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第三十六話 北方から訪れた者たちの邂逅。其の三

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 「良し。成功だ………みんな、先に食事に行ってくれ。俺も下準備を済ませたら、お前たちが用意した朝食を頂こう」

 IKUMIの言った通りに複合精霊術は成功した。

 SANSAIが掘り出してきた粘土は、土と水の術法によって程よく練り上げられ、簡易的な岩の台座に置かれている。検めながら四方を囲み、水分が気化しないように密封すれば、取り敢えずハニワ作成の準備は完了だ。

 また、土と木の術法を組み合わせる精霊術も成功だった。

 小山の横穴全体へと大中の大きさの石、炭、石と下側から大量に敷き詰め、湿気を炭に吸わせて底にある横穴から気化させる。
 そんな仕組みの土台を造り上げた。

 その水捌けの良くなった土台の上に、後々、新窯(登り窯)を整備するのである。

 今はここまでしか造成していないが、朝食後に再びIKUMIが中心となって術法を使用し、立派な窯と、窯を覆う屋根を造成する予定だ。

 その後に、粘土を捏ねてイメージ通りにハニワや陶器の武具を形作り、焼き入れをする予定だ。

 その工程と言えば、数日を使う大仕事になるだろう。

 しかし、後のことを考えると必要な事前準備であった。
 
 その後は、精霊術によって作業を大幅に短縮することが可能だ。

 登り窯の火力調整や周囲の建物の造成は、精霊術で代替が可能なのだ。

 その準備が終わった上で、IKUMIは出来上ったハニワを着込み、外部の侍たちに接触する予定だった。

 それで北方諸国連合からやって来た侍を村に迎い入れるという、目的の一つは完了する。

 (良し。工程の第一段階は終了。こうやって一つ一つ問題を片付けていこう。物事の継続が目的への一番の近道だからな)

 そう考え、ホッと一息吐くIKUMIであった。 

 一方、IKUMIの導きによって始めて精霊術を使用した面々の多くは、一様に自分たちがやり遂げた成果に感動していた。

 中でも精霊術の素養が高い者は、

 

 「………ストライダーさま、私たちだけでなく、多くの物を、この世界を狙うモノから守っていてくださるのね」

 「………私も、何となく理解したよ」

 「………あれが、選ばれし者なんだね」

 目の前にいるお伽噺の登場人物のような存在。そんなIKUMIが、この世、この地になぜ居るのか?

 それが理解できた気になった、ニコ、スズ、リチアといった幼女たち。

 そんな存在に私たちは助けられたんだ。

 何時か、その恩返しをきっちりとしなくっちゃ。

 たとえ、この命を賭けてでも。

 彼女たちは、そう心に決めるのだった。
 
 「みんな。先に朝食を食べに帰っていてくれ。俺は細々とした準備を終えてから帰る」

 「了解しましたの。料理を温めて待っています。さあ、みんな行くわよ!」

 「うん!」

 「了解だよ、頭領」

 「そうする」

 「ごはん! ごはん!」

 「お腹ペコペコだよ!」

 「IKUMIさんの御飯も温めておきます!」

 「頼む」

 「ご安心くださいませ。それが私たち良き妻の務めです!」

 「? ああ。宜しく」

 IKUMIがなんだ?と困惑している間にも、幼女たち一行は意味深かな言葉を残し、リーダーであるマリティアに従って家屋敷へと帰っていく。

 「俺も後始末を手早く済まして飯にするか」

 一人残り、小山へと振り返ったIKUMIは、そう言って手足を動かすのだった。
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