"Tacki" for prudish Meg

森斗メメ

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~interlude2~ 

望まぬ奉仕

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ーまったくもう、どうしてこんな日に・・・ー

 K駅へ向かう総武線内。ドアガラスには不機嫌そうな表情の女=私が映っている。3月30日の水曜日。日が随分長くなったとはいえ、夜の6時過ぎともなればさすがに外は真っ暗だ。拓海さんに騙されてマゾ牝奴隷契約を結ばされ処女を奪われた週末から3日が経っていた。

 資格を取得し転職してほぼ1年が過ぎた今日、保育園の卒園式があった。慣れない仕事や女社会ならではの苦労、幼い子達が1年間でとっても立派になった感動、お世話になった先輩が異動してしまう寂しさなど、様々な感情が渾然一体となって心に迫り、式の間は涙をこらえるのが大変だった。

 しかし、感動の余韻に浸りながら後片付けをしているところにあの男から与えられたスマートフォンにメッセージが届き、私の気分は一転した。
-メグの初めての御奉仕、楽しみにしているよ♡-

 務めて考えないようにしていた水曜日の義務を思い起こさざるを得ない文章内容に加えて、文末のハートマークがいっそう私を苛立たせる。既読無視して帰宅してしまいたかったが、それができない理由である股間の異物が私をさらにイラつかせ、かつ惨めな気持ちにさせる。


 今思うと、週末の私は本当にどうかしていた。特に日曜日の夜、天蓋付きベッドでのセックスのときの私は、完全に拓海さんの言いなりだった。

 いわゆる“お掃除フェラ”を命じられ、言われるままに喜んで、勢いの衰えたペニスに付着する精液と愛液を舌で丁寧に舐めとり、硬さが戻った竿を口腔内に納めて数回ゆっくりと抜き差しして残滓を全てぬぐいとった。竿に味がしなくなったところで、仕上げとして亀頭にチュッチュッと口づけをして、先端に再び滲み出していたカウパー液を舐めとった。命令にひとつひとつ従う度に「そう、そんな感じ」「上手だよ」「良い感じだよ」と褒めてもらえることが幸せだった。

「いかがでしょうか、ご主人様?」
「ありがとう、きれいになったよ、メグ。上手にできたから、夕食は僕が食べさせてあげようね」
「ありがとうございます、嬉しいです」

 そんな会話をすると、丈の長いゆったりとした真っ白のナイトガウンを着せられ、階下のダイニングキッチンに移動して、メイド服姿のナターシャさんを交えての夕食会となった。赤い首輪と左手薬指の指輪をつけたまま。

 ナターシャさんは、化粧が崩れ“事後”の匂いを発している私を揶揄することなく、自分も食事をとりながら私たちの給仕をしてくれた。私は拓海さんの膝の上で、『ボルシチ』『ブリヌイ』『シャシリク』『サラート・オリヴィエ』という彼女が調理したロシア料理を拓海さんに食べさせられながら、彼女の料理解説を楽しんだ。
 
 これまで口にしたことのないロシア料理だが、日本人の味覚に合わせてあるのか、どれも美味しかったし、「ボルシチはテーブルビートという赤い根菜を使ったスープでロシア語の発音はボルシ、なのよ」といった豆知識も興味深かった。

 ただ指輪を見たナターシャが、私を『ワカオクサマ』と呼ぶようになったのが恥ずかしかった。ロシア人の彼女は当然指輪に刻まれた文字が読めて意味も理解できるはずだ。念のため、恐る恐る尋ねてみる。

「ナターシャさんは、この指輪の文字読めるよね?」
「ダー。ボスに頼まれて、ワタシがロシア語に翻訳しましタ」
 そうなんだ・・・私は更に恥ずかしくなったが質問を続ける。

「それじゃあ、どうして『ワカオクサマ』なんて呼ぶの?」
「新婚さんみたいだからデスネ」
「ちがいますからっ!」

 そういう彼女は普段と違って少し寂しそうで、私は何も言えなくなった。その一方、自分より遥かに色気があり料理も仕事もできる彼女ではなく、私が拓海さんに寵愛されていることに優越感を抱き、彼女の目を意識していっそうベタベタしてしまった。
 なんであんな態度をとってしまったのか、自分の女としての嫌な面を思いだし自己嫌悪に陥る。やはり私は寂しかったのだろう。甘やかされていい気になっていたようにも思う。

 食事の後は再び浴室へ。指輪と首輪をはずされシャワーできれいに洗われ簡単にメイクされた後、下半身にステンレス製の鍵付きの貞操帯を身につけさせられた。

 拓海さんのマゾ牝奴隷となった証として、普段は首輪と指輪の代わりにこれを付けているよう命じられた。着用したままお風呂に入ることができ、網状の排泄孔から小用は足せるようになっているということでもあり、その時の私は、確かに職場に首輪と指輪をつけていくわけにはいかない、でもこれなら大丈夫だわ、と思ってあっさり受け入れてしまったのだ。

 あの時の私は抵抗することなどまるで考えもしなかった。むしろ、マゾ牝奴隷なのだから当然、そんな風にさえ考えていた気がする。
 「これでメグが強姦魔に襲われても大丈夫。それに浮気も自慰もできないよ」と言われても、そうなんだ、という感じだったが、続けて「メグの性欲と排泄は鍵を持つ僕に管理されるんだよ」と言われたときには、身体がゾクゾクと震えた。 

