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第一章

ウーダリオン

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「おい、お嬢ちゃん!?大丈夫か!?」
 目の前で倒れた少女に慌てて駆け寄る。規則正しく胸が上下し、どこかにぶつけた様子も無い。ただ寝ているだけらしい。
 …そりゃそうだ。こんな子供一人で広い森に置いてけぼりにされ、同じ場所をグルグルと回っていたんだ。気を張り詰めていたのだろう。親はどこにいるのだろうか。周りを見渡して見るが、人の気配はしない。一人でここに来たのだろうか。嫌な予感がする。

「おい、保護できたか!?」

 パーティーメンバーが来る。皆に辺りを捜索してもらうが、人はこの少女以外いないという。

 …口減らし。
 咄嗟に思いついた言葉がこれだった。辺りに親がいない事からも、この考えが余計に感じられる。農村や貧困部では今でも続いているという噂は聞いたことがある。立派な防具や食べ物がある事から、望んで行った訳では無いとわかる。

 それでも、非力な少女を一人置いていった親に憤りを覚える。ただ置いていくなら、こんな迷いの森じゃなくてもいいだろうに。もっと王都に近い、魔物も比較的少ない森もあっただろうに。

「とりあえず、その子を詰め所に連れて行くぞ。」

 リーダーがそう言い、俺達は引き上げる準備をする。火を消し、周りに広げられていた少女の装備を拾い、出発する。
 一刻も早く、この子を安全な場所へ…。




 目を開ける。見知らぬ天井だ。ここはどこだろう?

「気が付いたか。」

 声のした方を向くと、あの森で会った救助隊の人だった。どうやら私は無事、保護されたらしい。

「どこか痛い所や気分が優れないとかはあるか?」
「いっ、いえ、どこも痛くないです。」
「そうか。」

 素っ気無い返事をされ、会話が終わってしまった。何か話そうにも、話しかけるなオーラが出ていて話せない…っ!
 もしかして、この人は子供が嫌いなのだろうか?だからあまり目を合わせてくれないのかな?
 …前世の職場でもいたな、子供嫌いの人。前に何で嫌いなのか聞いてみたけれど、その人曰く
「ガキはうるさい。すぐ泣くし。なんでもかんでもズケズケと物を言う。拗らせた中学生よりめんどくさい。」
ですって。きっと、そんな人に限って子供が出来た時に親バカになるんだろうな。


 あれこれ考えていると、バタン!と大きな音を立ててドアが開かれた。そしてゾロゾロと大柄な男の人達が入ってきた。

「よう、嬢ちゃん。もう大丈夫か?」
「はい、おかげさまで。わざわざお手数をおかけしました。助けて下さり、ありがとうございます。」

 20代後半位のリーダー格っぽい人にお礼を言う。この人達に助けられていなかったら、あそこで野垂れ死んでいたかもしれないな…。食料が無駄にあるのが辛い。なかなか死ぬ事ができず、ずっと同じ景色を見せられて。きっと精神が崩壊して、狂い死にしたんだろうな…。

「あ~、自己紹介がまだだったな。…俺は、ムート。剣士だ。この〘ウーダリオン〙のパーティーリーダーだ。
そして、嬢ちゃんを見つけて目が覚めるまでずっといたこいつがスティール。こいつも剣士。
あの耳が長い奴が、フィー、エルフで弓使いだ。
ドアの近くにいる、いかにも魔術師っぽい奴はワンダー。見たまんまの魔術師だ。よろしくな!」

 パーティー、〘ウーダリオン〙のメンバーの自己紹介をされる。こっちも挨拶しないと、失礼だよね。

「えっと、私はマリ・スズノです。職業…とかは無いんですけれど、これから冒険者ギルドに行ってみようと思っています。よろしくお願いします。」

 自己紹介をした途端、パーティーの人達はザワつく。

「嬢ちゃん…家名持ちなのか?」
「あり得ない…貴族が口減らしなど…妾の子なのか?」
「スズノ家…聞いた事ありませんね…。外国の貴族でしょうか?フィー、聞いた事ありますか?」
「いや、そういう名の貴族は知らん。俺が知っているのはエイダスとユクールとメルのだから…スヌリかユアダのどちらかではないのか?」


 そうだった、名字は貴族しか無いんだった!異世界転生物あるあるなのに…!しっかり注意しておけばよかった!

「えっと、わ、私、あまりお外に出た事無いし、何も教えられていないから、そういう事はわからないの!」

 幼女のうるうる上目遣いでジッと見つめていたら、何故か哀れみの目を向けられた。


「そうか…嬢ちゃんは屋敷で冷遇されていたのか…。すまない、辛い事を聞いてしまった。」
「この子を家に戻すのは危険です!どうせ屋敷の人間もこの子を捨てたんですから、せめて王都まで保護しましょう!」
「そうだな。この辺りは魔物もわんさか出るから…。王都に着いたら嬢ちゃんの好きにさせんとな。」


 私抜きで話が進んでいく。一応当事者の意見も聞いてほしいよ!
 …さて、私は無事、迷いの森から脱出したわけだし、これからどうやって生きていこうか。親がいないから、多分孤児院とかに連れて行かれるのだろう。それは構わない。むしろ、保護者ができるから、何か大きな買い物や、もしギルドで未成年は保護者の許可が必要、とかだった場合も役に立つ。
 ギルドで冒険者登録を済ませたら、魔物を倒したり、素材を集めてポーションを作ったりしてお金を稼ごう。幸いにも前世で剣道をちょっとやっていたから、スライム位から始めれば問題無いだろう。
 ステータス欄に『従魔』ってあるから、テイムもできるのだろう。色々な魔物をテイムして、モフモフパラダイスを作ってみるのも良いな…!
 夢が広がる!


「嬢ちゃん、ちょっといいか?」
 色々と今後の人生について考えていたら、ムートさんに呼ばれた。

「はい、なんでしょうか?」
「嬢ちゃんはこれからどこで何をしたい?」
「とりあえず、冒険者ギルドに行って冒険者登録をしたいです。」
「冒険者ギルド、という事は嬢ちゃんは冒険者になりたいのか?」
「はい、なりたいですけれど…?」

 また何か話し始めた。時間がかかるかと思ったが、案外すぐに終わった。

「嬢ちゃん、どこか行く当てはあるのか?」
「いえ、無いです。…孤児院にでも行こうかと思っています。」
「孤児院か…嬢ちゃん、もしよかったら、俺達と一緒に来ないか?」

 …え?
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