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Discipline4 日常化する調教
第五話 温泉宿にて⑤
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「まず聞くけど、なんで裸なの?ここでは湯浴み着の着用がマナーでしょう?」
「慌てて部屋を出てきたから忘れたんですよ。内湯だけにしようかと思ったけど露天風呂にだれもいなそうだったし、雨の降る深夜にもう誰も来ないかと思って」
二人は足湯の奥に並んで座ってぼそぼそと会話している。細雨は大雨に変わっている。芽美の悲鳴と騒ぎの音は大雨の音に消されて母屋にまで届いていないと思われた。
平手打ちされた若者は落ち着きを取り戻し、足湯の中で立てることがわかると恥ずかしげな顔をしてそそくさと足湯を去ろうとした。
しかし、芽美は雨が酷いからしばらく雨宿りしなさいと命令口調で言って、気弱そうなこの男子を強引に引き止めた。同じく気弱な芽美といえども、自分の痴態を見られ、しかもスマホでそれを撮影された懸念があるとなれば必死だった。
「どうして慌てて部屋を出る必要があるのよ?」
「それは、そのう・・・」
「言えないってことは、やましい理由なのね?スマホを持ってるのも怪しいし。やっぱり盗撮しようとしたんじゃないの?部屋の窓から私が一人で足湯に向かうのが見えて慌てて来たんでしょう、盗撮魔さん?」
「ちがいます!部屋の窓から露天風呂は角度的に全く見えませんから!スマホは普段お風呂に持ち込んでるからつい・・・だれもいないからいいかと・・・」
「なるほど、ばれたときはそうやって言い訳してるのね、常連盗撮魔さん?」
どの部屋の窓からも見えないことは芽美にもわかっていた。部屋と風呂の位置関係は川沿いに横に並んでいて、部屋の窓は川の方角にしかないのだから。スマホを持っているという弱みを徹底的に突き優位に立ちたいための方便である。
オナニーを見られたことは間違いない。口止めをするにはなんとかして男の子の弱みを握る必要がある。気弱そうだから絶対に誰にも言わないでといえば承諾しそうだが、見知らぬ人間の口約束など信用できるわけがなかった。
「だから違いますって!そのう・・・実は彼女とケンカして部屋を追い出されたんですよ、スマホも投げつけられて仕方なく持ってきただけです」
「盗撮魔のくせに彼女いるなんてウソでしょ?そもそも深夜にどうしてケンカなんてしたのよ?普通のカップルならエッチして仲良く寝入ってる頃合でしょうに」
「・・・それがそのう・・・それがケンカの原因で・・・・・」
「エッチがってこと?誤魔化さずにはっきり言いなさい。盗撮犯として警察に通報されるかどうかの瀬戸際だってことわかってるのかな?」
「えっ!?それは困ります!」
「なら包み隠さず全部話しなさい!」
「は、はい!彼女とは昨年学祭で知り合ってクリスマスから付き合い始めたんです」
警察に通報と聞いて動揺したのか、若者は彼女との馴れ初めから語り出す。芽美はどこかで弱みを握れないかと続きを促す。
「クリスマスから交際開始なんてロマンチックね、それで?」
「ええ、それで何度かデートもしたんですが、女性と付き合ったのは彼女が初めてで」
「つまりエッチしたことがなかったってこと?」
「はい、エッチはおろか恥ずかしながらキスもしたことありませんでした」
「そんなの別に恥ずかしいことじゃないわ、よくある話よ。で、今はもう経験済みと?」
「キスはホワイトデーにバレンタインチョコのお返しに彼女にねだられて初体験しました。それでいよいよ初エッチをということになって、思い出に残る場所でしたいと彼女にこの宿をおねだりされてしまって」
「この宿はなかなか予約がとれないって聞いたけど?」
「ええ、彼女も、どう頑張っても予約できなかったらしいです。僕は家族で毎年利用しているけどそうなの?って話したら食いつかれました」
芽美は思う。
―ここを毎年利用しているなんて良家のお坊ちゃんなのね―
「素敵な宿ですものね、深夜に盗撮魔が出ることを除けば」
「だから違いますって!あとでスマホの写真フォルダお見せしますから!」
「ああ、それは良い考えだわ。それで初夜はどうだったの?ケンカしたってことは上手くいかなかったんでしょう?」
「その通りです。緊張をほぐすためにお酒をたくさん飲んだら立たなくなってしまって・・・酔いがある程度醒めてちゃんと勃起するようになるまで彼女を待たせて、雰囲気を壊してしまって。
それでもせっかくなので行為に及んだのですが、僕の愛撫は下手すぎて全然気持ちよくないどころか痛いらしくて。どうしたらいいか彼女に細かく尋ねながらやってはみたのですが、焦って上手くいかないし。その間にアレが萎えてちゃうのですが、そのたびに彼女が口で大きくしてくれて・・・でもそれが上手すぎて引いてしまったり。彼女のアソコも全然濡れなくて、何度挑戦しても挿入まで至りませんでした。
僕のアレは膨張と収縮を繰り返してヘビの生殺し状態だったので、とうとう我慢できなくなって『口でイカさせて欲しいな、口の中には出さずにちゃんと顔にかけるから』と言ったらキレられました。
『もう無理!AVばっかり見てないで、スマホで検索して女心とエッチの仕方を勉強してよ!あなたといるとイラついて眠れないから風呂でも入ってきて!』と怒鳴られスマホと一緒に部屋を追い出された、というわけです、はぁ」
芽美も溜息をつく。
「彼女が怒るのも無理ないわね」
「そうですか?いったいどこが悪かったんですか?やっぱり童貞で経験のないところでしょうか?」
「いいえ、そこは問題ではないわ。ひとつ確認したいのだけれど、最初に声をかけたり付き合おうと告白してきたりしたのも彼女のほうからかしら?彼女のほうが年上だったりする?」
「そうです、よくわかりますね!?僕は22歳で彼女は25歳です」
―まったく、最近の若い男の子ときたら・・・―
つい最近までの自分のことを棚にあげて、上から目線で彼を評価する芽美。
「今までの話を聞けばだれでもすぐ想像つくわよ。だって全部彼女がリードしているんだもの。初エッチだって彼女がなんとかしてくれると思って何も勉強してこなかったんじゃないの?どういう愛撫なら女の子が感じるのかとか、エッチのときの女の子の気持ちの盛り上げ方とか」
「えっと、AVなら何本かじっくりと見てみたのですが」
「あんな男性向けの内容、現実とは全く違うわよ。どうせ旅行まで我慢できずに、エッチの勉強を名目に、彼女似の女優さんが出演してるAVで一人エッチしてたとかでしょ?」
「うっ、そんなことは」
うろたえる若者。図星だった。
「それに彼女がフェラが上手だからって引いてるくせに、それでイカせてもらおうなんて都合が良すぎると思わない?彼女はAV女優でも風俗嬢でもないのよ?どうせ好きでもないのに告白されて、エッチできると思ってカラダ目当てで付き合いだしたとかじゃないのかしら?」
