ストライダーIKUMI~奴隷を助けたら求婚された。だが気にしない。

ゆっこ!

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第四十四話 妖精事変。其の一

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 「愛よね~。やっぱり愛の力が足りていないわよね~」

 「そうね。このままじゃこの子は生まれることもなく、消えていく運命ね」

 「可哀そう」

 「でも、それが愛されない子供の運命。この子が誕生するか消えるか。それは親となる人間たち次第でしょう」

 「何とかならないものかしらね~」

 「精霊力は強いから十分だけれど、それだけでこの子が健やかに育つ訳じゃないのよ」

 「やっぱり愛。愛の波動が必要ね~」

 「この子の親でもない私たちじゃどうにもできないわ。やっぱり親の人間たち次第なの」

 翅、翅、翅。一対の翅をその背に持つ者たちが一か所に集まっていた。その数、七対。今も透き通る翅を陽光が通過し、分光され色彩がそれを虹色に輝かしていた。

 これは、何事が起きているかと言うと、召喚獣の幼生が宿る花周辺に、翅の生えた幼女たちが集まっているのだ。

 その総数七名…すなわち、七曜の妖精たちである。

 彼女たちは幼生宿る花のつぼみ周辺を、意味深な会話を繰り返しつつ飛び回っていた。これは中々、面白い事態だなと微笑みながら。

 (一体、どうして?それに、愛がないと幼生が生まれてこないって、どういうことなの?)

 自らの世話する花の周辺に妖精たちの姿を見つけ、ぎょっと驚愕したリューコは、雑木林の側に一旦立ち止まり、その会話に耳を欹てた。
 共にここまでやって来ていたIKUMI、アマナ共に、妖精たちの会話の内容の意味に気付き、顔を引き攣らせていた。

 「あの!その話って本当ですか!」

 あの召喚獣の幼生は、自分とIKUMIさんの精霊力によって生まれた子だ。妖精たちの会話の内容に、いたたまれなくなったリューコが、かなり感情的な態度を取り、大声をだして妖精たちにそう話しかける。召喚獣に対する母性が先立ち、後先を考えずにそう行動してしまったリューコだった。

 「あ!人間だ!あなたがこの子の親なの?」

 「来たわね人間………って!親の一人は人間じゃないわ!セイヴァーだわ!」

 「ふわー!」

 「うんうん。それなら納得ね」

 「強力な精霊力の波動が大気を揺らして、何事かと思って来てみたら。稀なる人影があったわ。確かにセイヴァーなら、あれくらいはできるわね。召喚獣の幼生が宿る花が咲いているのも納得できる」

 「桃色の髪のあなた、あなたがこの召喚獣の親の片割れね。精霊の波動で解る。それに、そちらの蒼い髪の女の子も、セイヴァーといることで精霊力が増大してるね」

 「ふむふむ………セイヴァーに術師としての格を引き上げられたようね。これは面白くなりそう」

 リューコに質問された妖精たちは一斉に振り向くと、見定めるようにリューコと残り二人を見て取り、値踏みするように観察を始めた。さらに三人を半包囲するように周囲に展開すると、距離をじりじりと詰め、主にその素性をセイヴァーと見たIKUMIに視線を集中させる。
 
 「ふぇえ………(怖い)」

 「…(この娘たち、すごい精霊力だ)」

 その視線にたじろぎ、思わず小さく悲鳴を上げるアマナ。リューコも思わずごくりと息を飲む。リューコとアマナは精霊を使役する能力に目覚めたため、妖精たちの可愛らしい姿とは裏腹の、凄まじいまでの実力に気付いてしまっていた。自ずと、その実力差に気押される。

 また、ここまでジロジロと興味深げに他人に注目されることは、リューコとしてもアマナとしても初めてのこと。アマナが、ふぇえ………と怖気て思わず悲鳴を上げ、IKUMIの背中に隠れてしまうのも仕方のないことであった。
 一方、自分の子供も同然の召喚獣の幼生をいいように値踏みされて、黙っていられるリューコではない。グッと怖気そうになる心を奮い立たせ、じりじりと迫ってくる妖精たちを睨み返した。

 「おいおい。我が家の娘たちをあまり怖がらせてくれるなよ」

 だが、さすがにセイヴァーたるIKUMI。リューコやアマナのように妖精たちに気圧されることはなかった。妖精少女たちの遠慮のない鋭い視線に晒されても、たじろぐような真似はせず、むしろ、堂々と妖精少女たちの視線を受け止め、質問し返すのであった。

 「お前たちは何者だ。見たところ妖精のようだが?俺の名はIKUMI。お察しの通り、世界を守護するセイヴァーの一人だ。人間たちには選ばれし者と呼ばれているがな。君たちの名前は何だ?こちらは名乗ったのだから答えて貰うぞ」

 !!

