ストライダーIKUMI~奴隷を助けたら求婚された。だが気にしない。

ゆっこ!

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 第二十七話 初日の終了。夕食前の一時。

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 時刻が宵の口に差し掛かる頃、村と畑の周辺は薄闇に包まれていた。これまで力強く大地を照らしていた太陽は、その役割を終え、大人しく帰り支度を整えていた。
 これよりの束の間は、星々の主が大地を照らす時間ではない。
 夜の帳の下、蒼き星を照らすその座は、衛星である月へと移っていた。

 その頃になると、ストライダーは順調にSANSAI(移動型吸血植物)の根分けを終えていた。
 結果、IKUMIが今日中にやるべき作業はあと一つとなっていた。増殖した新型のSANSAIたちを、土塁近くへと送り出すことである。
 それが終われば、とりあえず今日の作業は一段落である。
 これ以後は、明日の作業のために食事と睡眠を取り、英気を養うことができそうだった。早朝から働き続けた自分自身の身体にも、やっとIKUMIは報いてやれるのである。 

 「さて、一旦帰るか………」
 
 ストライダーは、根分けによって増殖したSANSAIたちの様子に満足すると、そう呟いて立ち上がる。

 見れば、SANSAIたちは立派に育っていた。大地の精気、そしてIKUMIが増幅して注ぎ込んだ精霊力により、充分以上に青々と葉を繁らせたのである。
 自分と同じ属性の精霊を使いこなす、選ばれし者の強力な力を得た賜物であった。

 この育ち方なら充分以上に、この村周辺にを守り続けることだろう。
 
 「よし行け、SANSAI軍団よ!」

 これで「大丈夫だ。問題ない」と納得したストライダーが、吸血植物たちに命令を下す。 

 ……ザワザワザワザワザワザワッ……ズッ…ズボッ…ズボッ…ズボッ…ズボッ…

 …ズボッ…ズボッ…ズボッ…ズボッ…ズボッ……パラパラ…パラパラパラ……

 ………うぞうぞっ…うぞうぞっ…うぞうぞっ…うぞうぞっ…うぞうぞっ…うぞうぞっ………

 号令一下、畑一面で増殖していた吸血植物たちが動き出す。根付いていた身体を畑から抜き出すと、それぞれ等間隔に距離を取り、土塁付近へと円陣状に散っていく。
 村と畑を囲むように隆起した土塁の上に位置し、外敵の接近、潜入を未然に防止するための夜警に向かったのである。

 「さて………そうだな、近くに自生していたハーブがあったな」

 作業を終えて、一旦は真直ぐ幼女たちの許に帰ろうと思っていたストライダーだったが、あることを思い出して、それがある方向へと歩みを変えた。
 トーリンの収容所近辺へと出向く際、IKUMIは自生したハーブの一部を摘み取らずに残しておいた。生えそろった頃に、再び収穫するためである。
 あれから丸二日と半日が経過している。 
 これまでの陽気なら、またそれなりの数のハーブが生え揃っているはずだ。

 (まあ、取り過ぎた場合、精霊力を注いでまた増やせば良いだけだ。料理の良いアクセントになるだろう…いや、いっそ室内ガーデニング用に根こそぎ持ってくるか?)

  「俺があいつらをコントロールする方法なんて、美味い飯を食わせて言うことを聞かせるぐらいだからな。良い点数稼ぎにはなるか…」

 (…ガーデニングもやらせれば、少しはあいつらも俺に懐くだろう)

 ちょっとお疲れ気味であるストライダーが、自分の願望を言いながらも、ハーブの群生する場所まで歩いて行く。 まるでその言動は、仕事帰りに可愛い我が子に土産を買っていく、地球(日本)のサラリーマンのようであった。

 「良し、充分あるな」

 (植え替えは明日で良いか)

 月明りの下、村の外れに群生していた目的のハーブを発見したIKUMIは、目的を果たすと普段は他人に見せることのない笑みを浮かべた。
 これで今夜は幼女たちに対し、良い貌でいられると。

 もしIKUMIがサラリーマンパパであったなら、ここは御土産を持って帰って「お父さんカッコイイ!」と言って貰える所だろう。
 妻に相当する人物も側にいれば、IKUMIは彼女に対しても鼻高々であったであろう。 

