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 第十六話 深夜の強襲、後編。

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 突然だが、話をしよう。

  KAGAMIという選ばれし者のことだ。

 だが状況は緊急を要する。話は手短に済ますとする。

 なお、私の名はTAMAKI。IKUMIたちの仲間の一人だ。

 では始める。
 

 ここ最近、IKUMI、TURUGI、そしてKAGAMIたち選ばれし者は、語り部たるこの私と共に、ホーリーズ・クランの奴隷政策に反抗していた。

 理由は単純に、クランの連中が他者を自分たちの道具としか思っておらず、我々の気に障ったからだ。

 地球からの転移者である私たちにとって、奴らは相性最悪の存在だ。その道徳性の違いから、どの道、敵対する運命の相手なのであった。

 それで、問題のKAGMIはというと、ここ北方の小国家連合で、闇の世界を探ることを担当として活動していた。

 ホーリーズ・クランは四方八方に喧嘩を売る差別的な連中なのだが、彼らがもっとも与し易しと攻勢を仕掛けたのが、北方小国家連合なのである。

 北方の小国家の指導層は、自分たちを北方諸国連合と語っているが、他国から見れば、まとまりのない連中の寄り合い所帯。国家モドキにしか見えない。

 北にある小国家の中には、水の精霊の加護を受ける蒼い髪の者たちの国もあったが、実際にホーリーズ・クランと国境を接していないため、やはり他国との連携は取れていなかった。

 だからこそホーリーズ・クランは、北方小国内部に巣食う犯罪組織を手下にしたのだ。彼らに国の内側から工作活動をさせ、元々弱かった小国家同士の連携を、さらに弱体化させるために。
 すなわち、それぞれの有力者の娘たちを人質にして脅迫し、さらに北方諸国の連携を断ち、その上で北伐するという戦略を取ったのだ。
 
 つまりホーリーズ・クランは、北国内側で誘拐事件の混乱を起こしつつ、同時に本格的な武力侵攻を開始したのだ。

 その結果、緒戦に置いて北方小国家連合は敗北。

 そのどさくさに紛れて、またも誘拐組織がハッスルし、人質となる幼女たちが多数攫われた。

 弱り目に祟り目という状況となり、さらに追い込まれた訳だ。

 実際、小国の王族の血を引く娘レベルですらも、誘拐売国組織に攫われる始末であったのだから、ますます北方諸国は敗色濃厚となった。

 そんな状況となり、北方諸国で情報収集組織の立ち上げや、ホーリーズ・クランへの対抗組織を準備していたKAGAMIが、部下を率いて前線へと出て、対策に当たらなければならなくなった。

 いくら準備不足であっても、ここで介入しなければ後がなくなってしまう状況だったのである。

 そんな事情のため、KAGAMIたち月影の衆は、まず北方諸国内部に潜む、売国組織の殲滅を開始した。

 そこで、まずは攫われている人質の幼女たち救出に乗り出したのだ。

 今現在も、そのためにこの廃村で頑張って奮戦している訳だ。

 じつに大変な事態なのである。

 さて、と。

 難しい話はこれくらいで終わりにする。

 選ばれし者の武具製造担当のこの私、TAMAKIとしては、これで先行試作型クロスボウの、性能テスト観察に戻るとしよう。


 …ブーン。


 選ばれし者TAMAKIの操るスパイ用機械虫が、闇夜に紛れてクロスボウを持つ女忍者たちの後を追っていった。


 ◇ ◇ ◇
  

 北門を突破した女忍者たちは、南門を突破したKAGAMIたちより、だいぶ遅れて収容所へと向かっていた。

 「重~い」

 「泣き言を言わないの。死体なんだから当然でしょう」

 「そ-よ。重石に、弾避けの代りにと使えるんだから、文句言わない」

 装甲牛との戦闘に際し、動きを封じる重石に利用する、倒した男たちの死体を運んでいたからだ。
 何と、彼女たちは投げ縄の反対側に死体を結び、重石に使う気なのだった。

 それはそれとして、やはり女性の身体では無理がきかない。それぞれに死体を背負うと、移動速度が大幅に低下してしまう。

 「重いよ~!」

 「気持ちは解るけど、余計ストレス掛かるから、やめて!」 

 基本、キレイな勇者さまじゃない彼女たちにとっては、人間の死体を利用する忌避感より、味方の安全を確保することを優先させる。
 また、多少は汚い手段を使っても、目的を達成することでこそ自分たちは輝くと知っていた。いまさら子供のように、キレイな勇者さまごっこに拘る女忍者でもないのである。
 しかしである。
 やはり、気持ち悪いものは悪い。
 その上死体は重いので、彼女たちの身体と精神に、無駄にストレスを掛かるのであった。

 「急ごう。それが一番だわ。早く死体を投げ縄の重石に使って、装甲牛の動きを封じ込めるのよ」

 「そうね、愚痴っていても余計に嫌な気持ちになるしね」

 「うん。いくら巨大な装甲牛と言えどもね、自慢のロングホーンに重石付きの投げ縄を付けられたらキツイはずよ」

 「まして死体は十体あるしね。それを早く済まして、この状況から解放されよう」

 「賛成!」 

 「でも問題は、お頭と南門組が私たちの到着を待たないことよね?」

 「それは解ってる、言うな!」

 「だから急ぐわよ!」

 「ええ!」

 遅れを取り戻すべく、収容所に向かう速度を上げる女忍者一同で会った。 


 ◇ ◇ ◇

 「はあっ!」

 シュンッ!

