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第三十九話 村の内部へと。 其の一

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「!? あれは!」

 ホーリーズ・クランの間者クワズ・イーモの双眸が、怪物の姿を捉える。驚くべきことに、その植物の身体には四人の男が触手によって絡め獲られていた。

 (収容所から脱走した囚人か?…それと山の狩人。それにあれは………北方からやってきた老人と子供の落ち武者か。やはり、ここは尋常ではないマンイーターが支配している)

 クワズは土塁を見詰め、無意識にギリリと歯軋りしてしまう。
 村内部から発せられた精霊波動を感知し、何事かと再び遠目に村周辺部を観察できる位置にきてみれば、今度は植物型怪物の狩りの帰りを見ることになった。
 そう考える以外に、納得しようのない状況が見て取れた。

 (植物の怪物は多数。すでにその一部は外部にも狩りに出ている。収容所から逃げ出した囚人。地元の狩人。落ち延びてきた侍なども獲物として捕らえている。支配者のマンイーターの姿は確認していないが、十中八九、その実力は強大。このままここに残れば、俺の身も危うい) 

 そう事態を判断したクワズ。

 (本国への忠誠のため、今しばらくここに残り情報収集に勤めようと考えていたが、これではどうしようもない)

 間者は生き残ってこその華。

 生き残らねば味方に情報を届けることも不可能だ。そう知るクワズである。

 (この事態は、もはや放置できる段階ではない! ホーリーズ・クランの指導者層に、早々に対策に乗り出してもらわんとならん! 早く討伐隊を組織して、ここに派遣してもらわんと!)

 その危機を詳しく知らせるため、再び通話符での交信を実行するべく、身を翻すクワズ。登っていた木の幹をするすると降りていくのであった。

 もちろん、その怪物に捕らわれた四人とは、TURUGIと北方からやって来た三人であった。
 クワズは、TURUGIたちによるめくらましに上手く騙されてしまったのである。

 だが、神ならぬ身のクワズには、それは解らないことなのであった。

 ◇ ◇ ◇

 土塁の一部が精霊力によって開き、村内部への入口となる。
 その開口部から、四人を抱えたYASAIが村へと入っていく。

 「あ! YASAIだ! YASAIがやって来たよ!」

 そう四人を背負う怪物を指差して叫んだ少女は、動物の世話係となった三人の一人、リチア・ストレであった。

 朝食後の装甲牛の世話、土塁近くでの放牧の最中に、村の領域に入ってきたYASAI一行と出会ったのである。

 「あれ? 何でTURUGIさんが背負われてるの?」

 「他に知らない人たちもいる。IKUMIさんに知らせないと!」

 「行ってくる!」

 「うん!」

 「頼むね! 私はTURUGIさんの様子を見てくる!」
 
 「私も!」

 リチアがIKUMIの許へと走り出し、スズ・ランノキ、ケイト・ウ・サキワケも、自分たちが適切だと思う行動を取り出した。

 そんな光景を余所に、んもぉーと一啼きし、装甲牛が呑気に草を咀嚼し続けていた。

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