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 第十五話 深夜の強襲、中編。

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 ザシュッ!

 「…そん…な、バカな…」

 ドサッ。

 南門で最後まで生き残った男が、そう言い残して絶命した。その身体を支える意思が消滅し、男の死体は大地へと倒れ伏していった。
 粗野な精神しか持たず、組織に良いように使われていた五人の男は、こうして全滅した。
 自分たちが関係していた奴隷貿易の罪深さも、その意味も理解できないまま、他人に使われただけの人生が終了したのだ。
 
 ポト…ポト…
 
 戦闘を終えたKAGAMIの指先から、男たちの血液が滴っていた。

 シュッ!

 その紅い雫が宙を舞う。血塗れの指先を振って、忍が真っ赤な雫を払い落としたのだ。

 そう。

 KAGAMIは貫手だけの徒手空拳で連戦し、五連勝して男たちの息の根を止めたのだった。

 基本、別行動を取っているならともかく、KAGAMIは自分がいる場合には、配下の者たちに危険を犯させはしない。
 そんな考えの下、自分が先頭に立って粗野な男たちを倒したKAGAMIであった。

 じつに甘い考えだが、KAGAMIは見事にそれをやり遂げる腕前を持っていた。

 「…」

 (甘いな、私も)
 
 正直、それを自覚して、少し自己嫌悪するKAGAMIである。

 実際、傍から見れば、KAGAMIの忍の頭領としての評価は「甘っちょろいお人好し」というものであろう。

 しかし、配下の女忍者たちには、KAGAMIの甘い頭領振りは大人気であった。

 彼女たちは、常日頃からKAGAMIに感謝して噂し合っていた。共通の話題として調度良かったこともあり、それは彼女たちの共通認識となる。

 「だって他にはいないでしょう? 頭領なのに、配下の私たちの身の安全を第一に考えてくれて、前に出て戦ってくれる人なんて、ねえ?」

 「そうそう。私たち、他の忍の衆よりよっぽど恵まれてるわ。大事にしなくっちゃ」

 「御給金も相場より多いしね♪」

 「そうね。僅かな御給金で忍を使い捨てしないもの。そんな人、私たちの頭領ぐらいよね!」

 「闇夜に吹き抜ける爽やかな一陣の風。それが私たちの頭領」

 「何で詩的なこと言ってるのよ君は。恥ずかしいな」

 「いいじゃないの、もう」

 「忍者なのに非道は行わず、攫われた女の人や、借金で首が回らなくなった人を助けるのって…イイよね」

 「…イイ」

 等々。

 そんな会話の通り、彼女たちKAGAMI配下の女忍者は、本当に指揮が高かった。そのためKAGAMIへの忠誠心も高く、上役と配下としての関係は良好であった。

 そりゃ、地球側でもこちら側の世界でも、ブラックよりホワイトな職場の方が良い。

 当たり前といえば当たり前のことである。

 そんなこんなで、上役と配下たちの関係は良好であった。もちろん、誰もそんなKAGAMIの行動指針を咎めはしない。
 故にKAGAMI自身も、「自分は甘いな」と認識しつつも、その頭領としての行動は治さなかった。

 だからこそ、それ状況は今回の襲撃でも変わらないままなのであった。

 KAGAMIは今夜も、その身体を張って前線で戦っていた。


 それはさておき。


 「貴女たち、行くわよ」

 「はい! サクノ班、前進します!」

 「サクメ班、合流しました!」

 KAGAMIの呼び掛けに応え、闇夜に紛れていたサクノの突撃班、続いてサクメの率いる狙撃班が制圧した南門へと集結した。
 なお、サクメ班とは、元々の整備班が狙撃班へと合流した後、狙撃ポイントへ残った者たちと別れ、再編された班である。
 分散するに当たり、元々整備班所属のサクメが、新班のリーダーとなっていた。

 「では、予定通りに私が囮になる。サクノ、サクメ班共に臨機応変に行動しなさい」

 そう言い残し、廃村の広場へと向かって走るKAGAMI。

 再び自分が危険な囮役となって敵を釣り出し、部下たちが安全な立場に立って敵を攻撃するパターンを実行する気であった。

 「行くよ」

 「ええ、頭領の邪魔にならないように前進」

 結局、頭領であるKAGAMIの指示通りにすることが、一番無駄が少ないと知る忍たちである。
 大人しくKAGAMIの指示に従い、適度に間隔を開け、その後を追う。

 
 ◇ ◇ ◇


 「うおおおっ!」

 「ッシャア!」

 「オオオオッ!」

 広場へと進入したKAGAMIを見咎め、襲い掛かってくる組織の下っ端の男たち。もっとも、その数は少ない。
 当初、この広場には十数人の男たちがいたが、五人ずつが北門と南門。二人が中央の収容所。三人がここに残るという決断をし、分散していた。
 攻め手の月影の忍たちにすれば調度良く各個撃破ができる分散状況だったが、守備側の男たちにしてみれば、そんな事が解るはずもない。
 良かれと思ってそれぞれの防衛拠点へと散ってしまった。

 ドスッ!

 「!? ギャッ!」

 クルンッ、グギッ!

 タッ!

 シャッ! シャッ! 

 ドスッ! ドスッ!