「・・・そういう気持ちがなかったとは・・・言えません・・・」
「なら矛盾したこと言わないで頂戴。未経験の処女の子がいいなら彼女じゃなくて他の女の子を自分で口説いてみたらどうなの?18歳くらいの大学生になったばかりの処女っぽい女の子。学生ならサークルなんかで知り合う機会はたくさんあるでしょう?大学もよさそうなとこ通ってそうだし。大学はどこなの?」
「KO大学の理工学部です。でもサークルはもう引退しました。フットサルやってたのですが、理系なので研究で忙しくなってきたし、就職するか院に行くかを決める大事な年なので」
―やっぱり。幼稚舎からずっとなんでしょうね。良く見ると顔は整ってるし、身体も細マッチョっていうやつ、細いのに筋肉がしっかりしてそう。腹筋も割れてはいないけど引き締まってるし。背も高い・・180センチくらい?そのわりに童顔で男にしては声が高めだから子どもっぽく感じるけど可愛いともいえる。お坊ちゃん気質で気弱なことを除けば全然ありだわ。その彼女もそんな風に思って先物買いしようとしたのかな?―
「進路に悩んでフラストレーションが溜まって盗撮に逃げてしまったというわけ?」
「ほら、写真見てくださいよ!撮ってませんから!」
若者はスマホのロックを解除して芽美に差し出してくる。
「やましい事は全くないので全部見てください!操作方法はわかりますか?」
妹と同じ防水機能付きのアンドロイドスマホだった。
「大丈夫。使ったことあるから」
そう言って芽美は写真フォルダを開く。画像も動画も芽美を撮ったものはなく、この露天風呂の画像も他の風呂で盗撮したような画像も皆無だ。最新の写真は若者と彼女らしき女の子がこの宿の看板の前で二人並んで写っている写真。それより前は彼女の写真がちらほらとあるほか、なぜか草木や花の写真が大量にあった。
「認めたくはないけど、盗撮魔ではなさそうね」
「そこは素直に認めてくださいよ!」
「でも怪しい写真がたくさんあるわね!」
「え、そんなのありますか?」
「いったいこの大量の植物の写真はなんなの?」
サムネイルを指差して疑問を呈する芽美。
「ああ、それですか。僕は植物が大好きなんですよ。将来の夢は植物学者です!」
「そうなんだ?KO大学の理工学部にもそういう学科があるなんて知らなかったわ」
そう言うと若者はがっくりと肩を落とした。
「いいえ、アリマセン・・・それで悩んでるんですよ」
「どういうこと?」
「僕は幼稚舎からKOで両親も大学まですっとそうなんです。それで迷うことなく大学にも進学したのですが、自分がやりたいのは植物学だって最近気が付きまして。それでこれからの進路をどうしようかと悩んでるんですよ。両親はそのままKOの院に進学して欲しそうだし、彼女は就職を勧めるし。大企業の研究所勤めになれば社会に役立つ実用的な研究ができるよって。でも僕は正直、植物学研究のできる他の大学の院に行きたいから、どうしたものかと」
―彼女はKO大学卒で大企業勤務のエリート男性の奥さんっていうステータスが欲しいんだろうな―
「希望を持つのは自由だけど、院に行くのも大企業に就職するのも難しいのでは?」
「こう見えて僕は勉強好きなので成績が良いんです。それに院への転入試験てそんなに難しくはないんですよ。就職については、正直コネがあるので大概の企業ならなんとかなりそうです」
「あー、世の中には生まれながらの勝ち組っているのね・・・」
遠い目をする芽美。そして悔し紛れに一言つけ加える。
「こう見えて、っていうのは盗撮魔に見えるってことかしら?自分でも自覚あるなら誤解されないように気をつけないと!」
「あーもういいですなんでも」
若者が挑発に乗らずに面白くないので芽美は話を進める。
「どの進路も選べるなら、自分が好きな道に進めばいいと思うけどなぁ・・・ところでこれがあなたの彼女?」
サムネイルの最新の写真を指差す。
「そうです。可愛い子でしょ?」
「うーん、可愛くないとは言わないけど、それより色っぽいというか何というか・・・」
彼女が写っている写真を何枚か開く。普段どういうファッションなのかはわからないが、彼の前では常に大きな胸の谷間が見え太腿が露出するような服を着て、彼の腕にすがり付いて胸をおしつけたり、座っているときは身体をピタリと寄せている。可愛い系というより、どうみても肉食系女子だ。どこかで見たことがあるような気がする。
―里奈に近いタイプよね・・・あっ、そういえば!―
芽美は里奈への連想から、里奈に誘われて行った年末のクラブでの年越しパーティで彼女に会ったことを思い出した。彼女は、年齢が近く見た目のタイプ的にも似ている里奈をライバル認定しているらしく、近寄ってくると聞かれもしないのに自分の男関係を自慢してきた。騒がしい中で、里奈に探りを入れてきたり、男が声をかけてきて中断したりして長い話になったが、たしかこんなことを言っていた。
私にはイケメンと金持ちの二人の彼がいる。二人とも年上でエッチの相性がいい。でもイケメンは貧乏で金持ちは不細工な成金だから結婚する気にはなれない。だからイケメンで育ちの良い金持ちの家の前途有望なお坊ちゃんを探しにKO大学の学祭に行った。
そうしたら条件ドンぴしゃりの男の子がいたから速攻で逆ナン。20歳過ぎてるのに彼女いない暦が年齢と一緒でキスもしたことがないウブな男子で、すぐに私のセクシーな魅力にメロメロに。クリスマスにうまく告白させて付き合うことになった。
まだ学生だから卒業して一流企業に就職するまでは他の二人もセフレとしてキープしておくつもり。エッチの相性が合うか不安だけれど、合わなければ結婚した後もセフレを切らずにいるつもり。大晦日なのに彼氏と一緒じゃないのかって?うん私実家に帰省したことになってるから。クラブ通いは秘密にするつもりだし、明日から成金不細工とハワイだし。忙しくてたまにしか会えないっていうことにしておけば、他の男とのスケジュール調整しやすいでしょ?最初が肝心てこと。
―あーあ、この子、悪い女に捕まっちゃったのねぇ―
芽美は彼女の本当の姿を若者に言うか言うまいか悩む。
―他人の私が口をはさんだところで余計なおせっかいにしかならないわよねぇ・・・あ、でも?―
「ねぇ盗撮くん」
「なんですか痴女ねえさん?」
男の子の思わぬ反撃だった。やはり見られていたと思うと恥ずかしくて瞬時に赤面してしまう。
「・・・見た?」
先ほどまでの優位性を失い、羞恥のあまり目を合わせられずに下を向いたまま小声で確認する。
「・・・ええ、凄かったです」
若者も恥ずかしそうに下を向いて小声で本音を告げ、ナチュラルに芽美に大ダメージを与える。
「こういうときは見てても、見てません、てとぼけるのが女の子への思いやりってものよ・・・それどころか、凄かったです、なんて年下の男の子に言われたら立ち直れないわ・・・」
「そういうものですか?ごめんなさい」
「そういうものよ・・・まったく・・・もし仮に彼女のそういうシーンとか恥ずかしいとこ見ちゃってもスルーするスキルを身につけなさい」
