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第三十二話 村の土塁の外側の動向。  

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 「馬鹿な………一週間前に………」

 (ここから一望した限りでは、こんな土塁が廃村を囲ってはいなかったぞ!)

 IKUMIたちが復活させた廃村より遠く離れた山の中腹から、一人の男が遠眼鏡で土塁の存在する景色を一望し、愕然とした表情を浮かべていた。

 彼は、ホーリーズ・クランがトーリン一帯に放った間者の一人。

 現在、ホーリーズ・クラン正規軍が、北方諸国連合と交戦状態であるために、軍とは別の指揮命令系統がある、中央政府の治安維持部門から送られてきた人材だ。

 名前はクワズ・イーモ。

 トーリン一帯で行方不明になっていた司祭兼監察官一行の行方を調べるために、クラン中央から直々に派遣された間者の一人だ。

 クラン内部の身分も高い。

 しかし、彼は自分の素性を明かして団体行動するような、目立つ真似はしなかった。

 隠密性を維持するために、常に単独行動をする彼は、複数人では行動せず、一人、迷彩用の擬装を施した服装で山に潜み、そこを拠点にして周辺の情報を収集していた。

 クワズは、得た情報を秘匿し、限られた者にしか知らせないことの重要性を知る男であるからだ。

 そのため、彼は主にトーリンへと続く街道筋を中心にして、一帯への出入りを監視しながら、消えた司祭の身柄がどうなったのかを調べていた。

 もっとも、クワズも神ならざる身。

 探している司祭が、TURUGIとYASAIの手によって、トーリンの収容所内部であっさりと殺されていたとは知る由もなかった。

 まさか、警戒厳重な収容所内部で司祭が殺されることはないだろうと、クワズは高を括っていて、司祭が誘拐されて外部へと連れ出されたか、敵対勢力との交戦で死亡し、どこかひっそりとした場所に葬られたのではと考えていた。

 そのために、トーリン一帯に派遣されて、これまでの間、クワズは見当違いの行動ばかりしていて、欲する情報をまったく得られずに、無為の日々を過ごしていた。

 そこに降って湧いた事態が、求めていた情報とは大幅に違う、今回の事態…土塁に囲まれた、元廃村の砦の出現である。

 「!? なんだ、あれはっ!」

 (多数の巨大な怪物の姿があるじゃないか! 強大な精霊術を操るマンイーター(人食いの化け物の総称。種類問わず)でも、廃村に住み着いたのか!) 

 普段は無口なクワズが、遠眼鏡を覗く両眼の瞼を見開き、思わず叫ぶ。

 見つけたのは、土塁の上で警備するように蠢く、根分けされたSANSAI、A,B、C,Dといった吸血植物の姿である。

 (もっと情報を集めなければ!)

 クワズは、土塁の内部の情報を掴むため、もっと高所から土塁に囲まれた内部の情報を集めることにした。

 周辺でもっとも高い場所に生える木に登って、そこから土塁内部を遠眼鏡で眺めるのである。


 「!? あれは!!!」


 しばらくの後、クワズは上った木の天辺から土塁内部の敷地を覗いた。

 すると、見付けたものは。

 (装甲牛の世話をする三人の少女………間違いない、やはりマンイーターか!)

 IKUMIの指示通りに家畜にした装甲牛の世話をする、幼い女の子たち三人の姿だった。

 しかし、IKUMIやSANSAI含め、彼等が助けた女の子たちの情報をクワズはまったく知らない。

 それ故に、クワズは三人の女の子を、マンイーターが非常時の食料兼下僕としている人間の子供だと認識したのだった。

 「これは………」

 (早く中央に、この事実を知らせなければ! 放置すれば、周辺の収容所の奴隷や看守たちも襲われ、最悪トーリン一帯がマンイーターの支配下に置かれてしまうぞ!)

 ぞおっと、身体を震わすクワズ。

 (そうすれば、収容所で生産されている食料、日用品の流通にも差し障る。そうなれば、戦場への補給も滞る事態となるかもしれん!)

 「くそっ! 大事な時期に!」

 そう悪態をつき、クワズは木を降り始めた。

 目指すのは、重要な品の隠し場所にしていた木の洞だ。

 もしもの時のために、隠し持っていた通話符の場所へと向かったのだ。

 なぜなら、この精霊の力溢れる世界では、強力な力を持つマンイーターの出現が確認された場合、すぐさま人間社会全体で共有し、事に当たれとの原則があったからだ。


 クワズ・イーモ。


 彼の勘違いやIKUMIたちの行動によって、事態は予想外の展開を迎え始めていた。

 
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