 「げっ!」

 「がっ!」

 KAGAMIは、神速の踏み込みを見せて一人目の片眼を貫手で突く。そして、すぐさま男の顎を蹴り上げてバク転。宙を舞った。
 見事に着地すると、もう片方の腕で二人目、三人目へと苦無を投げつけた。無論、二人の男に回避は不可能。
 それぞれ、防御していない太腿に攻撃を受けて、移動力が大幅低下させてしまう。
 一切の無駄のないその攻撃によって、三人の男が継続戦闘能力を大幅に削られた。ほぼ一瞬のうちの出来事である。

 「加勢します!」

 「同じく!」

 そこに、サクノ、サクメ班が合流した。

 「!? なっ、そんな、南門の連中はどうした?」

 「…クソッ!」

 そう狼狽する男二人。あまりの戦力差に絶望する。なお、片眼を失い、顎を蹴られた男は、ショックで失神している。

 冴え渡る月影の下、二人の男は顔面に絶望を貼りつけて、集まってきたKAGAMIたちを見詰める。そんな彼らに、連装クロスボウの射者たちが攻撃の構えを取る。

 「き…」

 「放て!」

 「まっ!」

 カチッ。 

 バシュ! バシュ! バシュ!

 バシュ! バシュ! バシュ!

 バシュ! バシュ! バシュ!

 二人が降伏を申し出ようとした瞬間、サクメ班による近距離射撃が開始された。まず三人が連装クロスボウを放ち、敵が生き残ったら、他の者がまた放つという、二段構えの攻撃体勢だ。

 ドスッ! ドスッ! ドスッ!

 ドスッ! ドスッ! ドスッ!

 ドスッ! ドスッ! ドスッ!

 気絶した一人、太腿をやられた二人。共に連装クロスボウの矢弾を躱す手段はない。反撃も命乞いもできないまま、三人は串刺しにされ息絶えた。
 廃村広場もまた、南門同様、KAGAMI率いる月影の衆があっさりと制圧したのだった。

 「ここまでは順調。残りは収容所ね。気を引き締めていきましょう」

 「了解です!」

 「了解しました」

 「収容所か。事前情報があったが出てくるよね」

 「そうね。でも対策はしてきたよ」

 「そうよ、大丈夫なはず」

 「恐れて引いたら被害が拡大するよ。一気に行くべき」

 「私たちだって何時までも子供じゃないもん。やろう」

 「うん!」

 上手く三人を倒したKAGAMIと女忍者たち。
 だが頭領のKAGAMIは、今だからこそ気を引き締めろと、配下の者たちに警告を発する。
 その言葉をサクノ、サクメは素直に聞いたのだが、その配下たちといえば、お互いに会話することで不安を振り払っていた。

 彼女たちは、次の相手が普通ではないと理解していていた。

 KAGAMIたち月影の衆は、悪戯に時を過ごしていた訳ではない。売国組織への諜報活動の合間に、この廃村に配備されたの情報も入手していた。 

 「その通り。収容所の周辺の柵の中には、角を切り取っていない装甲牛が放し飼いにされているわ。おまけに収容所内部には、据え付けの飛び道具も複数あるでしょう」

 その通りである。
 部下たちの会話を耳にしたKAGAMIが語ったように、広場から見える収容所付近は柵で囲われ、明らかに巨大な生き物が放し飼いにされている痕跡があった。
 調べによると、その生物は背中の装甲部分からロングホーンを生やした、大型の装甲牛であった。

 人が飼育する大半の装甲牛の多くは、子供の時分に背中の角を切り落とされて、頭部の短い角だけになる。
 しかし、生物兵器として利用される装甲牛は、背中の角も切られずに、身体も大きくなるように特別な飼育がなされる。

 それが、この廃村に売られ、運ばれたとの情報があったのだ。月影の衆は程なくその生物兵器たちと遭遇し、戦わなければならない。

 「それでも私たちは逃げない。準備はみんな出来ているわよね?」

 「はい、はい! 私は大丈夫です!」

 「ずるい! 一人だけ良い子のふりして! 私だって準備してきたもの!」

 「問題ありません」

 「同じく」

 「遅れは取りません」

 「恐れは捨てたで候」

 「もう仔犬じゃないんです!」

 KAGAMIの激励に鼓舞された女忍者たちがそう返答する。みんな怖気を吹き飛ばし、目標達成まで突き進むことに同意した。
 この勢いを待って、捕らわれている幼女たちは救い出さないとならないのだと。

 なぜなら、すでに幼女たちの買い手は決まっているとの情報があるからだ。
 今回の救出の機会を逃せば、散り散りに販売された幼女たちを別々に保護することは不可能だ。ここで怖気付いて逃げ出すことは許されない。

 月影の衆は、もう、そうしなければならないとの意見で一致していた。

 「では、行きましょう。五頭中、二頭は私が始末して見せます。他は貴方たちが仕留めて見せてね」

 タッ! タタタタッ!!!

 もはや忍んで走る必要もないと割り切り、KAGAMIは全速力で走り出した。部下の女忍者たちを置いて目的地へと向かって行く。

 「私たちも!」

 「うん!」

 「行っくよー!」

 「遅れるなよ!」

 「遅参は恥ぞ」

 「狙い撃つ!」

 「遅れちゃ駄目だよ!」

 「もっちろん!」

 KAGAMIの背後を、気勢を上げて彼女たちが追って行った。その全員が、自分が頭領をサポートしてみせるんだと心に決めて。 
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