「はい、がんばります」
「それで、その彼女のことなのだけれど」
「はい?」
「わたし、彼女に会ったことがあるのよ」
「え、そうなんですか?」
「ええ、それで・・・彼女の秘密を知っているの」
「秘密って?なんか大げさな感じですね?」
「そうね・・・秘密というより隠し事かな?彼女があなたに知られると都合悪いことよ」
「そんな深刻そうな言い方されると、とても気になりますね」
「うん、知っておいたほうがいいと思うわ」
「もったいぶらないで教えてくださいよ」
「もちろん教えてあげるわ。その代わり、私がさっきしてたことは誰にも言わないで欲しいの。あなたの心に留めておいて、できれば早く忘れてくれないかしら?」
「もちろん誰にも言いませんよ。もし仮に言ったとしても誰も信じないと思いますよ、初カノとの童貞卒業セックスに失敗して欲求不満だったから幻覚でも見たんだろうって。忘れるのは・・・無理ですねぇ。僕には刺激強すぎましたから。しばらくは夜のオカズに不自由しないですみそうです、なんて冗談ですけど」
芽美が若者の股間をチラ見すると、腰におかれたタオルがテントを張っている。とても冗談とは思えなかった。
―この様子だと、彼女のことを教えてあげるだけじゃあダメね、1週間もしたら絶対誰かに話してしまいそう。彼の弱みを握らないと・・・やるしかないわ!―
芽美がそんなことをする気になったのは、美咲や里奈や、男の子の彼女の話を聞いて影響されたからなのか、最後までイケなかった一人あそびの熱が燻ったままだったからなのか、色々な経験をしろとの拓海の指示に従った結果なのか、少し前の気弱で性体験のなかった自分に彼が似ていて同情したからなのか。
「悪趣味な冗談はいいから、そのスマホで彼女とのやり取り見せてくれない?ちょっと確かめたいことがあるの」
「え~、恥ずかしいですよ」
「あれを見られた私からしたら、どんな甘々なやりとりしてても恥ずかしいと思えないから大丈夫、見せなさい!」
「それはそうかもしれないけど・・・わかりましたよ、もう」
若者は芽美の高圧的な勢いに負けてスマホのロックをはずし、アプリを起動して彼女とのトーク履歴を開いて渡す。見られるのが恥ずかしいのか、若者はスマホを持つ芽美のほうを見ようとしない。
彼女とのトーク履歴を見るふりをして若者の気配をうかがっていた芽美は、すばやく自分のIDを検索してフレンド登録すると、若者の手をとる。
その手を自分の股間の湯浴み着の下にもっていくと、驚き硬直している若者と自分の姿を自撮りし、その写真を自分のSNSに送付した。
「あなたが痴漢した証拠写真を私のアプリに送ったわ。もし私がオナニーしてたことをしゃべったら、この写真を警察と大学とご両親に提出するから」
そう宣告すると手を離しスマホを返却する。警察に提出という危険なセリフで若者の硬直が解ける。
「僕は痴漢じゃありませんっ!痴漢、いえ痴女はあなたのほうじゃないですか!」
「私も痴女じゃないわ。なんであんなことをしてたか理由を話すから聞いてくれる優斗君?」
「こんな写真を撮って僕を脅迫するつもりですか?芽美ちゃん」
嫌がる女の子の股間に強引に手をやっているようにも見える写真を確認して顔面蒼白の優斗。二人はSNSアプリの画面で初めて知ったお互いの名前を呼び合う。
「脅迫なんてしないわ。これは保険よ、保険。口約束だけだと不安だから。こんな写真を見せるのは私だって相当勇気がいるのだから」
そう言って動揺する優斗を落ち着かせる。
「彼女の隠し事というのは嘘だったんですか?」
「嘘じゃないわ。後でちゃんと話すから、今は私の話を聞いて」
「わかりましたよ、もうっ!」
芽美は大急ぎででっちあげた悲しいラブストーリーを話し出す。
「実は今日は、亡くなった恋人の一周忌だったの・・・・」
いきなりの重い話に優斗は黙り込む。嘘とは知らずに。
「私は彼のご両親に嫌われていたから法事に顔を出させてもらえなくて・・・そんな私のために友達が思い出のこの宿を予約してくれたの」
「・・・」
「3年前の彼の誕生日に彼と初めてここで結ばれて、私は処女を卒業したの」
「・・・」
「その時はとても嬉しかったけれど、処女だったせいか、あまり気持ちよくはなかったわ・・・彼もあまり気持ちよくなかったみたい」
「・・・」
「2年前の誕生日にも二人でここに来たわ。そのときのエッチはとても気持ちが良かった、1年間、エッチの時はお互いを気持ちよくしようと努力したから」
「・・・」
「そして去年の誕生日もここへ来る予定だったの、でもそれは実現できなかった・・・だってその朝、彼は私をバイクで迎えに来る途中に交通事故に巻き込まれて」
「・・・」
「つまり今日、正確には昨日ね。昨日は彼の誕生日であり、彼との思い出の日でもあり、彼の命日でもあったの」
「・・・」
「私が元気に過ごしていないと天国の彼が心配しちゃうから、さっきまでは友達と明るく騒いでたんだけど」
「・・・」
「一人になったら、やっぱり寂しくて悲しくて切なくて、この宿で彼に優しく強く抱かれたことが思い出されて」
「・・・」
「そしたら、もう、どうしても我慢できなかったの」
「・・・」
「重い話、しちゃってごめんね、優斗君」
下を向いている芽美には優斗の顔をうかがうことはできないが、雰囲気から察するに、衝撃のあまり絶句しているようだ。優斗の反応を引き出すために黙っていると、優斗がなんとか言葉をひねり出してきた。
「芽美ちゃん、痴女だなんて言ってごめん。亡くなった恋人のことを想う大事な時間を邪魔してしまったことも謝らないと。ほんとうにごめんなさい。一人になれるよう、部屋に戻ります」
そう言って立ち上がろうとする優斗を引き止める芽美。人間の行動をコントロールするには鞭だけでなく飴も必要なことを、芽美は拓海から身体に叩きこまれていたから。
「待って、優斗君!」
「なんだい、芽美ちゃん?」
名前にちゃんづけで呼ばれることに小さな疑問を感じつつ、重要なほうの会話を進める芽美。
「彼女さんの秘密、まだ教えてあげてないから」
「いいよ、また今度SNSで教えてくれれば」
「ううん、大事なことだから、今言わせて頂戴!彼女、おそらく浮気してるわよ。いえ浮気というか、複数の男性とお付き合いしてるみたい」
ショックを受けるかと思ったら、優斗はわりと冷静だった。ただ表情は暗い。
「やっぱりそうなのか」
「知ってたの?」
「ううん。ただ、なんか変だな、とは思ってたから。連絡が取れないとき多いし、僕と行ったことのないお店のことを話題にして慌てて誤魔化したり。クラブなんか行かないって言ってたのに、男連れの彼女を友達がクラブで見かけたり」
「そうなんだ、それでも付き合ってるのね?」
「うん、彼女は美人だし、初めての彼女だし。できれば上手く付き合っていきたいんだ。友達にすごい女たらしがいるんだけど、彼からは、女は考えなしのところがあるから寛容な心でつきあえってアドバイスされてるし。それに人間だって動物だからね。雄と雌の取り合いは単純に魅力的なほうが勝つのさ。そういう意味では僕にも問題があるのはわかってるんだ。特に今夜はそれを思い知らされたから」