 着てきた服は紙袋にしまわれていて、フロントホック&ハードワイヤータイプの3/4カップの薄紫色のブラ、鎖骨が見えるくらい首元が開いた真っ赤なセーター、膝上15センチの黒のタイトミニ、黒のノンガーターストッキングを着させられた。俺に会うときはこれくらいセクシーな服を着てきて欲しいと言われた。

 今は車で送ってもらうだけだから大丈夫だけれど、こんな派手で露出の多い服は恥ずかしくて普段は絶対に着れないし、そもそもこんな服は持っていないから、「はい」とは言わなかった。
 

 拓海さんは約束どおり私を車で送ってくれた。レクサスブランドの車高が高くて内部が広く上品な内装の、乗用車とRVの中間みたいな車だった。ハイブリッドカーということで、燃費が良いけど遅いのかと思ったら、凄い加速でビックリした。車は特に好きではないから軽で十分だし、そもそも都内に住んでいれば必要ないけれど、イベント屋という仕事柄、多少は見栄を張らないといけないらしい。

 なるほどそういうものか、大変だなと思った。室内が上下左右に余裕があってカーセックスもしやすいしね、と聞くまでは。

 車内では静かな音楽が流れていた。セックスの時に小さな音でBGMとして流されていた曲と同じで、マンションの前に停車するまで、私は殆ど喋らずに淫らな回想に浸ってしまった。 

「さあ、着いたよ!遅くなってしまったね」
「あ、はい。大丈夫です」

 運転席の拓海さんが助手席の私に体を寄せ、キスをして言う。
「おやすみ、メグ」
「おやすみなさい、拓海さん」

 降車して車を見送って玄関に入ろうと振り向いた私を、隣室に住むメガネをかけた小太りの若い男が玄関内からじっと見ていた。おやすみの挨拶にしては少々長かったキスも見られていたかもしれない。

 昨年の夏、お盆の頃に帰宅したとき、『魔法少女プ〇キ〇ア』の紙袋を持ったその男と玄関前で偶然会った。普段ならそんなことは絶対にしないのだが、孝さんに告白されて酔ってハイテンションだったせいか、つい「そのアニメ仕事柄よく見てます、子供向けだけど面白いですよね」と話しかけ、コミケ帰りだという彼と数分間アニメ談義をしてしまった。

 それから何かと話しかけられるようになり、自分から話しかけた手前、初めのうちは丁寧に応対していた。しかし、次第に、まるで私がその男に気があるような勘違いをするようになったので、公務員の彼がいることを話し、それ以降、彼が話したそうにしてもそっけなく挨拶だけして去るようにしていた。

 視線が嫌な感じだった。時刻も夜の11時過ぎで周囲に人気もなく不安を感じたが、監視カメラもある玄関で変なことはしないだろうと、「こんばんは」と明るく挨拶をして去る。後ろから露出している太腿にねっとりとした視線を感じで気持ちが悪かった。

 エレベーターに乗るときに振り返ると太腿から慌てて眼をそらすのが見えた。一緒にならないようすぐドアを閉め、自分の部屋がある4階へ。室内に入るとそそくさとスウェットに着替え、仕事の準備をしてすぐに就寝した。


 翌日の月曜日の朝の目覚めは最悪だった。慣れない貞操帯のせいで眠りが浅く、うつらうつらとしながら不快な夢ばかりを見た。高校生の頃、好きな男子に振られた夢、保育士試験に落ちた夢、仕事に失敗した夢・・・・。

 拓海さんに拘束されバックで犯されていると、目の前に家族や友人、保育園の同僚達が現われて軽蔑のまなざしで私を見る。真面目でお堅いふりをしていただけで、本当はエッチなことが大好きだったんだ、しかも変態的な。そんな声が聴こえてくる。「違うの、そうじゃないの」と意味不明な弁解をする私。

 シーンが変わり、私は保育園で児童と遊んでいる。そのうちのだれかが私の首を指差して、先生それは何と質問する。え、首輪はしていないはず、しかし首をさわると感触が・・・。しどろもどろの私にその子は笑顔で言う、「わかった!先生は人間じゃないんだ!男の人に飼われている『牝』なんだね!」

 ここで、はっと目が覚めた。首に手をやって首輪がないことに安堵するが、すぐに貞操帯の存在を感じて顔をしかめる。汗びっしょりだったのでシャワーを浴びる。小用が足せるか確かめてみると何とか用が足せた。ただ金属網に若干の水滴が残ることはどうしようもなかった。どうしてこんな物を装着させられることを受け入れてしまったのか、そう思っても後の祭り。

 少し寝坊したあげく余計なことをしていたから、雨で自転車が使えない今日は急がないと遅刻しそうだった。髪にアイロンをあてる毎朝の所作を省いて手早く身支度を整える。パンツスタイルだと、気にしているウエストが貞操帯のせいでさらに太く見えそうだった。ふだんあまり履かないゆったりとしたロングスカート、しかも貞操帯が透けて見えないよう生地が厚めで色が濃いもの、に履き替えると、朝食を食べずに慌てて部屋を飛び出した。


 年度末の保育園は、明後日の水曜日にひかえた卒園式や新年度の準備などで最も忙しかった。トイレに行くとき以外、貞操帯のことを気にする余裕もなかったが、残業を終えて帰宅するときは酷く疲れていた。

 雨がやんだ帰り道、歩きながらメールやアプリにメッセージが届いていないかチェックをする。

  珍しく妹の琴美から、大学の卒業式が終わったという写真付きのメッセージが届いていた。妹は私と違って愛嬌がありモテるタイプで、彼氏が途切れたことがない。彼氏がいない私に対しても嫌味な態度をとらず、お姉ちゃんお姉ちゃんと慕ってくるのでつい甘やかしてしまう。

