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第十八話 ミサンガの切れるときには
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朝食をとったあと、ナディアの提案でミサンガをつくることに。
彼女は手芸が好きで、寮室でも刺繍や編み物、パッチワークなどに勤しんでいた。夏休みの間に何か大作をつくろうと手芸関連の本を眺めていたところ、ミサンガのページを見つけたらしい。
「願いを込めて結んで~、紐が切れたときにその願い事が叶うんだって。面白そうでしょう?」
「カトリーヌには難しいんじゃないかー?」
「ハァ~? バカにすんなよ、こんなの朝飯前だから! ……2本のやつなら多分」
「朝飯ならさっき食ったばっかだけどなー」
「これは言葉のアヤですぅ! そんなことも知らないのか?次席のクセに」
「言葉の綾っていうか、慣用句だなー。無理して難しい言葉使わなくても大丈夫ですよ? 赤点ギリギリさん」
「うっさいなぁ! そういうカイトだって手先は器用なのかよ」
「いやー、全然だめっすねー。……アニー、オレの分も作ってくれないっ?」
「だめだ」
「ミカ先輩には聞いてないんですけどー!」
「……早く始めよう」
「意外とハリー先輩が乗り気!」
「ていうかカイト、カトリーヌにちょっと言いすぎじゃない? 揚げ足を取るような言い方までして」
「……ごめんなさい」
「やーい! カイト、アニーに怒られてやんのー! ぷぷぷー」
「カトリーヌも調子に乗らないの」
「……ごめんなさい」
「ほらみんな~、色んな糸持ってきたから、好きなの使ってね~」
「わー! たくさん! こんなに持ってきてくれてありがとうね、ナディア」
「いいのよ~、ナディアがみんなと作りたかったんだもの」
ミカが刺繍糸を手に取りながらナディアに尋ねる。
「これって、色ごとに何か意味があったりするのかな」
「そうですね~。この本には、白は健康、黄色は金運とか、意味も載ってるんですけど、しばらく身に着けるものだし、あげる相手や自分の好きな色を使うのがいいとも書いてあって、ナディアはどちらかというと後者推しかな~」
「確かにそれもそうだね、ありがとうナディア」
「ちなみに~、恋愛系の願い事には、ピンクがいいみたいです」
耳をぴくっとさせたミカは、青や黒、紫の糸を取った後、しゅっとピンクの糸も取っていった。私も自分の好きな色を中心に糸を選び、皆の手元にある糸を見る。
「ナディアと私以外、皆ピンクを選んでるんだね」
「アーハハー、ほら、赤にピンクって似合うじゃん? アタシ赤が好きだからさ、赤をメインにして考えてみたのさ」
「あー、オレも―、ピンクがアクセントとしてちょうどいいなーってねー、ヘヘ」
「ハリーも、色のバランスを見て決めたのかい?」
「……いや、意味で選んだ」
「ええ! そうなの⁈ ハリーに想い人がいたなんて聞いてないよ? 僕」
「……言ってないから」
「ずるいじゃないか! 僕はいつもハリーに包み隠さず話してるというのに!」
「……聞いてないけど」
「そもそもハリーが女生徒と話しているところなんて、数えるほどしか見たことがないが……」
「まーまー、いいじゃないっすか、ミカ先輩」
「友達だからって、何でもかんでも共有しなきゃいけないってワケじゃないしな」
「! ……そうか、それもそうだね。……すまない、ハリー。予想外のことに気が動転してしまった」
「あぁ、気にしてない。……いいから早く作ろう」
「やっぱりハリー先輩が一番乗り気なんだよなー」
ナディアに教わりながら、皆でミサンガを編み始める。
「思ってたより簡単だな!」
「こういう単純作業って無心になれるなー。ナディアが手芸にハマる気持ち、分かったかも、オレ」
「うふふ、慣れると簡単でしょう~?」
「私めちゃくちゃ不器用なんだけど、ミサンガなら一本作りきれる気がしてきた」
