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第15話

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「うーーーん。本当、どうしたら聞こえなくなるかなぁ?」


夜会があった次の日、私はヘンリーに王都で一番大きい図書館に連れてきてもらった。
ヘンリーは、近くにいるみたいだけれど、どーゆー本を探すかと聞かれて「魔法系のを!」とお願いして手分けしてそれらしい本を探しているところだ。

ヘンリー曰く、この世界には魔法を使える人がごく少数だがいるみたいで、そういう人は、基本的には国の財産なので宮廷魔法師として国に仕えていると言っていた。なので、帰るための手がかりにもなるんではないかと魔法関連の本がありそうなこの大きい図書館に来てみた。

本当にこの図書館はとても大きくて、とても綺麗で‥‥ハ○ポタの中の図書館みたいな世界観のとても素敵なところだった。‥‥確かに、ゲームの方でも学校の図書室でヤるシーンあったけど、とっても綺麗なステンドガラスが印象的な所だった。運営さんがこだわった所だったのかな。ここは、優しいオレンジの光が落ち着いて読書ができるような雰囲気だ。
夏休みだからか、ちらほらと学生たちが黙々と課題をやっていて‥‥、

(私に気がついた学生さんの声がちらほらと聞こえてきたなぁ。あ、なんか同級生がいるみたい?)

目があった男の子は、同級生なのか、私に気がついて挨拶に来ようかどうしようか迷っているようだった。

(でも、勉強の邪魔するのもあれだしな‥‥いっか。また目があったら会釈すれば。)

こんな感じで、本探しにもあまり集中できません。

「この辺は‥‥なんだか古い感じの本が多い‥‥。わぁ‥‥なんかありそう!」

気になった本を手にとって、パラパラとめくって行く。
何冊目かを手にとって時‥‥パラリと1枚の紙が床に落ちた。

(っ!え、あたし!?あれ!?本!?破れてないよね!?)

急いでその紙を拾って、見るとーー・・

『異世界から呼ばれし姫君。
あなたが本当にお困りならば、私は、あなたに手を差し伸べましょう。
本当に、解決したいのならば、新月の夜、あの水面でお待ちしております。
但し、誰一人、連れて来てはなりません。そして、口外してもなりません。
必ず、お一人でお越しください。』

(異世界の‥‥‥‥え?これって、私宛?でも、誰が‥‥?差出人は、無い‥‥。それに、なんで困ってるって知っているの?なんで、今日、私がここに来て、この本を手に取るって‥‥)

その紙を見ながら、疑問がいくつも頭に浮かぶ。

「お嬢様?」

「うひゃあ!!」

後ろから話しかけられてびっくりして肩が跳ねた。

「え、なっ!!!後ろから急に声をかけないで下さい!!」

「‥‥申し訳ありません。」

目に見えて、ヘンリーがシュン‥‥としてしまって気不味い。

「い、いや、思わず‥‥御免なさい、大きい声出してしまって‥‥。」

「いえ、私の配慮が足らずに‥‥申し訳ございません。」

『あぁ~‥‥お嬢様に謝らせてしまった‥‥何故俺はもっと普通に話しかけれないんだ ‥‥!』

「あ、その手の本が魔法関連の?」

話題を変えるべく、少し明るくヘンリーに声をかける。

「あ、はい。しかし‥‥魔力に関する事や、魔力保持者が如何に大事かを書いた感じで‥‥。異世界ですとか、青の満月の事は書かれていなさそうです。」

「‥‥そう。」

「お力になれなくて‥‥」

「あ、そうだ!それなら、童話とかはどうかしら?」

「童話‥‥ですか?」

「そう。たとえば、小さい子に『~~したら鬼さんくるよ。』とか、やってはいけない事や逆にやってほしい事を具現化してわかりやすく話されてることってよくあるじゃない?そっち関係だったら、月の事のお話ってありそうだなって!」

「あぁ。確かに。ありそうですね。しかし‥‥」

「ん?」

「‥‥‥‥いえ、なんでもありません。ちょっと、行って来ます。」

『夏休みだからか子供が多いんだよな‥‥少し気不味いが‥‥いや、これもお嬢様のためだ。無になって、お嬢様のために本を見つけよう!』

(‥‥あぁ、そっか。20代前半の男の人が一人で童話探すのは確かに不審‥‥いや、恥ずかしいよね。)