 学生時代のイベントバイトの仲間からは、4月の川治温泉旅行のお誘いが来ていた。仲間の男の子を好きだったこともあったが今ではもう、すっかり吹っ切っている。久しぶりにみんなに会いたいし仕事のストレス解消もしたいから是非参加したかった。しかし週末は・・・。

 そして孝さんからのメッセージが金、土、日と毎日1通づつ届いていた。海外出張から帰国した、おみやげを買ってきたから週明けに会わないか、という内容で、いつもは早い私からの返信がないことから、自分のメールが届いていないことを懸念して、土日もほぼ同じ内容で送ってきたようだ。

 驚いたことに、日曜日は電話の着信記録と留守電メッセージも残されていた。電話をかけてきたなんて、いつ以来だろう。

「いつも返信が早いので心配だ。できるだけ早く連絡くれ。火曜日の夜に会いたい」という内容だった。おみやげを買ってきてくれたこと、たびたび連絡をくれたこと、会いたいと言ってくれたことは嬉しかった。その一方、自分は私をいくらでも待たせるくせに勝手な人だとも思った。

 妹には、「卒業おめでとう!返信送れてごめん。近いうちにご飯でも食べましょう」と。旅行仲間には「行きたいけど、仕事の都合で難しいかも。また連絡します」と返信し、孝さんにどう連絡しようか迷っているうちに自室のあるマンションに着いてしまった。すると驚くことに、マンション前に停まっている乗用車の運転席から私服姿の孝さんが現れた。 

「孝さん?」
「芽美、久しぶり!」
「今日はお仕事は?私服ってことはお休みなの?」
「うん、海外出張中の土日勤務の振り替え休日。今日明日と休めるはずだったんだけど、年度末で忙しいから明日はどうしても出社しなくちゃならなくなって」
「なら、ゆっくりお休みすればいいのに」

「おいおい、そんな冷たいこと言うなよ。返信を寄越さないお前のことが心配になって、わざわざ会いにきてやったんだから・・・・。それにおみやげも渡したかったからな、ほら!」
 そう言って『bilar』と書かれた小さなお菓子の袋を渡された。

「ありがとう。なにこれ?ビラー?クルマの形をした・・・アメ?」
「ははは、ビーラル、って読むらしいぞ、それ。スウェーデンで一番人気のグミっていうんで、グミ好きの芽美が喜ぶかと思ってさ。」
「ヘー、そうなんだ、後で食べてみるね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 そこで私達は無言になった。私は正直なところ、睡眠不足と疲労と空腹でイライラしていたし、久しぶりに会う孝さんにそんな顔を見せたくもなかった。またこの三日間、孝さんのことを忘れて他の男に抱かれていた後ろめたさから、どのような態度で接すればいいのかわからなかった。それに何よりもまず、早くお手洗いに行きたかった。

 孝さんのほうは、私から「一緒に夕飯でもどう?」と部屋に誘われることを期待していたようだが、視線を逸らせて黙りこんでいる私をみて自分から強引に誘ってきた。

「夕飯まだだろ?俺もまだだから、どこか車で移動して一緒に食べようぜ!」

 冷蔵庫の材料で適当に作って済ませようとしていたが、今週末はお金を使わなかったし、せっかくのお誘いだからと、一緒に行くことにする。でもその前に・・・・。
「そうね。久しぶりだし、海外出張のお話も聞きたいし。荷物置いて準備してくるから、ちょっと待ってて」

 そう言って部屋に上がり、荷物を置いてトイレで用を済ませ、お化粧を直して戻り、助手席に乗り込む。親と同居している孝さんの父親の車で、フォルクスワーゲンのゴルフという乗用車だ。

 ディーゼル車の排ガス不正が発覚するまでは、ちょっとオシャレ感のある外車と好印象だったが、今は他でも不正しているような気がして乗りたくないブランドになってしまっている。車内はタバコ臭く、後部座席にはパチンコ雑誌や写真週刊誌などが散乱していた。


 食事の場所は、去年、孝さんと何度か訪れたことのあるいつものファミリーレストランだった。この付近で駐車場があってリーズナブルな値段のお店というと限られてしまうから、お店選びに不満はなかった。

 けれども、私に一言の断りもなく喫煙席を選び、出張中はなかなか吸えなかったからと、座った途端にタバコに火をつけ、北欧のカジノで遊んだ話を始めたのには失望した。

 ストックホルムのカジノではスロットマシンでいくら勝った、コペンハーゲンではルーレットでいくら勝ったと自慢げに話していたが、ギャンブラーは負けた話はあまりしないものだ。それに、「ポーカーのようなカードゲームは短時間では大儲けできないから手を出さなかったぜ」としたり顔で話していたが、本当の理由は英語が不得意だから。そんな嘘をつく彼が情けなかった。

 私はタバコとギャンブルが大嫌いだ。彼もそのことを知っていて、積極的にアプローチしてきた当時は気を遣って禁煙席を選んでくれたり、パチンコを止めるようなことを言っていた。

 しかし、口説き落としたとみるといっさい気を遣わなり、断りなく喫煙席を選ぶようになった。惚れてしまった弱みから一度、禁煙席が満席のときに「喫煙席でもいいよ」と言ってしまったことがいけなかったのだろう。パチンコについても、勝ったときに私に食事を奢れば許されると思っているようだ。