「アニーって不器用か? アタシにはそうは見えないけど」
「な。字が綺麗で絵も上手、何でも卒なくこなすスーパーガールだと思ってるぜ、オレは」
「……スーパーガールゥ?」
「何だよ、文句あんのかよ」
「……ださいな」
「アハハ! ハリー様に言われてやんの」
「ミカ先輩なら分かってくれるよなー⁈」
「まぁ、言語というものは、女神の全てを言い表すにはまだまだ発達しきっていないからね。スーパーガールという表現も、限りある語彙の中で出てきた表現としては、かなり適切なのではないかと僕は思うよ」
「うーん、真面目に分析されても、それはそれで恥ずかしい!」
私の学生時代の家庭科の成果物は、とんでもない出来だったと思う。テストの点数で成績をカバーしていたといってもいいくらい。
中学2年生くらいのときに、聖歌集カバーをつくる授業があった。聖歌集とは、キリスト教の宗教歌をまとめた本で、毎週水曜日の聖歌朝礼と毎月のミサ……まぁ集会のようなものだ、で手元に用意しておかなければならない、カトリックの学校では使用頻度の高い本である。
聖歌集カバーの制作工程は①カバー本体に使用する布を機械で裁断する②裁断部分を学年カラーのリボンで縁取る③刺繍でどんな模様を描くか設計図を作る④刺繍で模様を描く……というものだったのだが、まず①で切り口がガッタガタになり、②を行う際に、線が真っ直ぐでないから縁取りきれず、その時点で嫌になっていた。確か③④は夏休みの宿題だったのだが、まぁこんな感じでいいだろうと見切り発車で刺繍して、無理やり完成させた。夏休み明けに皆のカバーを見て、ものすごく丁寧に凝った刺繍が施されていて、感心したのをよく覚えている。皆は完成した聖歌集カバーを自分の聖歌集につけて使用していたが、嫌すぎてすぐに外し、自分だけ剝き出しの聖歌集を使っていた。
その他にも家のお茶入れのフタがなかなか開けられなかったり、ボールの投げ方が下手だったり、母親からは「他のひとができないことはできるのに、日常生活は本当に不器用だよね」とよく言われていた。前半部分がなければただの悪口である。
昔を思い出しながら、ミサンガ完成。
「自分でつくると愛着が湧いてくるもんだな!」
「そうだね、いつか千切れてしまうのがもったいないくらいだ」
「みんな願い事は決まってるかしら~?」
「おう!ばっちりだー!……ハリー先輩はどうしたんですか」
窓際でミサンガを光に照らして眺めるハリー。
「きっと手芸の経験が今までなかったから、自分の手で物を生み出せたってことが嬉しいんじゃないかな」
聖ロマネス学園では選択授業があり、家庭科の授業もそのひとつ。剣術の授業と時間帯が被っていることもあり、多くの男子生徒は家庭科の授業を受けたことがないのだ。ちなみに、私はこの設定をつくってはいない。ヒロインが家庭科の授業でつくったチョコレートを、別の授業を受けていた攻略キャラクターにあげる……というようなシーンをつくったばっかりに、こういうことになっているようだ。
「でも、こんなに楽しいんだったらオレも家庭科の授業受けてみたいなー。剣術も家庭科も両方受けられるようになったらいいのに」
「それはいいな! 剣術の授業とってる女子が増えたら、手合わせの機会増えるし!」
「……カトリーヌは家庭科ではなく剣術の授業をとっているんだね」
「そうさ、悪い?」
「いや、全く悪くない。むしろ僕の中にいらない固定概念があったようだ、すまない。夏休み明けに学園に提案してみよう、剣術も家庭科も、男女ともに受けたい者が受けられる仕組みづくりをね」
「それは素敵な提案だね! ミカが言えば学園もすぐに動いてくれると思うけど、人手が必要なときは言ってね! 私も力になりたい」
「オレもオレもー! アマリリスの皆でこの案通そうぜ!」
そうして盛り上がったのち、皆でミサンガを結んで、お泊まり会はお開きとなった。
その後私は、長い夏休みを過ごす中で、自分の手首に結んだミサンガを見ては、この夏のひと時の思い出を噛みしめるのであった。ミサンガに込めた願い事が、叶ってほしいような叶ってほしくないような、少し複雑な想いを胸に抱きながら……。