 それはそれで、幼女に対するOTONAとしては正しい態度であった。

 だが、ただ一つストライダーIKUMIに間違った点があった。それは幼女たちの多くが、IKUMIのことを恋愛対象として見ていることであった。

 彼女たちは奴隷から解放してくれたIKUMIを尊敬していたし、将来の旦那様としても意識していたのだ。

 大人と子供。

 成人男性と年端もない幼女。

 しかし、認識と身体の大きさは違えど、男と女、異性と異性であった。

 また、地球とこちら側の世界では常識も違っていた。

 IKUMIが彼女たちを幼女としか認識していないとしても、幼女たちは違う想いでいたのである。
 

 ストライダーIKUMIと幼女たちの間には、このように重大な意識の格差が生じていたのである。


 ☆ ☆ ☆


 「…そうだな。もう一品作るか………」

 幼女たちが待つ家屋へと戻る前に、IKUMIはまず、かまどのある野外調理場へと向かった。

 「…火種有りと」
 
 IKUMIが野外の調理場へと到着すると、かまどの火は風を吹き込めば、まだ十分に使えそうだった。

 IKUMIは、近くに持ち込まれていた屋台の灯りの許、まずハーブを水洗いしてサッと水を切り、残っていた根菜の葉を掻き集め、砂糖と塩、味噌と油という調味料を用意する。
 それらは元々IKUMIの屋台にあった品と、スノ、カナが料理に使った根菜の切れっぱしである。
 これらの野菜は、TURUGIがトーリンの畑で用意し、持ち込んでいたものだである。

 「さて」

 トンッ。

 シャキッ!

 タタタタタタタタッ!

 パッ!

 ドン。

 ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! 

 ダダダダダダダダダダッ!!!

 中華鍋に油を引き、かまどに置いた鍋が暖まっている間、IKUMIは手早くまな板の上で包丁を振った。残り物の根菜の葉と収穫したハーブを、適度な大きさに粗みじんに切り刻んだのである。
 さらに残っていた狼肉の硬い部位も、刃の裏部分で連続で叩いて繊維を柔らかくし、その上で豪快に切り刻んでいく
 たちまち狼肉は、ミンチ状に加工された。

 カンッ!

 バッ!

 ジュウウウウウウウウッ…

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、シャッ、シャッ、シャッ、シャッ!

 トンッ!

 パッ! パッ! ポトッ。

 ジャッ! ジャッ! ジャッ! ジャッ!

 トンッ!

 ジャッ! ジャッ! ジャッ! ジャッ!

 トンッ!

 コトッ!

 そうして後、「さあ、やるか!」とお玉と中華鍋を持つIKUMI。
 ミンチ肉から順番に熱した中華鍋へと放り込み、サッと炒めて、定石通りに適量の調味料で味付けしていく。
 しばらくして食材に丁度良く火が通り、味が整うのを待つと、IKUMIは一旦鍋をかまど横に放置し、料理を盛る大皿を用意した。

 バシャッ!

 シュザザザザッ!

 そこまで終えた後、これまたサッと包丁とまな板へと井戸水を使い、手早く洗い清める。

 「うむ。悪くない」

 そんな僅かな時間の間に、放置した中華鍋から旨そうな匂いが漂って来た。その香りを嗅ぎ、IKUMIが自分の腕前を自画自賛した。
 鍋の中の料理に味が染み渡り、より良いハーモニーを奏で、その香りを醸し出しているのだ。

 「ふむ」

 ザッ! ザッ! ザッ!

 さあ仕上げだと、ストライダーは中華鍋から大皿へと料理を移していく。
 それが終わると、中華鍋をかまど脇のスペースに置き、水を注いだ。かまどの火種も墨を両脇に寄せて灰をかぶせて置く。 

 (火種良し。掃除は食事の後だな。まずは暖かいままの料理を届けよう)

 IKUMIはそのようにして料理を終えると、「根菜の葉とハーブの肉味噌炒め」を盛った大皿を持って、幼女たちの待つ家屋へと向かって行った。
 「根菜の葉とハーブの肉味噌炒め」の味付けは濃厚だが、炊いた御飯と一緒に食べれば調度良いアクセントとなり、より一層夕食時を彩ることになるだろう。

 (まるで俺は幼女たちのシングルファザーだな。う~む、悪くはない。悪くはないが、何なんだかなぁ~)

 IKUMIは、一仕事終えて、子供に土産を持ち帰るサラリーマンのような気分となり、幼女たちの許に急いだのだった。


 ☆ ☆ ☆


 パチッ!