 タバコもギャンブルもやめて欲しい私の気持ちに変わりはなかった、ただ何度お願いしても無駄なので諦めてしまっただけで。

 会計のときに、「支払いは別々で」と言っていたから、カジノでのトータル収支はマイナスだったのだろう、それも大幅に。なぜかというと、後で調べてわかったことだが、おみやげのグミの値段は13クローナ、日本円でたったの172円だったから。味は甘すぎる上に硬くて歯が痛くなる代物で、家族や友人に勧めても大不評だったから、結局、捨ててしまった。


 食事の後、孝さんは、疲れているから早く帰って眠りたいという私の意向を無視して「少しドライブしよう」と車を海沿いへ走らせ、人気のない倉庫群に停めた。昨年秋に、口で奉仕したときと同じ場所だった。彼が何を求めているのか明らかだった。

「海外出張中はなかなか機会がなくてこんな溜まってるんだ、久しぶりに頼むよ、芽美?」
 タバコを1本吸い終わると、彼は情欲に満ちた顔でこう言って、私の右手をとって膨らんでいる自分の股間にあてがう。

 昨日激しいセックスをしたばかりで性欲は満ち足りていた。それに二日続けて違う男にフェラチオするなんて、自分がまるで風俗嬢になったようで躊躇われた。ペニスをズボンの上から撫でながら、どうにか回避する方法はないかと思案していると、焦れた孝さんが私にキスして強引に身体を触ろうとしてきた。

「待って!久しぶりだから上手くできるか心配で・・・でも、今からしてみるわ」

 タバコ臭い彼の口とキスするのは嫌だったし、このまま身体を触らせて貞操帯を装着していることがばれたら、とても面倒くさいことになるのは明らかだった。
  いずれにせよ私が口でしてあげない限り、彼は私をここから帰すことはないのだ。これもひとつの監禁だった。昨日までの非現実的で豪華な監禁場所と違って、とても現実的で貧相な場所だが。

 ズボンのジッパーを降ろして、すでに大きくなっている彼のものを取り出し口に含む。さっさと終わらせて、早く帰って眠りたかった。やみくもに頭を動かしてみるが、歯が当たって痛かったようだ。

「ウブな芽美はいつまでたってもフェラが上手くならないなぁ」
 彼はそう揶揄すると、私の頭を押さえて腰を降りはじめる。意向を無視され、辺鄙な場所の汚い車内でオナホールのように扱われている自分が惨めで涙がこぼれる。そんな私の姿に彼の興奮がピークに達し、「そら、飲めよ」と言って口内に放出をはじめる。

 喉を無遠慮に突かれ苦しくて吐き気を我慢していたところに、とても苦く、またとても生臭い匂いがするドロドロの液体が注がれたため、ゲホゲホとむせてズボンの上に嘔吐してしまう。

「おい!なにやってんだ!? 汚ねぇなぁ。しっかり拭いてくれよ」
  彼の慌てた罵声が飛ぶ。

ーえ、私が悪いの?それに汚い?自分が出したものでしょう!-
 堪忍袋の尾が切れた。頭を起こしてティッシュの中に口の中のものを全て吐き出すと、丸めて彼の顔に投げつける。
 そのままドアを開けて車を降り、無人の倉庫街の中をタクシーの通りそうな大通りを目指して歩きだす。私の嘔吐物で汚れたズボンからペニスを露出したまま、彼が車から降りて何か喚いていたが、完全に無視した。

 幸い、大通りまではすぐだった。口直しにジュースを買って飲もうとコンビニに立ち寄る。お茶より味の強いものほうがいいかと、普段あまり買わない炭酸飲料を眺めていたら、拓海さんが好きだというコカコーラを見つけた。苦手なのに何故か買ってしまい、飲んだらやっぱり苦手だったが、嫌な味は消えて気分も少し回復した。

 タクシーをつかまえて帰宅するとスマホの電源を切り、シャワーを浴びてすぐに床につく。せいせいした気持ちでぐっすりと眠ることができた。


 翌日の火曜日は卒園式の準備に忙殺されたが、夜は比較的早く帰ることができた。時おり貞操帯の違和感に悩まされる以外は、のんびりと過ごせた。

 そして水曜日の夜。卒園式の感動も束の間に、私は月曜日の夜に引き続き、またもや望まぬ奉仕に向かわねばならない。K駅を降りた私は、暗い表情を浮かべて拓海さんの事務所へとぼとぼと歩いていくのだった。

 雑居ビルに到着しエレベーターに乗ろうとしたところで、降りてきた中年男性と目があう。地下1階から上がってきたということは、アダルトグッズのお店か風俗店に用があったということか。

 先週末に来たときと同じ、露出の少ない地味なパンツスタイルにも関わらず、その男は好色そうな視線で私を舐めまわすように見ている。私を風俗店の面接を受けに来た女だと思っていたようで、4階のボタンが押されていることに気づくと落胆した様子で去っていった。 

 4階のエレベーターを降りたところで足が止まる。今から男の言うがままに性的な奉仕を行いにいく自分は風俗嬢そのものではないか。さきほどの男が好色な視線を向けてきたのも、これから“ひと仕事”しに行く直前の風俗嬢と同じような雰囲気を醸しているからかもしれない。

 自分が凄く下品な女になった気がしてぞっとする。高校や大学には、メイドカフェやガールズバー、キャバクラでアルバイトしてる女の子がたくさんいた。援助交際経験や風俗バイトをしていることを隠さない子もいた。そればかりか、AV出演疑惑がある短大生さえいた。
 表面的には仲良くしていたが、内心では男に媚を売ったり身体を売ったりしてお金を稼ぐ彼女達を軽蔑していた。

