死神に咲花を

☪︎*。雪月花☽°.*

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少女の出会い

プロローグ〜昔話を始めよう〜

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 やあ、こんにちはお嬢さん。
 さっきからずっとここに居るけど、どうしたんだい?
 ……へえ、待ち合わせなんだ?もしかして彼氏と?
 あは、ごめんごめん。友達となんだね。僕が悪かったから、そんなに怒らないでくれよ。
 え?別に怒ってない?
 ……ふふ、そっかぁ…。
 ん?いや、別に何でもないよ?
 少し、昔を思い出しただけさ。
 もしかして心配してくれたの?ありがとう!

 …ねえ、そのトモダチが来るまでまだ時間があるならさ、


 ――ちょっと昔話に付き合ってよ。




 ✿✿✿




 ――ある所に、全ての屍が集まる場所があった。

 だけどソコは、幾多もの墓が並んでいる訳でもなく、かといって整然と綺麗な姿のままその屍たちが並べられているわけでもなかった。

 まるで、ただ集められた沢山のゴミのように。

 空も大地も何も無い、光か闇かさえも分からないその空間で、多くの魂のないその屍たちは積み上げられていた。

 幾万、幾億と数え切れないようなその膨大な数の屍の山は、しかし一つ不思議なことがあった。

 それは、純粋な『ヒト』の型をしたモノが居ないという事だ。
 否、『ヒト』だけでなく犬や猫といったよく知った、存在している動物たちの姿もそこには居なかった。

 ――では何の屍か?

 あるモノは、まるで鳥のような純白の羽をその背中から生やすヒトのような姿をしていた。
 またあるモノは、その羽がコウモリのようなもので、更には尾てい骨の所に先の尖った尻尾があった。
 他にも、掌に乗るほどの大きさのヒトの姿をした蝶の羽があるモノ。
 猫によく似ているけれど尾が二本あるモノ。
 銀や赤や黒といった、本来とは違った毛色だったり、尾が多くて九本から全くないものまで様々な狐の姿をしたモノも居た。

 それ以外にも、沢山のモノたちがそこには居た。


 きっと、多くの者が彼らのその姿を知っていることだろう。
 それらは、人の世の御伽噺や昔話でしか登場しない『モノ』たちで。
 決して存在しない、と言われてきた『モノ』たちだった。

 ヒトの姿に純白の羽根を持つのは『天使』。
 ヒトの姿にコウモリの羽根と先の尖った尾を持つのは『悪魔』。
 蝶の羽を持つ小さなヒトは『妖精』。
 そして猫の化け物と狐の化け物は、それぞれ猫又と九尾と云われる『妖怪』だ。

 その場所には、西洋のモノも東洋のモノも、関係なくごちゃ混ぜに居た。


 ――そう。
 その場所は、ヒトと動物以外のモノたちの屍が集まる場所だった。


 しかし、その場所はこの世のどんな所を探しても見つからず、どの様な所にも存在していなかった。

 だが、生きているモノたちは誰もそこを見たことも行ったことさえなかったが、皆がみな“そういう所がある”と漠然と認識し、いずれ己の身に終わりが訪れたならそこに逝くのだろうと当然のように思っていた。

 きっと綺麗な姿のまま、ソコに自分の肉体は有り続けるのだろう、と。

 彼らは死した自分の身体が、まるで粗大ゴミのように集められ、転がされているなんて知らなかった。
 死んだ時の傷はそのままで、干からびるまでそこから血を流し続けることも。
 どれくらいの時が経つかはわからないが、いつかその肉体は崩れ落ち、塵と化すことも。

 彼らは、誰も知らなかった。
 その中には全知全能と云われる『神』の姿もあり、ソコにもその姿はあったというのに。
 誰一人として、知ることも思うことさえなかった。


 ――ただ、一人を除いて。


 その『彼』は知っていた。
 最期を迎えたモノたちがどうなるかを。
 どのように在るのかを。

 何故なら、『彼』はそこで生まれたモノだったから。

 だが、それは絶対に有り得ない事だった。
 死したモノたちが集う場所。
 《死》しか…否、《死》という概念さえ無くなったその場所に、ましてや《生》の存在など有り得るわけがなかった。

 けれど『彼』は生まれた。
 気の遠くなるような年月の中で、星の数よりも多い屍から流れた血がやがて混ざり合い、一つとなり。
 様々な『モノ』たちの生前の、怨み憎しみといった負の感情がやがて肉体を造り形を成し。
 そうして、一人の少年の姿をした人外の『モノ』が生まれたのだ。

 少年は、『異端』だった。

 少年の中に流れる幾年をも掛けて混ざり合った血は、けれど、本来なら決して混ざり合うことなどないものだったからだ。

『悪魔』が『天使』に成れるわけがないように。
『妖精』が『妖怪』に成れるわけがないように。

 混ざり合った筈の血同士は、やがて反発し始めた。
 それ故、その少年は一年もその身体を保つ事は出来なくなってしまった。

 少年は、屍しかないソコを離れ、現世へと姿を現し、歩き始めた。

 ――限られた残り少ない命ならば、せめて世界を見てみよう、と。

 また、自分の死に場所を求めて、少年は歩き続けた。



 ――そうして、少年が生まれ、歩き始めた頃からもうすぐ一年が経つという頃。

 少年は、一人の少女と出会った。


 そして、その出会いのすぐ後。
 少年が産まれて、一年の月日を迎えたその日。

 ある所の『神』が死に、また一つソコに屍が増え。

 またある所に、一柱の『神』が産まれた――。



 ✿✿✿



 ――ふふ、前置きだけなのに少し長くなったかな?
 まあ安心してよ、キミのお友達が来るまでには多分終わると思うから。

 ――え?今でもその場所はあるのか?
 ……さあ?どうだろうね?
 もしかしたら、『彼』という“《生》の存在”が産まれたせいで無くなったかもしれないし、まだ有り続けているかもしれない。
 どちらにせよ、僕はまだ行った事がないから分からないよ。
 ……ふふ、釈然としていない顔だね。
 まあ、世の中は大体そんなもんさ。
 世界は不思議で溢れているからね。

 さ、この話はこのくらいにしておこうか。
 まだまだ昔話はこれからだからね。
 じゃあ、まずは……って、え?
 そもそもこれは、どんな昔話なのかって?
 …うーん、そうだなぁ……。
 ……うん。あえて言うなら――、

 哀れで可哀想な死神と、その死神が愛したある花の話――かな?

 …うん、そう、花さ。
 どんな花かって?
 そうだな…、とても強くて気高くて美しい花だよ。
 ……でも、とても弱くて脆くて儚くもあったな…。

 ――……さあ、今度こそ他の話はお終いだよ。
 時間は限られているからね。さっさと続きを話してしまおうか。




 ――まずは、ある赤い月夜の出逢いからでも。
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