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邪竜物語に首を突っ込む編
098-酒呑童子
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「色々聞かせていただいてありがとうございました」
「いやいや!こっちこそお客さんなのにおしゃべりに付き合ってもらってありがてぇ」
私達はお茶屋さんを出ると[建築許可地域]へと向かった。邪竜が現れる前は住人がいたようですが、邪竜が現れてからは、みな警備の届く街の中へと引っ越したようですね。プレイヤーの家しか無かったのはそんな理由があったんですね。
[建築許可地域]に入ると聞いていたとおり、建物は何もなく山肌に囲まれた平らな土地が広がっていた。
この地域は瓢箪のような形の盆地で区画が2つに分かれている。手前の区画は街から近いし川もあり中央には小さな池がある。それにもかかわらず畑すら作られていないので見捨てられた危険な土地だというのがわかった。
「建物一つないわね……」
「毎週巨大な蛇が襲ってくるんでしょ?普通そんなところには住まないよ」
「ですね……ええと……きのくえ屋はあの細道の先の区画のはずだわ」
私達はもう一つの区画に行くために細道の方へ向かった。全く整備されてなく獣道すらない。背の低い草に覆われた平原を進んでいく。細道の入口の横には上面が平らになった大きな岩があった。そこにそいつは寝転んでいた。
青色で短めのハネグセのある髪の間からは角が2本生えていた。その角は動物のような縞の入ったものではなく、金属のような質感だ。赤い雲海を泳ぐ龍の柄の着物は着崩されて胸筋がチラチラと見えている。左腰には反りを上向きに刺された日本刀が二振り、そして右腰には金色文字で”八塩折”と書いてある赤い漆塗りの瓢箪がくくりつけられている。
「うわ!すっごい美形……」
吊目気味のグレーの瞳、筋の通った鼻筋に整った顎のライン。アリッサの言うとおりこの男はいや、鬼はすごくきれいな顔をしている……
「チッ!また討伐隊か……ん?何だ?街の奴ら外国から傭兵でも雇ったのか?」
私達の見た目からすぐに外国人だと見破りその男はだるそうに起き上がると岩から降りた。
「さてと……また縛り上げて街に放り込んでおくか……」
酒呑童子はそう言うと腰に挿している日本刀を二振り抜き片方を私達に向けた。話すら聞こうとしないその態度に私は腹が立ち叩きのめす事に決めた。
「話もせずに刀を抜くとは……覚悟は出来てるんでしょうね?」
「覚悟だと?それはこっちのセリフだ!」
「アリッサは下がってなさい!」
「わかった~」
鬼は一気に距離を詰め切りかかってきた。まずは様子見といったところかしらね……
私は単純な斬撃をかわしながら相手の装備や動きを観察する。
武器が刀二振りということは攻撃系スキルは[剣術]と両手に武器を持てる[双武]は確定ね、さて防御系は……鎧ではなく着物を着ていることから[回避術]かしら?
攻撃の隙間を縫って放った私の蹴りはユラっと揺れるような動きで回避された。
あの避け方は、[酔拳]のテクニックね。だいたいわかったわ、相手は、高火力高回避型ね。
「やるじゃねぇか!遊びは終わりだ!」
鬼は飛び退き、一度距離を取った。
「剣聖乱舞!」
剣術スキルの奥義のLv10[剣聖乱舞]だ!強力な技だが私はこの技の運びを嫌というほど見たことがあり完全に覚えている。
突きから始まった乱舞を覚えている通りに避ける。この技は片手剣用だから左手が使われてなくてもったいないなぁなんて考える余裕すらある。
突き!袈裟斬り!一回転して胴!剣を返して切り上げ!一旦さがって最後はすれ違いざまの胴切りでその後にドヤァ!ってな感じの溜めがあるのよね、ゲームならいいけど実戦だとあれは命取りだわ。
難なく躱しそして最後のすれ違いざまの胴切りも横ステップで回避。すれ違う鬼はニヤリと笑っていたような気がした。
「掛かったな!はぁああああ!」
溜めがないですって?避けきれない!?刀が私に迫る。
ギィイイイイン! とっさに出した右腕に衝撃が走る。
予想外!そして急速なスピードアップ!この鬼!実力を隠していましたね!