 でも、今の私は、そんな女達と同類なのだ。そう思うと耐え切れず、衝動的に後ろを向いてドアが閉まりかけているエレベーターに乗り込もうとする。

 その時、メール受信の音がした。嫌な予感がして乗り込むのをやめて急いで開く。拓海さんからのメール。添付写真を開くとそれは、あられもない姿の妹の写真だった。

「琴美っ!?」
ー琴美はこんな写真を彼に撮らせるような隙のある子じゃない・・・けど、そういえば高校生のときの最初の彼が年上のヤンキーぽい男で、きわどい写メを送ってきたことも・・・去年の秋、元彼が最近連絡とってきて悩んでるようなことを・・・ということは!?ー

 急いで拓海さんに電話をすると1コールで出た。
「この写真どうしたのっ?」
「琴美ちゃんの元彼さんがお金に困ってるとかで、写真を売りつけようとしてたんで、代わりに買い取ってあげたのさ」
「琴美はあなたが買い取ったこと知ってるの?」
「知らない。元彼とは偽名で売買したからね。直接会ってもいないし」

「じゃあ琴美はまだあいつに脅されてるの?」
「それはないな。元彼には琴美ちゃんを脅迫した証拠のメールを押さえた上で厳しく言いふくめてあるから。今後琴美ちゃんと接触したら警察に話す、写真データと撮影した端末を全部僕に渡してコピーデータを全て消去するという条件に違反しても、だよって」

「でも写真がどうなったかわからないと、琴美の不安は解消されないわ」
「そうだね。元彼から連絡が来なくなってホッとしているとは思うけど、写真がどうなったかわからなくて不安がっているんじゃないかな?」

「写真をどうする気なの?」
「どうもしないよ?未来の義理の妹を純粋に助けたかっただけさ」
「ふざけたこと言わないで!ならあなたが写真を買い取ったこと、琴美に言ってもいいのね?」
「もちろんさ。『私のご主人様が可愛いマゾ牝奴隷の妹を救うためにがんばってくれたの♡』ってノロケてもらってかまわないよ」
「そんなこと言うわけないでしょ!」
「はは、冗談さ。でも『恋人の拓海さんが彼女の妹を救うために・・・』くらいは」
「言いません!」
「え~、それくらいは言ってくれてもいいんじゃないかな?
「嫌です!あなたと私はそういう関係ではありませんから!」

「そんなふうに言われると傷つくなぁ。ということは僕と琴美ちゃんは全くの他人だから、僕がこの写真をどうしようと勝手ってことだね?実際妹さんには会ったこともないし。」
「私が買い取りますっ!」
「そうだな・・・芽美ちゃんになら1億円で売ってあげようじゃないか。」
「い、いち億ッ!?全部で何枚あるかしらないけど、全部あわせてもそんな価値あるわけないじゃない!」

「なにを言っているんだい?琴美ちゃんの実のお姉さんの発言とは思えないな。たしかに琴美ちゃんを全く知らない人にとっては、ネットで拾える無料のエロ画像と同程度の価値しかないだろうさ。でも、もし写真データがネットに流出したとしたら妹さんの一生はめちゃくちゃになるかもしれないんだよ。妹さんの人生の値段と考えたら、家族にとっては1億円でも安すぎると思わないか?」
「うっ、それはそうかもしれないけど・・・・」
「1億円は高すぎるのかな?」
「高すぎはしないけど・・・でも、そんな金額払えないもの」
「わかってる。僕はあくまで『恋人の妹を助けたかった』だけだから。」

「・・・私はなにをすればいいの?」
「今度妹さんに会わせて欲しいんだ。芽美ちゃんの『恋人』として一度きちんと挨拶しておきたいから。そうすれば芽美ちゃんだって、今後、僕のところに泊まりやすくなるだろ?今みたいにここに来ることを躊躇したりすることもなくなるだろうし」
「このまま帰ったらどうなるの?」
「どうなるって写真データのこと?赤の他人の写真データ持っていても仕方がないから『適当』に処分することになるけど・・・。価値のないものだから、扱いが雑になってデータ媒体ごとうっかり落としちゃうかもしれないなぁ」

「・・・今すぐ行くわ」
「事務所に着いたらナターシャの指示に従って。待ってるよ♪」

 黙って電話を切った。きわどい内容だったのに公共のスペースで随分長く話してしまった。途中、大声も出したが、4階フロアには誰も現われなくて幸いだった。

ーどうしようもないわねー

 奴隷契約書や貞操帯だけなら、ハードルは高いものの、覚悟を決めて恥ずかしさや世間の好奇の目を耐える決断がつけば、何とかなるかもしれなかった。しかし妹まで巻き込んでしまうとなると、もはや拓海さんに抵抗することは不可能だ。

ーま、これで悩みがひとつ減ったわけねー
 拓海さんの所へ行くか行かないか悩む必要がなくなったことに自嘲的な笑みが浮かぶ。その表情のまま私は5階へ続く階段をゆっくりと上がっていった。


「メグ、おかえり~。待ってたよ~」

 事務所のインターホンを鳴らすとメイド服姿のナターシャさんが現われてドアを開けてくれた。私をハグすると、手をつないで中へと案内される。ロシア人というのは皆こんな風に人との距離が近いのだろうか?

