タイムトラベラー主婦

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もう一つの家族

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 1979年(昭和54年)4月。

 保は小学校に入学した。

 保を産んだ時、病弱な子を育てるのがこんなに大変だとは思ってもみなかった。泰代と歩、平成の世でメイとアオイの二人を育てるのだってここまで大変ではない。

 体が弱いのは相変わらずだけど、いつまでも保だけにかまっていられない。

 そろそろメイとアオイのところにも戻らないと。こちらであまりにも長い間過ごしたら、戻った時にさすがに歳を取ったことに気付かれてしまうだろう。昭和にもう一つ家庭を持っているとは夢にも思わないだろうけど、急に老けた母親に違和感を感じるかもしれない。

 子供たちが寝静まった夜、心に決めた。夫は出張で留守にしている。

 「しばらくお別れよ」

 もしかしたら、永遠の別れになるかもしれない。それは何時でも変わらない。

 こちらには書置きなど残す理由が無い。もし戻れなくなったら、突然消えたということになってしまうだろう。探そうにも痕跡など残っているはずもない。

 改めてそのことを感じさせられる。二つの時代に生きるということはそういうこと。
 
 目を開けると、敬子は平成の家にいた。「細田敬子、細田敬子」頭の中で反芻する。間違えたりしたら面倒だ。

 すぐにやらなければならないことがある。書置きの処分。キッチンにあるホームシュレッダーに突っ込む。昭和と比べて何と便利な事か。

 「ママ、ママ」

 娘たちが纏わりついて来たが、いつものことで特に今までと変わった様子は無い。ぎっくり腰をやった後なので、抱きかかえるのは止めにした。

 今は朝で、ユウさんが出勤した直後。普通に家事を済ませる。洗濯は洗濯機の設定ボタンを押すだけ。脱水や濯ぎのたびに面倒な作業が必要な昭和の家の洗濯機とは雲泥の差。

 冷蔵庫の中を確認して、娘たちを連れてクルマで買い物に行く。久しぶりの運転だが、問題なくできた。

 夕方になった。

 「ただいま」

 ユウさんが仕事から戻ってきたけど、敬子のことを別段怪しんでいる風もない。数年間留守にしていたなんて想像すらできないのだろう。

 敬子も、何事も無かったようにふるまう。娘たちとお風呂に入ったが、急に数年歳をとった母親に気付いた様子は無い。

 その夜はユウさんに誘われるままに肌を合わせた。昭和の夫とはとっくにセックスレスになっているが、ユウさんとはそうではない。肌が急に衰えたことを気付かれないか心配だったが、そんな様子は無かった。

 敬子は安心した。もう気にする必要はなさそう。
 
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