられる気がしないが、この学園へは幼少部から通っているのに、分からないなんて言えるわけがない。
地図とにらめっこしながら、出来るだけ頭に道順を入れていった。
・
・
・
「じゃ、じゃあ‥‥行ってきます。」
校門前。二人に手を振られ、私は歩き出した。
(大丈夫、みんなの流れに沿っていけばいいんだか‥‥ら?)
みんなが、明らかに私を遠巻きにして歩いている。
私の歩くスピードよりも、周りにいる人のスピードの方が遅くなって行って、結局追い越してしまってそれとなくついて行くという作戦ができなくなった。
(‥‥ま、まじか!!!ここまで私嫌われてるのか‥‥!こ、これはマズイぞ?どうしよう。)
笑顔のまま、変な汗が次から次へと出てくる。
後ろをちらっと見たが、ヘンリー達はもう、見えなくなっていた。
周りの視線が気になってしまって、怖くて足が固まってしまいそうだった。
必死に足を動かして歩くが、どうしても息が上がって苦しくなってきた。
やっとの思いで、人気の無いところに来て、一息ついた。
「はぁ~‥‥やばい、こんなにきついって思ってもなかったわ。海外旅行とか一人で行ったりしてればよかった…。あぁ‥‥帰りたい。」
校舎の影に隠れて、踞り膝に頭を預けて小さく呟いた。
(行かなきゃ。ちゃんと、行かないとヘンリーやユーリに心配かけちゃう。ここまで来て最初から問題行動とるとか最悪だもんね。ちゃんとしなきゃ‥‥)
そう思うのに、足が動かない。
先程の、冷たい視線達が怖くて仕方ない。
「行かな「っ!いた!」
誰かが、踞っていた私の腕を取った。
引っ張られる様にして、顔をおあげるとーー・・・
「えーー・・・なんで?」
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