「へえ、意外。よくわかってるじゅない。そうね、そんなあなたには彼女と上手くいって欲しいわ。今晩あなたがやろうとしたことは昔の私と同じだから、親近感も感じてるし。だから・・・私があなたに女の身体のことをレクチャーしてあげる」
優斗の左手に右手を重ねあわせると、優斗は二度目の衝撃で再度絶句し、慌てる。
「・・・えっ!いやいやっ、それはっ!」
「女の子に恥をかかせたらダメ。ここは乗っておくところよ。あんなことをしていたせいであなたには随分迷惑をかけたから。私のせいで足湯に落ちちゃったり、痴漢や盗撮魔扱いしちゃったし。スマホで女の勉強をしてこいって言われたのに勉強時間なくなっちゃたしね」
「でも、亡くなった彼氏さんに申し訳ないから」
「んもう、じゃあ本音をいうわね、自分の指で慰めても切なすぎていけないのよ。やっぱり実在の男性のぬくもりが欲しいの。優斗君とここで恥ずかしい出会いをしたのは、そんな私を慰めるためにきっと彼が引き合わせてくれたんだと思うの。だって優斗君、亡くなった彼とよく似てるんだもの・・・彼と同じくらい格好良くて素敵なあなたに、彼氏の代わりに指で私を感じさせて欲しい・・・わたしも彼女の代わりにあなたを気持ちよくしてあげるから」
耳元で甘い声で囁きかける。
―うふふ、ここまでお膳立てしてあげたら、お人よしな感じのこの男の子なら断れないはず。それに、身体のほうは随分期待しちゃってるみたいだしねぇ―
彼との悲しい別れの創作話を聞いている間に萎んでしまった股間のテントが再び大きく広がっているのを見て、芽美は誘惑の成功を確信する。
とどめに上半身をひねって左手を優斗の太腿に這わせ、潤ませた瞳で下から顔を覗き込む。彼の顔は真っ赤で、視線は芽美の色っぽい表情と湯浴み着が張り付いて悩ましい身体を落ち着きなく行ったり来たりしている。心臓がドキドキと早鐘を打っているのが容易に察せられる。
数秒後、陥落した男子は芽美と視線を合わせ手をぎゅっと強く握る。
「・・・そうか・・・そうなのかもしれない・・・これ以上芽美ちゃんに恥をかかせるわけにもいかないし・・・わかりました!謹んでご協力させていただきます!でも僕、女の子の身体の扱い方下手ですからね?」
「大丈夫よ。そこは芽美お姉さんが優しく教えてあげるから。でもお互い使うのは手だけよ。それ以上は彼もきっと許してくれないわ。それに今夜のことは彼女に秘密にするのはもちろんだけど、親友に言ったり、ぼかしてSNSに載せたりするのも絶対ダメよ。優斗君とわたし、二人だけの秘密にして欲しいの。約束できるわね?約束を破ったときは・・・」
言外にさっきの写真を使うことを仄めかす。
「もちろんさ!ご先祖様に誓うよ!」
「んふふ、なにそれ?」
「自慢じゃないけど由緒ある家系だからね。ご先祖様を穢すわけにはいかないから」
「それなら安心ね」
―拓海さん、ごめんなさい・・・口封じのために仕方ないことだから許してください・・・ご主人様がナターシャさんとしてることに比べたら子ども騙しみたいなものだから―
心の中でそう言い訳すると、唇を優斗に軽く合わせる芽美。
「えっ、手だけじゃなかったんですか?」
「これは契約締結の証よ、もうしないわ。じゃあ始めるわ」
芽美は優斗の手を秘裂に導き、自分の手もタオルの下に差し入れる。
「いい、女の子の身体、特にココはとってもデリケートだから、最初はとにかく力を抜いて優しく、やさしくね」
夜明け前の温泉露天風呂の片隅の足湯小屋で、夜のとばりと大雨にまぎれて芽美の淫靡なレッスンが開始される。
動機として優斗の口封じと拓海へのささやかな意趣返しのほかに、拓海以外の男性への性的好奇心と、優斗という自分に似たところのある性格の、若く優秀な男の子への純粋な好意があることを芽美は自覚していない。
暫くの時が過ぎ、若者が満足そうな溜息をついて真夜中のレッスンは終了した。
「ところで、どうして私のことを『ちゃん』づけで呼ぶの?」
レッスン終了後、汚れたタオルと体を男女別の内湯で洗ったあと、冷えた体を温めるために二人は露天風呂に浸かっている。二人の距離は近すぎもなく遠すぎもなく、静かに会話できる程度の自然な位置関係だ。雨は小降りになっていた。
優斗は勉強が得意と言っていた通り、物覚えが良く芽美の性教育を適切に理解し正しく実演し、芽美もそれなりに満足できた。
いっぽうの芽美は手で奉仕したことが殆どないことを思い出して内心焦ったが、ぎごちない手つきで擦っただけで優斗はすぐにイキそうになったから、むしろ暴発を抑えるのに苦労した。細かく指示をだして満足するまで存分に愛撫させたあと、少し強く摩るとあっさりイった。
満足して放心する優斗。その隙をついて手についた白濁液を、好奇心にかられてぺろりとひと舐めしてみる。孝のそれの不健康な苦い味とも拓海さんの芳醇な美味しさとも違う、あっさりした淡白な味わいだった。
芽美の疑問に優斗は不思議そうに尋ね返す。
「芽美ちゃんて呼ばれるの嫌いだったりします?20歳ぐらいの女の子をちゃんづけで呼ぶのは普通ですよね?」
「・・・えっと、私はもう25歳で、あなたより年上よ?最初は敬語で話したり『おねえさん』て言ったりしてたじゃない?」
「初対面だし、勢いに押されて怖かったからですよ。でも25歳って本当ですか?!童顔だし背も低いからてっきり高校生かと思いましたが、さすがにそれはないだろうと20歳に上方修正したんですけど?」
「童顔で悪かったわね!」
「なに言ってるんですか、今すっぴんですよね?すごく可愛いですよ!」
「盗撮魔じゃなくてロリコンだったのね?」
「違います!さっきは凄く大人っぽくて素敵でした!」
そんな恥ずかしい感想を照れもなく言って無邪気な瞳で見つめてくる男の子に芽美はドキッとしてしまい、照れ隠しにこんなことを言う。
「それなら今度会ったときは『芽美ちゃん』じゃなくて『芽美お姉さま』と呼ぶように。あなたのことは『優斗』と呼び捨てにさせてもらうわよ。まあ二度と会うことはないと思うけど」
芽美のフレンド登録は消去済みだった。
「そうですか?この宿でまた会ったりしませんか?」
「ここでの彼とのお別れは済んだから、もう二度と来ないつもり」
嘘をつくことになれていない芽美の心は痛んだ。それだけでなく純情な男の子を言いくるめて自分の性欲発散の道具にしてしまい、申し訳ないと思う。
「そうですか、それは残念ですね」
「わたしのことは忘れて彼女と仲良くするのよ」
「忘れるのは難しそうなので、心の奥に甘美な思い出として封印することにします。はい、教えていただいたことを守って頑張ります。ありがとうございました」
雨は上がり、空は明るくなりはじめている。潮時だ。芽美は露天風呂から上がり、優斗にひとこと別れを告げる。
「さよなら」
