タイムトラベラー主婦

zebra

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孫悟空

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 敬子は憤懣やるかたない気分で平成に戻ってきた。元々あの夫に愛情など感じたことは無いが、今となっては腹立ちしか無い。

 ポケットに入れた手鏡を見る。表情が顔に出ている。こんな顔で家に入るわけにはいかない。

 気分を落ち着かせるため散歩するふりをして周囲を歩き回る。知り合いに出会うかもしれないけど、まさか昭和から戻って来たとは誰も思うまい。

 歩いているうちに馬鹿馬鹿しくなってきた。何だかんだ言っても夫は昭和しか知らない。私は何もかもとまでは言わないけど、概ねこれから世界がどうなるかを知っている。掌の周りをくるくる回りながら威張り散らしている孫悟空を高いところから見おろしている釈迦のようなものではないか。

 夫は私を経済的に支配しているつもりなのだろうけど、私は今夫の支配の外にいる。夫には想像すらできないだろう。

 向こうの世界に戻った時も、私の方が夫を利用してやればいい。夫に苛め抜かれている歩にもそれとなく教えてやろう。二つの時代を行き来していることを話すわけにはいかないが、利用することを教えることはできる。仕事はできるかもしれないが考えることは単純な人だから、歩は学校の成績は並みでも、実は自分で考えることができる頭脳を持っているとは思いもつかないはず。

 幸いというか、夫は仕事中心の人だ。家にいる時間などごく僅かでしかない。その間だけ我慢すれば後は子供たちだけと気儘に過ごせる。それは決して悪い生活ではない。

 そう思い始めると怒りが収まってきた。むしろ顔がほころんで来るのが自分でもわかる。

 「ただいま」

 わざと大きな声を出して家に入る。

 「あれ、どこかに出かけていたの?」

 数か月ぶりに帰ってきたのだが、ユウさんは全く気付いていない様子。

 よかった。本来の自分に戻った気がする。

 娘たちとも久しぶりに顔を合わす。こちらも特に変わった様子は無い。

 しばらくはこちらで過ごそう。昭和の子供たちと同じくらいこちらの子供たちも大切な存在なのだから。この子たちの成長を見届けるまでは生きなければ。二つの時代を生きる私にとって、僅かな時間も無駄にはできない。

 それは私の使命でもあり、義務でもある。
 
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