彼女は手芸が好きで、寮室でも刺繍や編み物、パッチワークなどに勤しんでいた。夏休みの間に何か大作をつくろうと手芸関連の本を眺めていたところ、ミサンガのページを見つけたらしい。
「願いを込めて結んで~、紐が切れたときにその願い事が叶うんだって。面白そうでしょう?」
「カトリーヌには難しいんじゃないかー?」
「ハァ~? バカにすんなよ、こんなの朝飯前だから! ……2本のやつなら多分」
「朝飯ならさっき食ったばっかだけどなー」
「これは言葉のアヤですぅ! そんなことも知らないのか?次席のクセに」
「言葉の綾っていうか、慣用句だなー。無理して難しい言葉使わなくても大丈夫ですよ? 赤点ギリギリさん」
「うっさいなぁ! そういうカイトだって手先は器用なのかよ」
「いやー、全然だめっすねー。……アニー、オレの分も作ってくれないっ?」
「だめだ」
「ミカ先輩には聞いてないんですけどー!」
「……早く始めよう」
「意外とハリー先輩が乗り気!」
「ていうかカイト、カトリーヌにちょっと言いすぎじゃない? 揚げ足を取るような言い方までして」
「……ごめんなさい」
「やーい! カイト、アニーに怒られてやんのー! ぷぷぷー」
「カトリーヌも調子に乗らないの」
「……ごめんなさい」
「ほらみんな~、色んな糸持ってきたから、好きなの使ってね~」
「わー! たくさん! こんなに持ってきてくれてありがとうね、ナディア」
「いいのよ~、ナディアがみんなと作りたかったんだもの」
ミカが刺繍糸を手に取りながらナディアに尋ねる。
「これって、色ごとに何か意味があったりするのかな」
「そうですね~。この本には、白は健康、黄色は金運とか、意味も載ってるんですけど、しばらく身に着けるものだし、あげる相手や自分の好きな色を使うのがいいとも書いてあって、ナディアはどちらかというと後者推しかな~」
「確かにそれもそうだね、ありがとうナディア」
「ちなみに~、恋愛系の願い事には、ピンクがいいみたいです」
耳をぴくっとさせたミカは、青や黒、紫の糸を取った後、しゅっとピンクの糸も取っていった。私も自分の好きな色を中心に糸を選び、皆の手元にある糸を見る。
「ナディアと私以外、皆ピンクを選んでるんだね」
「アーハハー、ほら、赤にピンクって似合うじゃん? アタシ赤が好きだからさ、赤をメインにして考えてみたのさ」
「あー、オレも―、ピンクがアクセントとしてちょうどいいなーってねー、ヘヘ」
「ハリーも、色のバランスを見て決めたのかい?」
「……いや、意味で選んだ」
「ええ! そうなの⁈ ハリーに想い人がいたなんて聞いてないよ? 僕」
「……言ってないから」
「ずるいじゃないか! 僕はいつもハリーに包み隠さず話してるというのに!」
「……聞いてないけど」
「そもそもハリーが女生徒と話しているところなんて、数えるほどしか見たことがないが……」
「まーまー、いいじゃないっすか、ミカ先輩」
「友達だからって、何でもかんでも共有しなきゃいけないってワケじゃないしな」
「! ……そうか、それもそうだね。……すまない、ハリー。予想外のことに気が動転してしまった」
「あぁ、気にしてない。……いいから早く作ろう」
「やっぱりハリー先輩が一番乗り気なんだよなー」
ナディアに教わりながら、皆でミサンガを編み始める。
「思ってたより簡単だな!」
「こういう単純作業って無心になれるなー。ナディアが手芸にハマる気持ち、分かったかも、オレ」
「うふふ、慣れると簡単でしょう~?」
「私めちゃくちゃ不器用なんだけど、ミサンガなら一本作りきれる気がしてきた」
「アニーって不器用か? アタシにはそうは見えないけど」
「な。字が綺麗で絵も上手、何でも卒なくこなすスーパーガールだと思ってるぜ、オレは」
「……スーパーガールゥ?」
「何だよ、文句あんのかよ」
「……ださいな」