熱い視線を背中に強く感じ、身体の疼きを抑えながら、自分の艶かしい後姿を目に焼き付けてもらいたいと、ゆっくりとした歩調でその場を歩み去るのだった。
「慌てて部屋を出てきたから忘れたんですよ。内湯だけにしようかと思ったけど露天風呂にだれもいなそうだったし、雨の降る深夜にもう誰も来ないかと思って」
二人は足湯の奥に並んで座ってぼそぼそと会話している。細雨は大雨に変わっている。芽美の悲鳴と騒ぎの音は大雨の音に消されて母屋にまで届いていないと思われた。
平手打ちされた若者は落ち着きを取り戻し、足湯の中で立てることがわかると恥ずかしげな顔をしてそそくさと足湯を去ろうとした。
しかし、芽美は雨が酷いからしばらく雨宿りしなさいと命令口調で言って、気弱そうなこの男子を強引に引き止めた。同じく気弱な芽美といえども、自分の痴態を見られ、しかもスマホでそれを撮影された懸念があるとなれば必死だった。
「どうして慌てて部屋を出る必要があるのよ?」
「それは、そのう・・・」
「言えないってことは、やましい理由なのね?スマホを持ってるのも怪しいし。やっぱり盗撮しようとしたんじゃないの?部屋の窓から私が一人で足湯に向かうのが見えて慌てて来たんでしょう、盗撮魔さん?」
「ちがいます!部屋の窓から露天風呂は角度的に全く見えませんから!スマホは普段お風呂に持ち込んでるからつい・・・だれもいないからいいかと・・・」
「なるほど、ばれたときはそうやって言い訳してるのね、常連盗撮魔さん?」
どの部屋の窓からも見えないことは芽美にもわかっていた。部屋と風呂の位置関係は川沿いに横に並んでいて、部屋の窓は川の方角にしかないのだから。スマホを持っているという弱みを徹底的に突き優位に立ちたいための方便である。
オナニーを見られたことは間違いない。口止めをするにはなんとかして男の子の弱みを握る必要がある。気弱そうだから絶対に誰にも言わないでといえば承諾しそうだが、見知らぬ人間の口約束など信用できるわけがなかった。
「だから違いますって!そのう・・・実は彼女とケンカして部屋を追い出されたんですよ、スマホも投げつけられて仕方なく持ってきただけです」
「盗撮魔のくせに彼女いるなんてウソでしょ?そもそも深夜にどうしてケンカなんてしたのよ?普通のカップルならエッチして仲良く寝入ってる頃合でしょうに」
「・・・それがそのう・・・それがケンカの原因で・・・・・」
「エッチがってこと?誤魔化さずにはっきり言いなさい。盗撮犯として警察に通報されるかどうかの瀬戸際だってことわかってるのかな?」
「えっ!?それは困ります!」
「なら包み隠さず全部話しなさい!」
「は、はい!彼女とは昨年学祭で知り合ってクリスマスから付き合い始めたんです」
警察に通報と聞いて動揺したのか、若者は彼女との馴れ初めから語り出す。芽美はどこかで弱みを握れないかと続きを促す。
「クリスマスから交際開始なんてロマンチックね、それで?」
「ええ、それで何度かデートもしたんですが、女性と付き合ったのは彼女が初めてで」
「つまりエッチしたことがなかったってこと?」
「はい、エッチはおろか恥ずかしながらキスもしたことありませんでした」
「そんなの別に恥ずかしいことじゃないわ、よくある話よ。で、今はもう経験済みと?」
「キスはホワイトデーにバレンタインチョコのお返しに彼女にねだられて初体験しました。それでいよいよ初エッチをということになって、思い出に残る場所でしたいと彼女にこの宿をおねだりされてしまって」
「この宿はなかなか予約がとれないって聞いたけど?」
「ええ、彼女も、どう頑張っても予約できなかったらしいです。僕は家族で毎年利用しているけどそうなの?って話したら食いつかれました」
芽美は思う。
―ここを毎年利用しているなんて良家のお坊ちゃんなのね―
「素敵な宿ですものね、深夜に盗撮魔が出ることを除けば」
「だから違いますって!あとでスマホの写真フォルダお見せしますから!」
「ああ、それは良い考えだわ。それで初夜はどうだったの?ケンカしたってことは上手くいかなかったんでしょう?」
「その通りです。緊張をほぐすためにお酒をたくさん飲んだら立たなくなってしまって・・・酔いがある程度醒めてちゃんと勃起するようになるまで彼女を待たせて、雰囲気を壊してしまって。
それでもせっかくなので行為に及んだのですが、僕の愛撫は下手すぎて全然気持ちよくないどころか痛いらしくて。どうしたらいいか彼女に細かく尋ねながらやってはみたのですが、焦って上手くいかないし。その間にアレが萎えてちゃうのですが、そのたびに彼女が口で大きくしてくれて・・・でもそれが上手すぎて引いてしまったり。彼女のアソコも全然濡れなくて、何度挑戦しても挿入まで至りませんでした。
僕のアレは膨張と収縮を繰り返してヘビの生殺し状態だったので、とうとう我慢できなくなって『口でイカさせて欲しいな、口の中には出さずにちゃんと顔にかけるから』と言ったらキレられました。
『もう無理!AVばっかり見てないで、スマホで検索して女心とエッチの仕方を勉強してよ!あなたといるとイラついて眠れないから風呂でも入ってきて!』と怒鳴られスマホと一緒に部屋を追い出された、というわけです、はぁ」
芽美も溜息をつく。
「彼女が怒るのも無理ないわね」
「そうですか?いったいどこが悪かったんですか?やっぱり童貞で経験のないところでしょうか?」
「いいえ、そこは問題ではないわ。ひとつ確認したいのだけれど、最初に声をかけたり付き合おうと告白してきたりしたのも彼女のほうからかしら?彼女のほうが年上だったりする?」
「そうです、よくわかりますね!?僕は22歳で彼女は25歳です」
―まったく、最近の若い男の子ときたら・・・―
つい最近までの自分のことを棚にあげて、上から目線で彼を評価する芽美。
「今までの話を聞けばだれでもすぐ想像つくわよ。だって全部彼女がリードしているんだもの。初エッチだって彼女がなんとかしてくれると思って何も勉強してこなかったんじゃないの?どういう愛撫なら女の子が感じるのかとか、エッチのときの女の子の気持ちの盛り上げ方とか」
「えっと、AVなら何本かじっくりと見てみたのですが」
「あんな男性向けの内容、現実とは全く違うわよ。どうせ旅行まで我慢できずに、エッチの勉強を名目に、彼女似の女優さんが出演してるAVで一人エッチしてたとかでしょ?」
「うっ、そんなことは」
うろたえる若者。図星だった。
「それに彼女がフェラが上手だからって引いてるくせに、それでイカせてもらおうなんて都合が良すぎると思わない?彼女はAV女優でも風俗嬢でもないのよ?どうせ好きでもないのに告白されて、エッチできると思ってカラダ目当てで付き合いだしたとかじゃないのかしら?」
「・・・そういう気持ちがなかったとは・・・言えません・・・」
「なら矛盾したこと言わないで頂戴。未経験の処女の子がいいなら彼女じゃなくて他の女の子を自分で口説いてみたらどうなの?18歳くらいの大学生になったばかりの処女っぽい女の子。学生ならサークルなんかで知り合う機会はたくさんあるでしょう?大学もよさそうなとこ通ってそうだし。大学はどこなの?」
