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第1章 この度、伯爵令嬢になりました。

34*怒ると冷静になってくるタイプです。

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お夕飯を食べに、お父様と二人で食堂へ行きます。
他のみんなはもう席についておしゃべりして待っていてくれました。

「もぉ~クロードったら、チャコと随分長くお話ししていたのね?」

「あぁ。楽しくて時間を忘れてたよ。ごめんね、ミディア」

お父様は、お義母様に甘く笑って額に一つキスを送ります。
美男美女だから、その行為が絵になりすぎて頬が緩みそうになります。うん、これがもし、前世の母さんと父さんだったら、爆笑ものだわ。寧ろ、ゆーくんがおえっとかいいそう。ふふ。

両親を見て和んでいると、視線を感じました。‥‥レイ兄様がこっちを見ています。
レイ兄様の方に私も視線を向けると、フイッと顔を背けられてしまいました。
・・・そうですよね、レイ兄様は前世のことなんか知らないし、あんな風に黙っててとか言っちゃったら嫌われて当然ですよね‥‥。はぁ。

少し、苦い気持ちが胸に広がります。うん、ちゃんと謝ろう。‥‥話、聞いてくれるといいけど。

「いただきます。」

みんなでいつもの食事をします。


「レイ兄様!あ、あの‥‥」

「ごめんね、チャコ。僕今日は疲れたからまた今度でいいかな。」

「え‥‥」

レイ兄様は私の方を見ずに断ると私の返事も聞かず、避けるようにさっさと自室へ帰って行ってしまいました。

・・・うん、明日。明日、朝一で話そう。

しかし、次の日も、なんだかんだと避けられて全然話す機会がありません。
結晶石で連絡しても、出てくれません。いつになったら話せるのか。もう、手紙にしようか?捨てはしないでしょうけど、見てくれるか自信が持てずなんだか不安です。

そして今日は、助けた子の退院日です。
私は、昼過ぎにジャンと二人で病院に来ました。病院の会議室のような所で一人きりで待っている男の子がいます。

「あの、ジンくん‥‥かな?」

ボーッと座っている男の子に後ろから話しかけると、ゆっくりと此方を剥きました。

「あぁ‥‥俺のこと、助けたってあんた?」

なんというか‥‥目に力がありません。なんでしょうか、この虚無感は。

「う、うん。それで、体調はどう?もう平気?」

「‥‥本当、あんた、余計なことをしてくれたな。」

「え?」

吐き捨てるように言われました。何も写したくないというような真っ黒な瞳は睨みつけているようにもみえます。

「金持ちの気まぐれでよくも余計なことをしてくれたな。って言ったの。偽善活動して助けて、はい、よかったね。おわり。」

「‥‥な、にそれ。あのままだったら、君、死んでたんだよ?それでよかったってわけ!?」

「ああ。それでよかった。金も、食うもんもなくて、盗みをしながらしか生きられない。そんな人生に俺は未練も何もないね。あのまま放っておいてくれたらそれでよかったんだ。俺を助けたことによってまた、俺は自分を汚さなきゃいけない。そうしないと生きられないからな。‥‥本当、余計なことだよ。」

「‥‥っ」

ジンくんの言っている意味もわかります。でも、私がやったことは間違っていたということなのでしょうか?あの時、彼を見捨てて、普通に家に帰ればよかったのでしょうか?確かに、出会った孤児みんなを助けるなんて無理だし、偽善活動って言われたらそれまで。でも、それでも私の見える範囲で死にかけてる人を放っておいていい理由になるわけないじゃないですか。そんな、胸糞悪いことできる訳ないです。

「‥‥助けてしまってごめんなさい。これ、少しだけど生きるために使って。」

私はそれだけ言ってその子に背を向けました。
ジャンに、ジンくんへお金の入った袋を渡してもらって、その場を離れるために踵を返します。

「なんだよ、これ!ふざけてんのか!?」

ジンに腕を掴まれました。うん、痛い。
掴まれた腕を振り払って、ニッコリと笑ってあげてジンを見下ろします。

「‥‥いらないなら捨てればいいじゃない。まあ、それでしばらくは暮らせるはずでしょ。上手く活用して自分の生活の基盤にするも、無駄にするでもどう使おうと私にはどうでもいいことだわ。そんなに死にたいなら、私が見えないところへ行って死になさい。もし次、同じことがあっても私は、同じようにあなたを助けるから。‥‥じゃ、お元気で。」

そう言って、私は歩き出しました。うん。私、悪くないと思います。
だって、助けてもこんな気持ちなら、助けなかった時はもっと、タラレバで後悔の気持ちが一生消えないと思います。偽善?そうです。偽善です。私の、心の安定のための偽善活動です。それが何か?

あぁーレイ兄様にも腹が立って来ました。
だって、私は間違ったことをしたとは思えないんですもの。それなのに、いつまでもコソコソコソコソと逃げ回って。レイ兄様に初めて幻滅して来ます。帰ったら、縛り上げてでも話を聞かせないとですね。ふふふ

「く‥‥ははは」

扉に手をかけた時です。ジンくんがいきなり笑い出しました。え、なに。怖っ
思わず、声のする方へ顔を向けました。

「あんた、ガキのくせに面白いな。」

「‥‥は?」

思わず素で聞き返してしまいました。
いや、面白いことなんか何も言ってないですけど?