「アハハ! ハリー様に言われてやんの」
「ミカ先輩なら分かってくれるよなー⁈」
「まぁ、言語というものは、女神の全てを言い表すにはまだまだ発達しきっていないからね。スーパーガールという表現も、限りある語彙の中で出てきた表現としては、かなり適切なのではないかと僕は思うよ」
「うーん、真面目に分析されても、それはそれで恥ずかしい!」
私の学生時代の家庭科の成果物は、とんでもない出来だったと思う。テストの点数で成績をカバーしていたといってもいいくらい。
中学2年生くらいのときに、聖歌集カバーをつくる授業があった。聖歌集とは、キリスト教の宗教歌をまとめた本で、毎週水曜日の聖歌朝礼と毎月のミサ……まぁ集会のようなものだ、で手元に用意しておかなければならない、カトリックの学校では使用頻度の高い本である。
聖歌集カバーの制作工程は①カバー本体に使用する布を機械で裁断する②裁断部分を学年カラーのリボンで縁取る③刺繍でどんな模様を描くか設計図を作る④刺繍で模様を描く……というものだったのだが、まず①で切り口がガッタガタになり、②を行う際に、線が真っ直ぐでないから縁取りきれず、その時点で嫌になっていた。確か③④は夏休みの宿題だったのだが、まぁこんな感じでいいだろうと見切り発車で刺繍して、無理やり完成させた。夏休み明けに皆のカバーを見て、ものすごく丁寧に凝った刺繍が施されていて、感心したのをよく覚えている。皆は完成した聖歌集カバーを自分の聖歌集につけて使用していたが、嫌すぎてすぐに外し、自分だけ剝き出しの聖歌集を使っていた。
その他にも家のお茶入れのフタがなかなか開けられなかったり、ボールの投げ方が下手だったり、母親からは「他のひとができないことはできるのに、日常生活は本当に不器用だよね」とよく言われていた。前半部分がなければただの悪口である。
昔を思い出しながら、ミサンガ完成。
「自分でつくると愛着が湧いてくるもんだな!」
「そうだね、いつか千切れてしまうのがもったいないくらいだ」
「みんな願い事は決まってるかしら~?」
「おう!ばっちりだー!……ハリー先輩はどうしたんですか」
窓際でミサンガを光に照らして眺めるハリー。
「きっと手芸の経験が今までなかったから、自分の手で物を生み出せたってことが嬉しいんじゃないかな」
聖ロマネス学園では選択授業があり、家庭科の授業もそのひとつ。剣術の授業と時間帯が被っていることもあり、多くの男子生徒は家庭科の授業を受けたことがないのだ。ちなみに、私はこの設定をつくってはいない。ヒロインが家庭科の授業でつくったチョコレートを、別の授業を受けていた攻略キャラクターにあげる……というようなシーンをつくったばっかりに、こういうことになっているようだ。
「でも、こんなに楽しいんだったらオレも家庭科の授業受けてみたいなー。剣術も家庭科も両方受けられるようになったらいいのに」
「それはいいな! 剣術の授業とってる女子が増えたら、手合わせの機会増えるし!」
「……カトリーヌは家庭科ではなく剣術の授業をとっているんだね」
「そうさ、悪い?」
「いや、全く悪くない。むしろ僕の中にいらない固定概念があったようだ、すまない。夏休み明けに学園に提案してみよう、剣術も家庭科も、男女ともに受けたい者が受けられる仕組みづくりをね」
「それは素敵な提案だね! ミカが言えば学園もすぐに動いてくれると思うけど、人手が必要なときは言ってね! 私も力になりたい」
「オレもオレもー! アマリリスの皆でこの案通そうぜ!」
そうして盛り上がったのち、皆でミサンガを結んで、お泊まり会はお開きとなった。
その後私は、長い夏休みを過ごす中で、自分の手首に結んだミサンガを見ては、この夏のひと時の思い出を噛みしめるのであった。ミサンガに込めた願い事が、叶ってほしいような叶ってほしくないような、少し複雑な想いを胸に抱きながら……。
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