「KO大学の理工学部です。でもサークルはもう引退しました。フットサルやってたのですが、理系なので研究で忙しくなってきたし、就職するか院に行くかを決める大事な年なので」
―やっぱり。幼稚舎からずっとなんでしょうね。良く見ると顔は整ってるし、身体も細マッチョっていうやつ、細いのに筋肉がしっかりしてそう。腹筋も割れてはいないけど引き締まってるし。背も高い・・180センチくらい?そのわりに童顔で男にしては声が高めだから子どもっぽく感じるけど可愛いともいえる。お坊ちゃん気質で気弱なことを除けば全然ありだわ。その彼女もそんな風に思って先物買いしようとしたのかな?―
「進路に悩んでフラストレーションが溜まって盗撮に逃げてしまったというわけ?」
「ほら、写真見てくださいよ!撮ってませんから!」
若者はスマホのロックを解除して芽美に差し出してくる。
「やましい事は全くないので全部見てください!操作方法はわかりますか?」
妹と同じ防水機能付きのアンドロイドスマホだった。
「大丈夫。使ったことあるから」
そう言って芽美は写真フォルダを開く。画像も動画も芽美を撮ったものはなく、この露天風呂の画像も他の風呂で盗撮したような画像も皆無だ。最新の写真は若者と彼女らしき女の子がこの宿の看板の前で二人並んで写っている写真。それより前は彼女の写真がちらほらとあるほか、なぜか草木や花の写真が大量にあった。
「認めたくはないけど、盗撮魔ではなさそうね」
「そこは素直に認めてくださいよ!」
「でも怪しい写真がたくさんあるわね!」
「え、そんなのありますか?」
「いったいこの大量の植物の写真はなんなの?」
サムネイルを指差して疑問を呈する芽美。
「ああ、それですか。僕は植物が大好きなんですよ。将来の夢は植物学者です!」
「そうなんだ?KO大学の理工学部にもそういう学科があるなんて知らなかったわ」
そう言うと若者はがっくりと肩を落とした。
「いいえ、アリマセン・・・それで悩んでるんですよ」
「どういうこと?」
「僕は幼稚舎からKOで両親も大学まですっとそうなんです。それで迷うことなく大学にも進学したのですが、自分がやりたいのは植物学だって最近気が付きまして。それでこれからの進路をどうしようかと悩んでるんですよ。両親はそのままKOの院に進学して欲しそうだし、彼女は就職を勧めるし。大企業の研究所勤めになれば社会に役立つ実用的な研究ができるよって。でも僕は正直、植物学研究のできる他の大学の院に行きたいから、どうしたものかと」
―彼女はKO大学卒で大企業勤務のエリート男性の奥さんっていうステータスが欲しいんだろうな―
「希望を持つのは自由だけど、院に行くのも大企業に就職するのも難しいのでは?」
「こう見えて僕は勉強好きなので成績が良いんです。それに院への転入試験てそんなに難しくはないんですよ。就職については、正直コネがあるので大概の企業ならなんとかなりそうです」
「あー、世の中には生まれながらの勝ち組っているのね・・・」
遠い目をする芽美。そして悔し紛れに一言つけ加える。
「こう見えて、っていうのは盗撮魔に見えるってことかしら?自分でも自覚あるなら誤解されないように気をつけないと!」
「あーもういいですなんでも」
若者が挑発に乗らずに面白くないので芽美は話を進める。
「どの進路も選べるなら、自分が好きな道に進めばいいと思うけどなぁ・・・ところでこれがあなたの彼女?」
サムネイルの最新の写真を指差す。
「そうです。可愛い子でしょ?」
「うーん、可愛くないとは言わないけど、それより色っぽいというか何というか・・・」
彼女が写っている写真を何枚か開く。普段どういうファッションなのかはわからないが、彼の前では常に大きな胸の谷間が見え太腿が露出するような服を着て、彼の腕にすがり付いて胸をおしつけたり、座っているときは身体をピタリと寄せている。可愛い系というより、どうみても肉食系女子だ。どこかで見たことがあるような気がする。
―里奈に近いタイプよね・・・あっ、そういえば!―
芽美は里奈への連想から、里奈に誘われて行った年末のクラブでの年越しパーティで彼女に会ったことを思い出した。彼女は、年齢が近く見た目のタイプ的にも似ている里奈をライバル認定しているらしく、近寄ってくると聞かれもしないのに自分の男関係を自慢してきた。騒がしい中で、里奈に探りを入れてきたり、男が声をかけてきて中断したりして長い話になったが、たしかこんなことを言っていた。
私にはイケメンと金持ちの二人の彼がいる。二人とも年上でエッチの相性がいい。でもイケメンは貧乏で金持ちは不細工な成金だから結婚する気にはなれない。だからイケメンで育ちの良い金持ちの家の前途有望なお坊ちゃんを探しにKO大学の学祭に行った。
そうしたら条件ドンぴしゃりの男の子がいたから速攻で逆ナン。20歳過ぎてるのに彼女いない暦が年齢と一緒でキスもしたことがないウブな男子で、すぐに私のセクシーな魅力にメロメロに。クリスマスにうまく告白させて付き合うことになった。
まだ学生だから卒業して一流企業に就職するまでは他の二人もセフレとしてキープしておくつもり。エッチの相性が合うか不安だけれど、合わなければ結婚した後もセフレを切らずにいるつもり。大晦日なのに彼氏と一緒じゃないのかって?うん私実家に帰省したことになってるから。クラブ通いは秘密にするつもりだし、明日から成金不細工とハワイだし。忙しくてたまにしか会えないっていうことにしておけば、他の男とのスケジュール調整しやすいでしょ?最初が肝心てこと。
―あーあ、この子、悪い女に捕まっちゃったのねぇ―
芽美は彼女の本当の姿を若者に言うか言うまいか悩む。
―他人の私が口をはさんだところで余計なおせっかいにしかならないわよねぇ・・・あ、でも?―
「ねぇ盗撮くん」
「なんですか痴女ねえさん?」
男の子の思わぬ反撃だった。やはり見られていたと思うと恥ずかしくて瞬時に赤面してしまう。
「・・・見た?」
先ほどまでの優位性を失い、羞恥のあまり目を合わせられずに下を向いたまま小声で確認する。
「・・・ええ、凄かったです」
若者も恥ずかしそうに下を向いて小声で本音を告げ、ナチュラルに芽美に大ダメージを与える。
「こういうときは見てても、見てません、てとぼけるのが女の子への思いやりってものよ・・・それどころか、凄かったです、なんて年下の男の子に言われたら立ち直れないわ・・・」
「そういうものですか?ごめんなさい」
「そういうものよ・・・まったく・・・もし仮に彼女のそういうシーンとか恥ずかしいとこ見ちゃってもスルーするスキルを身につけなさい」
「はい、がんばります」
「それで、その彼女のことなのだけれど」
「はい?」
「わたし、彼女に会ったことがあるのよ」
「え、そうなんですか?」
「ええ、それで・・・彼女の秘密を知っているの」
