タイムトラベラー主婦

zebra

文字の大きさ
上 下
27 / 35

偽りの過去

しおりを挟む
 思い返せば、自分の「過去」について子供たちに話したことは一度も無かった。

 二人にとって祖父母といえばユウさんの両親であり、今まではそれで十分だったのは確か。

 これからはそうはいかなくなる。どのように説明しようか。

 いずれにしても自分一人だけでは決められない。ユウさんやご両親と相談して辻褄合わせをしておかないと矛盾が生じかねない。

 それすらも、本当の「過去」ではない。ここで生活している間はずっと隠し続けていかなければならないこと。

 「今日は話せないの。後で必ず教えてあげるから、それまで待っていてね」

 「はあい」

 特に疑問は持っていない様子。とりあえずその場は何とかなった。

 子供たちが寝付いた後、ユウさんに話す。

 「きみ、本当に今でも記憶が戻っていないの?」

 「ええ、あの時より前のことは何一つ憶えていないわ」

 「だったら、そのまま話すしかないんじゃないかな。適当なことを言って誤魔化しても、大きくなるにつれてますます疑うようになるよ」

 「やっぱりそうするしかないか」

 昭和から来たなんて言えるはずがない。

 今、両親はどうしているだろう。生きていれば父は90を超えている。母も80代半ばのはず。

 思いにふけっている顔を見て、ユウさんは別のことを想像したらしい。

 「大丈夫。君がどこの誰だろうと、僕の妻であり、あの子たちの母親であることに変わりはないのだから」

 「ありがとう」

 その夜はずっと眠れなかった。


 そのまま夜は明けた。

 メイとアオイはまだ眠っている。起きて来たユウさんに、これから二人に説明するつもりだと話す。

 メイは今日から夏休み。敬子としては弁当を作らなくて済むのが一番助かる。給食のある日もあるが、園の方針で週に二日は弁当持参になっている。

 完全週休二日制というのには驚いた。これが当たり前になっているらしい。昭和の時代では学校や幼稚園が週休二日制なんて少なくとも慶子は聞いたことが無かった。

 朝食の支度ができた頃にメイとアオイが起きてきた。昭和の家族では歩と泰代は早起きだったが、病弱なためか、保はいつも寝起きが悪くて起こすのに苦労していた。

 「おはよう。ごはんにするわよ」

 「はあい」

 「ちょっと二人ともよく聞いてね」

 珍しく真剣な顔をしたのを見て、メイとアオイは口を閉じて敬子の顔を注視する。

 「今からいうことはお友達に話したりしないでね。家族だけの秘密。約束よ。守れる?」

 動きを揃えて頷く。

 「ママにはね、お父さんもお母さんもいないの。死んだとかじゃないのよ。気が付いたら、それまでのこと何一つ憶えていなかったの。本当の名前も分からない。「けいこ」というのは自分で付けた名前」

 メイが聞いてくる。

 「じゃあ、ママのパパとママはどこかにいるの?」

 「それも分からないわ。どこかで元気でいてくれればいいけどね」

 これは本音だった。相当な高齢だけど、まだ生きている可能性も無いわけではない。

 「きっとどこかにいて、ママと会えるよ」

 敬子の顔が曇った。それはいくらなんでも無理だろう。会ったりしたら両親は大混乱を起こすに違いない。

 「思い出さないほうがいいのよ。もし思い出したら、ママはみんなと一緒に暮らせなくなるかもしれない」

 「それは絶対いや!」

 二人は泣き顔になった。大丈夫。そんなことは絶対に無いから。これからも私はこちらでは「記憶を失った女」として生きていく。

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

戦国記 因幡に転移した男

山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。 カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

処理中です...