目が覚めたらクレイジーサイコレズの吸血鬼が同衾していました。

ゆっこ!

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第八話 配電設備の破壊

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 当然のことながら、大規模な麻薬の製造、純度を高める精製には大量の電力が必要とされる。
 たとえば、欧州では大麻の密売用苗を育てるため大量の電力が消費された。
 屋内で育てる大麻の照明用と、薬物精製用だ。
 共に莫大な電力が必要不可欠なのである。
 その莫大な電力消費量を当局に調べられ、犯人グループが検挙されるというケースは少なくはない。

 もっとも、ここの蛇頭はその点事情が違っていた。

 外部から電力を引かない独自の発電方法を用い、上手く立ち回っているのである。

 この森の奥の蛇頭本拠地には、燃料タンクと、燃料発電機をコンテナ積みしたトラックが複数台用意されている。
 本拠地施設の発電はそれ等で賄い、麻薬精製の前行程は電力で。特殊な麻薬精製は道術で実行しているらしい。

 つまり、外部に悟られない偽装を施しつつ、電力を大量に使用しない魔法のドラックを精製し、販売しているのだ。

 (そんな頭脳プレーが可能なら、麻薬精製に手なんか出さないで、もっと真っ当な手段でお金を稼げば………安易に他者から奪うことだけを考える………これだから大陸メンタルは………)

 私はそんなことを考えながら、東棟で最後の吸血を終え、五つの命を奪った。
 五種類の血液を奪い真紅に染まった私(霧)は、その血液を徐々に魔力へと変換し、次第に無色透明へと戻っていく。

 (…うん。吸血で他者からすべて奪い取る私が考えることじゃないな。さて、次だ)

 そんな一仕事を終えた私は、東棟三階の窓から外部を眺めるため、人に似た姿へと変化した。
 吸血霧から吸血鬼女性の姿となったのだ。
 その姿とは、ブリティッシュロリータ風の昏めなファッションの幼女だ。
 唯一外部へと晒す素肌部分は頭部のみ。
 手首も、手袋とその上に付け爪という念の入れようである。
 そんな、病的、退廃的なメイクを全身に施した姫カットの少女が纏うドレスは、黒と白の対比を強調したドレスである。
 それは、レース、フリル、リボン等で華美に仕上げた服装で、本来の私の姿…ちょっと凶暴そうで、シンプルな服装を好む元気少女…とは似ても似つかない。

 私は、自分の正体を他者に悟られないため、偽装もここまでやる。
 悟られて、親しい者たちに被害が及ばないようにするためである。

 「ふふ」

 そんな姿となった私が微笑すると、その歯並びの中に犬歯が覗く。
 私は吸血鬼だよとのアピールポイントである。
 これがまた敗退的な服装と良く似合っているのだ。

 そうして私は、足元で息を引き取った蛇頭の死体を避けて、部屋の外を見下ろせる窓の傍へと向かった。

 (やっぱり、次に潰すのはあそこからね)

 そこから私が見下ろす敷地内には、大量のガソリンが入ったタンクローリーと、発電機を積んだコンテナトラックが見下ろせた。
 三車両程の間を開け、その二台及び予備の車両は中央棟傍の駐車場に停車してあった。

 「薄雲」

 人形を思わせる表情の少女になった私は、本当の自動人形へと魔力による通信を実行した。
 新たな命令を下したのである。
 それは、東棟裏口から離れ、件の車両へと対物理攻撃を実行しろというものだ。

 十分に魔力を得て、吸血鬼体に変化した私はもう姿を隠す必要はない。

 後は獲物を追い立てて狩り、その巣であったこの場を灰にするのみ。
 燃料入りの車両と発電機積みの車両を爆発させるのは、その二つの目的を同時に果たすことになる。

 「任務、了解しました」

 そう発言した薄雲が車両へと向かい、魔力による火炎弾を撃ち出すため、その両腕を水平に突き出した。
 火炎弾を両手前方に生み出し、そこから撃ち出すためである。

 体内魔力が両腕を伝わり、両手前方へと集中し、徐々に火球が形成されていく。

 (風属性ライフリング開始………発射!)

 (発射します)

 私はそう命令し、薄雲が放った火炎弾が車両の一つへと直撃する。
 その恐るべき一撃は容易にタンクの装甲を貫き、然る後、燃料へと引火する。
 燃料は爆発し、発せられた轟音と衝撃波で大気が揺れた。立ち昇る火柱が深く昏い夜を煌々と照らす。
 さらに爆発の炎は、ある程度、距離を取っていた他の車両にも及び、飲み込んでいく。
 
 その威力の影響は大きい。

 衝撃波が車両に面していた各棟の窓ガラスを砕き、電源を失った中央棟、西棟、東棟の照明が次々と落ちていく。

 「なんだ!?」

 「何なんだよ!?」

 「爆発!」

 「くそ!ガラス片で!?」

 「目がぁっ!目があーーー!?」

 「状況を!」

 「発電用車両ですよっ!」

 「逃げろ!火が!」

 「建物にいたら丸焼けになるぞ!」

 「出るぞ!急げ!」

 その事態に驚き、中央、西棟内部で蛇頭一味の構成員たちが騒ぎ出した。爆発音と炎が燃焼する音に混じり、一斉に建物から逃げ出そうとする足音が大気を通じて周囲に響く。

 立ち昇る炎から発せられる強い光に照らされながら、私はその光景を三階から見下ろしていた。

 (さあ、狩りの開始よ)

 私は、狩人が巣穴から逃げ出した兎でも見るかのように無感動に階下を眺める。
 天空を焦がす、車両、燃料爆発と、立ち昇る炎。
 それは、私にとって新たな形での狩りの開始を告げる号砲なのだ。
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