 ザンッ! ザンッ!

 シュタッ!

 ドンッ! ドドンッ!

 「ブモォ―――!?」

 大ジャンプで空中一回転。一息に収容所付近に設置された柵を跳び越え、KAGAMIが手刀を放つ。その落下の途中に狙い違わず切り落としたのは、装甲牛の背中に生えたロングホーンである。

 「御免!」

 シュッ! 

 ザンッ! ザンッ! 

 タッ! タンッ!

 トッ!

 ドンッ! ドッ、ドンッ!

 「ブゥウモォ―――!?」

 だが、KAGAMIの攻撃はそれで終わらない。素早く地面を蹴り、空中でもう一匹のロングホーンを切り落とした後、その牛の背を足場にした二段ジャンプを決行。見事に柵の外へとエスケープした。

 柵の中には、ロングホーンを切り落とされた装甲牛だけが残った。 長い角を切り落とされて失った牛は、地面に落ちた角を見詰め、哀し気に嘶くのであった。

 「計四本。だが角を落とした…それだけだ」

 (我ながら、妙な情けを掛けてしまった。一思いに首を刎ねれば、牛たちもあんなに悲しまなかったものを)

 そう呟き、自分の甘さに嫌悪感を抱くKAGAMI。

 KAGAMIは強襲によって牛の首を刎ねる予定だったのに、寸前になって牛二頭に仏心を抱いてしまったのだ。それで忍者の必殺攻撃「クリティカルヒット!首を刎ね落した!」をやめ、ただロングホーンだけ切り落としたのである。
 結果、ロングホーンを切り落とした装甲牛たちに、要らぬ悲しみを与えてしまったのだった。

 (どうせ殺してしまうなら、悲しむ暇も与えぬことこそ慈悲であろうに。不覚だ。またスグリたちに文句を言われそうね)

 その想いを断ち蹴れず、KAGAMIはその様に、余計なことを考えてしまうのであった。

 「お頭、先行し過ぎです!」

 「これじゃ、私たちの出番がなくなっちゃうよ!」

 「そうそう! 頼まれていた先行量産型のレポートも中途半端になっちゃいます!」

 そんな時、KAGAMIの許にやっと後続の南門組がやって来た。外の狙撃班に危険はないと、彼女たちを残して合流してきたスグリもいる。
 彼女たちは、柵の内部状況を見て、これは駄目よと上司に文句を言ってきた。かなりフランクな、上役と配下の関係がそこにあった。

 「それにお肉を殺してないよー! 危ないんだからちゃんと止めを刺さないとー!」

 「お頭、長い角がなくったって、装甲牛は十分に脅威なんですよ!」
 
 「理由もなく切り落とす訳じゃないんです。あれだけ身体が大きいと、突進されるだけで十分脅威です」

 「…ご…めんなさい」

 KAGAMIは、配下の忍たちに子供を諭すように怒られてシュンとなる。予想通りに怒られたので、本当に下手打ったわと、後悔したのである。
 こういった時に人の良さが出て、配下たちの言うことを素直に聞いてしまうKAGAMIである。
 彼女はちょっとポンポンがペインになった。 

 「解ればいいんです。解れば!」

 「お頭、素直で可愛い」

 「次から気をつけてね」

 それに実際、彼女たちがKAGAMIに言い聞かせたことは事実である。

 背中に角有りの装甲牛が頭を下げて突進してくると、まるで長槍二本によるランスチャージである。
 頭を下げると、背中の装甲に連動するロングホーンが前方に突き出される形となり、歴戦の侍も慌てて逃げ出す重戦車となる。
 また、ロングホーンが切られた背中の角無し牛であっても、装甲に覆われた軽自動車が突っ込んでくるみたいなもので、充分脅威であった。

 つまり、KAGAMIの行為は、ただ危険さの種類を変更しただけであった。

 「これじゃだめだよ」と、彼女たちがKAGAMIを諭すのは当然と言えた。

 パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!

 「ブゥモォ――――!!!」

 !?

 その時、収容所の北側から爆竹の音と、装甲牛の嘶く声が聞こえてきた。北方面の柵でも、装甲牛との戦闘を開始したのだろう。これで敵の狙撃手も、爆竹の音に意識を持って行かれ、北側へと向かうはずだ。

 「…行くわよ、みんな!」

 「了解よ! スグリ!」

 「ええ!」

 「おうっ!」

 「牛君、恨みはないが、君には仲間たち共々、死んで貰うよ」

 「すまん」

 「持ち帰る暇があれば、お肉は食べさせて貰うね」

 好機と見て攻勢へと出る女忍者たち。
 前衛兼突撃班は柵をよじ登り、狙撃班は狙撃可能なポイントへと移動を開始した。

 だが、南門組は北門組とは少し戦術が違った。

 北門組は、投げ縄に重石となる死体を繋ぎ、装甲牛たちの動きを封じて倒す戦法を取っていたが、南門組は、突撃班が火炎瓶で驚かせて仰け反らせた後、装甲牛の弱点、装甲のない腹部を狙撃班が狙い撃つ戦術だった。

 「これを突破すれば、後は収容所に突入するだけよ! みんな頑張って!」

 KAGAMIの副官であるスグリの号令の下、女忍者の前衛兼突撃班、狙撃班は、敵に向かって突き進んでいった。  

  
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