「はは!今のはテクニックじゃねぇ!動きを再現しただけだ!技の動きを知ってるやつはこれで騙される!」
なんとか右腕で防ぐも流石に痛みがある。
ん?痛み?……私は刀を受けた右腕に目をやった。
赤いスジがくっきりと付きそこからは、血が滴り落ちていた!
「ええええええ!?血が!血が出ていますわ!」
私は転生人生ではじめての傷を受けパニックになる!
慌てるな私!落ち着け!この事はずっと想定してきた!早くしなければ!
「アリッサ!血が出た!チャンスよ!早く!」
「うそ!?わかった!今行く!」
「!?させるか!」
「うるさい!邪魔しないで!」
私は一瞬だけエンド・オブ・ブラッドを発動しすばやく動き、振られる前の刀を素手でつかみ鬼ごとこちらに引き寄せる。急に引っ張られてバランスを崩した鬼はスキだらけになり腹に放たれた拳をまともに食らった。
鬼は「ぐぉ!」と声を上げて地面をゴロゴロと転がりながら先程寝ていた岩に叩きつけられた。
うわ、死んでしまったかもしれませんわ……はっ!今はもっと大事なことが!
「アリッサ!早く早く!傷がふさがっちゃうかも!」
「よし!いま治療するよ!光よ集まり傷を癒せ!」
アリッサが放った光が私の傷を治療した。
私とアリッサが出会ってから3年以上……ずっとこの時を待っていた!
【マルレちゃんが怪我したら私が治してあげるね!】
その約束が今やっと果たされた!
「やった~やっと怪我してくれた~、一生治療できないんじゃないかと思ってたよ~」
「そうね!良かったわね!これからもよろしくね!」
「もちろんよ!」
私はアリッサと抱き合いながらぴょんぴょんはねて喜んだ。
「ゲホォ! くっそ……なんなんだ……」
吐血しながら転がって血まみれのボロボロになった鬼はなんとか立ち上がった。
「あら!結構強めに殴ってもまだ立てるの!?すごいわ!」
「うぐぐ!一撃で9割持ってかれるとかどうなっていやがる……」
鬼はどこからともなく薬瓶を取り出すと一気に飲み干した。
「くそ!俺はこんなところでやられるわけにはいかねーんだよ!」
「なら私の邪魔しなければいいじゃない!」
「どういう意味だ?お前ら酒呑童子討伐隊だろ!目的は俺だろ?」
「いえ違いますわ!この先に用事があるただの冒険者です!」
鬼はがっくりと肩を落とし刀を鞘に収めた。
「最初からそう言えよ……」
「話を一ミリも聞かなかったのは、あなたじゃないのよ!」
「うわ~人が来たら自分に用事があると思うなんて恥ずかし~」
あれね!知らないひとが手を振ってるから手を振り返したら私の後ろにいる人に手を振ってたってやつですわね。
「うるせぇ!3年以上、デカ蛇と討伐隊しか来てなかったんだからしょうがねーだろ!」
「では退いてくださるかしら?私達はきのくえ屋へ[技書]を買いに行かないといけないので!」
「え?何だよ!やっぱり俺に用事じゃねーかよ!早く言えよ!やったぜ!こっちに来てから初めての客だ!」
きゃく??どういうことかしら?
「おっと!自己紹介が先だな!きのこ食えや書店のオーナーの外道丸だ!よろしくな!」
外道丸……確かにきのくえ屋の店主のプレイヤー名だわ……
「あなた超越者なの?」
「ああ!そうだぜ、ストーカーに呪いかけられてちょっと角が生えちまったけどな!」
ストーカー?呪い?何いってんのこいつ?