 応接室のドアひとつ向こう側は小さな廊下になっている。廊下の右側には拓海さん個人の仕事部屋へのドア、左側には居住スペースへの玄関ドアがあり、正面のドアが更衣室だ。更衣室内は清潔で、ハンガーラック、小さな洋服タンス、洗面化粧ユニットがある。ナターシャさんは出勤すると、ここでメイド服に着替えるそうだ。ということは、たぶん私もメイド服を・・・。

「まずメグに、この事務所の出入り口の鍵をわたしておくネ」
  そう言って鍵を渡されたので、かばんにしまう。
「これでボスとワタシがいなくても、メグはここまで入ってこれるネ」

 続いて渡されたのはリングケース。中には Вечная секс-рабыня для Такумиと刻まれた例の指輪が入っている。
「それを嵌めていれば、玄関から6階のボスの部屋まで入れるネ」
 指輪を嵌めていると部屋に入れる?意味がわからなかった。
「どういうこと?」
「行けばわかりまス。ささ、嵌めてくださイ」
 とりあえず言うとおりにする。

「服をぜんぶ脱いで、このガウンをはおいでくださイ」

 先ほどの予想に反して、渡されたのは先日も着せられたナイトガウンだった。貞操帯を見られるのが恥ずかしいので彼女に外に出てもらうようお願いする。
「ごめんなさい、厚着してて時間かかるので外で待っててもらえますか?」
「いいヨ。ワタシは給湯室で洗い物をしてきまス。終わったら何も持たずに玄関前で待っていてくださいネ」

 服を脱ぎ、貞操帯以外は裸の上にガウンを羽織り指輪を嵌めた格好で玄関前で待つ。恥ずかしかったが、彼女はすぐに戻ってきた。

「そのモニターカメラに指輪を嵌めた手をかざしてくださイ」
 言われたとおりにすると、カチャッというロックのはずれる音がした。
「えっ?なにこれっ?」
「メグの手のカタチと指輪を認証してカギが開くんだよ、すごいネ!」

 これには私も驚いた。ナターシャの場合は顔が登録してあるらしい。
 二人で玄関をあがり、ダイニングキッチンで立ち止まる。

「ワタシが一人で入れるのはここまでネ。6階から先はボスにカギを開けてもらわないと。でも、メグは入れるから、ここから先はひとりで行ってください。ボスが待っていまス」

 夕飯の支度を始めるというナターシャを残して6階へ上がる。居間のロックも玄関同様にカメラに手をかざすと開き、あらためて驚かされる。居間では拓海さんが三日月型のソファに座って正面のモニターを見ながらくつろいでいた。

「メグ、お前はほんとうに淫らで愛らしいな」
 そう言ってモニターを見るよう促される。画面には、天蓋ベッドでのセックスを上からのカメラで映した映像が流れていた。
『はいっ!ご主人様専用の牝穴の中に出してくださいっ!気持ち良くたくさん射精してくださいっ!芽美の子宮にタクミご主人様専用奴隷の刻印を刻んでくださいっ!』
 ちょうど私が中出しされる場面だった。

『ああああああああんっ!』
 画面内に、中出しされてる間、両手両脚で拓海にしがみついて泣いているような微笑んでいるような恍惚とした表情を浮かべる私の顔がアップで映し出される。
 愛らしいかどうかはわからないが、男を満足させたことを悦ぶマゾの顔であり、その嬌声は男に媚びる淫らな牝の喘ぎ声だった。

ーこれが・・・わたしの本性なの?・・・ー
 呆然として思わず子宮のあるお腹に手を伸ばすが、無骨な貞操帯の手触りに現実に戻される。こんなの私じゃない。
「消してくださいっ!」
 拓海さんはあっさり消すと立ち上がって私の手をとる。
「待ってたよ、メグ。さぁ一緒にお風呂に入ろう」


  脱衣場でガウンを脱がされ、貞操帯の鍵をはずされる。肉体的には解放されたが、心には妹の画像データという新たな枷がはめられていたから嬉しさはあまり感じなかった。どのみち、帰る時にまた装着させられるのだ。

「貞操帯の手入れをするから、先にシャワーを浴びていなさい」
 そう言われても、トイレに行きたい。
「あの、お手洗いに行っても・・・?」

 お風呂場でしなさい、などと気持ち悪い命令をされるのかと思ったがそんなことはなく、あっさり許可される。
 トイレで用を足し浴室に入りシャワーを浴びていると拓海さんが入ってくる。
「さ、身体を洗ってあげようね。その前に温まらないと」

 今日のお湯はバラ湯ではなかったが、入浴剤が入っていて良い香りがした。拓海さんに背中を預ける体勢で湯船に浸かる。後ろからキスされたり身体をまさぐられるが不愉快そうに身体を揺すってやめさせる。洗い場も身体も十分に温まると、彼はこの前と同様、私の身体と髪を素手で丁寧に洗う。 不思議に思って尋ねる。

「今日は私が奉仕するんじゃないの?」
「奉仕って、僕の身体を洗ってくれるってこと?そのうちやってもらうけど、まだいいよ。それに可愛いマゾ牝奴隷の身だしなみを整えるのは飼い主の務めだし、楽しみでもあるから。時間があるときはなるべく自分の手でお前を綺麗にしてやりたいんだ。さ、次は『毛づくろい』だよ」

 口周り、腕、ワキ、脚、お腹、背中、腰を、高級そうなクリームを塗られて毛の流れにそってゆっくりとシェービングされる。もちろん、アソコも忘れられてはいない。
「あおむけに寝て、股を広げなさい」

 股間の剃毛を含め『毛づくろい』が完了すると、最後はアロマオイルを使った全身マッサージ。ここまでくると、もはや私が女主人で彼が奴隷みたいだ。私の敵意を和らげる作戦だとわかっていても、言葉だけでなく実際にこうやって優しく丹念に全身を揉みほぐされていると、敵意が薄れていって感謝の情が沸いてくるのをとめられない。