「そっちだってガキンチョでしょ。ってか、もう話ないから。じゃ、私帰ったら締め上げなきゃいけない人がいるから。」

命粗末にする人の話なんか聞きたくないですしね。何一つ有意義な時間を過ごせると思わないんでね。それに、助けたのだって感謝される為じゃない。私の為なんですから。

「ちょっと待てよ!」

グイッと腕をまた取られました。
ジャン、君は何をやっているんですか?近づけないようにするのが護衛でしょう?いや、ジャンは従者か。どっちでもいいですけど何度も何度も‥‥痛いんだって!いらいらが募ります。

「‥‥痛いんだけど。」

腕を睨みつけながら短く苦情を言います。

「あ、ごめん!」

ジンくんが離した腕をさすりながらジンくんの方へ向き合います。

「で?何?」

「えっと‥‥ご、めん。」

「?」

なんで謝っているのでしょうか?別に、悪いことなんかしてないですよね?ただ、私との意見が合わなかっただけで。心底わからないというように、眉を寄せます。

「俺、ずっと一人で、誰にも助けてもらうことなく生きて来た。あの日は、もう何日飯、食えてなくて‥‥やけくそになって店先のもんかっぱらったんだ。すぐ追いつかれて、殴られて、海に捨てられて‥‥叫んでも足掻いても誰も助けてくれなくて‥‥あぁ、俺はこんな風に死ぬんだなって思ったら足も手も動かなくなった。‥‥でも、暗い中から声が聞こえて、『頑張って』って。『死ぬな』って‥‥。そんな風に叫んでくれる奴がいると思ったらまだ死にたくないって思ったんだ。気付いたら病院で話を聞いたら貴族の娘が助けたって言われてビックリした。でも、これからの生活が変わるわけじゃない。また同じことの繰り返しと思ったら‥‥ごめん。お前に八つ当たりした。助けてもらったのにお礼も言わないで‥‥」

私より20cmは大きいであろうジンくんがシュンっと項垂れて小さくなっています。
私は思わず、ジンくんの頭に手を当ててナデナデしてました。

「ふぅ。‥‥ジンくんの言ってること、合ってるから。私は、気まぐれであなたを助けた。それは、私の心を守る為に必要だったからってだけ。貴方のためじゃない。私の周りで、死んでいく人を見たくないから貴方を助けただけ。それで、これからまた、貴方が苦しむならそれは、私のせいだから。言っていることは間違ってない。だから、貴方が謝ることなんかないし、私はお礼を言われるようなことしてない。」

そうです。これから、ジンくんはまた過酷な環境で一人、頑張らなくちゃいけないのです。それは、私が助けてしまったから。私の、せい。でも、どうすることもできません。強く生きて行ってほしいとしか思いません。

「‥‥それでも、本当は、生きてて良かったって思ってる。だから、ありがとうございました。」

「っ!」

ジンくんは深々と頭を下げました。
『生きてて良かった』そう初めて言われて、胸が温かくなります。
うん、私に出来ることをして良かったです。その一言が聞けただけで十分です。

ジンくんを見て、頬が緩むのを感じました。すると、ジンくんが徐に私の手を両手で握って来ました。

「‥‥俺のこと、あんたの側に置いてくんねーか。」

「‥‥は?」

あー‥‥そーゆーことですか。確かにね、拾ったら育てろってね。わかるよ。わかるけども。いまなら、従者ももっと雇えるくらいにはうちも余裕は出て来たし、出来なくはないけども。

「だから、お前んとこに置いてくれって言ってんだ。」

「うーん。私に決定権ないし。それに私‥‥」

「うん?」

ジンくんの服の襟元をグイッと引っ張って、目を合わせます。

「死に急ぐやつに興味ないから。」

「っ!」

「じゃ、そゆことだから。バイバイ」

パッと服から手を離し、手を振りながら病院の会議室を後にしました。

「ジャン」

馬車までの道のりの中、ジャンのことを呼ぶと、ビクッと肩が震えました。え、なにか私怯えさせるようなことしました?

「は、はい。何でしょうか。」

「もっと、ちゃんと私のこと、守ってください。腕、痛かったんですよ?」

少しうつむき気味に、眉を寄せてムゥっとした顔をしました。これで怖くないはずです。

「あ、すみませんでした。止めたほうがいいのか、空気になったほうがいいのか迷ってしまって‥‥」

「もう、今回はいいとしても、次からはちゃんと止めてくださいね?」

「はいっ!」

馬車に乗り込み、家へ向かいます。次は、お兄様を捕まえなくちゃですね。
そろそろ私も、避けられるのは嫌になって来ましたから。

「どう、つかまえようかしら‥‥」

馬車の窓から考えを巡らせているうちに、いつの間にか家に着きました。














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