 「あら。丁寧な自己紹介ね」
 
 「確かに。まずは挨拶よね」

 「そうね。それが人間たちの礼儀よね。私たちも人間の居場所にやってきた以上は、その礼節に従いましょう。ねえ、みんな?」

 「そうね。私は名乗っても構わないわ」

 「私も」

 「あら、わたしだって」

 「同意するわ」

 IKUMIの主張に、それもそうねと納得する妖精たち。IKUMIたちを半包囲し、無駄にプレッシャーを与える真似はやめて、IKUMI、リューコ、アマナの前に、ホバリングしながら横一列に並んだのだった。

 「こんにちはセイヴァーIKUMI。私の名前はルーナルーナ。月と平穏を司る妖精よ。今後ともよろしくね」

 「私はマルストーム。火と勇気を司る妖精。荒事は嫌いじゃないの。よろしくね」

 「メルクリム。水と家事を司る妖精。水回りのことは得意なの。何かあったら任せてね」

 「ユピテイル。植物と豊穣を司る妖精よ。風の妖精でもあるから、大気の振動にも敏感なの。私があなたたちが使った術とその波動に一番に気付いたのよ」

 「ヴィナシスなの。金と美を司る妖精よ。お化粧とか美肌とか血の巡りとか、それに抗毒とかにも詳しいの」

 「トゥルナーリア。土と忍耐力を司る妖精よ。地震の前兆や地下水脈の場所、地下の生き物に詳しいわ」

 「ソーラソールよ。日の光と真実を司る妖精なの。だから一目見て、あなたがセイヴァーだって気付いたのよ。これから召喚獣の幼生のことで何かと縁があると思うの。これからのお付き合い、どうぞよろしく」

 地球のメイドたちの挨拶方法カーテシーのように、妖精たちはスカートの裾をちょこんと摘まんではお辞儀をし、順番に名乗りを上げていった。
 妖精たちはどこで覚えたのか、中々に堂に入った古風な作法を披露し挨拶してきた。また、その仕草は元々可愛らしい妖精たちを、さらに魅力的に魅せる方法であった。幼さと洗練された動作のギャップが、見る者にある種の感動すら与える。

 (ほう!)

 この妖精たちの自己紹介には、IKUMIも…中々の知識の持ち主たちだ。ただの不思議生物ではないな…と感心する。

 「そうか、こちらこそよろしく頼む。丁寧な自己紹介痛み入った。リューコ、アマナ。君たちも彼女たちに挨拶と自己紹介をしろ。示された友愛と礼儀には、こちらも丁重に応じなければな」

 IKUMIはそう言って、連れの幼女二人に返礼を促した。こう見事に自己紹介され礼節を示されたなら、こちらも無下にはできない。きっちりとリューコとアマナに自己紹介させなければならない。その理屈は、リューコもアマナもわかった。知らない他者、異種族との対話ではお互いの第一印象が大事だ。印象を悪くして、せっかく得られるかもしれない協力関係を逃しても面白くはない。

 「えと、IKUMIさんの郎党の一人でリューコと言います。木と花の精霊術が使えます。それと、そこの召喚獣の幼生の母親?…です。妖精のみなさん、よろしくお付き合いください」

 「お…同じ…く、IKUMIさんの郎党…アマナ…です。水の精霊術師の家系に生まれた…者です。えっと…あなたたち妖精とは、精霊術を通してお付き合いいていける…と思う。よろしくお願いします」

 リューコに続き少々の言語障害の残るアマナも、妖精たちに対し、そうようにして精一杯の礼節を示すのだった。

 「ええ!よろしくね!召喚獣の小さなお母さんたち!」

 「よろしくね!」

 「それぞれ得意の精霊術の質問なら、いくらでも聞いてあげるわ!」

 「それとも、殿方との秘め事のこととか!」

 「あら!この子たちにはまだ早くなくって?」

 「そうよそうよ!」

 「まずは、このお花の中の子のことよね!そうでしょう、リューコちゃん?」

 「え!ええ、そうかも!アマナはどう思う?」

 「う…ん。妥当だ…と思…う」

 かくして、IKUMIに促されたまま自己紹介を終えたリューコとアマナは、姦しく妖精たちとお喋りし合う。女三人寄れば姦しいのである。
 この時から、IKUMI、幼女たちと、妖精たちの微笑ましくも奇妙な付き合いは始まったのだった。 

 
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