『可愛いマゾ牝奴隷の身だしなみを整えるのは飼い主の務め』
『時間があるときはなるべく自分の手でお前を綺麗にしてやりたい』
先ほどの言葉がマッサージの心地よさで弛緩した脳内でリフレインし、顔が赤くなる。

「なんだか顔が赤いよ、メグ?」
「別に嬉しいからじゃないわ、マッサージで身体が火照っているだけよ」
 内心を見透かされたような気がして、ついこんな言い訳をしてしまう。

 最後にもう一度、先ほどと同じように彼に背中をあずけた体勢で湯船に浸かる。洗った髪が濡れないようアップにまとめられ、露わになっているうなじにキスをされる。今度のキスは不快ではなかった。抵抗しない私の身体を後ろから伸びた手がまさぐる。

「イヤ・・・」
 かたちばかりの拒否の溜息をついて左右に首を振ると唇を彼の唇でふさがれる。

「ンンン・・・」
 お腹や太腿にあった彼の手が乳房や股間に移動してくる。さっきはあれほど不愉快だったのに、今はどうしてこんなに気持ちが良いのだろう。きっとお湯の熱さにのぼせているんだわ・・・。積極的にキスに応じながら、蕩ける頭でそんなことを考えていると、唇が離れる。

「のぼせてしまう前に上がるよ、メグ」
「そうね」
「寝室で僕を気持ちよくしてくれるね?」
「・・・うん・・・」

 こんなに尽くしてくれたのだから、少しは恩返ししないと。到着した頃の不快感は消え奉仕の精神が私の心の大半を占めていた。


 脱衣場で私の身体をバスタオルで拭き赤い首輪を嵌めると拓海さんはバスローブを羽織って寝室に向かう。今回はメイクを自分でするように、衣装もクローゼットの中のものを自分で選んで着てみなさい、と命令して。寝室に入るときドアの前で何か呟いているようだったが、ドライヤーを使っていてよく聞こえなかった。

 さまざまなメイク道具がそろえられた化粧台の前に座り、いつもより濃い目のメイクをしながら思案する。ナターシャさんの服装をみても、彼がメイド服好きなのは間違いない。それに寝室の中世ヨーロッパ風の雰囲気にもあっている。よし決定。

 指輪をかざして寝室のドアを開けようとするが開かない。ガチャガチャしていると中から声が聞こえた。
「すまない、言うのを忘れていた。寝室のドアはセキュリティが厳しくしてあるんだ。指輪をカメラモニターにかざしたら、次に赤い首輪をつけた顔を映しながら『タクミご主人様専用マゾ牝奴隷のメグが参りました』とマイクに向かって言いなさい。それでドアが開く」

 その通りにしたら、今度は確かにカギが開いた。びっくり。
「これって映像認識だけじゃなくて音声認識もしてるってことですよね?未来的で凄すぎです・・・けど、厳重すぎるというか、凝りすぎな気も・・・」
 
「システムは発売前のモニター実験に参加して1年間安価な料金で貸与されているものだから、確かに未来的ではある。でも厳重とか凝りすぎという意見には賛同できないな。寝室から先は、赤い首輪と奴隷の指輪を身につけ、俺の『専用マゾ牝奴隷』の自覚を持った芽美と、そのご主人様である俺だけが入れる二人だけの部屋にしたかったんだよ」
 拓海さんは天蓋ベッドで横になっているようで姿が見えず、声だけが聞こえる。

「ということは、拓海さんもここに入るときは何か言うんですか?」
「もちろんさ。指輪をかざした後に顔を映しながら『マゾ牝奴隷メグの大好きなご主人様タクミ』と言うんだよ」
「それ、自分で言って恥ずかしくないですか?」
「全然。だって事実だから」
「事実じゃありません!」

 偏執的なことに違いはないが、後ろめたさを見せずにここまで突き抜けていると、すがすがしさを感じてしまう。私が文句を言ったところで変わるわけでもないし、拓海さんも同じようにするわけだし。

「ナターシャさんは?」
「彼女にここを開けるすべはないよ。ベッドメイクとか室内清掃のときは僕がドアを開けてるんだよ」
「ここは本当に『二人だけの部屋』なんだ」
「そうさ」

 そんな会話を交わしながらクローゼットの中を調べていた。これからの季節にふさわしい春夏用のトップスやボトムス。純白、黒、真紅、薄紫のブラやショーツ、スリーインワンの下着。ベビードールやテディ、ビスチェ等のセクシーランジェリー。メイド服、学生服、チアガール衣装、サンタ衣装等のコスプレ。各種ストッキングや髪をまとめるリボン等の小物類と多岐にわたっていた。

「そこのクローゼットの衣装は全部芽美のものだよ。どんな服を選ぶか楽しみだから、メイクルームで着おわったら声をかけて入室して」
「かしこまりました」

 純白の下着上下とミニスカメイド服、ニーハイ、髪留めリボンをピックアップしてメイクルームに戻り身につける。スカートは膝上25センチ。ちょっと動いただけで裾がひるがえってショーツが見えてしまう。

  全身鏡で自分のメイド服姿を眺めると、正直、違和感が凄かった。諦めて最後の香水選択に入る。有名なものが並んでいる中から無難にシャネルの5番を選び、これから自分がとる姿勢を考え太腿の前面に軽くふる。準備完了。

