上 下
5 / 9

第五話 紅霧に包まれた廃墟ビル入口付近で

しおりを挟む
 事情を知らないものがこの事態に遭遇すれば、唐突に野獣による狩りが開始された。そう感じることだろう。

 私はそんなあり得ない事態を想像しつつ、獲物である中年男性と青年に襲い掛かった。
 昏めのスーツ姿の男性とファイアーパターンが入ったジャージ姿の青年を、同時にその効果範囲へと納めたのだ。

 二人の容姿は共に蛇頭の者らしい粗野で脂ぎったものあったが、吸血霧が急速に体液を奪い去ったため、途端に皺がれた老人の姿へと変貌した。 

 「(あ?あ?ああああああああああ!)」

 「(うあっ!うぁああああああああ!)」

 自分自身の変化に気付き、絶叫しようとする二人であったが、やはり気管が十分に言うことを聞かず、叫ぶことができなかった。
 体液が急速に失われたため、身体全体の機能も著しく低下したのだ。

 (せめて安らかに逝け)

 そんな状態の二人に構わず、私はなおも無慈悲に吸血行為を続けた。
 捕食種が獲物を捕食する。そんな当然の行為になにゆえ時間を割くというのか。
 飼い猫が外で捕まえてきた獲物を室内で甚振るのとも訳が違う。
 ただ、殺し、奪う。それだけである。

 渡り廊下に面する廃墟ビルへの入り口部分、その東側の一室。そこに僅かな間だけ滞留し、紅の霧はすぐに無色透明となり消え去った。
 私はこうして誰にも気付かれないままに、蛇頭男性二人を瞬殺した。

 こんな私の蛇頭制圧作戦の状況は、順調過ぎるほど順調だった。

 (まずは二人。残りは一階上と、その上の階層に熱源が複数。これは速攻で始末しないとね)

 こうして廃墟ビル東側棟に侵入した私は、次の目標に向かい進撃していく。

 その一方、自動人形薄雲には、東棟の西側へと回り込ませる。そちら側にある出入口から、敵が逃げ出すことを防ぐ配置である。

 敵を逃がさずに全滅させる。そのため私と薄雲はそれぞれの配置場所を調整していく。
 しかし、事ここに到っても、まだ蛇頭一味は私たちの奇襲が開始されたことに気付いていないようだった。

 (熱源に慌てて移動する気配なし)

 なぜそれが解るのかといえば、このように私は熱源探知することで奴らの様子が解るのだ。
 これは、闇夜で狩りを行う暗視能力同様に、吸血鬼の能力の一つである。

 その能力によると、一向に蛇頭連中は焦る態度を見せていない。
 もっとも近い場所にいる上階の連中ですら、殊更に焦る様子は見せていないのだ。

 (こいつら、日本が安全な場所と舐めているな。安全な日本は寄生虫にも優しいってことか)

 困ったことに、平等で安全な国というものは、寄生虫にとっても優しい場所らしい。
 まるで寄生虫にまで寄ってこられる金の成る巨木だ。
 その度し難さに私は苦笑する。

 (ならば当初の予定通り、各個撃破させてもらおう。自分たちの認識の甘さを呪え。この日本には私という化け物が住んでいるんだ)

 獲物の危機感の無さに、少し拍子抜けした私であったが、ならば油断せずに一体一体始末するだけである。

 (今更だけど、私、もう完全に人間やめちゃったなぁ。立派な人間を捕食する化け物だ)

 そんなことを考えつつ、吸血霧に変化したままの私は冷静に上の階へと昇っていく。

 (道士の巫術の御札も見当たらない。こちらの東棟には本当に重きを置いていないようね。やっぱり中央棟と西棟、どちらかにある麻薬精製施設が本丸か………だったら、こっちで後やることは火付けかな)

 蛇頭一味のアジトの内情を分析し、次に打つべき一手、より効果的な作戦行動を考えながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

魔法少女は特別製

紫藤百零
大衆娯楽
魔法少女ティアドロップこと星降雫は、1日かけてしぶとい敵をようやく倒し終わったところ。気が抜けた彼女を襲うのは、日中気にも留めなかった生理的欲求ーー尿意だ。ここで負けたら乙女失格! 雫は乙女としても勝利を手にすることができるのか!?

処理中です...