そう思って、私もヘンリーの後を追う。

「ヘンリー、待って!」

「‥‥お嬢様?」

「私も、魔法関連の本が見つからないから、童話を探すわ。一緒に行きましょう?」

「はい。」

『お嬢様。俺の気持ちを察してくれて‥‥なんと有難い‥‥。』

二人で、他愛もない話をしながら子供向けの本を置いてあるところに向かう。
それだけでも結構歩くので、この図書館を見回るだけで1日が終わってしまいそうだ。





「無いねぇ。」

「ですねぇ。」

『此処にあるのは、悪い狼の話や、王子様に嫁がれる姫君の話など小さい頃には一度は聞いたであろう童話ばかりだ。‥‥月関連‥‥‥‥。』

ヘンリーはすごく色々考えて探してくれているみたいだ。
・・・やっぱり、本物のリリアーナがいいもんね。戻れるなら‥‥早めに戻ったほうがいいに決まってるし。

(‥‥それにしても。リリアーナやフィンセントが知っているなら、結構有名な話なんだと思ったんだけどなぁ。ユーリも知ってるみたいだし。あ、でも、ユーリはリリアーナから聞いた感じだったよね。うーん。実は超、極秘事項で、王族と一部の高貴貴族しかしらないとかなのかなぁ?あ、それなら、アランは知ってるのかなぁ?アランってたしか、同じ侯爵だったよね?‥‥それにしても、あの手紙。やっぱり、一度は行ってみるべきよね。確信はないけれど、絶対、私と無関係とは思えないし。あの水面って‥‥リリアーナが血の儀式をしたところよね。たしか‥‥庭の奥にある噴水だったはず。あそこなら‥‥夜にこっそりでれば誰にも見つからないかも。って、新月っていつだ?もう過ぎてるとかないよね?)

「ねぇ、ヘンリー。」

「なんでしょうか?」

「新月って、いつ?」

「たしかーー‥‥今日ですね。」

「え、今日!?」

「はい。」

「そっか‥‥今日か‥‥。」

「どうかなさいましたか?」

「ううん。なんでもない。時間がたつのは早いなぁって思っただけ。」

「‥‥さようですか。」

「‥‥」

(あっぶなーーー!今日とか、急すぎるでしょ!あの手紙に気がつかなかったらどうしてたの!?‥‥いや、絶対に今日、私が見つけるって分かっててあの手紙を仕込んだんだ。それができるのは、誰?やっぱり、魔法使いの人なのかなぁ~‥‥でも、この煩さを取ってくれるなら誰でもいいや。とりあえず、今日ね。うん。そうね、頑張って抜け出そう!)

私は、一人、今日家を抜け出すことを決意して小さく拳を握った。

私の様子を、疑問に思いながらも口では何も言わないヘンリーの事は、特に気にしなかった。





その日の夜

私は、ご飯をいつも通りの時間に取って、湯浴みを早めに終わらせてみんなが寝静まるまで布団の中で読書して時間を潰した。

「は~‥‥この本も当たりね。やっぱり、恋愛小説は切ない物語が一番好きだわ。」

一冊読み終えて、外を見る。
新月だからか、月は出ていなくて真っ暗だ。

(外灯がちらほらあって良かった。絶対、真っ暗とか怖いもんね。)

時間を見ると、もう23時を過ぎていた。

(‥‥何時に、とか時間指定されてなかったし‥‥今行っても大丈夫だよね?)

私は、クローゼットから大きくて厚めのストールを手に取って、頭から深く被りバレーシューズのような形の歩きやすそうな靴を履いた。

「窓から行くのが一番いいんだろうけど‥‥私にはこの高さ、無理だからなぁ。」

一度窓を開けて下を見る。
少し風が吹いていて、髪をなびかせた。
今は夏の季節だが、最近の夜は冷えてきた。

「‥‥よし、とりあえず行こう!」

そう、意を決して、扉をゆっくりと開ける。

廊下に誰もいないことを確認しながら、庭へ続く窓を目指した。





庭に出て、木に隠れながら噴水を目指す。
外に出てから、一、二回警備の人が見回っていたが、まだ気が付かれていない。
流石、侯爵邸。庭が広くて噴水まで行くのも一苦労だ。
ある程度歩いて、森のように木々が茂っているところまできた。