「いやいや!こっちこそお客さんなのにおしゃべりに付き合ってもらってありがてぇ」
私達はお茶屋さんを出ると[建築許可地域]へと向かった。邪竜が現れる前は住人がいたようですが、邪竜が現れてからは、みな警備の届く街の中へと引っ越したようですね。プレイヤーの家しか無かったのはそんな理由があったんですね。
[建築許可地域]に入ると聞いていたとおり、建物は何もなく山肌に囲まれた平らな土地が広がっていた。
この地域は瓢箪のような形の盆地で区画が2つに分かれている。手前の区画は街から近いし川もあり中央には小さな池がある。それにもかかわらず畑すら作られていないので見捨てられた危険な土地だというのがわかった。
「建物一つないわね……」
「毎週巨大な蛇が襲ってくるんでしょ?普通そんなところには住まないよ」
「ですね……ええと……きのくえ屋はあの細道の先の区画のはずだわ」
私達はもう一つの区画に行くために細道の方へ向かった。全く整備されてなく獣道すらない。背の低い草に覆われた平原を進んでいく。細道の入口の横には上面が平らになった大きな岩があった。そこにそいつは寝転んでいた。
青色で短めのハネグセのある髪の間からは角が2本生えていた。その角は動物のような縞の入ったものではなく、金属のような質感だ。赤い雲海を泳ぐ龍の柄の着物は着崩されて胸筋がチラチラと見えている。左腰には反りを上向きに刺された日本刀が二振り、そして右腰には金色文字で”八塩折”と書いてある赤い漆塗りの瓢箪がくくりつけられている。
「うわ!すっごい美形……」
吊目気味のグレーの瞳、筋の通った鼻筋に整った顎のライン。アリッサの言うとおりこの男はいや、鬼はすごくきれいな顔をしている……
「チッ!また討伐隊か……ん?何だ?街の奴ら外国から傭兵でも雇ったのか?」
私達の見た目からすぐに外国人だと見破りその男はだるそうに起き上がると岩から降りた。
「さてと……また縛り上げて街に放り込んでおくか……」
酒呑童子はそう言うと腰に挿している日本刀を二振り抜き片方を私達に向けた。話すら聞こうとしないその態度に私は腹が立ち叩きのめす事に決めた。
「話もせずに刀を抜くとは……覚悟は出来てるんでしょうね?」
「覚悟だと?それはこっちのセリフだ!」
「アリッサは下がってなさい!」
「わかった~」
鬼は一気に距離を詰め切りかかってきた。まずは様子見といったところかしらね……
私は単純な斬撃をかわしながら相手の装備や動きを観察する。
武器が刀二振りということは攻撃系スキルは[剣術]と両手に武器を持てる[双武]は確定ね、さて防御系は……鎧ではなく着物を着ていることから[回避術]かしら?
攻撃の隙間を縫って放った私の蹴りはユラっと揺れるような動きで回避された。
あの避け方は、[酔拳]のテクニックね。だいたいわかったわ、相手は、高火力高回避型ね。
「やるじゃねぇか!遊びは終わりだ!」
鬼は飛び退き、一度距離を取った。
「剣聖乱舞!」
剣術スキルの奥義のLv10[剣聖乱舞]だ!強力な技だが私はこの技の運びを嫌というほど見たことがあり完全に覚えている。
突きから始まった乱舞を覚えている通りに避ける。この技は片手剣用だから左手が使われてなくてもったいないなぁなんて考える余裕すらある。
突き!袈裟斬り!一回転して胴!剣を返して切り上げ!一旦さがって最後はすれ違いざまの胴切りでその後にドヤァ!ってな感じの溜めがあるのよね、ゲームならいいけど実戦だとあれは命取りだわ。
難なく躱しそして最後のすれ違いざまの胴切りも横ステップで回避。すれ違う鬼はニヤリと笑っていたような気がした。
「掛かったな!はぁああああ!」
溜めがないですって?避けきれない!?刀が私に迫る。
ギィイイイイン! とっさに出した右腕に衝撃が走る。
予想外!そして急速なスピードアップ!この鬼!実力を隠していましたね!