「秘密って?なんか大げさな感じですね?」
「そうね・・・秘密というより隠し事かな?彼女があなたに知られると都合悪いことよ」
「そんな深刻そうな言い方されると、とても気になりますね」
「うん、知っておいたほうがいいと思うわ」
「もったいぶらないで教えてくださいよ」
「もちろん教えてあげるわ。その代わり、私がさっきしてたことは誰にも言わないで欲しいの。あなたの心に留めておいて、できれば早く忘れてくれないかしら?」
「もちろん誰にも言いませんよ。もし仮に言ったとしても誰も信じないと思いますよ、初カノとの童貞卒業セックスに失敗して欲求不満だったから幻覚でも見たんだろうって。忘れるのは・・・無理ですねぇ。僕には刺激強すぎましたから。しばらくは夜のオカズに不自由しないですみそうです、なんて冗談ですけど」
芽美が若者の股間をチラ見すると、腰におかれたタオルがテントを張っている。とても冗談とは思えなかった。
―この様子だと、彼女のことを教えてあげるだけじゃあダメね、1週間もしたら絶対誰かに話してしまいそう。彼の弱みを握らないと・・・やるしかないわ!―
芽美がそんなことをする気になったのは、美咲や里奈や、男の子の彼女の話を聞いて影響されたからなのか、最後までイケなかった一人あそびの熱が燻ったままだったからなのか、色々な経験をしろとの拓海の指示に従った結果なのか、少し前の気弱で性体験のなかった自分に彼が似ていて同情したからなのか。
「悪趣味な冗談はいいから、そのスマホで彼女とのやり取り見せてくれない?ちょっと確かめたいことがあるの」
「え~、恥ずかしいですよ」
「あれを見られた私からしたら、どんな甘々なやりとりしてても恥ずかしいと思えないから大丈夫、見せなさい!」
「それはそうかもしれないけど・・・わかりましたよ、もう」
若者は芽美の高圧的な勢いに負けてスマホのロックをはずし、アプリを起動して彼女とのトーク履歴を開いて渡す。見られるのが恥ずかしいのか、若者はスマホを持つ芽美のほうを見ようとしない。
彼女とのトーク履歴を見るふりをして若者の気配をうかがっていた芽美は、すばやく自分のIDを検索してフレンド登録すると、若者の手をとる。
その手を自分の股間の湯浴み着の下にもっていくと、驚き硬直している若者と自分の姿を自撮りし、その写真を自分のSNSに送付した。
「あなたが痴漢した証拠写真を私のアプリに送ったわ。もし私がオナニーしてたことをしゃべったら、この写真を警察と大学とご両親に提出するから」
そう宣告すると手を離しスマホを返却する。警察に提出という危険なセリフで若者の硬直が解ける。
「僕は痴漢じゃありませんっ!痴漢、いえ痴女はあなたのほうじゃないですか!」
「私も痴女じゃないわ。なんであんなことをしてたか理由を話すから聞いてくれる優斗君?」
「こんな写真を撮って僕を脅迫するつもりですか?芽美ちゃん」
嫌がる女の子の股間に強引に手をやっているようにも見える写真を確認して顔面蒼白の優斗。二人はSNSアプリの画面で初めて知ったお互いの名前を呼び合う。
「脅迫なんてしないわ。これは保険よ、保険。口約束だけだと不安だから。こんな写真を見せるのは私だって相当勇気がいるのだから」
そう言って動揺する優斗を落ち着かせる。
「彼女の隠し事というのは嘘だったんですか?」
「嘘じゃないわ。後でちゃんと話すから、今は私の話を聞いて」
「わかりましたよ、もうっ!」
芽美は大急ぎででっちあげた悲しいラブストーリーを話し出す。
「実は今日は、亡くなった恋人の一周忌だったの・・・・」
いきなりの重い話に優斗は黙り込む。嘘とは知らずに。
「私は彼のご両親に嫌われていたから法事に顔を出させてもらえなくて・・・そんな私のために友達が思い出のこの宿を予約してくれたの」
「・・・」
「3年前の彼の誕生日に彼と初めてここで結ばれて、私は処女を卒業したの」
「・・・」
「その時はとても嬉しかったけれど、処女だったせいか、あまり気持ちよくはなかったわ・・・彼もあまり気持ちよくなかったみたい」
「・・・」
「2年前の誕生日にも二人でここに来たわ。そのときのエッチはとても気持ちが良かった、1年間、エッチの時はお互いを気持ちよくしようと努力したから」
「・・・」
「そして去年の誕生日もここへ来る予定だったの、でもそれは実現できなかった・・・だってその朝、彼は私をバイクで迎えに来る途中に交通事故に巻き込まれて」
「・・・」
「つまり今日、正確には昨日ね。昨日は彼の誕生日であり、彼との思い出の日でもあり、彼の命日でもあったの」
「・・・」
「私が元気に過ごしていないと天国の彼が心配しちゃうから、さっきまでは友達と明るく騒いでたんだけど」
「・・・」
「一人になったら、やっぱり寂しくて悲しくて切なくて、この宿で彼に優しく強く抱かれたことが思い出されて」
「・・・」
「そしたら、もう、どうしても我慢できなかったの」
「・・・」
「重い話、しちゃってごめんね、優斗君」
下を向いている芽美には優斗の顔をうかがうことはできないが、雰囲気から察するに、衝撃のあまり絶句しているようだ。優斗の反応を引き出すために黙っていると、優斗がなんとか言葉をひねり出してきた。
「芽美ちゃん、痴女だなんて言ってごめん。亡くなった恋人のことを想う大事な時間を邪魔してしまったことも謝らないと。ほんとうにごめんなさい。一人になれるよう、部屋に戻ります」
そう言って立ち上がろうとする優斗を引き止める芽美。人間の行動をコントロールするには鞭だけでなく飴も必要なことを、芽美は拓海から身体に叩きこまれていたから。
「待って、優斗君!」
「なんだい、芽美ちゃん?」
名前にちゃんづけで呼ばれることに小さな疑問を感じつつ、重要なほうの会話を進める芽美。
「彼女さんの秘密、まだ教えてあげてないから」
「いいよ、また今度SNSで教えてくれれば」
「ううん、大事なことだから、今言わせて頂戴!彼女、おそらく浮気してるわよ。いえ浮気というか、複数の男性とお付き合いしてるみたい」
ショックを受けるかと思ったら、優斗はわりと冷静だった。ただ表情は暗い。
「やっぱりそうなのか」
「知ってたの?」
「ううん。ただ、なんか変だな、とは思ってたから。連絡が取れないとき多いし、僕と行ったことのないお店のことを話題にして慌てて誤魔化したり。クラブなんか行かないって言ってたのに、男連れの彼女を友達がクラブで見かけたり」
「そうなんだ、それでも付き合ってるのね?」
「うん、彼女は美人だし、初めての彼女だし。できれば上手く付き合っていきたいんだ。友達にすごい女たらしがいるんだけど、彼からは、女は考えなしのところがあるから寛容な心でつきあえってアドバイスされてるし。それに人間だって動物だからね。雄と雌の取り合いは単純に魅力的なほうが勝つのさ。そういう意味では僕にも問題があるのはわかってるんだ。特に今夜はそれを思い知らされたから」
