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自分達の物語に決着をつける編
145-アーク 出陣
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ーーー時はさかのぼり、マルレがクロービを出発した頃ーーー
私は、アーク・セイントレイトこの国の第二王子だった。
勘違いしてもらっては困るのだが、追放されたり離縁されたわけではないぞ。
父が一ヶ月前に王権制度をやめたのだ。今では王都を農都と改め、自身は農場主と名乗っているし、兄は棟梁と名乗っている。
貴族廃止に反発した大農地を抱える三貴族が離反、国は貴族存続派の北東と廃止賛成派南東で真っ二つに別れた。
話し合いの結果その境界線で別の国となった。きれいな言葉を使えば、[血が流れることなく国を2つに分けられた]ということだろうが、実情は違う。
単に反対派を見捨てたのだ。
我が家の天候操作魔法から北東を除外したのだ。案の定北東はすぐに砂漠化が始まり、広大な農地はあっという間に使えなくなった。
何もかも予定通りに進み平和が訪れるかと思ったが、我々の予想に反して、北東国家は備蓄を全くしていなかったらしくたったの一月で、食料目当てに我々に宣戦布告したのだ。
その事により皿用の粘土を作り平和に暮らしている生活も終わりを告げ、今私は元玉座の間に呼び出されている。
「何の用事ですか父上」
石造りの玉座に座っている父はひどく疲れた様子だった。玉座の魔力回路が作動していることから。地下にある大農場を稼働しているのが分かる。
国民には、あまり知られていないのだが城の地下には何層にもなる大農場が広がっているのだ。この地下空間は超巨大な魔道具になっていて、光、水、土の属性魔力を使い、作物を急成長させるものだ。
この魔導具はこれでも足りないか!ってほど魔力を吸い上げる。座って死なないのは父と兄ぐらいなものだろう。
ほとんどの北東の領民がこの都市に集まってきてしまい食糧事情が悪くなったのだろう。厄介者を集めて追い出し、清々したつもりでいたようだけど、人数は変わらず農地だけ減った状態になったのだな自業自得だ。
「アーク、悪いんだけど枢密院の人員を使ってトラディネント軍を押し返してくれ」
父が信じられないことを言い出した。父が動けないのは見れば分かるし、騎士団は対ネスティエイン防衛にあたっているのは知っているが、私以外にも適した人員がいるはずだ。
「何故私なんですか?ザロット卿や兄上のほうが適任では?」
そうマルレの父や兄上の方が適任のはずだ。
「二人共別の仕事をしている。ザロットは始まりの3家の御婦人の警護をしている。カヴァナントはヴィクトルとルーバードとアレの捜索をしている。どちらかと変わってくれればよいが、どうする?」
交代……私の母上とマルレの母にラーバルの母……考えただけでも恐ろしいな……
私が幼い頃に妻と喧嘩したといったザロット卿が2週間ほどアフロヘアーになっていたのは、今思い出しても恐ろしい。
ラーバルの母も現当主を叩きのめして結婚を迫った豪傑だし、私の母上に捕まったら皆の前で赤ん坊扱いされるに決まっている!
考えただけでも恐ろしい。
しかし、兄の方もきつそうだ、マルレの兄のヴィクトルさんは存在そのものが怖いし、ラーバルの上の兄は、猪突猛進で制御できる気がしない……
はぁ……不本意だが一番楽な道を進められては、しかたがない。陶芸の方も、ちょうど成形が終わったところで、次に粘土が必要になるまでかなりの時間がある。それに代々我が家に伝わっている兵器を使ってみたい気持ちもある……
「わかりましたよ。行ってきます」
「楽勝だと思うが注意しろよ」
「そうだ、父上、古代兵器を使ってもかまわないですか?」
「ああ!あれか!もちろん構わないぞ!むっ……俺と変わらないか?」
「嫌です。もう私が行くと決めましたから」
私はいじける父を玉座の間に置き去りにして、古代兵器を持ち出し枢密院の皆を引き連れて首都の北の谷を北上しトラディネント領へと向かった。
谷では、小規模の魔術師団と幾度か当たったが、またたく間に壁を築き地の利を活かし私達は、犠牲無しで楽々と攻め進む。
普段戦闘などしないが、枢密院の建築部門をなめてもらっては困る。恐るべき建築速度と、投石の着弾計算の正確さにより負け無しの連勝だった。
そして未だに出番のない古代兵器まである。
騎士団快勝の知らせが入った頃には、谷を抜け荒れ地とかしたトラディネント領へと到着していた。
「うわ……見事に大地が死んでいるな」
カラカラに乾燥した大地に植わったまま枯れた作物……ひび割れた大地の一角には倒壊した街と大量の水が流れたあとが確認できた。この惨状を見た枢密院土魔導師班の班長も心苦しいようで、声を上げた。
「うわー、アーク様これは酷いですね。水を撒けばいいと思って適当に撒いたんでしょうね」
その土地の傷跡から見るに、闇雲に水を流したようだ。カチカチになった大地は水を吸わず濁流となり平地に集まり洪水になる。強い日差しで残った水はすぐに蒸発。そして蒸発した水は海風を受け山肌にぶつかり豪雨となって舞い戻りまた洪水となる。
「ああ、水も重要だがそれを保持する大地こそ最も重要だというのが分かっていないようだな」
固くなった大地を指でなぞると砂埃が指につく。戦後のことを考えると気が重くなる。
とりあえず周辺の土地を耕し溜池を作り退路の洪水対策をした後、砦の建築に入った。
これだけの土魔法の使い手がいれば、石造りの砦の建設など半日もかからない。
