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第五話 紅霧に包まれた廃墟ビル入口付近で
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事情を知らないものがこの事態に遭遇すれば、唐突に野獣による狩りが開始された。そう感じることだろう。
私はそんなあり得ない事態を想像しつつ、獲物である中年男性と青年に襲い掛かった。
昏めのスーツ姿の男性とファイアーパターンが入ったジャージ姿の青年を、同時にその効果範囲へと納めたのだ。
二人の容姿は共に蛇頭の者らしい粗野で脂ぎったものあったが、吸血霧が急速に体液を奪い去ったため、途端に皺がれた老人の姿へと変貌した。
「(あ?あ?ああああああああああ!)」
「(うあっ!うぁああああああああ!)」
自分自身の変化に気付き、絶叫しようとする二人であったが、やはり気管が十分に言うことを聞かず、叫ぶことができなかった。
体液が急速に失われたため、身体全体の機能も著しく低下したのだ。
(せめて安らかに逝け)
そんな状態の二人に構わず、私はなおも無慈悲に吸血行為を続けた。
捕食種が獲物を捕食する。そんな当然の行為になにゆえ時間を割くというのか。
飼い猫が外で捕まえてきた獲物を室内で甚振るのとも訳が違う。
ただ、殺し、奪う。それだけである。
渡り廊下に面する廃墟ビルへの入り口部分、その東側の一室。そこに僅かな間だけ滞留し、紅の霧はすぐに無色透明となり消え去った。
私はこうして誰にも気付かれないままに、蛇頭男性二人を瞬殺した。
こんな私の蛇頭制圧作戦の状況は、順調過ぎるほど順調だった。
(まずは二人。残りは一階上と、その上の階層に熱源が複数。これは速攻で始末しないとね)
こうして廃墟ビル東側棟に侵入した私は、次の目標に向かい進撃していく。
その一方、自動人形薄雲には、東棟の西側へと回り込ませる。そちら側にある出入口から、敵が逃げ出すことを防ぐ配置である。
敵を逃がさずに全滅させる。そのため私と薄雲はそれぞれの配置場所を調整していく。
しかし、事ここに到っても、まだ蛇頭一味は私たちの奇襲が開始されたことに気付いていないようだった。
(熱源に慌てて移動する気配なし)
なぜそれが解るのかといえば、このように私は熱源探知することで奴らの様子が解るのだ。
これは、闇夜で狩りを行う暗視能力同様に、吸血鬼の能力の一つである。
その能力によると、一向に蛇頭連中は焦る態度を見せていない。
もっとも近い場所にいる上階の連中ですら、殊更に焦る様子は見せていないのだ。
(こいつら、日本が安全な場所と舐めているな。安全な日本は寄生虫にも優しいってことか)
困ったことに、平等で安全な国というものは、寄生虫にとっても優しい場所らしい。
まるで寄生虫にまで寄ってこられる金の成る巨木だ。
その度し難さに私は苦笑する。
(ならば当初の予定通り、各個撃破させてもらおう。自分たちの認識の甘さを呪え。この日本には私という化け物が住んでいるんだ)
獲物の危機感の無さに、少し拍子抜けした私であったが、ならば油断せずに一体一体始末するだけである。
(今更だけど、私、もう完全に人間やめちゃったなぁ。立派な人間を捕食する化け物だ)
そんなことを考えつつ、吸血霧に変化したままの私は冷静に上の階へと昇っていく。
(道士の巫術の御札も見当たらない。こちらの東棟には本当に重きを置いていないようね。やっぱり中央棟と西棟、どちらかにある麻薬精製施設が本丸か………だったら、こっちで後やることは火付けかな)
蛇頭一味のアジトの内情を分析し、次に打つべき一手、より効果的な作戦行動を考えながら。
私はそんなあり得ない事態を想像しつつ、獲物である中年男性と青年に襲い掛かった。
昏めのスーツ姿の男性とファイアーパターンが入ったジャージ姿の青年を、同時にその効果範囲へと納めたのだ。
二人の容姿は共に蛇頭の者らしい粗野で脂ぎったものあったが、吸血霧が急速に体液を奪い去ったため、途端に皺がれた老人の姿へと変貌した。
「(あ?あ?ああああああああああ!)」
「(うあっ!うぁああああああああ!)」
自分自身の変化に気付き、絶叫しようとする二人であったが、やはり気管が十分に言うことを聞かず、叫ぶことができなかった。
体液が急速に失われたため、身体全体の機能も著しく低下したのだ。
(せめて安らかに逝け)
そんな状態の二人に構わず、私はなおも無慈悲に吸血行為を続けた。
捕食種が獲物を捕食する。そんな当然の行為になにゆえ時間を割くというのか。
飼い猫が外で捕まえてきた獲物を室内で甚振るのとも訳が違う。
ただ、殺し、奪う。それだけである。
渡り廊下に面する廃墟ビルへの入り口部分、その東側の一室。そこに僅かな間だけ滞留し、紅の霧はすぐに無色透明となり消え去った。
私はこうして誰にも気付かれないままに、蛇頭男性二人を瞬殺した。
こんな私の蛇頭制圧作戦の状況は、順調過ぎるほど順調だった。
(まずは二人。残りは一階上と、その上の階層に熱源が複数。これは速攻で始末しないとね)
こうして廃墟ビル東側棟に侵入した私は、次の目標に向かい進撃していく。
その一方、自動人形薄雲には、東棟の西側へと回り込ませる。そちら側にある出入口から、敵が逃げ出すことを防ぐ配置である。
敵を逃がさずに全滅させる。そのため私と薄雲はそれぞれの配置場所を調整していく。
しかし、事ここに到っても、まだ蛇頭一味は私たちの奇襲が開始されたことに気付いていないようだった。
(熱源に慌てて移動する気配なし)
なぜそれが解るのかといえば、このように私は熱源探知することで奴らの様子が解るのだ。
これは、闇夜で狩りを行う暗視能力同様に、吸血鬼の能力の一つである。
その能力によると、一向に蛇頭連中は焦る態度を見せていない。
もっとも近い場所にいる上階の連中ですら、殊更に焦る様子は見せていないのだ。
(こいつら、日本が安全な場所と舐めているな。安全な日本は寄生虫にも優しいってことか)
困ったことに、平等で安全な国というものは、寄生虫にとっても優しい場所らしい。
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その度し難さに私は苦笑する。
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そんなことを考えつつ、吸血霧に変化したままの私は冷静に上の階へと昇っていく。
(道士の巫術の御札も見当たらない。こちらの東棟には本当に重きを置いていないようね。やっぱり中央棟と西棟、どちらかにある麻薬精製施設が本丸か………だったら、こっちで後やることは火付けかな)
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