「このくらい屋敷から離れたら普通に歩いても大丈夫かしら。」

屈んだり、這いつくばったりして来たため結構大変だった。





約10分ほど歩くと、約束の場所であろう、噴水のところまで来た。

「‥‥ここ、よね?」

噴水は、ライトアップされているわけでもないのにその場所だけキラキラと光っている。
今日は新月。だから、月の光でってことでもなさそうだ。

「すごい‥‥綺麗。」

〈ありがとう〉

「え?」

幼い声が聞こえたと思ったら、噴水を中心に強い光が襲って来た。
咄嗟に目を瞑って、腕で目を守る。

すると、次に目を開けた時には真っ白な上下左右も分からない空間にいた。

〈来てくれたんだね、姫様〉

小さい5歳位の男の子がギュッと私を抱きしめる。

「あなたが、私を呼んだの?っていうか‥‥姫様って、私で合ってる?本当に?」

〈そうだよ、僕が呼んだんだ。合ってるよ。月野 裕美さん〉

男の子は、真っ青なキラキラした瞳で答えた。

「え、私の名前‥‥」

〈僕が、君をこの世界のリリアーナと交換したんだ。〉

「な、なんで私だったの?」

〈ん~‥‥なんとなく、かな?〉

コテンっと傾げた表情が天使のように可愛い。でも、言った言葉はなんとも残酷だった。

「な!!??」

(なんとなく!?なにそれ!)

〈怒らないで、でもね、君ならこの世界でも幸せになれると思ったから呼んだんだ。リリアーナはこのままだと、幸せになれないから‥‥〉

私の思考を聞いたのか、男の子は慌てて両手をブンブン振っている。

「だからって‥‥!」

(私じゃなくてもよかったんじゃないの?)

と言いたくても、どうせ聞こえているのだからと思って最後までは言わなかった。
その代わり、怒りを抑えるために深く深呼吸した。

〈ねぇ、裕美は今、困ってるんでしょ?〉

「え?」

〈僕、人の気持ち、わかるんだ。裕美と一緒!〉

ニコッと笑って、手を取ってくる。
この、5歳ほどの男の子がこの苦痛をずっと味わってると思うと可哀想に思えてくる。

「そうなの?でも、それって大変じゃない?というか、貴方は一体何者なの?」

〈ん~なんていうのかな?僕は‥‥妖精?というのが裕美の世界では一番近い気がするんだけど。〉

「妖精さん!確かに、とっても可愛らしいのもね。」

(人外でしたか!‥‥まぁ、薄々は気づいていたけどね。)

〈これでも、裕美よりもウーーーーンと年上なんだよ?〉

「そうなんだ。一体何歳なの?」

〈えっとね、1336歳!〉

「あら!すごく長く生きているのね。」

思っていた年齢とだいぶかけ離れすぎてビックリする。
妖精って、ずっと子供のままなの?変な疑問が浮かんで来たが、聞くまでのことでもないと口には出さなかった。

〈うんっ!でね、裕美の能力は、僕が分けたの!だって、いきなり知らない土地に来て、何も分からなかったら不便でしょ?〉

「そうだったの‥‥でも、ずっとだと疲れてしまうから‥‥この能力はお返ししたいな。」

やはり、見た目が子供すぎて話し方が小さい子に話すようになってしまう。

〈人間だと、そうなんだ‥‥迷惑なことしちゃった?御免なさい‥‥〉

シュン‥‥って音が聞こえて来そうなほど、悲しそうな顔をさせてしまって申し訳ない。

「ううん。とても役に立った時もあったわ。でも、私の体には合わないみたい。私こそ、わざわざくれた能力なのに、ゴメンね。」

〈‥‥でもね、一度分けた能力は元に戻らないの‥‥〉

男の子は、言いづらそうに視線を私から離して言った。

「‥‥え?そしたら、一生、このままって事?それは‥‥」

〈あ、でも、能力の押さえ方は知ってるよ!〉

「押さえ方?」

〈うん!一時的だけど、聞こえなくなる方法!〉

「え!教えて!」

「うん!それはねーー・・・」



妖精さんは、楽しそうに笑いながら教えてくれました。
・・・とんでもない事を。



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