砦の建築が終わった翌日の朝ついに魔術師団の本隊が砦の前に現れる。夜襲をする根性すらないようだ。
進軍先で攻城戦もせずに防衛戦をするという前代未聞の戦争が始まった。
私は、アーク・セイントレイトこの国の第二王子だった。
勘違いしてもらっては困るのだが、追放されたり離縁されたわけではないぞ。
父が一ヶ月前に王権制度をやめたのだ。今では王都を農都と改め、自身は農場主と名乗っているし、兄は棟梁と名乗っている。
貴族廃止に反発した大農地を抱える三貴族が離反、国は貴族存続派の北東と廃止賛成派南東で真っ二つに別れた。
話し合いの結果その境界線で別の国となった。きれいな言葉を使えば、[血が流れることなく国を2つに分けられた]ということだろうが、実情は違う。
単に反対派を見捨てたのだ。
我が家の天候操作魔法から北東を除外したのだ。案の定北東はすぐに砂漠化が始まり、広大な農地はあっという間に使えなくなった。
何もかも予定通りに進み平和が訪れるかと思ったが、我々の予想に反して、北東国家は備蓄を全くしていなかったらしくたったの一月で、食料目当てに我々に宣戦布告したのだ。
その事により皿用の粘土を作り平和に暮らしている生活も終わりを告げ、今私は元玉座の間に呼び出されている。
「何の用事ですか父上」
石造りの玉座に座っている父はひどく疲れた様子だった。玉座の魔力回路が作動していることから。地下にある大農場を稼働しているのが分かる。
国民には、あまり知られていないのだが城の地下には何層にもなる大農場が広がっているのだ。この地下空間は超巨大な魔道具になっていて、光、水、土の属性魔力を使い、作物を急成長させるものだ。
この魔導具はこれでも足りないか!ってほど魔力を吸い上げる。座って死なないのは父と兄ぐらいなものだろう。
ほとんどの北東の領民がこの都市に集まってきてしまい食糧事情が悪くなったのだろう。厄介者を集めて追い出し、清々したつもりでいたようだけど、人数は変わらず農地だけ減った状態になったのだな自業自得だ。
「アーク、悪いんだけど枢密院の人員を使ってトラディネント軍を押し返してくれ」
父が信じられないことを言い出した。父が動けないのは見れば分かるし、騎士団は対ネスティエイン防衛にあたっているのは知っているが、私以外にも適した人員がいるはずだ。
「何故私なんですか?ザロット卿や兄上のほうが適任では?」
そうマルレの父や兄上の方が適任のはずだ。
「二人共別の仕事をしている。ザロットは始まりの3家の御婦人の警護をしている。カヴァナントはヴィクトルとルーバードとアレの捜索をしている。どちらかと変わってくれればよいが、どうする?」
交代……私の母上とマルレの母にラーバルの母……考えただけでも恐ろしいな……
私が幼い頃に妻と喧嘩したといったザロット卿が2週間ほどアフロヘアーになっていたのは、今思い出しても恐ろしい。
ラーバルの母も現当主を叩きのめして結婚を迫った豪傑だし、私の母上に捕まったら皆の前で赤ん坊扱いされるに決まっている!
考えただけでも恐ろしい。
しかし、兄の方もきつそうだ、マルレの兄のヴィクトルさんは存在そのものが怖いし、ラーバルの上の兄は、猪突猛進で制御できる気がしない……
はぁ……不本意だが一番楽な道を進められては、しかたがない。陶芸の方も、ちょうど成形が終わったところで、次に粘土が必要になるまでかなりの時間がある。それに代々我が家に伝わっている兵器を使ってみたい気持ちもある……
「わかりましたよ。行ってきます」
「楽勝だと思うが注意しろよ」
「そうだ、父上、古代兵器を使ってもかまわないですか?」
「ああ!あれか!もちろん構わないぞ!むっ……俺と変わらないか?」
「嫌です。もう私が行くと決めましたから」
私はいじける父を玉座の間に置き去りにして、古代兵器を持ち出し枢密院の皆を引き連れて首都の北の谷を北上しトラディネント領へと向かった。
谷では、小規模の魔術師団と幾度か当たったが、またたく間に壁を築き地の利を活かし私達は、犠牲無しで楽々と攻め進む。
普段戦闘などしないが、枢密院の建築部門をなめてもらっては困る。恐るべき建築速度と、投石の着弾計算の正確さにより負け無しの連勝だった。
そして未だに出番のない古代兵器まである。
騎士団快勝の知らせが入った頃には、谷を抜け荒れ地とかしたトラディネント領へと到着していた。
「うわ……見事に大地が死んでいるな」
カラカラに乾燥した大地に植わったまま枯れた作物……ひび割れた大地の一角には倒壊した街と大量の水が流れたあとが確認できた。この惨状を見た枢密院土魔導師班の班長も心苦しいようで、声を上げた。
「うわー、アーク様これは酷いですね。水を撒けばいいと思って適当に撒いたんでしょうね」
その土地の傷跡から見るに、闇雲に水を流したようだ。カチカチになった大地は水を吸わず濁流となり平地に集まり洪水になる。強い日差しで残った水はすぐに蒸発。そして蒸発した水は海風を受け山肌にぶつかり豪雨となって舞い戻りまた洪水となる。
「ああ、水も重要だがそれを保持する大地こそ最も重要だというのが分かっていないようだな」
固くなった大地を指でなぞると砂埃が指につく。戦後のことを考えると気が重くなる。
とりあえず周辺の土地を耕し溜池を作り退路の洪水対策をした後、砦の建築に入った。
これだけの土魔法の使い手がいれば、石造りの砦の建設など半日もかからない。
砦の建築が終わった翌日の朝ついに魔術師団の本隊が砦の前に現れる。夜襲をする根性すらないようだ。
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