「へえ、意外。よくわかってるじゅない。そうね、そんなあなたには彼女と上手くいって欲しいわ。今晩あなたがやろうとしたことは昔の私と同じだから、親近感も感じてるし。だから・・・私があなたに女の身体のことをレクチャーしてあげる」
優斗の左手に右手を重ねあわせると、優斗は二度目の衝撃で再度絶句し、慌てる。
「・・・えっ!いやいやっ、それはっ!」
「女の子に恥をかかせたらダメ。ここは乗っておくところよ。あんなことをしていたせいであなたには随分迷惑をかけたから。私のせいで足湯に落ちちゃったり、痴漢や盗撮魔扱いしちゃったし。スマホで女の勉強をしてこいって言われたのに勉強時間なくなっちゃたしね」
「でも、亡くなった彼氏さんに申し訳ないから」
「んもう、じゃあ本音をいうわね、自分の指で慰めても切なすぎていけないのよ。やっぱり実在の男性のぬくもりが欲しいの。優斗君とここで恥ずかしい出会いをしたのは、そんな私を慰めるためにきっと彼が引き合わせてくれたんだと思うの。だって優斗君、亡くなった彼とよく似てるんだもの・・・彼と同じくらい格好良くて素敵なあなたに、彼氏の代わりに指で私を感じさせて欲しい・・・わたしも彼女の代わりにあなたを気持ちよくしてあげるから」
耳元で甘い声で囁きかける。
―うふふ、ここまでお膳立てしてあげたら、お人よしな感じのこの男の子なら断れないはず。それに、身体のほうは随分期待しちゃってるみたいだしねぇ―
彼との悲しい別れの創作話を聞いている間に萎んでしまった股間のテントが再び大きく広がっているのを見て、芽美は誘惑の成功を確信する。
とどめに上半身をひねって左手を優斗の太腿に這わせ、潤ませた瞳で下から顔を覗き込む。彼の顔は真っ赤で、視線は芽美の色っぽい表情と湯浴み着が張り付いて悩ましい身体を落ち着きなく行ったり来たりしている。心臓がドキドキと早鐘を打っているのが容易に察せられる。
数秒後、陥落した男子は芽美と視線を合わせ手をぎゅっと強く握る。
「・・・そうか・・・そうなのかもしれない・・・これ以上芽美ちゃんに恥をかかせるわけにもいかないし・・・わかりました!謹んでご協力させていただきます!でも僕、女の子の身体の扱い方下手ですからね?」
「大丈夫よ。そこは芽美お姉さんが優しく教えてあげるから。でもお互い使うのは手だけよ。それ以上は彼もきっと許してくれないわ。それに今夜のことは彼女に秘密にするのはもちろんだけど、親友に言ったり、ぼかしてSNSに載せたりするのも絶対ダメよ。優斗君とわたし、二人だけの秘密にして欲しいの。約束できるわね?約束を破ったときは・・・」
言外にさっきの写真を使うことを仄めかす。
「もちろんさ!ご先祖様に誓うよ!」
「んふふ、なにそれ?」
「自慢じゃないけど由緒ある家系だからね。ご先祖様を穢すわけにはいかないから」
「それなら安心ね」
―拓海さん、ごめんなさい・・・口封じのために仕方ないことだから許してください・・・ご主人様がナターシャさんとしてることに比べたら子ども騙しみたいなものだから―
心の中でそう言い訳すると、唇を優斗に軽く合わせる芽美。
「えっ、手だけじゃなかったんですか?」
「これは契約締結の証よ、もうしないわ。じゃあ始めるわ」
芽美は優斗の手を秘裂に導き、自分の手もタオルの下に差し入れる。
「いい、女の子の身体、特にココはとってもデリケートだから、最初はとにかく力を抜いて優しく、やさしくね」
夜明け前の温泉露天風呂の片隅の足湯小屋で、夜のとばりと大雨にまぎれて芽美の淫靡なレッスンが開始される。
動機として優斗の口封じと拓海へのささやかな意趣返しのほかに、拓海以外の男性への性的好奇心と、優斗という自分に似たところのある性格の、若く優秀な男の子への純粋な好意があることを芽美は自覚していない。
暫くの時が過ぎ、若者が満足そうな溜息をついて真夜中のレッスンは終了した。
「ところで、どうして私のことを『ちゃん』づけで呼ぶの?」
レッスン終了後、汚れたタオルと体を男女別の内湯で洗ったあと、冷えた体を温めるために二人は露天風呂に浸かっている。二人の距離は近すぎもなく遠すぎもなく、静かに会話できる程度の自然な位置関係だ。雨は小降りになっていた。
優斗は勉強が得意と言っていた通り、物覚えが良く芽美の性教育を適切に理解し正しく実演し、芽美もそれなりに満足できた。
いっぽうの芽美は手で奉仕したことが殆どないことを思い出して内心焦ったが、ぎごちない手つきで擦っただけで優斗はすぐにイキそうになったから、むしろ暴発を抑えるのに苦労した。細かく指示をだして満足するまで存分に愛撫させたあと、少し強く摩るとあっさりイった。
満足して放心する優斗。その隙をついて手についた白濁液を、好奇心にかられてぺろりとひと舐めしてみる。孝のそれの不健康な苦い味とも拓海さんの芳醇な美味しさとも違う、あっさりした淡白な味わいだった。
芽美の疑問に優斗は不思議そうに尋ね返す。
「芽美ちゃんて呼ばれるの嫌いだったりします?20歳ぐらいの女の子をちゃんづけで呼ぶのは普通ですよね?」
「・・・えっと、私はもう25歳で、あなたより年上よ?最初は敬語で話したり『おねえさん』て言ったりしてたじゃない?」
「初対面だし、勢いに押されて怖かったからですよ。でも25歳って本当ですか?!童顔だし背も低いからてっきり高校生かと思いましたが、さすがにそれはないだろうと20歳に上方修正したんですけど?」
「童顔で悪かったわね!」
「なに言ってるんですか、今すっぴんですよね?すごく可愛いですよ!」
「盗撮魔じゃなくてロリコンだったのね?」
「違います!さっきは凄く大人っぽくて素敵でした!」
そんな恥ずかしい感想を照れもなく言って無邪気な瞳で見つめてくる男の子に芽美はドキッとしてしまい、照れ隠しにこんなことを言う。
「それなら今度会ったときは『芽美ちゃん』じゃなくて『芽美お姉さま』と呼ぶように。あなたのことは『優斗』と呼び捨てにさせてもらうわよ。まあ二度と会うことはないと思うけど」
芽美のフレンド登録は消去済みだった。
「そうですか?この宿でまた会ったりしませんか?」
「ここでの彼とのお別れは済んだから、もう二度と来ないつもり」
嘘をつくことになれていない芽美の心は痛んだ。それだけでなく純情な男の子を言いくるめて自分の性欲発散の道具にしてしまい、申し訳ないと思う。
「そうですか、それは残念ですね」
「わたしのことは忘れて彼女と仲良くするのよ」
「忘れるのは難しそうなので、心の奥に甘美な思い出として封印することにします。はい、教えていただいたことを守って頑張ります。ありがとうございました」
雨は上がり、空は明るくなりはじめている。潮時だ。芽美は露天風呂から上がり、優斗にひとこと別れを告げる。
「さよなら」
熱い視線を背中に強く感じ、身体の疼きを抑えながら、自分の艶かしい後姿を目に焼き付けてもらいたいと、ゆっくりとした歩調でその場を歩み去るのだった。
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