 指輪をかざした後、首輪を映しながら言う。
「拓海ご主人様専用マゾ牝奴隷メグが参りました」

 カギが開く。
「入ります」

 声をかけて入室すると、バスローブ姿で窓際のいすに座って冷たいドリンクを飲んでいた拓海さんが私の心を射抜くような視線を向ける。静かな音楽が流れている室内、テーブル上のアロマキャンドルの赤い炎がゆれ動く中、低く落ち着いた声で下される命令。

「さあ、俺の可愛いマゾ牝奴隷メグ。孝に仕込まれたテクニックを、お前の大好きなご主人様に披露してみなさい」


 奴隷の指輪を使って裸体で住居へあがりこみ、浴室で身を清められ毛づくろいされ、身体をマッサージでほぐされ愛撫され、彼のマゾ牝奴隷の証の赤い首輪を嵌められ、奉仕するために自ら選んだ衣装を着て、二人だけが入れる夢のように豪華な寝室に奴隷のアイテムとキーワードで入室し、数日前に激しく交わったその密室で、すべてをお膳立てしてきたその相手の男から奉仕するよう命じられる私。

 ここまできては、もはや抗うことは不可能だ。それならいっそ、『マゾ牝奴隷メグ』として最高の演技を見せてやろうと開き直って芝居がかったセリフを紡ぐ。私は風俗嬢ではなく、マゾの牝奴隷。それも拓海さん専用の。

 風俗嬢なら自分を買ったお客さんの全ての要求に従わなくてもよい。しかし私はご主人様である拓海さんの命令には全て従わなければならない。でも私が従うのはこの人ただ一人。大勢の有象無象の男達にささやかなお金と引き換えに身体を開く女達とは違うのだ。そんな風に自分を納得させながら。

「はい。大好きな拓海ご主人様、マゾ牝奴隷メグの奉仕で気持ちよくなってくださいませ。ご主人様専用のお口の中にたっぷり射精してくださいませ。それが処女を捧げてマゾ牝奴隷の契約を結んだわたくし、吉野芽美の幸せでございます」

 少しアレンジを施した奴隷の口上を述べ終わると、彼の前にぺたんと座り込み、バスローブをはだけてご主人様のシンボルに舌を伸ばしていった。




 夕食のときも帰りの車内でも、私はほとんど無言だった。この間の心地よい沈黙ではなく、意気消沈してのものだった。なぜなら、口での奉仕が稚拙すぎて拓海さんをいかせることができなかったから。

 意気込みだけが空回りしている私に限界を感じた彼に、ナターシャを呼んで教えさせようか、と言われてしまった。悪意のない親切心からの提案だったが、女としての格が劣っているのだと指摘されているようで屈辱を感じた。
 それ以上に、二人だけが入ることを許され秘め事を行なっている密室に他の女が侵入してくると思うと、縄張りを荒らされるようで非常に不快だった。

 断固拒否して、次は必ずお口でいかせられるように勉強してくるから、今日は私のお口を自由に使ってください、と言うと趣旨が違うとたしなめられた。イラマチオは奉仕ではないし、そもそもあまり好きではないそうだ。

 ならご主人様がフェラチオを指導してください、というと、それも違うだろうとさらに怒られた。その後もしばらく頑張ったが、雰囲気が白けてしまったことと、時間が遅いということで、今度ナターシャに教わるようにと言われて悔しい終わりを迎えた。

 着替えるとき、妹の画像データがあるなら貞操帯はもういいのかと思っていたが、そういうわけではなかった。
『これを装着していることで、自分が奴隷であることを常に意識できるだろう?浮気や強姦防止にもなるし』とのことで装着させられた。その上には、今日も彼好みのミニスカートを履かされた。


 気まずい沈黙の中、マンションに到着。

「次はがんばりますから!」
「ああ、期待してるよ。」 

 拓海さんにキスされて車を降りる。
「ああ、芽美ちゃん!・・・・・・・気を・・・・・電話・・・・・・聞こ…?」

 車内で拓海さんが思い出したようになにか言っていたが、私は上の空で、わかりました、と返事をして足早に玄関に入る。早く自分のパソコンでフェラチオについて、真剣に調べたかった。ナターシャさんに教わるにしても、何も知らないのは嫌だった。
 自室に入ると好きな洋楽を流しながら、さっそくPCの電源をつけて調べてみる。

「亀頭。きとう?かめのあたまって書くんだ。一番感じる部分で女性で言うとクリトリスに相当・・・。尿道口もあって大変敏感・・・なるほど」
「つぎは・・・カリ?亀頭の下のくぼみ・・・ああ、あそこのこと。ここも敏感なんだ?」
「それから・・・ウラスジ。ふーん、縫い目ね。ここも敏感?敏感なところばっかりね」
 ひとり言を言いながらウェブサイトを読み進める。口に出して茶化しながらでないと気恥ずかしくて読めなかったから。

 カタン。

 玄関のほうで物音が聞こえたような気がした。後ろを振り返るがもう聴こえない。このサイトを読み終わったらいちおう確認してみるか。非常に興味深く、読むのを中断したくなかった。画面に視線をもどして再び集中する。

「ふーん、唾液をたくさん出してジュルジュル音をさせるといいんだ?」

 するとすぐ後ろで聞き覚えのある男の声が聴こえた。
「浮気相手の男と会って帰宅した直後にフェラのお勉強かよ。さすがビッチだな!」

 驚いて振り返ると、怒りの表情で襲い掛かってくる隣室の男が視界を塞いだ。

「ヒィッ」

恐怖で声がでない。だから心中で叫ぶ。
ー助けてっ!拓海さんっ!ー

とっさに浮かんできたのは孝さんではなく、拓海さんだった。 
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