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勇者物語に首を突っ込む編

063-拳法と鎖国

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 私達は遅めの朝食を頂いた後にアリッサ、ラーバル、お兄様を連れて宝物殿へと向かった。

 宝物殿はまるで美術館のように勇者にまつわるものが展示してあった。皆は好き勝手に見て回っている。正面には空になった台座が2つありここに聖鎧と聖杖があった事がわかる。私のお目当ての記録は[初代勇者]のプレートが付いた書類棚に収められていた。

 彼の名前はカクドウセイ、初代勇者と共に人肉食の魔王を倒した英雄の一人だった。彼は武器を一切使わない[拳法]の使い手とあった。そこには一枚の肖像画が挟まっていた。

 短髪の黒目黒髪に上着は白い前合わせの服は腰のところで黒い帯で止めてあった。これはどう見ても前世であった道着とよばれる系統の衣服だった。黒い帯には漢字で「角堂 聖」と刺繍がしてあった。

 私は小声でアリッサを呼び手招きをしてアリッサにカクドウセイの肖像画を見せた。

(うわ……日本人まる出しじゃん……転生だけじゃなく転移も起こっていたみたいね……)
(そのようですわね……それとこちらの記述も見てください)

 私は最後の資料をアリッサに見せた。

 カクドウセイはいろいろな場所を旅しながら黒目黒髪の同胞を探していたらしいが魔王を倒した後はナウエルス大陸北東半島と南東半島の間の海域にある島国に渡ったと記されていた。

(アリッサ!ナウエルス大陸北東半島って今私達がいるところよね?)
(そうだね……南の島といえばクロービね……)
(私そこに行ってみるわ!)
(うーんマルレ……多分無理だと思う……)
(どうしてです!?)
(クロービは100年以上鎖国してるわ……)

「なんですって!?」

 驚愕の事実につい大声がでてしまいました。

「ちょっと声大きいよ!」
「どうしましたマルレ?」

 心配したラーバルは3代目勇者の盾術の記録を棚にもどし私達のところへやってきた。

「クロービが鎖国していると聞きまして驚きました……」

「その事は我が国が一神教いっしんきょうを廃絶した歴史の授業で習ったはずですが……何故そんなことで驚いているのですか?」
「ラーバル……それはね……マルレが、テストが終わったらすぐに記憶から消してしまうタイプの人間だからよ……」
「テストは付け焼き刃で乗り切ったということですか?」
「うん……終わったらすぐ忘れました……」

 苦手な教科ってそうじゃない?私普通だよね!?この後ラーバルによる歴史の授業が始まってしまいました。

 これは今から100年ほど前の話……

 大陸の西にある一神教いっしんきょうの発祥の国は元々奴隷制度がありましたが、熱心な信者だった王が一神教いっしんきょうの信者を奴隷にする事を禁止にしたのです。今まで奴隷で成り立っていた国は労働に対して正当な対価を支払うことを強制されると、甘い汁を吸っていた貴族階級が一気に貧困に陥りました。

 奴隷賛成の貴族と信者の奴隷化に反対な教会の争いは続き、その板挟みにあっていた国王は思いついた……

異教徒なら奴隷にしても構わない……

 この提案は両者を納得させるものだった。貴族と教会は手を組み布教と称して他国に入り込み奴隷の売買を行っていました。

 周辺国から買える奴隷が減ると魔の手はついに私達のレイグランド王国にまで伸びてきたのです。もともと奴隷制度が無く人身売買も禁止されていたこの国では奴隷を買うことが出来ず一神教いっしんきょう信者は考えをエスカレートさせて異教徒は人にあらずといった邪悪なものへと変貌していった。

 一神教いっしんきょうと名乗る集団が現れると同時に数人の子供が消える事件が起こったが、他国と違い子供が消える事が一大事だったこの国は総動員で捜査にあたりすぐに犯人を突き止めました。

 無事に子どもたちを開放したが、一神教いっしんきょう信者は抵抗したため皆その場で始末された。

 この国では被害は寸前のところで抑えられたが……しかしクロービでは違った。大勢の子供が連れて行かれ気がついたときにはすでに手遅れでした……それからクロービは外国との接触を断ち鎖国したのでした。
 
「思い出しました?マルレ」

 歴史を語り終えたラーバルは私に確認してきた。

「ええ……思い出しましたわ……クロービに行くことは絶望的ですね……」
「そうですね、しかしそれは歴史の話!今では奴隷制度のない国とは人材交流だけは行われているのです!」
「人材交流ですか?」
「そうです!クロービ人の推薦があれば入国できるのです!」
「推薦……ねぇラーバル?結局それて無理ってことでは?」
「いえ!私達にはクロービ人の知り合いがいるではありませんか!」

「あーーー!いる!いるよマルレ!あの人なら絶対推薦してくれる!」

 アリッサが急に大声で騒ぎ出しました。

「ちょっと落ち着いてください!それって誰ですの?」

「ほらマルレにアタックし続けてた……」


「ガオゴウレンさんよ!」

 私は魔法学園3年生のときに強引な誘いを何度もしてきた獅子のような雰囲気の筋肉男を思い出した。
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