ストライダーIKUMI~奴隷を助けたら求婚された。だが気にしない。

ゆっこ!

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第三十五話 北方から訪れた者たちの邂逅。其の二

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 村の中心部、家屋敷が集まる場所から北側にいくと、ちょっとした小山がある。

 そんな木立に囲まれた小山の周辺に、村中の幼女たちが集まって来ていた。

 彼女たちが作った朝食を食す前に、ストライダーIKUMIがある用事を告げるべく集めたのである。

 「みんな、朝食前にすまないな。早速だが、村を囲む土塁の外側に、少数だが御国の侍たちがやって来ている。おそらく、トーリンに連れ攫われた君たちを救い出すために、国境山脈を越えてきた者たちだ」

 ざわわ………。

 IKUMIの話の内容を理解し、幼女たちは緊張し、ざわついた。

 みんなストライダーに助けられ、村娘として出直した身である。一度は奴隷にされて真面に生きることも叶わず、他者に使い捨てにされるのだと、我が身の幸せを諦めた身の上であった。

 あるはずもないと諦めていた助けがやって来た…そう聞いて、動揺するのも当然のことだ。

 「本当にやって来たのか?」呟き、同じ境遇の者同士見詰め合い、我が耳を疑う。

 「あの………それで、私たちは何をすれば?」

 「そっ、そうですの。私たちに何か用事があると聞きました。私たちはどう協力すれば良いんですの?」

 そこに、おずおずと幼女たち一同の補佐役のモモが一歩進み出て要件を聞き出そうとし、リーダーのマリティアが続いた。

 迎えに来たと言う侍たちも気になるが、まずは自分たちが何をすれば良いのかをIKUMIに聞きたかった。

 彼女たちの現在の行動指針は、自分たちの救い主であるIKUMIの言うことを聞くことである。

 「ああ。俺は侍たちと接触するつもりだが、その事前準備が必要だ。そのためには、まず土と水の精霊術で新たな力を生み出す準備が必要だ。その準備を、朝食前にみんなでやって貰いたい。精霊術の練習にもなる」

 「そういうことらしいよ、アマナやコーラルの水の力、それに、ケイトやカナの土の力がまず必要なんだって。僕みたいな火属性の子も、薪を炭にする補佐役をするみたい」

 そう言って、IKUMIの後に発現したのはノアだ。

 「そうなんだ。もちろんコーラルは協力するけど」

 「ねえ、ノア。何を作るの?」 

 「そうそれ。ノアはIKUMIさんに聞いてるでしょ。何を作るの?」

 「そうそう。カナもそれが知りたいのよ」

 「いや、僕もそこまで説明を受けた訳じゃないんだ。ハニワとかいうものを作るらしいんだけど………」

 コーラル、ニコ、ケイトやカナの疑問を聞き、リューコやアマナと言っの子たちの好奇の視線を受けて、ノアが説明を求めるようにIKUMIへと視線を送る。

 幼女たちは「ハニワって何?」と思案顔だ。

 ノアから自分に移った幼女たち好奇の視線を受けて、IKUMIはその説明を始めるべく一歩前に出る。

 「では説明しよう。ハニワとは、土を焼いて作った土器のことだ。手頃な大きさの人形から、動物や武者人形を模した、かなり大きな物まである代物だ。それは理解できたか?」

 それぞれ、人の身長ほどある人形や動物の土器を思い浮かべ、なるほどねと納得し、コクコクと肯く幼女たちである。
 陶器などの日用品にする焼き物は、彼女たちが良く知る品々であった。

 幼女たちの多くが、侍やお城勤めの文官の子である。彼女たちにしてみれば、時に防具にも使われる焼き物は身近な品々である。

 「それらを焼く大窯を、この小山に精霊術で設置しようという訳だ。まずは朝食前に、それだけはやってしまおうと思っている。力を貸してくれるな?」

 そんなIKUMIの言葉を理解し、大体のことは理解する幼女たち。彼女たちが他に分からないことは、それが外部の侍たちを迎えに行く事と、どの様に繋がるか?である。

 IKUMIも幼女たちの疑問に気付き、それの説明を継ぎ足すべく口を開く。

 「製造した動物や武者の土器…ハニワの扱いだが、一つ目の目的は、増やしたSANSAIに着せて武器防具にするためだ。二つ目は、村の土塁の周辺に並べて防壁代わりにする。そうして村の戦力を整える寸法だ。最後の三つ目、これがもっとも重要なことだ。俺がハニワ武者を着込んで、外部の侍に接触する」