 幼女たちが集まった家屋内で、ぱっちりと双眸を開く幼女。
 
 「…う、ん………花の精霊の女王様が………リューコ…選ばれし者の心を守ってあげてって…言ってた………」

 長いとも、短いとも言えぬ眠りから覚めたリューコ・コリネは、そんな夢とも寝言ともつかぬことを言って、むっくりと起き上がった。
 ふわっと欠伸をして手足を伸ばすと、リューコはちょっとした屈伸運動をした後、寝かされていた簡易ベットから床に降り立った。
 この時の簡易ベットとは、IKUMIがリューコを寝かせる時に、下に敷いてくれた数枚の敷布を折って畳んだものである。

 「ん?…みんなおはよう!」

 そうして、自分を見詰めていた複数の視線に気付くと、そう元気に挨拶するのだった。
 しばらく一眠りしてリフレッシュしたのか、何と言うか邪気のない、底抜けの純粋さを秘めた挨拶だった。
 
 「…はあっ、もうですわよ、リューコ」

 「あの、リューコちゃん、お茶をどうぞ」

 「ありがとう! モモ!」

 「どう致しまして」

 「あっ、このお茶美味しい!」

 「ええ、それは良かったですの。私もさっき戴きましたわ。でも、もうすぐ夕食ですから、程々が良いですの、リューコ」

 「うん、そうする! あっ!」

 ぐぅ~!

 健康になってきたリューコのお腹が鳴った。

 「えへへ…そう言えばお腹空いたよ」

 「もう、仕方がないですのね、リューコのお腹は」

 「うふふっ!」

 恥ずかしそうに頬を染め、ちょっと困った表情になるリューコ。だが下手な言い訳はせずに、自分が腹ペコであることを素直に認めるのであった。
 その在り様を見て、マリティア、モモ、その他の幼女たちからくすくすと笑いが漏れる。
 しかし、それはどの声も、好意的な感情を含む笑い声であり、この場に和やかな雰囲気を演出する結果となっていた。

 「もう少ししたら、ストライダーさまも返ってくるよ。そうしたら一緒に食べよう。みんな一緒にね!」

 「うん、それが幸せなことだと思う」

 そこでノアとアマナがリューコに話し掛けた。

 「うん、速くやってくるとイイね! 早く食べたいよ!」

 これまた元気に返事をするリューコである。

 「あの、リューコちゃん、今晩の夕食は私とカナが調理したんだけど………口に合わなかったら先に行ってね」

 「あっ、そう言えばそうだったね」

 また、自分たちが調理した夕食がリューコの口に合うかどうか心配になったスノが口を出して来た。当然のことに、そうだったねと思い返すリューコであった。
 そして、リューコが「大丈夫、大抵の者は美味しく頂くよ」と答えようとしたその前に。 

 「え、スノ、それは大丈夫よ。だって持ってくる前に私が少しつまみ食いしたら美味しかったし」

 「!? ちょっ、カナ、あなたね、そういうことは黙っていなさい! 私もつまみ食いしたことがバレる!」

 カナの藪蛇発言が炸裂した。
 
 「…二人共?」

 「!? ほら、バレちゃったじゃない!」

 「!? えっ? 悪いの私なの? スノが自分で言い出したことじゃない!」

 「それは問題ですの………ですがみんなお腹が減っていたのは事実ですの。今回は見逃しますの」

 「…うふふ!」

 「ぷっ!」

 「フフッ!」

 「あはははっ!」

 ドッ!!!

 幼女たちが集まった家屋は、再び笑いに満ち溢れた。リューコも、最初はポカーンとした表情となったが、釣られて笑顔となる。

 「今帰った。開けるぞ」

 そんな笑顔溢れる家屋へと、一仕事も二仕事も終えたストライダーが、土産である料理を持って帰還したのだった。

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