「はは!今のはテクニックじゃねぇ!動きを再現しただけだ!技の動きを知ってるやつはこれで騙される!」
なんとか右腕で防ぐも流石に痛みがある。
ん?痛み?……私は刀を受けた右腕に目をやった。
赤いスジがくっきりと付きそこからは、血が滴り落ちていた!
「ええええええ!?血が!血が出ていますわ!」
私は転生人生ではじめての傷を受けパニックになる!
慌てるな私!落ち着け!この事はずっと想定してきた!早くしなければ!
「アリッサ!血が出た!チャンスよ!早く!」
「うそ!?わかった!今行く!」
「!?させるか!」
「うるさい!邪魔しないで!」
私は一瞬だけエンド・オブ・ブラッドを発動しすばやく動き、振られる前の刀を素手でつかみ鬼ごとこちらに引き寄せる。急に引っ張られてバランスを崩した鬼はスキだらけになり腹に放たれた拳をまともに食らった。
鬼は「ぐぉ!」と声を上げて地面をゴロゴロと転がりながら先程寝ていた岩に叩きつけられた。
うわ、死んでしまったかもしれませんわ……はっ!今はもっと大事なことが!
「アリッサ!早く早く!傷がふさがっちゃうかも!」
「よし!いま治療するよ!光よ集まり傷を癒せ!」
アリッサが放った光が私の傷を治療した。
私とアリッサが出会ってから3年以上……ずっとこの時を待っていた!
【マルレちゃんが怪我したら私が治してあげるね!】
その約束が今やっと果たされた!
「やった~やっと怪我してくれた~、一生治療できないんじゃないかと思ってたよ~」
「そうね!良かったわね!これからもよろしくね!」
「もちろんよ!」
私はアリッサと抱き合いながらぴょんぴょんはねて喜んだ。
「ゲホォ! くっそ……なんなんだ……」
吐血しながら転がって血まみれのボロボロになった鬼はなんとか立ち上がった。
「あら!結構強めに殴ってもまだ立てるの!?すごいわ!」
「うぐぐ!一撃で9割持ってかれるとかどうなっていやがる……」
鬼はどこからともなく薬瓶を取り出すと一気に飲み干した。
「くそ!俺はこんなところでやられるわけにはいかねーんだよ!」
「なら私の邪魔しなければいいじゃない!」
「どういう意味だ?お前ら酒呑童子討伐隊だろ!目的は俺だろ?」
「いえ違いますわ!この先に用事があるただの冒険者です!」
鬼はがっくりと肩を落とし刀を鞘に収めた。
「最初からそう言えよ……」
「話を一ミリも聞かなかったのは、あなたじゃないのよ!」
「うわ~人が来たら自分に用事があると思うなんて恥ずかし~」
あれね!知らないひとが手を振ってるから手を振り返したら私の後ろにいる人に手を振ってたってやつですわね。
「うるせぇ!3年以上、デカ蛇と討伐隊しか来てなかったんだからしょうがねーだろ!」
「では退いてくださるかしら?私達はきのくえ屋へ[技書]を買いに行かないといけないので!」
「え?何だよ!やっぱり俺に用事じゃねーかよ!早く言えよ!やったぜ!こっちに来てから初めての客だ!」
きゃく??どういうことかしら?
「おっと!自己紹介が先だな!きのこ食えや書店のオーナーの外道丸だ!よろしくな!」
外道丸……確かにきのくえ屋の店主のプレイヤー名だわ……
「あなた超越者なの?」
「ああ!そうだぜ、ストーカーに呪いかけられてちょっと角が生えちまったけどな!」
ストーカー?呪い?何いってんのこいつ?
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