 そう聞いて、なるほどという想いと、訳が分からないという想いを綯い交ぜにし、微妙な表情になるリューコやマリティア、アマナといった幼女たち。

 ノアやモモも、今一納得いかない表情だった。

 「ストライダーさまがハニワ武者に? それは理解しましたけど、何のためです?」

 その疑問を解消すくべく、みんなを代表してリューコがそう質問した。

 「うん、そこは説明が足りなかったな。じつは、外にはホーリーズ・クランの間者もやって来ている。俺がハニワ武者になる理由は、そいつらを騙して、間違った情報を持ち帰らせるためだ」

 そう聞いて、リューコの瞳がキランッと光る。

 「あっ! つまり、この村に居るのは、強力な精霊術を使って植物の怪物やハニワの怪物を使役する精霊術師か、獣の王であるマンイーターと思わせるための擬装工作?」

 「察しが良いな、リューコ。その通りだ。」

 詳しい説明を聞き、ピンときたリューコの言葉に、exactlyと答えるIKUMI。リューコも、未来の旦那さまと決めたIKUMIに褒められて満更ではなかった。エへヘと笑い、笑みを浮かべる。

 「なるほど。そういう事でしたか。このマリティア、状況は良く理解しましたわ。ではストライダーさま、朝できる分を、早くやってしまいましょう!」

 そこに、喜色満面のマリティアが話の輪に入ってきた。

 この時のマリティアは、先にIKUMIから精霊術の教導を受けたアマナ、リューコ、アマナ、ノアに対し、後れを取っていると気にしていた。
 そこに調度良く降って湧いたように、みんなで新たに精霊術を使おうという提案が受け、超乗り気となっていた。

 全員一緒なら、自分以外の誰かがIKUMIと二人っきりで精霊術を使い、優しい時間を共有することもない。これ以上、他の幼女たちにマリティアが出し抜かれることもない。
 
 そのため、マリティアが気分を悪くするはずもなく、かなりのご機嫌だった。

 「ね! 頑張りましょう、みなさん!」

 クルリクルリとその場で廻り、キラキラと光らせた瞳をIKUMIや幼女たちに次々と向け、早く早くと急かすマリティア。

 これには、マリティアの補佐役のモモも苦笑する。

 「そうだな。早く済ましてしまおう。出来立ての朝食を食べ逃すのも惜しい。それとすまないが、その朝食の後に、やって来た侍たちのために弁当を用意してくれないか?」

 「仰る通りにしますわ。ねえ、モモ」

 「ええ。任せてください。TURUGIさんが用意してくれた食料は十分あります」

 「それも大事だけど、まずはストライダーさま…IKUMIさんが言う通りに、精霊術をみんなで使うことだね。IKUMIさん、みんなにどう並ぶか支持してください」

 ストライダーをIKUMIさんと呼び直し、IKUMIとマリティアたちの話を軌道修正するノアだった。確かにノアが言う通り、まずは精霊術の使用が第一で、侍たちに配る弁当のことはその後だろう。

 「そうだった。これから言う順番通り、みんな、五芒星型に並んでくれ。まずは木属性のリューコが星上側の位置。その次に、火属性のノアが星右上側の位置。次に土属性のケイトが星右下側の位置。続いて星左下側が金属性のニコの位置。最後に星左上が水属性のアマナの位置だ。それから………」

 それぞれの属性の位置に並んでいく幼女たち。

 リューコ、アマナ、ノアといった、精霊術の使用経験者は余裕の表情で、未経験の者たちは緊張した表情で、IKUMIの指示に従って五芒星の形に添って並んでいく。

 それから数分の後、土器の材料となる粘土と水を混ぜ合わせる術式が完成し、五属性の相生効果で強化された精霊術が解き放たれた。

 はたして、術の成否は?

 ただ、今、解ることは、その精霊術の余波である衝撃波が、大気を伝わって村の土塁の外に居る者たち………すなわち、アルス一行やクワズ・イーモにも届き、感知されたということのみだった。
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