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歩
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双子の名前は、アユム(歩)、ヤスヨ(泰代)という。
慶子には一言も相談なしに夫がつけた名前なので、由来は分からない。
泰代は生まれてすぐに慶子から取り上げられてしまったので、歩は事実上一人っ子のように育った。その分だけ歩に愛情を注ぎこんで育てたため、歩の方も慶子の感性を受け入れていった。
残念なのは、歩は明らかに夫の家系の顔。夫そっくりということは無いにしても、慶子よりも夫の家族に交じって全く違和感が無い顔をしていた。
それだけがいかにも残念に思う。
夫は慶子に子育て全てを任せて自分は一切手を出さなかったため、歩は夫に馴染まなかった。気まぐれのように思い立って風呂に入れようとすれば泣き叫ぶし、顔を見てすら視線を背ける。
夫の方からしても、いくら自分の子でも馴染まないのでは面白いはずがない。
泰代は夫の実家で育てられたためにその家風に染まった。だから、家に連れ帰った当初は馴染んでいなくても、価値観は夫に近い。
双子といえば、「生まれた時からずっと一緒」といった子が多い中、異例といっていい。
泰代が家に来て以来、夫は今まで以上に歩を邪険に扱うようになっていった。
慶子からすれば、自分にそっくりな顔でものの考え方が夫の家風に染まった泰代と、顔は夫の家系で自分の養育通りに育った歩。どうにも仕方が無いとは思っても、それが何とも悔しい。
歩はそれがストレスに感じるのか、チック症状を起こして爪を噛んだり、布団の端をしゃぶったりするようになっていた。
完璧主義で子供の心など考えることすらない夫には、それがますます気に入らない。
怒鳴りつけたりするようになり、ますます歩の心は離れていく。
遂には、些細なことで歩に暴力を振るうようにまでなった。
慶子には歩の心が分かるけど、独裁者の夫の前では何もできない。夫がいないときに話し相手になるのがせいぜい。
妊娠したことがわかると、歩は本当に喜んでくれた。泰代は形の上では妹だけども、歩からすればある日突然女の子が現れたのに等しい。
でも、それは必ずしも歩にとっていいことで無かったのは事実。
生まれてからは、赤ん坊第一になって、歩に今までのようにかかりきりになることは不可能になっていた。
「からだが二つ以上欲しい」
それが慶子の本音だった。
慶子には一言も相談なしに夫がつけた名前なので、由来は分からない。
泰代は生まれてすぐに慶子から取り上げられてしまったので、歩は事実上一人っ子のように育った。その分だけ歩に愛情を注ぎこんで育てたため、歩の方も慶子の感性を受け入れていった。
残念なのは、歩は明らかに夫の家系の顔。夫そっくりということは無いにしても、慶子よりも夫の家族に交じって全く違和感が無い顔をしていた。
それだけがいかにも残念に思う。
夫は慶子に子育て全てを任せて自分は一切手を出さなかったため、歩は夫に馴染まなかった。気まぐれのように思い立って風呂に入れようとすれば泣き叫ぶし、顔を見てすら視線を背ける。
夫の方からしても、いくら自分の子でも馴染まないのでは面白いはずがない。
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慶子からすれば、自分にそっくりな顔でものの考え方が夫の家風に染まった泰代と、顔は夫の家系で自分の養育通りに育った歩。どうにも仕方が無いとは思っても、それが何とも悔しい。
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遂には、些細なことで歩に暴力を振るうようにまでなった。
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でも、それは必ずしも歩にとっていいことで無かったのは事実。
生まれてからは、赤ん坊第一になって、歩に今までのようにかかりきりになることは不可能になっていた。
「からだが二つ以上欲しい」
それが慶子の本音だった。
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